海外移住という選択肢について(牧野徹郎氏へのインタビュー)

海外移住という選択肢について(牧野徹郎氏へのインタビュー)

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海外移住は、SNSやネット記事では華やかに語られがちです。しかし本当に知りたいのは、「実際に住んでみてどうだったのか」「何が想定外で、何が効いたのか」といった“生の話”ではないでしょうか。

今回お話を伺ったのは、Webマーケティング歴15年、起業・独立を経て、現在は米国テキサス州ダラスを拠点に活動する牧野徹郎氏。日本企業の支援を続けながら海外で暮らす牧野氏に、なぜ移住先にダラスを選んだのか、家族や仕事の不安をどう乗り越えたのか、そして現地で直面した「英語×電話文化」など、移住して初めてわかるリアルを率直に語っていただきました。

個人事業主やフリーランスとして「海外移住」という選択肢を現実的に考えたい人にとって、ヒントと注意点が詰まったインタビュー後編です。

〇牧野 徹郎

神奈川県出身。現在はアメリカ合衆国テキサス州ダラス在住。Webマーケティング歴15年。広告運用を起点にキャリアを築き、アプリマーケティングではインストール獲得からLTV最大化まで経験。独立・起業を経て、SEO・広告・Web制作を深く学び、現在はクライアントの事業成長を支援する伴走型のWebマーケティング支援を行っている。

2015年に株式会社favaryを創業し、2021年に株式会社マスドライバーを創業。2023年8月から米国テキサス州にも拠点を構え、海外を拠点にしながら日本企業の支援も継続している。

公式サイト:massdriver.net

 

なぜダラスだったのか(立地/税制/生活コスト)

――海外移住という選択肢の中で、なぜ移住先としてダラスを選ばれたのでしょうか。他にも候補地はありましたか。

牧野氏(以下敬称略):大きな理由は、地理的なアクセスの良さです。ダラスはアメリカ中南部に位置しており、国内の主要都市へおおむね3時間以内で移動できます。全米を視野に入れてビジネスを考える上で、この立地は非常に重要でした。

私がダラスに移住したのは2022年11月ですが、当時はニューヨーク州やカリフォルニア州から、毎年30万人規模で人がテキサス州やフロリダ州へ移動している状況でした。ニューヨークやカリフォルニアは魅力的な都市である一方、税負担や生活コストの高さが課題になっていました。

その点、ダラスは、

  • 物価が比較的安い
  • 交通インフラが整っている
  • 税制面でのメリットがある

といった条件がそろっています。加えて、フォーチュン500企業の本社数が多い州で2位をずっと獲得している事実もあり、当時から経済的な勢いを強く感じていました。

税制、生活コスト、立地、そしてビジネス環境。これらを総合的に判断し、ダラスを移住先として選びました。

仕事も家族も不安だらけ。それでも移住を前に進めた準備と考え方

――移住を決めるまでに、不安はありましたか。また、その不安をどのように解消されたのでしょうか。

牧野:正直に言うと、不安は完全には解消していません。特に大きかったのはビジネス面で、日本のお客さまと物理的に距離が離れることで、十分な価値提供を続けられるのかという点が一番の懸念でした。

家族の面でも、子どもが現地の環境に馴染めるか、新しい生活を受け入れられるかといった不安はありました。ただ、それらをすべて解消してから移住するのは現実的ではないと考え、「行ってから考える」という判断をしました。

――まずは、行ってみるということですね。

牧野:そうですね。とはいえ、完全に手探りで移住したわけではありません。本格的な移住の前に1度現地を視察し、「本当に住めそうか」「生活のイメージが持てるか」を確認しました。2022年11月に移住しましたが、その年の5月に短期間ですがテキサスとカリフォルニアを訪れています。

――その際の滞在期間はどれくらいだったのでしょうか

牧野:テキサスが3日、カリフォルニアが2日ほどです。長期滞在ではありませんでしたが、「住めるかどうか」を判断するには十分な時間でした。

――家族の合意形成は、どのように進められましたか。特に、配偶者やお子さんとの話し合いについて教えてください。

牧野:そうですね、最もハードルが高かったのは子どもです。日本に友達がいることや、英語への不安もあり、当初はあまり前向きではありませんでした。

そこで移住の3〜4か月前から、英語に触れる機会を増やしつつ、「アメリカに行くことで得られる経験」や「新しい選択肢が広がること」を丁寧に伝えました。また、「もし合わなければ日本に戻ってくることもできる」と、逃げ道もあらかじめ共有しました。

正直なところ、完全に納得してもらえたわけではありませんが、「まずは1度行ってみる」「ダメなら戻る」という前提を家族で共有できたことで、最終的に踏み切ることができたと思っています。

