古民家カフェは本当に2年で潰れる?失敗する理由と続けるための経営戦略

古民家カフェは本当に2年で潰れる?失敗する理由と続けるための経営戦略

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地方での起業アイデアとして「古民家カフェ」はいまも根強い人気があります。築数十年の建物を再生し、地域の風景と調和した空間をつくる。SNS映えする内装、地元産の素材を使ったメニュー、地域活性への期待——その物語性は大きな魅力です。

しかし一方で、「2年持たなかった」という声も少なくありません。なぜ潰れやすいのか。そして、どうすれば続けられるのか。本稿では、古民家カフェが直面する構造的課題を可視化し、持続可能なモデルへの打ち手を整理します。

世界観だけでは生き残れない

古民家カフェ外観

古民家カフェの命運を分けるのは「世界観」ではなく「損益設計力」です。地方特有の需要の薄さと、建物維持・人件費といった固定費の重さを、データと設計でどう乗り越えるかが鍵になります。

持続するカフェに共通するのは、以下の4点です。

1.確実な損益設計(席稼働 × 客単価 × 回転率のシミュレーション)

2.収益源の複線化(物販・体験・貸切・定期販売など)

3.地域・行政・観光動線との接続(DMO・イベントとの連携)

4.デジタルでの再来店回路(CRM・予約・口コミの運用)

なぜ「2年で潰れる」と言われるのか:10の構造要因

クレームブリュレとコーヒー

1.修繕コストの見積り甘さ

古民家は「解体してからが本番」。

基礎や配管、断熱まで対応すると、見積りの1.3〜1.5倍が現実的。

2.季節変動と平日需要の薄さ

観光期に偏り、平日は「ゼロ日」も出やすい。

3.席数×回転率の限界

席20×回転1.2回/日では物理的な売上天井が低い。

4.“映え”先行のリピート欠如

写真映えは初回動機。2回目の理由(味・居心地・用途)が欠けるとリピートが生まれない。

5.原価構造の崩れ

手作り・地元食材にこだわるほど仕込みと廃棄コストが膨らむ。

6.属人化とオーナー燃え尽き

少人数運営が長時間労働に直結し、持続性を失う。

7.立地の“到達コスト”問題

案内不備・駐車場の使い勝手の悪さが売上を直撃。

8.価格設定の迷走

観光地価格か地元価格かの中間で中途半端な単価に。

9.集客設計の未整備

 Instagram頼みで、Googleビジネス未整備・口コミ活用も弱い。

10.出口戦略の欠如

貸切・イベント・宿泊との接続がなく、単線モデルで行き詰まる。

シミュレーション:利益は「単価×回転×席稼働」で決まる

古民家カフェの机

飲食店やカフェなど、限られた席数で収益を上げるビジネスでは、「客単価」「来客数(回転率)」「席数」という3つの変数が利益を左右します。これらを組み合わせると、月の売上と利益構造を具体的にシミュレーションできます。

条件設定

シナリオ①:現実的平均 シナリオ②:改善後
席数 20席 20席
客単価 900円 1,200円
来客 30人/日 40人/日
月売上 72.9万円 129.6万円
原価率 30% 30%
粗利 51.0万円 90.7万円
固定費 60万円 60万円
営業利益 −8.9万円(赤字) +30.7万円(黒字)

分析:数字が語る“経営の設計力”

上記の試算からわかるように、客単価がわずか300円上がり、1日の来客が10人増えるだけで、損益は赤字から黒字に転じます。一見すると些細な差ですが、これは「設計による利益管理」の重要性を示しています。

ポイントは、「感覚」ではなく「設計」で経営を捉えることです。

例えば、

・メニュー単価の見直し(セットメニュー化、季節限定品の導入)

・回転率向上(滞在時間の最適化、テイクアウト導線の強化)

・稼働率向上(ピーク外時間帯の集客施策、予約導入)

