アート思考が中小企業の競争力を変える理由

アート思考が中小企業の競争力を変える理由

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中小企業を取り巻く競争環境は、かつてないほど不確実性と複雑性を帯びています。市場の成熟や顧客ニーズの多様化、そしてAIの急速な普及によって、従来の機能的価値や価格競争だけでは十分な競争力を維持できなくなってきました。

こうした状況の中で、従来の論理的思考(ロジカルシンキング)やデータ重視のアプローチに加えて、「アート思考(Art Thinking)」のような創造的な思考法が注目されています。

アート思考とは何か?

暖色と寒色にわけた脳のイラスト

アート思考とは、アーティストが作品を生み出す際に用いる思考プロセスをビジネスに応用したもので、既存の枠組みにとらわれない「問いの立て方」と「価値創造」の方法論です。単なる問題解決ではなく、「何を問うべきか」という問い自体を探すことを重視します。

アート思考の本質

アート思考の本質は、主に以下の3点に集約されます。

  • 自分起点でのスタート: 自分の内なる興味、直感、違和感から思考を始める。
  • 既成概念の破壊: 常識や「当たり前」にとらわれず、多様な視点を探求する。
  • 問いの再定義: 答えを出す前に、「その問いは本当に正しいのか」を問い直す。

このように、データやロジックだけでは捉えきれない領域に踏み込み、新たな価値の種を見出すのがアート思考の役割です。

アート思考とデザイン思考の関係

デザイン思考のイメージ

アート思考としばしば比較されるのが「デザイン思考」です。

  • デザイン思考: 主に「ユーザー起点」で課題を解決するプロセス。他者のニーズを満たすことに長けています。
  • アート思考: 主に「自分起点」で問いを立てるプロセス。0→1の価値創造や、独自のビジョン形成に長けています。

これらは対立するものではなく、アート思考で「独自の問い」を立て、デザイン思考で「ユーザーへの最適化」を行うという補完関係にあります。

UXコンサルタント中嶋あいみ氏の実践から読み解く「問い」の深め方

眼鏡をかけた女性のプロフィール

アート思考の核心が「問いを立て直す力」にあるとするならば、それが実務の現場でどのように機能しているのかを確認することは有益です。その具体例として参考になるのが、UXコンサルタントとして企業支援を行う中嶋あいみ氏のインタビューです。

中嶋氏の実践はデザイン思考を基盤としていますが、単なる手法の適用にとどまらず、「ユーザーをどのように捉え直すか」という問いの質そのものを重視している点に特徴があります。

「ペルソナ」だけでは不十分──状況(シチュエーション)を見る

一般的なUXプロセスでは、「まずペルソナを設定する」という手順が強調されます。しかし中嶋氏は、属性情報だけでは十分ではないと指摘します。同じ人物像であっても、置かれた状況によって選択は大きく変わるからです。

重要なのは、「誰か」という静的な定義ではなく、

  • その人はどのような状況にあったのか
  • なぜその行動を選択したのか(トリガー・期待値・感情の変化)

という行動の背景にある文脈です。

これは既存のフレームワークに当てはめるのではなく、「本当に見るべきものは何か」という問いを掘り下げる姿勢にほかなりません。

事例:学校法人のデザインスプリント

インタビューでは、学校法人向けに実施したデザインスプリントの事例が紹介されています。理事長や経営層を巻き込み、短期間で仮説構築と検証を行い、その結果を運営方針に反映させる取り組みでした。

このプロセスは単なるWebサイト改善ではなく、ユーザーインタビューやプロトタイプ検証を通じて「受験生が何を重視しているのか」という本質的な理解を深めるものでした。

その結果、翌年の志願者数は前年比150%増という顕著な伸びを記録しています。中嶋氏自身も外部要因の可能性に言及していますが、仮説と検証を繰り返すUXプロセスを経営判断に反映させたことが、この飛躍的な成果を支える重要な要因の一つであったと考えられます。