地味にキツい「英語×電話文化」:現地生活のリアル

――実際に移住してみて、一番大きかった「想定外」は何でしたか

牧野:1つ目は、英語力が思ったほど自然には伸びなかったことです。生活していれば勝手に上達すると思っていましたが、実際には翻訳ツールが充実しているため、日常生活は英語力が大きく伸びなくても回ってしまう。結果として、意識的に勉強しない限り、英語はなかなか上達しないという点は想定外でした。

もう1つ大きかったのが、アメリカ特有の電話文化です。日本では問い合わせはメールやフォームが主流ですが、アメリカでは「電話してください」というケースが非常に多い。英語が万全でない状態での電話対応はハードルが高く、コールセンターでは相手の英語が聞き取りづらいことも少なくありません。

実際、電気料金のプラン変更だけで数時間電話し続けたこともあります。この「英語 × 電話文化」は、移住前にはあまり想像できていなかった、大きな想定外でした。

――海外に住みながら、企業を相手に仕事をする際、特に難しいと感じる点は何でしょうか。

牧野:1番大きいのは、やはり英語力です。どれだけマーケティングの知見や強みがあっても、それを他言語で説明し、理解してもらい、信頼を得るのは想像以上に難しいと感じます。

メールやチャットであれば、翻訳ツールを使ってある程度対応できますが、課題になるのは商談や合意形成のためのミーティングなど、リアルタイムの会話です。そうした場面では、自分の「真の英語力」がそのまま問われてしまいます。

言いたいことはあっても、ニュアンスまで含めて伝えきれず、相手を十分に納得させられない。この点は、実際にかなり苦労する部分だと思います。

――やはり、そうしたケースは多いのでしょうか。

牧野:多いと思います。日本企業を相手にするのとは異なり、言語だけでなく、商談の進め方や合意形成のスピード、コミュニケーションの前提そのものが違います。そうした点も含めて、海外で企業相手に仕事をする難しさは大きいと感じています。

海外移住で効いてくるのは「健康×生産性」の設計だった

――日本とアメリカには時差がありますが、その点はうまくバランスを取りながら働けていますか。時差を前提とした働き方は、どのように設計されているのでしょうか。

牧野:かなり意識的に、妻と生活リズムを分ける設計にしています。妻は朝型で、子どもたちを学校に送り出し、午後は家事や家庭中心。一方、私は完全に夜型で、日本時間に合わせて仕事をする生活です。

具体的には、夕方は家族の時間に充て、夜7時頃から本格的に仕事を開始します。日本ではちょうど朝10時前後にあたるため、そのまま朝方まで働く、というリズムです。生活時間をあえてずらすことで、日本との時差を吸収しています。

――現在は、日本のお客さまが中心なのでしょうか。

牧野:はい。現時点では約8割が日本のお客さまです。アメリカ進出をしている日本企業でも、意思決定や実務の中心は日本にあるケースが多いため、日本時間に合わせて働ける体制は、今のところ欠かせないと感じています。

――海外に移住して、仕事のパフォーマンスや発想に変化はありましたか。

牧野:あります。一番大きいのは、仕事のパフォーマンスを意識的に維持する必要が出てきたことです。時差のある働き方や食生活の違いもあり、健康状態がそのまま仕事の質に直結することを、以前より強く意識するようになりました。

その結果、「どうすればパフォーマンスを落とさずに働けるか」という視点で、食事や生活リズム、体調管理を考えるようになりました。

また、アメリカでは会食や飲み会が日本に比べて圧倒的に少ないです。仕事が終わればすぐ帰宅する方が多いため、翌日にお酒が残って仕事に影響することがなくなり、パフォーマンスを安定させやすくなった点は大きなプラスです。

一方で、日常生活で歩く量が少なくなりがちなため、意識して運動習慣を作らないと体を動かさなくなります。そのため、ストレッチや筋トレ、散歩などを日常に取り入れるようになりました。

こうした「健康を前提に働き方を設計する意識」が強まったこと自体が、海外移住によって生まれた大きな変化だと感じています。

移住前に準備すべき4つ(スキル・資金・習慣・人脈)

――移住前に「これはやっておいたほうがいい」と感じた準備があれば教えてください。

牧野:移住前にやっておいたほうがいい準備は、大きく分けると「スキル・資産・習慣・人脈」の4つだと思います。

まずスキル面では、英語力そのものよりも、文化を含めたコミュニケーション力が重要です。アメリカでは、言葉だけでなく、態度や表情、振る舞いを含めて信頼関係が築かれます。仕事でも私生活でも、この前提は共通しています。

