eスポーツで実現する地域創生と世代間交流

eスポーツで実現する地域創生と世代間交流

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eスポーツが単なる娯楽にとどまらず、地域活性化や世代間交流の新たなツールとして注目を集めています。富山県を拠点に、地域密着型のeスポーツイベントを展開する株式会社ZORGEの代表・堺谷陽平氏は、その最前線で活動してきたひとりです。自身のプレイヤー経験を原点に、地元でのUターン起業から高齢者支援、デジタル人材育成に至るまで、独自の視点で社会課題に向き合う堺谷氏の歩みと想いに迫ります。

〇堺谷 陽平氏
株式会社ZORGE(ゾルゲ)代表取締役。
富山県出身。中学時代からPCゲームに熱中。国内大会で入賞経験もあり。
2012年頃からスポンサー企業を付けてオンラインイベント開催、東京でesports事業部の立ち上げに携わった後、東南アジアでの放浪(バックパッカー)を経て、地元の富山県へUターン、2018年7月に当社設立、代表に就任。

ーーまずはじめに、御社と堺谷さんご自身について、簡単にご紹介いただけますか。

堺谷氏(以下敬称略):私たちは2015年ごろから富山県を拠点にeスポーツ関連事業を展開し、2018年に株式会社ZORGEを設立しました。地域や自治体と連携しながら、eスポーツを活用したさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

私はもともと大会に出場するプレイヤーとして活動しており、当時は「eスポーツ」という言葉も今ほど一般的ではありませんでした。そのような状況の中、自分たちでコミュニティ大会を企画・運営しながら活動を続けてきました。2020年からは東京でスポーツ関連の新規事業にも携わり、その後再び富山に戻りました。

富山では、居抜きのスナックを改装してコミュニティスペースを開設し、地域とのつながりを深めながら活動を本格化させました。やがて、そのスペースでは収容しきれないほど多くの方々にご参加いただけるようになり、外部会場を借りてイベントを開催するようになりました。そうした経験を通じて、イベント制作をより本格的な事業として展開する必要性を感じ、会社設立に至ったというのが経緯です。

ーーありがとうございます。これまでに主催された大会の数や、延べ参加者数について、イメージを教えていただけますか?

堺谷:正確な記録はありませんが、小規模な体験会も含めると、これまでに開催したイベントはおそらく400回ほどです。少なく見積もっても300回は超えています。

ーー参加者数でいうと、どのくらいになりそうでしょうか?

堺谷:おおよその推計ですが、延べ1万〜1万5,000人ほどです。小規模イベントでは20〜30人、大きなものでは3,000人規模のこともありました。

ーーありがとうございます。先ほどお話しいただいた地域との連携について、もう少し詳しく教えていただけますか?

堺谷:地域との取り組みの一例として、2016年から「ToyamaGamersDay(略称TGD)」というイベントを開催しています。このイベントは「富山県らしさを伝える」ことをテーマにしており、県外からの参加者も多く、これまでに富山県内各地で9回開催してきました。私たちはこのTGDのプロモーターとして、イベントの企画・運営・キャスティングまでトータルで手がけています。

さらに、TGDに加えて、市町村と連携した「GamersDay」イベントも各地で開催しており、これらを合わせると計14回の開催実績があります。

当初はゲーム好きの若年層を主な対象としていましたが、2020年度からは高齢者向けの取り組みにも注力するようになりました。eスポーツは若い世代には馴染みがありますが、高齢者にとっては触れる機会が少ないのが現状です。そこで、富山県庁や富山県立大学と連携し、高齢者向けeスポーツの普及とその効果検証を目的としたプロジェクトを立ち上げました。

この取り組みは2024年度まで続き、大学は途中でプロジェクトから離れましたが、2年目までに一定の成果をまとめることができました。その後も「高齢者向けの体験会を実施してほしい」というご要望を多くいただき、現在も富山県内各地で継続的に開催を行っています。

これまでに開催した高齢者向けの体験会は累計で200回以上にのぼり、その他のイベントも含めると、開催実績は延べ400〜500回近くになります。

高齢者向けイベントの様子

ーー高齢者向けの取り組みにフォーカスされるようになったきっかけについても教えていただけますか?

