2024年に公表された最新の住民基本台帳人口移動報告では、東京都の転入超過が 7万9,285人、東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)が 13万5,843人 と再び増勢に転じました。特に20〜29歳の若年層が中央集権を牽引しており、同報告では「東京一極集中がコロナ前の水準へ戻った」と指摘しています。
一方、地方中枢と見なされてきた仙台市(宮城県)や広島市(広島県)は、2025年時点で微増または減少傾向が定着しつつあります。
しかし例外も存在します。それが 沖縄県 です。2025年5月推計人口は 146万5,079人 と過去最高を更新しており、月次でもプラスが続いています。
本稿では、①最新統計で捉える東京集中の実態、②若者・子育て世代が東京に集まる四つの構造要因、③沖縄が依然として増え続ける背景、④2030年代までのシナリオを考察します。
データで読む「東京集中」―どれほど顕著か
2024年の住民基本台帳人口移動報告によると、東京都の転入超過数は79,285人と、全国の都道府県で最も多くなっています。前年(2023年)から1万1,000人の大幅増加となり、東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)の転入超過数も13万5,843人と前年度比9,328人増加しました。
この数字が示すのは、20〜29歳の若年層が東京都市圏に大量に流入しているという構図です。年齢5歳階級別のデータから筆者が試算したところ、東京都への転入超過のうち20~29歳が52.4%を占めました。同様に神奈川県は48.0%、埼玉県47.2%、千葉県46.9%、大阪府44.6%と、いずれも都市圏ほど若年層の比率が高い結果となっています。
一方で、東北や中国地方の拠点とされてきた仙台市(宮城県)や広島市(広島県)では、転入超過ではなく社会減少が続いています。宮城県は▲3,755人(前年比▲527人)、広島県は▲10,711人(前年比+698人)と、出生数減少と若者流出が同時に進行している状況です。地方中枢都市でさえも若年層の定着に苦しんでいることが浮き彫りになっています。
さらに大阪府も、かつてはコロナ禍で転出超過に陥っていましたが、2024年には再び49,767人の転入超過に転じ、前年から9,200人増えました。大阪圏でも若年層の回帰が見られるものの、その比率は44.6%と東京圏には届いていません。
このように実数と割合の両面から見ると、「東京一極集中」は若者の流入によって強固になっていることがわかります。若年層が都市部に集まる背景には、①就職・キャリア形成の機会、②大学進学や研究資源の集中、③子育てインフラの充実、④娯楽・文化・ネットワークの利便性 といった要因が複合的に作用しています(詳細は別項目で分析)。
逆に、仙台・広島では、若年層の定着を促すだけの雇用創出力や社会インフラの整備が追いついておらず、転出超過が収まらないままです。また大阪府は都市間競争力を維持するために企業誘致やスタートアップ支援などで若者を呼び戻しつつありますが、若年層占有率では依然として東京圏に一歩譲る形です。
今後の国内人口動向を占ううえでは、「どこに住んで働くか」が若者のライフステージ選択に直結する以上、この東京一極集中は短期的に続く可能性が高いと言えます。しかし、地方自治体がデジタル化推進や企業誘致、教育環境の改善などで若年層を引き留める施策を加速させられるかどうかが、地方創生の成否を分ける重要な鍵になるでしょう。
以上のデータ分析から、東京圏への若年層集中はもはや構造化された現象であり、地方側の受け皿強化なしには解消が困難であることが明らかになりました。自治体・企業・教育機関が連携して地域の魅力と機会を高める取り組みが、今まさに求められています。
地域 | 2024年転入超過数 | 2023年比 | 若年層(20~29歳)占有率* |
東京都 | +79,285 人 | +11,000 | 52.4% |
神奈川県 | +41,916 | +6,700 | 48.0% |
埼玉県 | +36,784 | +5,300 | 47.2% |
千葉県 | +27,127 | +4,100 | 46.9% |
大阪府 | +49,767 | +9,200 | 44.6% |
宮城県 | ▲3,755 | ▲527 | 35.1% |
広島県 | ▲10,711 | +698 | 34.7% |
*若年層占有率は総務省「結果の概要」年齢5歳階級別転入者より筆者試算(2024 年)。
