全国の地方自治体では、人口減少や空き家増加に対処し、地域経済を活性化するための創意工夫が進んでいます。本記事では、官民連携で成果を上げている5つの自治体に加え、大学と地域が連携して地方創生に挑む7つの実践事例をご紹介します。どの取り組みにも共通するのは、「地域の未来をともにつくる」という視点。移住促進・空き家活用を起点とした、多様なプレイヤーによる共創のかたちを、具体的な事例とともにお伝えしていきます。
地方創生 移住促進 空き家対策の取り組み
人口減少や空き家の増加といった課題に直面する中、多くの自治体が地域の魅力を引き出しながら、新たな人の流れや定住につながる取り組みを展開しています。
ここでは、移住促進と空き家対策を軸に、地域に活力を取り戻しつつある5つの自治体の実践例をご紹介します。
それぞれが官民や大学との連携を通じて築いてきた、「持続可能な地域づくり」の工夫と成果に注目します。
1.岩手県陸前高田市:NPOと大学が創る「関係人口」と移住定住の好循環
岩手県陸前高田市は、震災復興を契機に人と地域の新たな関係づくりに挑んできた自治体のひとつです。NPOや大学との連携を軸に、空き家の活用や関係人口の創出を通じて、移住定住の好循環を生み出しています。
復興から地方創生へと歩みを進める同市の取り組みは、地域課題に丁寧に向き合いながら未来を切り拓くモデルケースとして注目されています。
NPO法人「高田暮舎」を市が事業パートナーに迎え、移住希望者への伴走支援や空き家バンク運営を委託しています。同NPOはワンストップ相談窓口で暮らし情報提供や物件案内を行い、移住者同士・移住検討者のコミュニティ形成イベントも開催しています。さらに、市は立教大学や岩手大学との包括連携協定を結び、旧市立米崎中学校跡に「陸前高田グローバルキャンパス」を開設(2017年)し、大学のサテライト拠点を誘致しました。この大学連携により、学生の震災学習ツアーやフィールドワークが定期開催され、若者との交流が街にもたらされています。
空き家対策の手法
陸前高田市の空き家バンクはNPO高田暮舎が運営し、「家のストーリー」や家主のお薦め情報も掲載する工夫でマッチングを支援しています。市は移住希望者向けにお試し移住ツアーや体験プログラムを用意し、2泊3日の漁船乗船や温泉体験付きツアーは定員9人に17人が応募する人気ぶりです。また大学生等の関係人口創出事業補助金を創設し、立教大学や岩手大学など提携校の学生が市内に宿泊する際、1人1泊5千円(2泊まで)を補助して交流促進しています。このような「関係人口」を増やす取り組みが、将来の移住定住にもつながることが期待されています。
移住者の声と成果データ
陸前高田市では令和4年度(2022年)のU・Iターン転入者数が246人(前年度比+216人)、令和5年度(2023年)は278人と大幅に増加しました。計画目標を上回る増加で、市は年間300人の移住者受け入れを令和10年度までの目標に上方修正しました。転入届提出時に実施するアンケート方式へ切り替えて移住者数を実数で把握できるようにしたことに加え、子育て世帯に上乗せがある最大100万円分の商品券を交付する住宅取得費補助など、支援策を拡充した点が追い風となっている。
また『田舎暮らしの本』誌の「2025年版住みたい田舎ランキング」では、陸前高田市が人口1万〜3万人未満部門の「若者・単身者が住みたいまち」17位に入る評価も得ました。同市へ移住したAさんは「既に多くの移住者がいる陸前高田では、“外部の人を受け入れるサポート体制が整っている”という安心感が新たな移住希望者にも伝わっている」と語っています。
一方で、地域おこし協力隊OBの定住率が約50%と低く、全国平均(約70%)を下回る課題もあり、市はコミュニティセンターとの連携など受け入れ体制の強化に取り組んでいます。行政とNPO、大学、住民が一体となった陸前高田市の挑戦は、震災を乗り越えた地域に新たな人の流れと活力を生み出す成功例といえるでしょう。
2.岡山県真庭市:空き家バンクと地域資源エネルギーを活かした移住促進
真庭市は森林資源を活かした地域主導のバイオマス発電により、2020年(令和2年)時点で熱利用を含めたエネルギー自給率を約62%としています。木質バイオマスはその中核であり、地域循環型エネルギーシステムのモデルケースとして知られています。市はさらに再生可能エネルギー導入を推進し、将来的には100%に近い自給体制を目指しています。。こうした循環型エネルギーの取り組みはSDGs未来都市にも選定され、地域に雇用と誇りを生み出しています。エネルギー施策と並行して、真庭市は空き家利活用と移住支援にも独自色を出しています。
空き家対策の手法
市は「真庭市定住支援活動奨励団体」制度を設け、地域住民主体で空き家調査や移住者受け入れを行う団体を支援しています。
2025年1月現在で登録団体は3つあり、それぞれが特徴的な活動で成果を上げています。例えば、旧中和村エリアの「中和定住案内所」は2017年から空き家の調査と集い場の整備に着手し、23軒の空き家に灯りをともすことで40人以上の移住者を迎え入れることに成功しました。この結果、児童・園児の減少に歯止めがかかり、村の雰囲気も活気あるものに変わりつつあります。また旧美甘村エリアの団体「グランパ美甘」は、移住希望者が来る際に地域住民総出で空き家の片付けや引っ越しを手伝い、移住後も顔の見える関係で生活フォローを行っています。
