「消滅可能性自治体」と指摘される湯河原町の未来や地方創生の方向性を考えるセミナー(「どうする!?湯河原 消滅可能性自治体脱却会議」)が、2025年3月18日、湯河原防災コミュニティーセンターにて湯河原町商工会の主催で開催されました。本メディア編集長堀内が湯河原町の内藤町長にインタビューを実施、情報発信や多世代交流、移住支援など、具体的な取り組みについてお話を伺いました。この記事では、対談を通して見えてきた湯河原町の多面的な魅力と、今後の展望をお届けします。
昭和58年(1983年) 東京理科大学工学部卒業
昭和58年(1983年) 湯河原町役場入庁
平成25年(2013年) 地域政策課長
平成28年(2016年) 政策グループ参事(旧部長級)
令和6年5月(2024年) 湯河原町役場退職
令和6年6月23日(2024年) 第8代湯河原町長就任(1期目)
堀内:本日は、お忙しいところお時間いただきありがとうございます。いくつか質問したいと思いますが、まずは、湯河原町が「消滅可能性自治体」という指摘が出ていますが、湯河原町の魅力や地方創生への取り組みについてお話を伺いたいと思います。湯河原町の魅力発信に際して、どのような点が特にアピールポイントだとお考えでしょうか?
内藤氏:一般的には、豊かな自然や温泉が湯河原町の魅力として挙げられます。しかし、それだけではなく、子育てのしやすさや高齢者の暮らしやすさなど、「住みやすさ」も大きな強みだと考えています。最近は、不動産関連の調査で「関東圏内の住みたい町ランキング」で6位になったこともあり、そうした住環境や交通の利便性が注目されているようですね。町外からの注目が高まっている今、さらなる魅力づくりと発信方法の工夫が重要になってきています。
情報発信の方法について
堀内: SNSを活用するなど、若い世代にも響く情報発信の取り組みを考えていらっしゃいますか?
内藤氏:はい。町内向けには広報誌などで対応していますが、町外や全国へ向けて発信するには、やはりSNSの活用が欠かせません。ただ、SNSだけでは十分とは言いきれない部分もありますので、メディア露出の強化など、多角的な情報発信を意識しています。
堀内: ロケツーリズムにも力を入れていると伺いましたが、それも発信手段の一環でしょうか?
内藤氏:そうですね。ドラマや映画などで町の風景が映れば、全国的に「湯河原」という名前を覚えていただけます。それだけでなく、地元の方々が「自分の町がテレビに出るのは嬉しい」と感じ、シビックプライド(市民の誇り)を高める効果もあります。ロケツーリズムは発信とシビックプライドの両面に有効な手段だと考えています。
ブランド「Made in 湯河原」とシビックプライド
堀内: 「Made in 湯河原」という認定制度を通じて、地元産品を広める取り組みもあると伺いました。これはシビックプライドの醸成にもつながるのでしょうか?
内藤氏:当初は、湯河原の特産品をPRして観光客に買ってもらうという販売促進の色合いが強かったんです。しかし、ブランド基準を設けることで、町内産品を認定し、地元の人たちが「自分たちの町にはこんなに良いものがある」と誇りを持つきっかけにもなっています。結果的に、「Made in 湯河原」はシビックプライドの醸成に役立つ取り組みになっていると感じます。
多世代交流の取り組み
堀内: シビックプライド醸成の観点から、多世代交流の重要性が度々語られていますが、具体的にはどのような活動を行っているのでしょうか?
内藤氏:私は政策の理念として「世代を超えた交流」を重視しています。祭りの継承やお飾り作りなど、子どもから高齢者まで一緒に体験できる機会をつくり、一部は補助金などで支援しています。また、地域の主要産業であるミカン栽培の収穫体験なども行い、地域への愛着を育む取り組みを続けています。
堀内: 高齢者の方が若者と交流すると元気になるという話は、私が関わる地域でもよく聞きます。湯河原でも、そうした実証的な研究が行われたと伺いました。
内藤氏:ええ。コロナ前にある大学と共同研究を行い、高齢者が若い世代と定期的に交流することで、血液成分などの生理的指標に良い変化が見られるという結果が出ました。実際にエビデンスとして示せたのは大きな成果で、多世代交流が健康増進にもつながることを裏付ける事例になったと思います。
堀内: 多世代交流の場として、駅前や公園などを活用する計画はありますか?
内藤氏: 6年前に「多世代の居場所」を開設し、民間団体とも協力しながら子どもの放課後の居場所として機能させつつ、高齢者も気軽に集えるようにしています。現在は小学校が3校ある2つのエリアで、こうした拠点を少しずつ広げているところです。
若者支援と起業支援
堀内: 若い世代の活性化も大切だと思いますが、起業支援や若者向けの取り組みはありますか?