若者と子育て世代が東京を選ぶ4つの構造要因
雇用と賃金の「吸引力」
厚生労働省「労働経済動向調査(令和7年2月)」によると、2025年春卒業予定者の全国求人倍率は1.26倍である一方、東京都の求人倍率は1.94倍と、地方平均1.27倍を大きく上回ります。この“約2倍”という数字は、若年層が初任給水準のみならず、将来の昇給・昇格スピードをも期待して東京を志向する大きな動機となっていると考えられます。
加えて、IT・クリエイティブ産業やスタートアップの本社立地は依然として東京23区に集中しており、全上場IT企業の7割超が都内を拠点とします。こうした企業は高い初任給レンジを提示できるほか、ストックオプションや社員持株会などの報酬制度も整備しやすいため、同業界志望者にとっては他地域と比べても魅力度が高いのが実態です。
さらに、日経COMEMOでも指摘されているように、「20代の人口移動動機は『就職・転職が最大』で、進学目的を上回る傾向」にあり、就業機会を求める若者が東京へと集中するトレンドが定着しています。
高等教育と専門人材プール
首都圏には約144万人(全国比約40%)もの大学生が在学しており、大学・大学院の進学から就職に至る「ストレート残留」が多く見られます。文部科学省「令和5年度学校基本調査」では、大学学部在学者数が過去最多の294万5,599人に達し、そのうち首都圏集中率は依然高水準です。
この結果、研究費やスタートアップ支援金も首都圏に偏在し、大学発ベンチャーの創出・成長機会が東京に集中しています。結果として、地方で学んだ若者も大学院進学や研究機関就職を機に上京し、そのまま東京圏企業へ就職する「Uターン前提ではない人材流動」が定着しています。
子育てインフラの集積
東京都福祉保健局の発表によれば、2024年4月時点で都内の認可保育所等待機児童数は361人にとどまり、23区のうち36自治体が「待機児童ゼロ」を達成しています。加えて、0〜5歳児医療費助成を「所得制限なし・高校生まで」に拡大した区市が増え、保育・医療のワンストップ支援が整備されています。
こうした「子育て安心インフラ」は高家賃というコスト増分を上回るメリットとして若年夫婦に評価されており、結果的に東京圏への居住選択を後押ししています。
スケールメリットとネットワーク効果
東京では、平日夜間や休日のアートイベント、子ども向けワークショップ、スポーツ・ライブ公演などレジャー・文化プログラムが都市規模のスケールメリットを生かして絶えず開催されています。これにより、「時間資本」を最大化できる都市環境としての魅力が際立ちます。
また、SNS上で形成された同世代コミュニティがリアルに収斂しやすい地理的条件(「近いから集まりやすい」)も見逃せません。オンラインで繋がった仲間とリアルな交流を図りやすい「場」が東京には豊富にあり、このネットワーク効果がさらなる若年層誘引を強化しています。
コロナ禍後のリモートワークは「集住」の補完役
コロナ禍を経て一時的に高まった地方移住への関心も、2024年の報告では再び東京圏への流入がコロナ前(2019年)水準まで戻っています。その背景には、リモートワーク導入後の「ハイブリッド勤務」と「キャリア競争の激化」という二つの要因が働いています。
まず「ハイブリッド勤務」です。2020〜21年に広がったフルリモートの働き方は、通勤負担の軽減や働く場所の自由化というメリットをもたらしました。しかし企業側の「週2〜3日の出社要請」が本格化する中で、通勤圏を“90分以内”とする居住圏再評価が進んでいます。総務省や国土交通省のテレワーク実態調査によると、コロナ禍前に比べて「勤務先の方針で出社指示があった場合、テレワークを続けられない」というケースが急増し、結果的に出社圏内に住むことの価値が再認識されています。これは東京圏内であれば比較的短時間・高頻度に出社しやすいという地理的優位を再確認させたと言えます。
次に「キャリア競争の激化」です。オンライン採用の普及によって、地方在住者でも遠隔選考に参加できる環境が整いましたが、入社後のネットワーキングやキャリア形成において“対面接点”が重視される傾向が強まっています。日経COMEMOの分析では、「就職・転職を主目的とした20代の移動が進学由来を上回り、オンライン採用だけでは補えない“リアルな出会い”を求める動き」が顕著になっていると指摘されています。具体的には、社内メンターとの定期的な面談や、プロジェクト横断型のワークショップ参加など、社内外でのラーニング・交流機会が東京に集中していることが、若年層の居住選択に大きく影響しているのです。