旧北房町エリアの「北房未来づくりネットワーク」も2022年から地道に空き家掘り起こしを進め、着実に移住者を増やしつつあります。これら地域発の取り組みは、2023年に「地域再生大賞」中国ブロック賞を受賞するなど高く評価され、行政も活動支援や高齢者居場所づくりとの連携強化に努めています。
市全体でも空き家活用定住促進補助金など住宅支援策が充実しており、空き家取得や改修に対する補助や、若年世帯・子育て世帯向けの町営住宅(戸建・集合)の提供など多角的です。特に子育て世帯向けには手厚い住宅支援策が用意されており、そうした環境も移住希望者に魅力となっています。
真庭市では木造古民家のリノベーションも盛んで、廃屋同然の古宅を雑貨店やカフェに再生する事例も誕生しています。勝山地区では伝統的町並みを保存しつつ、「郷宿(ごうしゅく)」と呼ばれる古民家宿泊施設を拠点化して観光客誘致と周遊促進に活用する計画も進行中です。
移住者の声と成果データ
真庭市は近年、移住相談件数・移住者数ともに増加傾向にあります。森林資源を背景にした林業・木材産業の活発化が若い移住者を呼び込む面もあり、大手企業を辞めて林業に挑戦する30代移住者などの物語も生まれています。
実際に「林業の最前線で働きながら子育てもできる暮らしを求めて真庭へ移住した」という声からは、真庭の豊かな自然や仕事の機会が都市部の子育て世帯に新しい選択肢を提供している様子が伝わります。市はエネルギー施策に加えて農業や子育て環境の充実も図っており、「真庭なりわい塾」といった農的ライフスタイルを学ぶプログラムの開催や、移住者の地元企業就職支援にも取り組んでいます。
真庭市は、持続可能な地域づくりの取り組みが評価され、2018年度に国から「SDGs未来都市」および「自治体SDGsモデル事業」に選定されました。また、豊富な森林資源を活かした脱炭素の先進的な施策が評価され、環境分野でも全国的に注目されています。真庭市の事例は、エネルギー循環による産業振興と空き家活用による人の循環を両輪として、過疎地にポジティブな循環経済を生み出した成功例と言えるでしょう。
3.新潟県十日町市:アートと地域資源を活用した移住・定住モデル
豪雪地帯として知られる新潟県十日町市は、地域文化資源と空き家の創造的活用によって国内外から人を呼び込み、移住定住につなげる戦略を展開しています。十日町市は2000年から世界最大級の野外アートイベント「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」を開催し、里山の空き家や廃校を現代アートの展示空間や美術館として再生してきました。点在する古民家がアートと融合することで年間数十万人規模の来訪者を集め、過疎地域の活性化に大きく貢献しています。この「アートによるまちづくり」は単なる観光誘客に留まらず、アーティストやクリエイターの移住も促進し、地域に新しい風を吹き込んでいます。
空き家対策の手法
十日町市は移住・定住促進策の一環として空き家バンクを運営し、2024年3月末時点で110件の物件登録・74件の成約実績を上げています。市では2024年4月から空き家バンク業務に地域おこし協力隊員を専任配置し、空き家の見える化(データベース化)とマッチング支援を強化しました。
担当者によれば、2024年度に新規登録が17件増加するなど着実にストック掘り起こしが進んでいます。また十日町市はVR内覧システムを導入し、遠方の移住希望者が360°カメラ映像で空き家内部をオンライン見学できる環境も整えました。これにより「雪国で現地下見が難しい」というハンディを克服し、スムーズな成約につなげています。
十日町市は移住者向けに、県外からの転入者を対象とした中古住宅取得補助金(最大80万円)や、空き家購入とリフォームを合わせた補助(最大220万円)を用意し、移住のハードルを下げています。また、市が実施する「お試し移住体験プログラム」では、安価な市営シェアハウス(月約26,000円)での滞在とプログラム参加が可能です。空き家バンクでは地元不動産業者や自治会と連携して所有者・利用者のマッチングを支援し、相続登記未整理や所有者の愛着といった心理的ハードルにも配慮し、丁寧な対話や登記支援の必要性を認識しています。
移住者の声と成果データ
十日町市の総人口は約4.6万人(2025年5月末時点)であり、依然として減少傾向が続いています。一方、首都圏などからの転入者はじわじわと増えており、移住施策の効果が現れつつあります。
十日町市松代地域にある竹所集落では、ドイツ出身の建築家カール・ベンクス氏が移住後、空き家となっていた古民家の再生に取り組みました。1993年からの活動を通じて廃屋を次々とリノベーションし、現在では見学可能な再生古民家が10棟以上に及び、「奇跡の集落」とも称されています。再生された古民家には東京などからの移住者による購入・活用の事例もあり、こうした動きが地域の活性化を促しています。また、住民も刺激を受け、景観整備や環境保全に集落全体で取り組むなど、地域再生の好循環が生まれています。