といった具体策によって、シナリオ②に近づくことは十分に可能です。

経営判断への応用

経営を数字で捉えることで、次のような意思決定が明確になります。

・「何人の来客増が必要か?」

・「どの価格帯の商品を増やすべきか?」

・「固定費に見合う最低売上ラインはいくらか?」

このように損益の構造を設計図として理解できれば、経営者は「勘」ではなく「戦略」で店舗運営をコントロールできるようになります。

続く古民家カフェにする7つの対策

CRMによるリードスコアリングと優先順位付け

古民家カフェは「雰囲気」や「地域性」が魅力ですが、同時に修繕費や季節変動、人手不足など“構造的リスク”も抱えています。ここでは、利益を出し続けるために押さえるべき7つの実践策をまとめます。

① 物件・施工の見える化

狙い:開業時コストの“想定外”を防ぐ。

古民家物件は、見た目よりも修繕リスクが高いケースが多くあります。そのため、修繕費は見積りの1.3〜1.5倍を想定して資金計画に組み込むのが現実的です。また、断熱や空調効率を改善することで光熱費を年5〜15%削減でき、長期的に運営コストを圧縮できます。

さらに、保健所の営業許可基準(厨房設備・水回り・排水など)を事前に確認しておくことで、工事のやり直しや開業遅延を防止できます。

② メニュー戦略(粗利最適化)

狙い:主力商品の収益力を最大化する。

すべてのメニューで勝負しようとせず、「看板3点主義」=粗利×作業負担のバランスが取れた主力3品を磨くことが基本です。原価率の目安は、フード25〜30%、ドリンク15〜20%。また、セット化で客単価+ 200〜300円を狙うと、売上と効率を両立できます。

③ 平日補強と収益の複線化

狙い:稼働の谷を埋め、安定収益を作る。

古民家カフェは週末型ビジネスになりがちですが、平日の空き時間を貸切・教室レンタルに活用すれば固定費を回収できます。

また、物販(焼菓子・コーヒー豆・地元クラフト)やサブスク(月額販売)を導入することで、客単価と来店頻度を底上げできます。

さらに、体験・ワークショップを組み合わせると「滞在の理由」が生まれ、再訪率が向上します。

④ 価格と席設計

狙い:需要に応じた最適配置と単価コントロール。

週末は客数が多いため、セットメニューに+ 100〜200円の価格差を設けるなど、需要変動に応じた価格設定が有効です。

席配置は、「2名席中心+電源席少数」で多層的な需要をカバー。
長時間滞在客と回転型客のバランスを取ることで、客席効率が高まります。

⑤ 集客とDX

狙い:自動化と継続露出で“ファン”を増やす。

Googleビジネスプロフィールの更新を習慣化し、写真・レビューを定期的に追加することで検索露出を維持。

LINE公式アカウントをCRM化して、クーポンやスタンプカードを自動配信すれば、再来店を促せます。

口コミは★4.5/100件以上を目標に、常に“信頼を積み上げる運営”を意識しましょう。

⑥ 運営と人材

狙い:再現性と効率を両立する運営体制を築く。

日々の業務を開店〜閉店までの手順書+動画で標準化し、誰でも同じ品質で回せる仕組みを作ります。

繁忙期だけヘルプスタッフを雇う場合も、時給×人時をコスト設計に織り込み、感覚ではなく数字で人件費を管理することが重要です。

⑦ 地域・行政との接続

狙い:地域資源を味方にして、持続的な集客を。

古民家カフェの強みは“地域との物語性”といえます。

空き家バンク・観光協会・商工会などと連携すれば、行政支援やイベント情報の共有が可能になります。

さらに、地域イベント時には「公式休憩所」化を提案することで、地元客・観光客の来訪動線を自然に取り込めます。

数字で見る「開業前のチェックリスト」

チェックリストにチェックを入れるビジネスパーソン

カフェや飲食店を開業する際、成功の鍵は“雰囲気”や“立地”だけではありません。 事業の採算を「数字」で設計できるかどうかが、継続できるかの分かれ道になります。以下は、開業前に最低限押さえておくべき収支設計の基準です。