この二つの要因は相互に補完し合い、「リモートワークで生まれた時間的余裕を東京でのキャリア強化に使う」という流れを生んでいます。たとえば週前半はリモートで業務をこなしつつ、後半は都心のオフィスやコワーキングスペースに赴き、新規プロジェクトのキックオフミーティングやクライアントワークを対面で実施するスタイルが定着しつつあります。また、大手企業の新卒研修や業界カンファレンスも都内開催が中心で、「転職サイトやSNS上だけでは得られない情報・人脈」がリアルイベントで集約される状況も追い風となっています。
一方で、リモートワークが地方移住の後押しとなるためには、「週に1度程度の対面機会を含むハイブリッド勤務であっても、東京在住者と同等のキャリア形成や人脈構築が可能となる」ような制度や支援の整備が不可欠です。ところが現状では、対面でのネットワーキングや突発的な出社対応に伴う交通費や移動時間といったコストを、地方在住者が自己負担せざるを得ないケースが多く、結果として「だったら東京近郊に住んだほうが合理的だ」と判断する動きが強まっています。
まとめると、ハイブリッド勤務という新しい働き方の枠組みと、キャリア競争における対面ネットワーキング重視の潮流が複合的に作用し、リモートワークが「集住(都心再集積)」の補完役になっています。地方自治体や企業が遠隔地在住者向けの交通補助や、都市部と同等の交流機会をオンラインから対面までシームレスに提供できるかどうかが、今後の地方移住トレンドの鍵を握るでしょう。
仙台・広島など地方中枢都市の減少要因
若年人口の流出と「還流率」の低下
宮城県は2024年に国内転出超過3,755人と、東北地方で突出した転出超過を記録しました(出生や死亡を含む社会増減では▲3,755人)。とりわけこのうち20代前半が約4割を占めており、大学進学や就職をきっかけとした若年層の流出が顕著です。加えて、東京・首都圏への一極集中が進む中で、一度都会へ出た若者が地元に戻る「Uターン率」は3割台にとどまり(国立社会保障・人口問題研究所調査による地域ブロック別率)と、以前よりも低く抑えられています。若手人材の地域外流失が深刻化する一方で、企業側も若手専門職を地元で採用・育成する体制が十分整っておらず、結果として還流を促す循環が断たれつつあります。
広島県でも同様に、2024年の社会減は▲10,711人となり、そのうち若年層の転出が大きな割合を占めています。特に女性若年層の流出が顕著で、育児や家族形成期を迎える層の地元定着が進んでいないことがうかがえます。これらのデータは、地方中核都市における「若者が地域に戻らない」構造的課題の深刻さを浮き彫りにしています。
産業構造のミスマッチ
地方中枢都市は近年、医療・IT・観光といった新産業の誘致を積極的に進めていますが、依然として多くの企業が東京本社基準の報酬水準を提示できないのが現実です。仙台市を例に取ると、ITベンチャーやヘルスケアスタートアップが進出し始めているものの、大企業や外資系企業の本社機能が集まる都心部と比べると初任給・給与レンジの面で見劣りしがちです。その結果、専門職志望の若手は「キャリアアップの機会」や「報酬条件」を求めて再び東京圏へ流出してしまいます。
広島市も、歴史的に製造業の集積地として発展してきましたが、製造・現場系とホワイトカラー系の賃金格差が大きく、若年層にとって魅力的な就業先が限定的です。たとえば技術系エンジニア職と総務・企画職の初任給差が平均で約15%ほど異なっており、ホワイトカラー志向の若者にとっては給与面で地方企業は厳しい選択となっています。こうした産業構造のミスマッチが、若年層流出を加速させる要因となっています。
子育て支援の「見えづらさ」
地方中枢都市では、表面的には待機児童数は東京都ほど多くないものの、保育士不足による保育サービスの不安定化や、夜間・休日の小児医療体制の限界など、子育て世代にとって安心感を得にくい状況が散見されます。仙台や広島の行政発表によると、地域によっては「認可保育所への入所希望者はいるものの、園児募集が早期締切となり、実際には待機児童が隠れている」ケースも報告されています。
さらに、近年の新幹線・LCC(格安航空会社)路線の拡充によって、「都心まで2時間以内でアクセスできるなら、いっそ東京に拠点を構えたほうが合理的だ」という考えが、若年夫婦の間で強まっています。たとえば、広島市から東京への格安航空便の増加により、子育て世帯も「時折帰郷できる」以上の地方居住のメリットを感じにくくなり、「生活圏を首都圏に移すほうが安心だ」という判断が後押しされる結果となっています。