カール・ベンクス氏による古民家再生の取り組みは、全国メディアでも「奇跡の集落」として紹介され、地域に人を呼び込む好循環の象徴となっています。実際に2023年には、松代地域にある再生古民家のゲストハウスを都市部から移住した女性が引き継ぎ、営業を継続するなど、若い世代による移住や起業の動きも芽生えています。
総じて十日町市は、アート・文化の力で地域の魅力を再発見させ、人を呼び込む戦略が功を奏した成功例です。国内外からの交流人口増加が関係人口、さらには定住人口の増加に結びつきつつあり、市の空き家対策や移住支援策がその受け皿となっています。「豪雪」「過疎」というマイナス要因さえ“売り”に変える発想で、地域資源を最大限活用した十日町市の挑戦は各地のモデルケースとなっています。
4.徳島県神山町:IT企業と創造的人材が集う「創造的過疎」の町
徳島県神山町は、人口約4,800人(2024年4月現在)の山あいの小さな町ですが、ここ10年余で全国から注目される存在へと変貌しました。キーワードは「創造的過疎」という逆転の発想です。単に人口減に抗うのではなく、移住者の“質”を重視して町に新たな価値をもたらす人材を呼び込む戦略を採った結果、2011年以降に約500人もの移住者を迎え入れ、その7割が20~40代という若い世代が占めています。
現在では年間100人以上が神山町に移住する状況となり、2011年には転入数が転出数を上回って以降、過疎の町がUターン・Iターンでにぎわう成功例として全国から視察が絶えません。
官民連携と施策の概要
神山町躍進の原動力は、地元の認定NPO法人「グリーンバレー」が担いました。町は移住交流支援センター運営をNPOに委託し、移住前後の相談対応から空き家紹介、契約サポートまでをワンストップで提供する体制を整えています。
2005年には全町に光ファイバー網を整備し、東京と遜色ないネット環境を実現。そして「サテライトオフィス誘致」を積極的に展開し、2010年以降、古民家を改修したオフィスや住居を次々と用意してIT企業の地方拠点開設を促しました。
この結果、2024年時点で20社以上(Sansanなど有名ベンチャー含む)が進出し、町内でIT関連の新規雇用約100名を創出しています。
空き家をリノベーションしたサテライトオフィス等は50棟以上にのぼり、古民家だった建物に最先端企業のロゴが掲げられる光景は、全国の過疎地に希望を与えました。
神山町では、1999年に始まった国際芸術交流プログラム「神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)」を通じて、これまでに40か国・200名を超えるアーティストを招聘してきました。KAIRは、アーティストが町に滞在しながら制作活動を行い、地域住民と交流し、成果を発表する取り組みです。この活動を通じて、町全体が「オープンエアミュージアム」のような空間へと進化し、自然と芸術が融合したクリエイティブな土壌が育まれてきました。町内各所に点在する恒久展示作品は観光資源としても活用されており、アートイベントやオープンスタジオなどを通じて多くの訪問者を迎えています。
空き家対策と移住支援
神山町ではNPOが中心となって空き家情報バンクを整備し、企業やクリエイターが活用できる物件を次々に掘り起こしました。廃村寸前だった集落にIT企業社員寮やカフェができ、古民家のオフィス化・起業支援が進んだ結果、地域経済にも波及効果が出ています。
また、ユニークな人材誘致策として「ワーク・イン・レジデンス」を実施し、「この町に必要な人材」を全国から公募して移住を支援しています。実際にパン職人、ウェブデザイナー、カフェ経営者など多様な職種の人がこの制度で呼ばれ、地域に定着しました。
神山町では、移住者が地域で活躍できる環境づくりの一環として、株式会社リレイションが運営する「神山塾」を実施しています。神山塾はITに限らず、農業やデザイン、地域起業など幅広い分野で「地域で自立して生きる力」を育む3か月の滞在型プログラムで、修了生の中には町内で起業したり地元企業に就職した人もいます。
また、2023年には私立高等専門学校「神山まるごと高専」が開校し、テクノロジー・デザイン・起業を融合した本格的なIT人材育成にも取り組んでいます。これらの多層的な教育プログラムによって、神山町では地域内に人材が循環・定着する土壌が形成されつつあります。
神山町の強みは、空き家提供から仕事づくり、人材育成までを一貫して描いた包括的戦略です。制度設計にとどまらず、移住者と地域の「人材マッチング」を重視した点が、他地域にない特色を生んでいます。空き家改修補助などの支援制度も活用されつつ、成功の背景には補助制度以上に、社会関係資本と人的連携を軸にした神山モデルの志向性があると言えるでしょう。
成果と移住者の声
神山町では2011年以降、20〜40代の移住者を中心に人口構成に前向きな変化が見られています。特に働き盛りや子育て世代の定着が進みつつあり、地域の活力維持に一定の成果を上げています。