① 席数 × 回転 × 稼働日 = 月来客数

狙い:売上の「母数」を設計する。

まず、1ヶ月あたりに何人の来客が見込めるかをシミュレーションします。

たとえば「20席 × 2回転 × 25日営業 = 月1,000人来店」といった計算です。この“月来客数”が全ての基礎データになります。

💡 ポイント:
来客数は「理想」ではなく「現実的な稼働率(70〜80%)」で試算すると、資金計画に無理が出ません。

② 月来客数 × 客単価 = 月売上

狙い:収益構造を「数字」で可視化する。

想定した来客数に、平均客単価を掛け合わせることで月間売上の上限を算出します。

たとえば、月来客数1,000人 × 客単価1,200円 = 月売上120万円。この段階で、利益が出せる構造かどうかを確認します。

💡 ポイント:
客単価を上げるには、「セットメニュー化」や「限定商品」で付加価値をつけるのが効果的です。

③ 原価率:25〜30%

狙い:仕入コストの目安を設定する。

食材や飲料の仕入コスト(原価)は、売上の25〜30%以内が基本ラインです。

ドリンク中心のカフェなら20%台前半も可能です。逆に、原価が35%を超えると利益確保が難しくなります。

💡 改善のヒント:
ロス削減・仕入れ先見直し・仕込み量の最適化で、原価率を1〜2%下げるだけでも年数十万円の効果が出ます。

④ FLコスト(人件費+原価)= 55%以内

狙い:利益構造の“黄金比”を守る。

飲食店経営の基本指標が「FLコスト」です。

これは Food(原価)+Labor(人件費) の合計比率で、55%以内に収めることが黒字ラインとされます。

💡 例:
原価30%+人件費25%=FL55% → 理想バランス。
人件費が膨らみやすい場合は、オペレーションの効率化やピークタイム人員配置の見直しがカギになります。

⑤ 家賃比率:売上の10%以内

狙い:固定費リスクをコントロールする。

理想は、家賃=月売上の10%以内です。

たとえば月売上120万円なら、家賃12万円が目安です。古民家物件や地方立地を選ぶことで、家賃を抑えながら空間価値を高める戦略も有効です。

💡 注意点:
家賃が15%を超える場合、天候やシーズン変動による赤字リスクが一気に高まります。

⑥ 運転資金:固定費6ヶ月分

狙い:開業後の“呼吸期間”を確保する。

開業初期は売上が安定せず、想定外の支出も発生します。そのため、家賃・人件費・仕入などの固定費を6ヶ月分プールしておくのが安全圏です。

💡 例:
固定費60万円なら、運転資金360万円が目安。
資金に余裕があれば、開業後の改善投資や販促にも余力を持てます。

まとめ:「映え」から「習慣」へ

ビジネスパーソンがノートパソコンでデータ分析を行う

古民家カフェが数年で消えてしまうのは、宿命ではなく設計の問題です。見た目の“映え”だけに頼る運営は、初期集客には強くても、リピートが続かずに失速していきます。

しかし、損益の構造を理解し、地域・デジタル・複線収益を組み合わせることで、古民家カフェは単なる観光スポットから、地域の生活インフラへと進化できます。

かつては「写真を撮りたい店」が人気を集めましたが、これからの時代に残るのは、 “また行きたくなる店=習慣になる店” です。

そのためには、

・数字で支える利益設計(単価・回転・稼働の見える化)

・日常に溶け込む商品とサービス(定期販売・地域接続)

・顧客との関係性を育てるDX活用(LINE・口コミ・再来施策)

という3つの柱を、感性と戦略の両面で回すことが必要です。

成功する地方カフェの実践事例については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
👉 地方創生×カフェ起業|小さな拠点が描く持続可能なビジネスモデル

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