堺谷:きっかけは、地方に拠点を置いている私たちだからこそ、その立場を活かしたいと考えたことです。東京のeスポーツ企業と同じことをしても、私たちがやる意味はあまりないのではと感じていました。

そこで、地域に根ざした取り組みとして、高齢者向けのeスポーツや介護予防に役立つ活動に取り組むことにしました。

ーーなるほど。まずは「やってみよう」というスタンスで始められたのですね。

堺谷:はい、まさにその通りです。富山県庁も2019年度から全国に先駆けてeスポーツに積極的に取り組んでおり、現在まで継続的に支援をいただいています。自治体がここまで関わり続けているのは、全国的にも珍しいケースだと思います。

当時は県と一緒に「まずやってみよう」という姿勢でスタートしましたが、次第に市町村からも「ぜひうちでも」と声がかかるようになり、活動が広がっていきました。

現在も新たに取り組みたいという相談を各地からいただいており、地域に根ざした取り組みとして着実に広がりを実感しています。

ーーこれまで高齢者向けeスポーツの取り組みを広げてこられたとのことですが、どのように地域に浸透していったのでしょうか?また、自治体や地域の方々の反応はいかがでしたか?

堺谷:最初は、富山県内の福祉団体や市町村、公民館などに「やってみませんか」とこちらから声をかけるかたちでスタートしました。実際に体験していただいた地域が多かったことが、その後の広がりにつながったと感じています。

また、たとえばNintendo Switchなどの必要な機材を、地域が自ら購入し、自主的に継続開催するケースも増えてきました。

さらに、私たちの現地でのサポートに加えて、活動4年目には富山県と共同で運営マニュアルを作成し、地域が自走できる体制を整備しました。今では、各地で独自にイベントを開催できるようになっています。

昨年、鳥取で開催された「全国健康福祉祭(ねんりんピック)」では、富山県の予選参加者数が全国最多だったと聞いています。結果こそ振るいませんでしたが、世代を問わず多くの方にeスポーツを楽しんでいただけたこと自体が、大きな成果だったと感じています。

ーー高齢者向けeスポーツの取り組みは、「介護予防」としての効果も期待されているかと思いますが、実際に何か成果や変化は見られましたか?

堺谷:介護予防の効果については、まだしっかりと検証できているわけではありません。

ただ、イベントに参加していただくなかで、高齢者の方のコミュニケーションがどう深まっていくのかという点に注目し、調査を行いました。

eスポーツが初めてという方も多かったこともあり、新たな交流のきっかけとしては、とても手応えを感じています。

最近では、「介護予防」そのものよりも、「世代間交流」に重きを置いた取り組みへと少しずつシフトしてきています。自治体の方々の関心も、そうした方向に広がってきていると感じています。

ーーやはり、各自治体で世代間交流を重視する動きが広がっているのですね。

堺谷:はい、実感としてもその流れは強いです。 たとえば「太鼓の達人」のようなゲームは、高齢者向けの体験会でも全国的によく活用されています。以前は介護予防に効果があると言われていましたが、ゲーム会社自身が正式なエビデンスを示していないこともあり、最近では「介護予防」という言い方を避ける傾向にあります。

その流れもあって、現在は「eスポーツを通じた世代間交流」という切り口で地域に広めていくことが主流になっています。

ーー高齢者と若い世代がゲームを通じて交流する場面も生まれているのでしょうか?