神山町では、移住者と旧来住民との共生や、IT以外の地場産業振興が課題とされる中、古くからの農林業者と移住者が協働する“半農半X”的複業スタイルを提唱し、交流と仕事づくりを促進しています。町のスタンスは「移住の段取り」ではなく、「地域との関係を育む」ことにより自然と移り住む人を増やすというもので、短期〜中長期にわたる関係人口づくりの成果が見られています。
神山町は、行政・NPO・地域企業が一体となって「空き家提供→仕事づくり→人材育成」まで一貫して戦略設計を行う、他にない包括的モデルを示しています。農林業も含めたクロストーンとなる複業スタイルの浸透、そしてIT人材誘致・教育、芸術交流まで幅広く手がける点が特徴です。特定制度の恩恵を強調するのではなく、「人と場のマッチング」を重視した仕組みとフラットな関係構築の姿勢が、まさに神山モデルの成功の鍵です。これにより、神山町は都市とは違う価値観を持つ人々や企業を自然に引き寄せ、過疎地ながらクリエイティブな働き場へと進化しました。まさに、地方創生の新たな可能性を実現した先駆的な取り組みと言えるでしょう。
5.島根県海士町:高校魅力化と「島留学」で人が戻る奇跡の離島
島根県隠岐諸島の海士町(あまちょう)は人口約2,300人の離島ですが、教育の魅力化と関係人口づくりによって人口減に歯止めをかけ、「奇跡の島」と呼ばれるまでになりました。
平成の初め頃、島唯一の高校が統廃合の危機に瀕した際、町は「高校魅力化プロジェクト」を断行。島外から生徒を募る「島留学」制度を打ち出し、独自カリキュラムや寮生活の充実で全国から高校生が集まるようになりました。結果、隠岐島前高校は全校生徒の半数超が島外出身という全国でも例のない学校となり、廃校の危機を回避しただけでなく島に若者が増える現象を生み出しました。さらに町は20代向けの短期就業体験「大人の島留学」も開始し、都市部の若者を最長1年間島に受け入れて仕事と暮らしを体験してもらう仕組みを整えました。
官民連携と空き家受け入れ
海士町は財政難に直面した2000年代前半に、大胆な行財政改革と産業開発(海産物ブランド化など)を進める一方、「高校存続」をまちづくりの核に据えました。教育魅力化の旗振り役として民間から「高校魅力化プロデューサー」を招き、自治体・学校・地域住民が三位一体で受け入れ環境を整備しました。
町営住宅や民家の空き家を改修して下宿先(島留学寮)を確保し、地域全体で子どもたちを育む体制を築いたのです。高校生のみならず、その教育環境を求めて親子で島に移住するケースも生まれ、移住定住者の増加につながりました。さらに空き家を活用した若者向けシェアハウスやゲストハウスを整備し、長期滞在者を受け入れる懐を広げる努力も続けています。2023年には「大人の島留学」に全国から80名の若者が参加し、離島での暮らしと仕事を体験しました。彼らの一部は島の企業に正社員就職したり、起業して定住したりする例も増えています。
成果データと移住者の声
海士町はこの15年ほどで延べ750人以上の移住者を受け入れ、現在も350人超が定住しています。これは町人口の15%近くに相当し、移住者で地域社会が下支えされている状況です。社会増減率も改善し、一時は人口流入により人口増加に転じた年もあるほどです。
島根県の公的資料によれば、海士町のように積極策で社会減の幅を縮小させた自治体は他にもありますが、離島でここまで成果を出した例は希少です。町のキャッチコピー「ないものはない(無いものは無い=ありのままを肯定する)」は有名ですが、その精神どおり「無いものを嘆かず、あるものを活かす」発信が若者の心を掴みました。実際に移住した若者からは「島にはコンビニも娯楽も無いけれど、不思議と不便を感じない。それ以上に、人との繋がりや自然から得られる豊かさがある」という声が聞かれます。滞在人口を維持する仕組みも功を奏し、一度島で暮らした人がリピーターとして何度も訪れたり、他の人に島暮らしを薦めたりするケースも多いようです。町は「大人の島留学」参加者向けに同窓会を開き続け、島を離れた後も心のふるさととして関係を維持する工夫をしています。その結果、長期滞在経験者の約10%が実際に移住に至るという高い転居率を記録しています。
また、移住者に占める若年女性の割合が比較的高いことも特徴です。高校魅力化で教育関係者や学生が増えたことで、地域に若い女性のコミュニティが形成され、子育て世代も孤立しにくい環境が整っています。こうした背景から、出生数が持ち直す年も見られ、若い世代の定住が地域の持続性を支えています。何より「島に高校があるから子育て世帯が戻ってくる・残ってくれる」という好循環が生まれ、町全体の平均年齢も下がりつつあります。海士町はこのモデルを島根県全体に展開するべく、他地域と連携した「地域みらい留学」の仕組みづくりにも関与し始めています。地方創生の文脈でも、教育から始まる地方移住という新たな局面を切り拓いた事例として注目されています。
以上、岩手県陸前高田市、岡山県真庭市、新潟県十日町市、徳島県神山町、そして島根県海士町の5つの自治体の成功事例を見てきました。それぞれ地域の特性を活かした創意工夫に富み、官民・地域住民が一体となった取り組みである点が共通しています。移住者支援策ひとつ取っても、住宅補助や空き家バンク運営、試住体験からコミュニティづくり支援まで多岐にわたり、単なる呼び込みに留まらず「移住者がずっと住み続けたくなる」仕掛けが随所に見られます。さらに、大学・NPOとの協働や企業誘致、教育改革、アートイベントなど分野横断的な連携によって「人・モノ・仕事・誇り」の循環を生み出している点も重要です。