地方から東京までのアクセスが容易になった一方で、キャリアや育児支援、情報へのリアルな接触機会が依然として首都圏に集中している現実は変わりません。このため、たとえ移動手段が整っていても、“地方に住む合理性”が感じられず、東京圏に居を構える判断が強まっているのです。
沖縄が人口を伸ばし続ける三つの理由
圧倒的に高い出生率――1.77という全国トップ水準
2024年の合計特殊出生率1.77は、全国47都道府県中でトップに位置しています。これは、「〈子どもは3人ほしい〉という理想的な子ども数に関する規範」が地域文化として根強く残っていることに起因しており、夫婦の家族観や子育てに対する期待が高いことがうかがえます。実際、琉球新報の報道によれば、若い世代の多くが「子どもの人数は2人以上」と回答しており、全国的に低下基調にある出生率が沖縄ではむしろ上昇傾向にある点が特徴的です。この「家族観のポジティブさ」が、自然増による人口底上げを強力に後押ししています。
若年層の厚い年齢ピラミッド――0~14歳比率17.1%超
2025年5月時点での沖縄県推計人口は約146万5千人で、そのうち0〜14歳が17.1%を占めています。全国平均11.8%を大きく上回り、地域に若い世代が多く居住していることを示しています(国立社会保障・人口問題研究所・将来推計)。この「年少人口の厚み」は、次世代への希望ある社会づくりを支える重要な要素であり、学校・子育て支援・地域イベントなどにも活力をもたらしています。また、若年層人口の増加は消費や雇用にも好影響を与え、地域経済の底堅さを生む好循環要因となっています。
「リゾテックアイランド」構想――リゾート×IT×スタートアップ誘致
近年、沖縄県は観光立県の強みを活かしながら、IT・スタートアップ誘致にも力を入れています。2025年度から始まった「Boost Up OKINAWA 2025」プログラムでは、県外・海外のスタートアップを対象に沖縄での事業展開を支援するアクセラレーションや資金助成を拡充し、既存産業の観光に加えてDXやグリーン分野への展開を促進しています。さらに、本島中北部を中心にテレワーク対応の移住支援やコワーキング施設を整備し、「リゾテックアイランド」と呼ばれる複数拠点型ワーケーション環境を整えつつあります。
これにより、首都圏や海外志向の若手起業家・クリエイターが沖縄に拠点を構えやすい環境が生まれ、移住と事業活動を両立する“新しい多拠点ライフスタイル”を訴求しています。観光需要を支えるホテル・飲食・交通に加え、IT企業・研究開発拠点・インキュベーション施設が集積し始めていることが、若年層の定住・就業ニーズを喚起し、社会増を後押ししています。
2030年代までのシナリオ予測
2030年代にかけての日本の人口動態は、東京一極集中の恒常化、地方中枢都市の衰退、沖縄の独自増勢という「三極」構造がさらに鮮明化すると予測されます。以下ではまず各地域のベースライン推計と、ポジティブ/ネガティブ両シナリオを示し、次にそれらに影響を及ぼす政策・技術トレンドを整理し、最後に今後10年間のポイントをまとめます。
シナリオ推計の前提と区分
本分析では、各地域の人口動向を以下のように設定しています。
項目 | ベースライン | ポジティブシナリオ | ネガティブシナリオ |
東京人口 | 2035年に1,420万人で頭打ち | DX雇用の増加により1,450万人まで伸長 | 住宅費高騰と災害リスクで1,380万人へ減速 |
地方中枢(仙台・広島) | 2030年以降年0.4~0.6%減 | 地域DX・脱炭素産業が雇用創出し横ばい | 若年層流出が加速し年1%超の減少 |
沖縄 | 2028年に150万人ピーク後微減 | スタートアップ・遠隔医療の定着で維持 | 観光依存失速・出生率低下で年0.5%減 |
なお、ベースラインは現時点の人口動態トレンドを素直に伸長・推移させた場合、ポジティブ/ネガティブは主要因の改善・悪化を仮定した場合をそれぞれ想定しています。
東京の人口シナリオ
ベースライン:1,420万人での頭打ち
少子高齢化の進展により2040年頃には転入・転出が均衡し、新規転入者数の減少が顕著になります。将来世代の自然減(死亡超過)と社会減(転出超過)のバランスから、2035年頃に1,420万人をピークとし、その後は微増・横ばいにとどまります。
ポジティブ:DX雇用増で1,450万人へ