UX実践とアート思考の接点

中嶋氏の取り組みはあくまでUX・デザイン思考の文脈に属するものです。しかし、「既存の定型プロセスをなぞるのではなく、何を問い直すべきかを考える」「ユーザーを抽象度を上げて捉え直す」という姿勢は、アート思考が重視する“問いの再定義”と重なります。

つまり、アート思考は抽象的な創造論ではなく、実務の現場においても具体的な成果につながり得る思考態度であることを、この事例は示唆しているのです。

アート思考が競争力を高める4つの理由

付箋にアイディアを書きホワイトボードに貼っている

市場が成熟し、情報や技術が瞬時に共有される時代において、従来型の差別化は長く続きません。価格、機能、スピードといった競争軸は、いずれ模倣され、均質化していきます。
その中で持続的な競争力を生み出す鍵となるのが、「何を問い、どこに価値を見出すか」という思考の起点そのものです。

アート思考は、単なるアイデア創出法ではなく、企業の競争構造そのものを変える可能性を持つアプローチです。ここでは、なぜアート思考が中小企業の競争力向上につながるのか、その理由を4つの視点から整理します。

① 問いの質を高めることで差別化につながる

機能や価格は模倣されやすいですが、独自の問いに基づくビジョンは他社が簡単に再現できません。アート思考は「独自の切り口」を作るため、高い競争優位性を築けます。

② 潜在ニーズへのアプローチが可能になる

表面化していない顧客の本質的な価値や文化的背景に踏み込むことで、単なる需要予測を超えた「意味的価値」の発見を促進します。

③ 組織全体の創造性を高める

社員一人ひとりが主体性を持って「なぜ?」を考える文化は、トップダウンの指示待ち組織を、自律的で創造的な組織へと変貌させます。

④ 長期的なパーパス(存在意義)を明確にする

「なぜこの組織は存在するのか」という根本的な問いに立ち返ることで、企業の長期的なパーパスやブランド価値が定義され、ステークホルダーからの強い共感を得られます。

中小企業がアート思考を取り入れる4ステップ

インフォグラフィック

中小企業がアート思考を実装するための具体的なステップは以下の通りです。

  1. 問いを立てる習慣を根付かせる :社内会議で「この問いは本当に重要か?」「別の視点はないか?」を問い続ける文化を育成する。
  2. 内省と観察を重視する実践 :数値データだけでなく、顧客の細かな挙動や、社員自身の「違和感」を記述し、共有する場を設ける。
  3. 失敗を許容する挑戦の場を整える: 不確実な試行錯誤を歓迎し、失敗を「データ収集」としてポジティブに捉える仕組みを作る。
  4. ビジョン共有と表現の訓練: 組織のパーパスを言語化し、ストーリーやビジュアルを用いて社内外に発信し続ける。

まとめ

アート思考は、単なる発想法ではなく、中小企業が独自の価値と競争力を生むための「思考のOS」です。

中嶋氏の事例が示す通り、問いの質を高めるプロセスは、共感を生み、最終的には事業成果(志願者数や売上の向上)へと繋がります。不透明な時代だからこそ、自らの内なる問いから始まるアート思考を取り入れ、他社には真似できない独自の価値を創造していくことが求められています。


参考記事:

① アート思考とは何か(基礎解説)

アート思考とは?ビジネスに活かす方法やデザイン思考との違いを解説
https://crexgroup.com/ja/consulting/method/what-is-art-thinking/

② アート思考の理論・背景

アート思考とは?意味やビジネスでの活用方法を解説
https://research.lightworks.co.jp/art-thinking

③ 組織開発とアート思考

アート思考とは?組織に活かす方法を解説
https://coaching-l.net/art-thinking/

④ 中嶋あいみ氏インタビュー(Accela Inc.)

UX/デザイン思考インタビュー記事(中嶋あいみ氏)
https://www.accelainc.com/archives/1216