地方創生は、一朝一夕で成果が見えるものではありません。しかし、ここで紹介した自治体は、地道な官民連携を積み重ねることで、徐々にではありますが、確かな成果をデータとして示しつつあります。
たとえば陸前高田市では、数年前と比べて移住者数が2.5〜2.8倍に増加するなど、顕著な進展が見られます。また、神山町では、社会人口(転入−転出)がプラスに転じた年もあり、地域への関心と流入が確実に生まれています。さらに海士町では、人口減少そのものは続いているものの、若年層の移住や教育施策の影響によって、減少のスピードが緩やかになってきています。
こうした動きは、いずれも地域の課題と丁寧に向き合い、持続的に取り組んできた結果であり、地方創生の新たな可能性を示すものと言えるでしょう。
ビジネスの視点から見ても、地域課題の解決と新産業・雇用創出が連動したモデルは、地域経済の持続可能性を高める上で非常に有効です。実際に、教育、IT、観光、水産など多様な分野で官民連携による取り組みが進むなか、こうした動きは地域の「働く・暮らす」価値を高めています。
地方への関心が高まるいま、移住先として注目を集めているこれらの自治体の実践は、他地域にとっても大きなヒントとインスピレーションとなるでしょう。
各自治体の公式サイトや移住ポータル、総務省・内閣府の調査報告にも詳細が掲載されていますので、興味を持たれた方はぜひご覧ください。地方で暮らす選択肢がより身近になった今、先駆者たちの成功事例から、多くの地域が次の一手を学び取っています。
地方創生と大学の好事例
地方創生の現場では、大学との連携が地域に新たな知見や人材をもたらし、課題解決と人材育成を同時に実現する取り組みが増えています。
学生や研究者が地域の実情に触れながら、空き家活用や移住支援、まちづくりに参画することは、地域にとっても大学にとっても大きな価値をもたらします。
ここでは、大学と自治体・住民が連携し、実践的に取り組んでいる全国の好事例を取り上げます。
1.長野県小布施町 × 東京大学「実践的まちづくり研究」
「住民が主役のまちづくり」を長年掲げてきた長野県小布施町では、東京大学との連携を通じて、空き家や地域資源を活かした未来志向の取り組みが進められています。
2050年の社会を見据えた共創プログラムや、空き家を“暮らしのハブ”へと再生するプロジェクトなど、実践的な学びと地域づくりが交わる先進事例です。大学と地域がともに描く“これからのまち”の姿に注目が集まっています。
小布施×東大×NTT東日本による“2050年”を見据えた共創
2024年にスタートした「ミライ構想カレッジ in 小布施」は、次のようなユニークな特徴があります:
- 目的:小布施を舞台に、2050年の未来社会のあり方を“共創”する
- 連携パートナー:小布施町・東京大学・NTT東日本
- 対象:大学生や若手人材(=未来を担う世代)
このカレッジでは、学生が実際に小布施に滞在し、地域の住民と交流しながら「未来の暮らし・経済・コミュニティの形」を一緒に考え、提案・実験するプロジェクトが進められています。
「空き家問題」は「未来の資源」として捉える
小布施町では、「空き家問題」を単なる課題と捉えるのではなく、“未来の資源”として再評価し、持続可能な地域づくりのチャンスとして積極的に活かしてきました。以下でその取り組みを詳しくご紹介します。
🏡 1. 調査から始まる「リソース発掘」
東京大学の「コミュニティ・ラボ」では、2016年から都住地区における空き家調査を継続的に実施しています。
外観調査に始まり、2017年にはヒアリング調査や文献調査、2018年には自治制度や土地利用に関する勉強会やワークショップを行ってきました。
こうした一連の調査を通じて、空き家の具体的な状況や、住民が抱える期待や課題が可視化されました。
🧠 2. ワークショップで「どう活かすか」を共に考える
調査結果を踏まえ、地域住民と東京大学の学生が協働して、「都住の縁側」などの小規模な社会実験を実施しました。また、対話の場である「ふらっトーク」では、住民自身が地域への想いを語る機会が創出されました。
これにより、空き家の利活用について、地元の声を起点としたデザインが進められました。
🌿 3. 実際の利活用—カフェや滞在拠点へ
古民家を改修したカフェや交流スペースが町に誕生しています。
🔗 4. ハブとしての空き家—つながりの創出
こうした取り組みによって、空き家は単なる建物ではなく、移住者が地域と最初につながる場となり、学生や参加者が関わることで、地域に住む“関係人口”が広がり、さらに、学生による提案やプロジェクトを通じて、空き家が地域経済や暮らしに新しい価値を生み出す場となっています。
空き家は「都市と地方」「世代や立場の異なる人々」をつなぐ“ハブ”として機能し、小布施町の持続的な成長に貢献しています。
📌 なぜ「未来の資源」と言えるのか?