堺谷:実際にそうした場面が生まれています。たとえば、地元の小学生たちが高齢者向けのeスポーツ体験会を企画・運営し、操作方法を教えたりスコアの管理を担当したりすることで、自然なかたちで交流が生まれたケースがあります。

また、同じ日に小学生の部と高齢者の部に分けて大会を開催し、同じ空間でそれぞれが参加する形をとった試みもありました。

いきなり対面での交流を促すのではなく、まずは「同じ場所」「同じイベント」に参加するところから始め、無理なく交流を深めていくことを意識しています。

ーー大会がきっかけとなって、世代間交流が自然と生まれているというイメージでしょうか?

堺谷:はい、まさにその通りです。大会に限らず、何かしら「続けるためのきっかけ」があることが重要だと考えています。「一緒にゲームをしよう」と声をかけるだけでは一度きりで終わってしまうことが多いですが、大会のような定期的な目標があることで、交流が継続しやすくなります。

ーー現在、各市町村で体験会を開催されているとのことですが、運営する際に特別なやり方などはあるのでしょうか?

堺谷:特別なことはしていません。市町村の担当者の方々にも、できるだけ身近に感じてもらえるように心がけています。

地域でeスポーツを企画しようとすると、「多額の予算が必要では」と心配されることもありますが、小規模な体験会であれば、意外と手軽に始められます。実際、先日も近隣の市町村の方から「思っていたより負担が小さい」と言っていただきました。

ゲームは誰でも楽しめるように設計されているので、特別なスキルや専門人材は必要ありません。高齢者の方も、数回触れるうちに自然と機器の接続や操作を覚えていかれます。

運営面でも、特別な準備は不要で、「安全に楽しむための注意点」や「基本的な操作方法」を簡単に説明する程度です。「誰でも気軽に参加できるもの」というスタンスを大切にしています。

ーー現在は富山県を中心に活動されているとのことですが、他の地域からの相談や、県外での支援実績もあるのでしょうか?

堺谷:はい。石川県をはじめ、近隣の県からご相談をいただいた場合には、現地でのサポートや指導に伺うこともあります。

ーーこうした取り組みを、今後全国へ広げていくご予定はありますか?

堺谷:まさにその方向で準備を進めているところです。高齢者向けに限らず、子供向けの活動も含めて、これまで富山で積み重ねてきた取り組みの中から、地域で実践しやすいモデルがいくつか形になってきました。

今後は、そうしたモデルを横展開する形で、他の地域にも広げていきたいと考えています。

ーー「子供向け」というお話がありましたが、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?

堺谷:eスポーツ大会の開催に加えて、プログラミング教室の併設や、子供たちがデジタルコンテンツを一緒に作り、それを使って遊ぶ体験型のイベントも行っています。

子供向けイベント

ーーこうした取り組みも、自治体と連携して実施されているのですか?

堺谷:はい。たとえば今年3月末には、射水市のご協力をいただき、小学生向けの体験イベントを開催しました。

ーー子供向けの場合、自治体が特に期待しているのは、やはりデジタル人材の育成になるのでしょうか?

堺谷:もちろんデジタル人材の育成は大きな目的のひとつです。ただ、それだけではありません。

たとえば、他地域とつないでイベントを行うことで、「関係人口づくり」につなげたいという意図もあります。

また、子供のうちから地域の行事に参加することで、将来的に地元との関わりを持つきっかけになることも期待されています。

実際、地方では若い世代の流出が課題になっていますが、子供の頃に地域で楽しい体験や良い記憶を持った人は、大人になってから戻ってくる可能性が高まると言われています。

そのため、子供たちに地域をポジティブに感じてもらえるような体験を届けることが、将来的な地域活性化にもつながると考えています。

ーーなるほど。自治体としても、そういった効果を期待しているわけですね。

堺谷:はい、そうした期待はあると思います。ただ、私たちとしては、その効果を確実に検証できるわけではないため、「将来こうなります」といった断言はしていません。

現在は、以下の3つを柱に子供向けの取り組みを進めています。

・デジタルリテラシーの向上

・関係人口・交流人口の創出

・将来的な世代間交流へのきっかけづくり

ーー具体的には、どのような取り組みをされているのでしょうか?