次に資産面です。アメリカは解雇リスクが高く、生活コストや医療費も日本より大幅に高い。日本基準で生活費3か月分と言われますが、少なくとも6か月分程度の資金余力は用意しておいたほうが安心です。

三つ目は習慣です。
特に重要なのは、

  • 英語を継続して学ぶ習慣
  • 意識的に体を動かす習慣

海外では、どちらも放っておくと簡単に失われます。

そして最後に、人とのつながりです。現地の知り合いやコミュニティを事前に作っておかないと、孤独感が一気に強まり、メンタル面で行き詰まるケースも少なくありません。今はSNSで日本人コミュニティを簡単に見つけられるので、移住前からつながっておくことを強くおすすめします。

この「人との接点」は、スキルや資産と同じくらい、場合によってはそれ以上に重要だと感じています。

住まい・物価の目安(北ダラス/賃貸中心/学区)

――ダラスの住宅価格や家賃は、どれくらいの水準なのでしょうか。エリア別に、ざっくり教えてください。

牧野:全体的に見ると、ダラスの住宅価格や家賃は高めです。ただし、この1年ほどでやや落ち着いてきた印象もあります。

エリアで大きく分けると、ダウンタウンを境に南北で傾向がはっきり分かれます。南ダラスは比較的安いものの、治安面の不安があり、家族で住むエリアとしては選ばれにくいです。

一方、北ダラスは治安が良く、日本人にも人気があります。特に、トヨタなど日系企業が多いプレイノ(Plano)やフリスコ(Frisco)周辺が代表的です。

このエリアの目安としては、

  • 購入:1戸建てで約60万ドル前後
  • 賃貸:家族向けアパートで月1,600ドル前後(日本でいう1LDK〜2LDK程度)

エリアによって100〜200ドルほどの差はありますが、北ダラス全体では大きな違いはありません。日本の感覚では高く感じますが、平米単価で見ると東京と大差ないケースもあり、住宅の広さが価格を押し上げている側面もあります。

――物価についてはいかがでしょうか。特に食料品など、日本の都市(東京や大阪)と比べた価格感を教えてください。

牧野:全体的に見ると、食料品は日本より高めです。ただし、すべてが極端に高いわけではありません。

まず生鮮食品ですが、肉やフルーツは日本と大きく変わらない印象です。たとえば、一般的な肉類は日本と同程度で、アボカドも1個1ドル前後。日常使いの食材については、「想像より高くない」と感じる人も多いと思います。

一方で、和牛などの高級食材は別で、良いものを選ぶとグラム3,000〜4,000円程度になることもあり、この点は割高です。生鮮食品全体では、日本の約1.5倍と考えておくと感覚的に近いですね。

圧倒的に高いのは外食です。たとえばカフェで、軽食が10ドル、コーヒーが6ドルほど。これだけで約16ドル、日本円で2,000円前後になります。さらにチップが20%程度加わるため、最終的には2,400円ほどになるケースも珍しくありません。そのため、外食やカフェ利用は日本のほぼ2倍という感覚です。

まとめると、

  • 食料品(生鮮):日本の約1.5倍
  • 外食・カフェ:日本の約2倍

このくらいで見ておくと、東京や大阪と比較した際のイメージに近いと思います。

移住者の住まいは「まず賃貸」が現実的

――移住者の場合、住宅は「購入」と「賃貸」、どちらを選ぶ人が多いのでしょうか。

牧野:圧倒的に賃貸が多いです。特に、トヨタなど日系企業からの駐在員の場合は、ほぼ例外なく賃貸になります。多くは会社が住宅を手配するため、個人で購入するケースはほとんどありません。

また、移住直後に家を買うのは現実的にハードルが高いです。理由は、クレジットヒストリー(信用履歴)がゼロの状態から始まるためで、仮に住宅ローンが組めたとしても、金利が8%台になることも珍しくありません。

一方で、アメリカに定住する前提があり、ビザやグリーンカードを持っている人、現地で家庭を築いている人などは、購入を選ぶケースも増えてきます。

まとめると、

  • 駐在・移住初期:ほぼ賃貸
  • 定住・永住前提:購入を検討

という区分になります。

――「学校区(スクールディストリクト)が重要」とよく聞きますが、実際はいかがでしょうか。

牧野:非常に重要です。アメリカでは、学校区によって住宅の価値や価格が大きく左右されます。学区の良いエリアは家の価格も高く、逆に学区が悪いエリアは価格が大きく下がる。それくらい、学校区は住宅選びの最重要ポイントの一つです。