・空き家の問題が、新しい価値を生むきっかけに
空き家をただ壊してしまうのではなく、住民の知恵や専門的な知見を持ち寄ることで、新たな活用の可能性が生まれます。
・ボトムアップ型のまちづくり
住民の声やアイデアをもとに、社会実験や施設の整備といった形で、まちづくりが進んでいきます。
・コミュニティと経済をつなぐ
空き家に関わる人や訪れる人が増えることで、定住の促進や地域経済の活性化にもつながります。
小布施町は、空き家という“地域に残る課題”を逆手に取り、“未来の資源”として価値に変えるモデルを構築しています。大学との協働による調査・利活用提案、住民との対話と実験、そしてカフェやゲストハウス化による活用の実践 -これらが一体となって、移住・関係人口・地域経済をつなぐ持続可能なハブを創り出しています。
「関係人口」から「共創人口」へ
従来は、観光客や移住者といった「関係人口」が注目されてきましたが、小布施町が目指すのは、地域とともに何かを生み出す人=“共創人口”です。観光や移住にとどまらず、地域と「一緒に何かをつくる」関係性を持つ人を指します。
「ミライ構想カレッジ」では、「農」や「里山的な暮らし」「エネルギー・食」といった生活要素を切り口に、訪問者と地域住民がPlayful(遊び心のある)協働関係を築く仕組みを模索しています。
地方創生の未来モデル
小布施町では、ミライ構想カレッジを通じて、「地域が主体となり、外からの人材と連携しながら未来の社会を形づくる」新たな地方創生のかたちに取り組んでいます。
その具体的な内容は、以下のとおりです。
🎓 教育と地域の融合:大学生が地域で学び、提案し、実践
🏘️ 空き家を活かした暮らしの再構築:資源を再利用して新しい居場所をつくる
🔄 循環型の経済・暮らし:サーキュラーエコノミーや共給共足の生活モデル
🧑🤝🧑 住民も訪問者も“まちの担い手”となる共創関係
2.岩手県陸前高田市 × 立教大学「陸前高田プロジェクト」
2012年、立教大学と岩手県陸前高田市は「連携および交流に関する協定」を締結し、大学の教育・研究活動と被災地の復興支援・地域再生を結びつける枠組みを築きました。以来、双方は継続的に協働を進めています。
この協定に基づき、2013年度より始まったのが「陸前高田プロジェクト」です。これは、PBL(課題基盤型学習)を取り入れた教育プログラムであり、国内外の大学生が共にフィールドワークを行うことで、地域課題への理解を深める機会を提供しています。
立教大学の学部生や大学院生が中心となり、スタンフォード大学や香港大学、シンガポール国立大学などと連携しながら、事前研修・陸前高田での4泊5日の現地活動・事後報告会という一連のプロセスを通じて学びを深めています。
参加者は、被災地の現状や復興に向けた課題について地元の方々との対話を通じて理解を深め、多様な視点から解決策を模索します。また、英語を用いた国際協働により、異文化理解やコミュニケーション力、さらにはリーダーシップの育成にもつながっています。
テーマは、SDGsのGoal11「住み続けられるまちづくり」に沿って設定され、安全性や包摂性、回復力、環境持続性の観点から地域課題に取り組み、その成果を発表する場も設けられています。
2017年4月には、現地に「立教大学陸前高田サテライト」も開設され、地域とのさらなる連携を支える拠点となっています。このサテライトでは、学生の教育活動にとどまらず、新入職員向けの研修や地域の中高生を対象とした英語キャンプ・野球教室といった交流プログラムも実施されています。
直近では、2024年7月から8月にかけてのフィールドワークに、立教大学や海外大学から24名が参加し、地域に密着した活動を展開しました。中学生向けの英語キャンプやスポーツ交流など、地域社会への貢献も着実に広がっています。
このプロジェクトの意義は、教育と復興、そして地域との共創を融合させている点にあります。地元自治体やNPO、企業と連携し、震災遺構や復興現場を訪問しながら、多様な主体と対話する機会を設けています。グローバルな学生同士が混成チームを組み、持続可能なまちづくりに向けた提案を発表することも特徴的です。
現地のカフェや発酵工場を訪問したり、NPOメンバーとの交流を通じて、復興の現実にじかに触れることもでき、学びの深まりにつながっています。
陸前高田プロジェクトは、学生にとって実践的な学びの場であると同時に、地域にとっても継続的な復興と共創を進める大切な取り組みとなっています。
3.大町市(長野県)× 東京大学・信州大学
長野県大町市では、近年深刻化する空き家問題を、地域の未来をつくるチャンスと捉え、ユニークなアプローチでまちづくりに取り組んでいます。その中心にあるのが、「空き家の学校」という実践型プログラムと、そこから生まれた地域拠点「信濃大町まち守舎」です。
このプロジェクトは、自治体と地域住民に加えて、信州大学と東京大学が連携することで、学びと実践が融合した地方創生モデルとして注目を集めています。
空き家が“教室”に? 「空き家の学校」とは
もともと商店街にあった空き店舗や空き家を、学びの場として活用。高校生から自治会長、移住希望者、不動産オーナーまで、地域内外の幅広い人々が集い、空き家の掃除、民泊運営の学習、リノベーション作業などを一緒に体験します。
実際のプロジェクトでは、元電器店を改装し「教室」に再生。こうした現場での活動を通して、単なるノウハウではなく、“一緒に地域をつくる”空気が育まれています。
信濃大町まち守舎:人と暮らしがつながる拠点へ
2019年には、この空き家の学校の取り組みを発展させ、地域の相談・交流・企画の拠点として「信濃大町まち守舎」が誕生しました。