堺谷:最近は、「カニノケンカ」というインディーズゲームを使った子供向けイベントを定期的に開催しています。このゲームは完成度が高い一方で、あまり知られていないタイトルである点がポイントです。

というのも、大手の人気ゲームを使うと、すでに慣れている子供が有利になり、初心者が参加しづらくなることがあります。

そのため、誰でも公平に楽しめるよう、普段あまり触れる機会のないインディーズゲームを意識的に選んでいます。

インディーズゲームは、特別な練習がなくても楽しめるものが多く、イベントにはとても適しています。また、「カニノケンカ」は、富山の特産である紅ズワイガニとの親和性も高く、地域性を踏まえた選定でもあります。

ーーインディーズゲームに力を入れている理由について、何か特別な思いがあるのでしょうか?

堺谷:はい。今は非常に多くのゲームが世に出ており、面白いタイトルもたくさんありますが、制作に莫大なコストがかかるものも増えています。

一方で、限られた予算でも個人でゲームを開発できる時代になっており、ゲームの楽しみ方そのものが少しずつ変わってきていると感じています。

かつては、ひとつのゲームをじっくり遊ぶスタイルが一般的でしたが、今では消費スピードが非常に速く、どんなに大作でも「刺さらなければすぐ離れる」時代です。そうした中で、個人開発のインディーズゲームが持つ柔軟さやスピード感は、新しいゲーム文化の象徴ともいえます。

そういった可能性に魅力を感じ、子供たちにも「新しい形のゲーム体験」として届けたいと考えています。 「カニノケンカ」はその好例で、地域性とも相性が良く、積極的に取り入れています。

ーー「カニノケンカ」は個人で開発されたゲームなのですか?

堺谷:はい、個人開発の作品です。実際に開発者の方を富山にお招きし、子供たちと交流していただいたこともあります。「一人でもゲームが作れる」という話を聞いて、ゲームクリエイターを目指したいという声も子供たちから上がりました。そうした面でも、とても意義のある取り組みだと感じています。

ーーありがとうございます。今後の展望についてもお聞かせください。

堺谷:これからも、社会課題に対してゲームやeスポーツの魅力をどう活かしていけるかを重視して取り組んでいきたいと考えています。まだ向き合うべき課題は多く、活動の幅をさらに広げていく必要があると感じています。

また、eスポーツ業界全体でも、持続可能性に対する意識が高まりつつあります。特に地方創生の観点では、eスポーツが地域資源として十分に活用されていない現状があるため、そこに貢献できる仕組みづくりにも挑戦していきたいと思っています。

今年度からは、富山県にとどまらず、全国のプレイヤーや団体とも連携しながら、新たな取り組みを展開していく予定です。

ーーつまり、自分たちだけで完結させるのではなく、各地域で活動している方々と連携して進めていくイメージですね。

堺谷:はい、その通りです。 eスポーツ団体に限らず、福祉団体など他分野の組織とも協力し、必要に応じてそれぞれの専門性を活かしながら取り組みを広げていきたいと考えています。

ーー現在進行中の取り組みには、どのようなものがありますか?

堺谷:はい、いくつか動いているプロジェクトはありますが、現時点では詳細をお伝えできないものもあります。具体的な発表は夏頃から順次進めていく予定です。

ーー最後に、これだけは伝えておきたいということがあれば、ぜひお願いします。

堺谷:改めてお伝えしたいのは、私たちは地域に根ざし、eスポーツ専業で事業を展開してきた、全国でも珍しい存在だということです。この分野に対しては、誰よりも強い思いを持って取り組んでいるという自負があります。

今後、私たちの会社から生まれる新たな挑戦にも、ぜひ注目していただけたら嬉しいです。

ーーありがとうございます。本日はお時間をいただき、誠にありがとうございました。