政府の「デジタル田園都市国家構想2.0」や民間投資による都市部DX・データセンター整備が進み、高付加価値な遠隔就労やAI研究・開発拠点を東京に集積すると仮定します。これにより、従来のオフィスワークのみならず、リモートワーク主体の企業も本社機能を都心に残し続け、人材需要が堅調に推移。結果として、1,450万人規模まで人口を伸ばす可能性があります。
ネガティブ:住宅費高騰と災害リスクで1,380万人へ
都心部の住宅価格・賃料高騰が続き、若年層の経済的負担が限界に達するシナリオです。加えて、地震リスクや浸水リスクの顕在化が同時に進み、企業の分散化(サテライトオフィス移転)や「脱東京」動向が加速。これにより、転入超過が鈍化し、1,380万人まで減速するリスクがあります。
地方中枢都市(仙台・広島)の未来
ベースライン:年0.4~0.6%の減少
現状の自然減・社会減トレンドを基にすると、仙台・広島は2030年以降年間0.4~0.6%ずつ人口を減少させる見込みです。大学卒業後の都市部流出と、高齢化による死亡数増が主因となります。
ポジティブ:DX・脱炭素産業で横ばい化
地域ごとにIT企業誘致・スタートアップ支援や脱炭素インフラ整備(グリーン水素・風力発電等)を推進し、新規雇用を創出できれば、若年層の定着率が改善し、人口減少をほぼ横ばいに抑えられる可能性があります。特に自治体と大学・民間企業が連携した産学官プロジェクトが鍵となります。
ネガティブ:若年層流出加速で年1%超減少
一方、これらの誘致施策が十分に機能せず、報酬水準やキャリアパスの魅力度で東京圏に大きく引き離されたままだと、年間1%超の若年層社会減が続き、地域経済の空洞化が進むリスクがあります。人口減による税収低下が行政サービスを圧迫し、さらなる流出を招く悪循環に陥る恐れがあります。
沖縄の人口シナリオ
ベースライン:2028年の150万人ピーク後微減
現状の出生率高水準(1.77)や移住促進政策を勘案すると、2028年に150万人のピークを迎えた後、緩やかに自然減が支配的となり、微減局面に移行すると推測されます。ただし、2030年代前半までは自然増分が一定程度残るため、大きな転換は緩やかです。
ポジティブ:スタートアップ・遠隔医療定着で維持
「Boost Up OKINAWA 2025」やテレワーク拠点整備が軌道に乗り、スタートアップ創業者や遠隔医療・ヘルスケア人材の流入が定常化すると仮定します。これにより、自然増以上に社会増がカバーされ、2035年時点でも150万人前後を維持できる可能性があります。新規企業や研究施設誘致による雇用創出が鍵です。
ネガティブ:観光依存失速・出生率低下で年0.5%減
観光需要が持続可能性の限界で鈍化し、主要産業依存からの脱却に失敗すると、経済活力が低下します。さらに、出生率も全国平均に向けて低下し始めた場合、年間0.5%程度の減少に転じるリスクがあります。社会資本整備や子育て環境維持が課題となります。
鍵となる政策・技術トレンド
デジタル田園都市国家構想2.0
高速通信網の全国整備とサテライトオフィス支援が進展すれば、地方の就業率が大きく変動します。首都圏集中の是正には、企業が地方拠点を機能させるだけの通信品質と制度設計が必須です。
育児金融インセンティブ
住宅ローン減税の拡充や教育費支援クレジット制度を導入し、若年夫婦の首都圏離脱を後押しできるかが焦点です。家計負担軽減策が地方移住を現実的な選択肢にする鍵となります。
多拠点生活税制
住民税の分割納付制度や複数住所の税優遇措置が整備されれば、ライフスタイルに応じたマルチハブ居住が促進され、地方分散型人口パターンが生まれる可能性があります。
今後10年の展望と示唆
1.東京集中の構造的強化:「卒業→初職→キャリア形成」というライフステージの連鎖が続き、東京圏の吸引力は当面揺るぎません。
2.地方中枢都市の再起:仙台・広島クラスでも若年層定着には「賃金水準×専門職雇用」の同時引き上げが不可欠で、産業政策と教育・研究支援を一体化する必要があります。
3。沖縄の持続的成長:自然増優位のメリットを活かしつつ、「高付加価値産業誘致」と「テレワーク環境整備」を両立させれば、2030年代中盤以降もプラスを維持できるでしょう。
人口動態はあくまで“結果”であり、その“原因”は地域ごとの経済構造・文化規範・政策アジェンダの複合体にあります。2025年以降の10年は、東京の吸引力に対抗する地方の自律的イノベーションが試される時期となります。地方都市が「選ばれる場所」へと脱皮できるかどうかが、2040年代の日本の人口地図を大きく塗り替えるカギとなるでしょう。