ここでは、以下のような活動が進んでいます:
・「暮らし」「空き家」「移住」などの相談窓口
・地元住民がガイドとなる「まち歩き」シリーズ
・建物の履歴や物語をまとめた「空き資源カルテ」の作成
・ウェブ上で“人を紹介する不動産情報サイト”の立ち上げ など
従来の不動産活用とは一線を画し、“モノ”ではなく“ヒト”に焦点を当てているのが大きな特徴です。
大学連携がもたらす広がり
▶ 信州大学
空き家の学校の企画・運営に深く関与。建築・教育の観点から、地域に根ざしたまちづくりを担います。
▶ 東京大学
東京大学では、工学系研究科を中心に、空き家に関する情報の“見える化”や、その価値を再編集する取り組みをサポートしています。
また空き家をより身近に感じてもらうため、ウェブサイトの立ち上げを契機として、従来の物件紹介とは一線を画す「人を紹介する不動産サイト」の開設を進めています。
具体的には、「空き資源カルテ」として、建物のこれまでの使われ方や所有者のストーリーなどを取材・編集し、ひとつひとつの記事として発信しています。空き家が人と人をつなぐ“出会いの場”となるような、新しいかたちの情報発信を目指しています。
これからの展望
本取り組みが目指しているのは、空き家の単なる解消ではありません。
「人と人がつながる」「地域との関わりが自分ごとになる」「暮らしの選択肢が広がる」——
そうした視点から、地域社会全体の関係性を再構築することを目的としたプロジェクトです。
地方創生や地域ブランディング、移住・定住支援に取り組む企業や自治体にとっても、今後の事業展開に資する先進的な事例として参考にしていただけるものと考えられます。
4.青森・幸畑団地 × 青森大学
青森大学では、2013年から大学周辺の「幸畑団地」をフィールドに、地域と一体になって進める“幸畑プロジェクト”を展開してきました。空き家の調査や利活用のアイデアづくり、移住者との交流など、地域に根ざした実践を通じて、学生の学びと地域課題の解決をつなげる取り組みです。
プロジェクトの背景
幸畑団地は、かつて青森市が推進した「住み替えモデル地域」として注目された場所ですが、2000年代以降は人口減や空き家の増加が進行。当時、地域内でも将来への不安の声が高まっていました。
こうした中で、青森大学が団地全体の空き家調査に取り組み、住民・行政との情報共有や話し合いを重ねたことが、さまざまな協働の出発点となりました。
これまでの主な取り組みと成果
・全戸対象の空き家調査を複数回実施(2013年・2018年など)
・まちづくり協議会と連携しながら、調査から報告・提案までを一体的に実施
・地元町会や学生が協力して転入者へのヒアリング調査を実施
・団地内ではこの数年で120棟近い住宅新築が確認されるなど、再投資の動きも進行中
また、調査を通じてわかったことには以下のようなポイントがあります:
・空き家は高齢世帯の転居や死亡などを契機に発生
・一方で、Uターンや親の近くへの転居を目的に団地へ戻ってくる人も多い
・地価が安く、車を2台以上駐車できる敷地の広さなども、再転入の要因に
大学と地域がともにつくる“これからのまち”
このプロジェクトは、学生にとっては貴重な実地の学びの場となり、地域にとっては変化を前向きに捉え直すきっかけとなっています。 2018年には青森大学で「居住フォーラム」が開催され、住民や関係者からは「学生も地域づくりの主役になってほしい」といった声も寄せられました。
今後の展望
空き家の問題は、ただ“片付ける”だけでは根本的な解決にはつながりません。地域に暮らす人たちが、早い段階から声をかけ合い、お互いの暮らし方や家のことを共有する関係性づくりが、今後ますます重要になっていきます。
また、「空き家」という個別の物件にとどまらず、地域そのものの持続性や、暮らしの選択肢のあり方を見直すプロセスとして、このような大学と地域の協働が期待されています。
5.横浜市金沢区 × 横浜市立大学 × 京急グループ × 地元自治会による産学官民連携のまちづくり実践
ヨコイチ空き家利活用プロジェクト
横浜市金沢区では、少子高齢化や空き家の増加といった地域課題が顕在化するなか、地域の活力を維持し、若い世代にとっても暮らしやすい街を目指すべく、新たな取り組みが始まりました。このプロジェクトは、横浜市立大学の授業「まちづくり実習Ⅱ」を核とし、学生・行政・企業・地域住民が一体となって空き家活用の可能性を探る実践的な取り組みです。
目的とねらい
本プロジェクトには、以下の目的とねらいがあります。
・金沢区内に点在する空き家の実態を把握し、地域資源としての可能性を再評価する
・若者や子育て世代にとって魅力ある住まい方・暮らし方を提案し、定住促進につなげる
・高齢者の見守りや地域コミュニティの活性化など、複合的な地域課題の解決に貢献する
プロジェクトの主な流れ
本プロジェクトは、以下の流れで進められます。
1.現地調査・フィールドワーク
学生が実際に地域を歩き、空き家の状態や地域の特性を観察。住民の声もヒアリングします。
2.SWOT分析と課題整理
地域が持つ強み・弱み・機会・脅威を分析し、空き家利活用の方向性を多角的に検討します。
3.提案の企画と発表
学生がチームごとに空き家の活用アイデアを立案。発表会では、京急電鉄や金沢区役所などから講評を受け、優秀提案には賞も授与されました。
4.事業化・実装支援へ
提案内容の一部は、京急不動産などの民間事業者が協力し、実際の改修や活用に向けた検討が進められています。
学生の提案事例
🥇【京急電鉄賞】