北ダラスで日本人が住みやすい街まとめ

――では、日本人が暮らしやすいエリアというと、北ダラスの中ではどのあたりになりますか。

牧野:日本人が多く、暮らしやすいエリアとして挙げられるのは、プレイノ(Plano)/フリスコ(Frisco)/マッキニー(McKinney)/アレン(Allen)/キャロルトン(Carrollton)このあたりです。

中でも、プレイノ・フリスコ・キャロルトンは、日本人が特に多いエリアです。トヨタの北米本社をはじめ、日系企業が近くに集まっているため、日本人コミュニティが形成されやすく、治安や生活環境の面でも安心感があります。日本語の補習校が多く、日本語環境にアクセスしやすい点も特徴です。

一方で、マッキニーやアレンは、日本人の数こそやや少ないものの、全米の「住みやすい街ランキング」で上位に入ることもあるエリアです。街並みがきれいで、ショッピングセンターや大型スーパーが使いやすく、アジア系スーパーも充実しています。

日本語環境を重視するならプレイノやキャロルトン、住環境の良さを重視するならマッキニーやアレン、といった選び方がしやすいと思います。

ダラスが伸び続ける理由は「税制×企業移転」

――ダラスは人口増加や経済成長が続いていますが、その背景にはどのような要因があるのでしょうか。

牧野:最大の要因は、税制の強さ、とくに法人税の低さです。たとえばカリフォルニア州では州法人税が想定的に高い(例: 一般C法人8.84%)のですが、テキサス州は州法人税がなく、フランチャイズ税(業種により0.375%/0.75%)という仕組みと大きな差があります。さらに、年次で変わるのですが2026年は年間売上が約265万ドル(約4億円)に達するまでは、州法人税が実質的にかからない仕組みになっています。

この税制は、スタートアップのような小規模企業から、本社機能を移転する大企業まで、幅広い企業にとって大きなメリットになります。その結果、企業が集まり、雇用が生まれ、人が流入する。人が増えれば住宅開発が進み、不動産やサービス業など周辺産業も活性化します。

さらに、経済成長 → 税収増 → インフラ整備・企業誘致→さらなる企業と人口流入という好循環が生まれています。

一言で言えば、ダラスの人口増加と経済成長の背景は、企業誘致を軸にした政策設計が非常にうまく機能していることに尽きると思います。

――実際には、どのような産業が伸びており、どんな企業がダラス周辺に移転してきているのでしょうか。

牧野:最も目立つのは、テック系産業です。特に、データセンター関連やIT・テクノロジー企業の開発拠点が急増しています。ダラス市内というより、北側のシャーマン周辺や、西側のフォートワース方面で、大規模なデータセンター建設が進んでいます。

これは、産業が自然発生的に伸びたというより、フォーチュン500クラスの大企業が移転・進出してきた結果として、テック産業が拡大しているという構図に近いと思います。

その影響で、もう1つ大きく成長しているのが建設・建築業です。企業移転に伴って人が集まり、住宅、オフィス、倉庫、インフラの需要が一気に増え、開発が活発化しています。

まとめると、ダラス周辺で特に成長が顕著なのは、

  • テック系(データセンター、IT関連)
  • それに伴う建設・建築業

この2つの産業だと感じています。

不動産は買い時?投資目線で見たダラス

――ダラスの不動産価格は、今後も上昇していくと見ていますか。また、その理由は何でしょうか。

牧野:現時点では、上昇する可能性が高いと見ています。最大の理由は、今後金利が下がる可能性がある点です。金利が下がれば住宅ローンが組みやすくなり、これまで様子見をしていた層が一気に動き出します。その結果、不動産需要が高まり、価格が上がりやすくなります。

加えて、ダラスは人口増加が続き、企業移転や雇用創出も止まっていません。こうした構造的な需要に金利低下が重なれば、不動産価格が再び上昇する可能性は十分あると考えています。

――ちなみに、日本人がダラスで不動産投資を行うことは、現実的だと思いますか。

牧野:現実的だと思います。結論から言えば、購入自体は十分可能です。ただし、投資対象によって難易度は大きく変わります。

比較的現実的なのは、一軒家(戸建て)への投資です。学区が良いエリアで、アメリカ人に好まれやすい間取りや仕様を押さえておけば、10〜20年の長期保有を前提に、大きな失敗はしにくいと感じています。アメリカは長期的に住宅価格が上昇しやすく、時間を味方につけやすい市場です。

一方で、オフィスや商業テナントへの投資は難易度が高くなります。学区だけでは判断できず、人の流れや需要、競合状況など、より高度な調査が必要になります。

整理すると、

  • 一軒家投資:日本人でも現実的。長期保有向き
  • 商業・オフィス投資:難易度が高く、上級者向け

このような位置づけになると思います。

――本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。