内藤氏: 商工会議所が定期的に創業支援セミナーを開催し、本気で創業したい方には伴走型のサポートをしています。また、「若者会議」という場を設け、湯河原に興味のある若者が集まり議論を交わしています。ただ、もともと湯河原に関心のある方が中心になりがちなので、もっと広い層にアプローチしていくのが今後の課題ですね。
堀内: 若者が集まりやすい雰囲気づくりや支援体制については、どのようにお考えでしょうか?
内藤氏: 行政が主導すると柔軟性が損なわれる面もあるので、民間団体や既存のコミュニティを活用しながら進める形が望ましいと考えています。行政は必要なサポートを行い、実際の運営は民間にお任せするのが理想的ですね。
関係人口の拡大とイベント活用
堀内: 地方創生には「関係人口」を増やすことが重要と言われますが、具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょうか?
内藤氏: たとえば、商工会議所の委託事業である「みかんサミット」や「湯河原ハロウィン」など、地域イベントを通して関係人口を増やそうとしています。急激な増加は難しいですが、長期的に「湯河原に行ってみたい」「また行きたい」と思う方を増やすことで、将来的には移住や定住につなげたいと考えています。
堀内: 移住を直接促すのではなく、まずは湯河原町を知ってもらう段階を重視しているのですね。
内藤氏: そうです。いきなり移住というのは人生の大きな決断ですから、まずは休日や連休に来てもらい、「住んでもいいかな」と思えるくらい好きになってもらえれば理想的です。その延長線上に二拠点生活や本格的な移住があればなお嬉しいですね。
移住相談とサポート体制
堀内: 移住希望者の相談はどのように受け付けているのでしょうか? また、具体的なサポート体制についてもお聞かせください。
内藤氏: 現在は民間に委託している部分もありますが、行政も積極的に関わり、よりきめ細かな相談対応ができるよう強化しているところです。週末でも訪れやすいよう、駅前に拠点を置きました。また、昨年は町の魅力や学校の取り組みなどをまとめた移住向けの冊子を作成し、相談時に活用しています。冊子の情報は古くなりやすいので、常に最新情報をアップデートしながら説明するように心がけています。
人口動向と課題
堀内: 移住者は実際に増えているのでしょうか?
内藤氏: 年間数百件の相談があり、ここ数年は転入超過が続いています。ただ、20代・30代の女性が増えているわけではなく、高齢層の方が多い傾向です。将来を考えると、若い世代や子育て世代にどう魅力を伝えていくかが課題ですね。
堀内: 湯河原町の人口は約2万2,000人とのことですが、この規模特有の難しさを感じているというお話もありました。
内藤氏: そうなんです。たとえば人口が1,000人程度の地域では、10人増えるだけでも大きなインパクトになりますが、2万人規模だとなかなか実感しにくい。一方で20万人以上の自治体なら大規模な政策も打ちやすいのですが、2万人台の規模だと企業誘致などで大きく増やすのも現実的に難しいんです。そこが課題ですね。
教育支援と将来的な定住促進
堀内: 高校通学の定期代補助など、教育面での支援策も行っていると伺いました。
内藤氏: 湯河原町には高校がないので、中学卒業後は小田原や熱海方面の高校に通う子が多く、通学費用が大きな負担になります。財政状況を見ながらの継続にはなりますが、経済的支援を通じて子育て世帯のサポートができれば、将来的に湯河原に戻ってきてもらえるきっかけにもなるかもしれません。
第3期総合戦略プランと地方創生統括官
堀内: 地方創生に本腰を入れるために、特別職の「地方創生統括官」を置いているそうですね。どのような役割を担っているのでしょうか?
内藤氏: 「消滅可能性自治体」に挙げられた現状を踏まえ、地方創生の施策を専門的視点で推進するためです。今は多世代交流を核に、住民の生活の質を高めつつ、関係人口や将来的な移住促進にもつなげるための戦略を統括官に考えてもらっています。
今後の方向性
堀内: 最後に、湯河原町では「みんなが輝く町」を目指しているとお聞きしました。具体的にどのような形をイメージされていますか?
内藤氏: 一人ひとりが「幸せだな」と感じられることが、その人にとっての“輝き”につながると考えています。大がかりな企業誘致や急激な人口増を目指すのではなく、まずは今住んでいる方々の暮らしを豊かにし、精神的にもゆとりを持てるような環境づくりを大切にしたいですね。結果的にそれが移住者や関係人口の増加にもつながると信じています。
堀内: 本日は、湯河原町の多面的な魅力や、住民主体のまちづくりをどのように進めようとしているのか、大変勉強になりました。ありがとうございました。
内藤氏: こちらこそありがとうございます。湯河原町の取り組みが、少しでも参考になれば嬉しいです。