「Multi Communication House」
・留学生向けのシェアハウス
・留学生の住まい不足という課題に着目し、実現可能性を重視
・京急電鉄は今後、具体的な改修に向けて検討を進める予定
🥈【金沢区長賞】
「ふくろくじゅく」
・中学生向けの学習塾機能を備えたシェアハウス
・学生の住居とアルバイトを兼ねた仕組みに、地域住民が夕食を提供
・多世代交流を促す仕組みが高く評価された
🥉【横浜市大教育賞】
「谷津ばあの家」
・高齢者の「おばあちゃんハウスキーパー」と共に暮らすシェアハウス
・古き良き日本の家屋文化を活かしつつ、高齢者の社会参加を後押し
・教育的な視点から高く評価された
京急電鉄は、最優秀案である「Multi Communication House」の事業化を視野に入れ、物件の改修を含む具体的な検討に入ります。本プロジェクトは、学生のアイデアが実際の空き家再生に活かされる好例として、今後もモデルケースとなることが期待されています。
教育的・社会的な意義
このプロジェクトは、単なるまちづくりの提案にとどまらず、次のような多面的な価値を生んでいます。
・学生にとっては、地域課題に直接触れながら課題解決型の学びを実践する場となり、
・企業や行政にとっては、地域の声を踏まえたリアルなニーズを反映した提案を得る機会となり、
・地元住民にとっては、若い世代との新たな関わり方を築くきっかけとなっています。
今後の展望
ヨコイチ空き家利活用プロジェクトは、今後も地域との対話を重ねながら、実際の物件活用やコミュニティづくりに発展していくことが期待されています。横浜市立大学の地域連携教育、京急グループの不動産活用ノウハウ、そして地元自治会のネットワークが連携することにより、持続可能で多世代に開かれたまちづくりのモデルケースとして注目されています。
6.高崎経済大学「0号館プロジェクト」 × 群馬県高崎市
高崎経済大学の学生たちが中心となり、地域に点在する空き古民家や空き店舗を自らの手でリノベーション。その場所をシェアスペースやコミュニティ拠点として再生し、Z世代と地域の人々が自然とつながる場づくりを進めています。
このプロジェクトでは、学生の学びと地域との交流を掛け合わせた新しいライフスタイルのかたちを模索。たとえば、会議やイベントの企画・実施といった学生の実践の場と、地域での移動販売や学習支援などの活動が組み合わさることで、キャンパスの外にも学びと暮らしが広がる拠点となっています。
7.麗澤大学 × 柏市:空き家問題に挑むPBL型実習の取り組み
麗澤大学では、課題解決型学習(PBL:Project Based Learning)を取り入れた授業の一環として、学生が地域課題のひとつである空き家問題に取り組む実習(麗澤・地域連携実習)を実施しました。対象は1年生で、柏市と連携して行われたものです。
実習の流れ
・期間:約1か月(7〜8月)
・ステップ:
1.空き家問題についての事前学習
2.柏市担当部局へのヒアリング
3.解決策の立案
4.市役所での学生によるプレゼンテーション
提案された主なアイデア
① 地域交流を活用した空き家の「早期発見」
・学生が主体となり、クリーン活動や交流イベントを実施
・地域住民との接点を増やすことで、空き家予兆の把握につなげる
② 高齢世帯への訪問支援
・市が保有する情報を活用し、単身高齢者世帯をリストアップ
・学生と市職員が協力し、訪問・アドバイス・親族連絡先の収集を行う
・住民の警戒感を和らげる効果も期待される
③ 啓発・発信活動
・大学施設を活用し、空き家問題に関するポスター展示・プレゼン・公開講義などを実施
・地域の生涯学習・問題意識の醸成に貢献する取り組みとして提案された
柏市からのフィードバック
・市の現場感を踏まえ、「実現可能性」や「地域特性」が不十分な点が指摘された
・「大学生ならではの視点を期待したい」というリクエストがあった
・学生はヒアリングを通じて、市民の当事者意識の希薄さや、空き家予防の難しさに着目した
政策的背景との関係性
大学関係者は、PBLのような地域密着型授業が、「東京一極集中の是正」や「地方創生」政策と親和性があると指摘。 若者が在学中に地域に関わること自体が、地域活性の起点になる可能性を示唆しています。
この実習は、学生の創造性を活かした実践的な学びと、地域課題との接続を実現した好事例です。空き家対策を通じて、地域との信頼関係の構築、若者の地域参加、大学の地域貢献の可視化といった複数の価値を生み出しています。
大学との連携のまとめ
大学が地域課題(空き家・人口減・移住)に積極的に関与することで、調査 → 利活用 → 移住・定住といった地域創生の好循環が生まれています。地域貢献と実践型教育の両立という意味で、多くの大学がこのスタイルを採用し、社会に成果を返しています。
まとめ
空き家を「地域の資源」として再評価し、移住希望者との丁寧な関係づくりを通じて、地域内外の人々が役割を持ち合いながら関係を深めていく -そうした動きは、もはや一過性の取り組みにとどまらず、次代を見据えた地方創生の新しい潮流となりつつあります。
大学のような学びの場が地域に入ることで、課題解決の担い手が育ち、地域に対する新たな視点や価値がもたらされます。また、官民の枠を越えた共創の現場では、多世代・多様な背景の人々が協働する“地域共創人口”が着実に増えている点も注目に値します。
地方創生の実践は、今まさに全国各地で“進行形”です。この記事が、地域に関わる多くの方にとって、次の一手を考えるきっかけとなれば幸いです。地域の未来をつくる挑戦は、どこからでも、誰とでも始められます。