キャリアアップ助成金の活用方法とは?

キャリアアップ助成金の活用方法とは?

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人手不足、物価上昇、DX推進――。
中小企業や自治体関連団体を取り巻く経営・運営環境は、年々厳しさを増しています。こうした中で、組織運営の根幹となるテーマが「人材をどう確保し、どう定着させるか」 です。

単に人を採用するだけでは足りません。採用した人材を戦力化し、長く活躍してもらう仕組みづくりが不可欠です。

この課題に対し、国が制度的に後押ししているのが キャリアアップ助成金です。本制度は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を通じて、雇用の安定と生産性向上を同時に実現することを目的とした政策的支援制度です。

本記事は、 2025年7月に行われた制度改定内容を反映した「現行ルールの最新版」として、厚生労働省の公式ガイドラインに基づき解説しています。これから制度を検討する事業者が、「いま使える制度を、どう実務に落とし込むか」という観点で読める内容になっています。

キャリアアップ助成金とは?

オフィスで談笑する社員

キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者など、いわゆる非正規雇用労働者の企業内キャリアアップを促進するために、事業主に対して支給される国の助成制度です。

対象となるのは、次のような取り組みです。

  • 正社員化(多様な正社員を含む)
  • 賃金の引き上げ
  • 賃金・手当制度の整備
  • 社会保険適用の促進

重要なのは、国がこの制度を「単発の補助金」ではなく、「段階的・総合的な人材投資を促す仕組み」として設計している点です。

つまり、

「とりあえず一人正社員にする」
「とりあえず賃金を上げる」

という場当たり的な対応ではなく、

  • キャリアパスをどう描くのか
  • 処遇をどう改善していくのか

を計画的に進めることが前提となっています。

キャリアアップ助成金の制度全体像

厚生労働省庁舎外観

キャリアアップ助成金は、大きく次の2領域に分かれます。

① 正社員化支援

  • 正社員化コース
  • 障害者正社員化コース

② 処遇改善支援

  • 賃金規定等改定コース
  • 賃金規定等共通化コース
  • 賞与・退職金制度導入コース
  • 社会保険適用時処遇改善コース(※時限措置)
  • 短時間労働者労働時間延長支援コース

いずれのコースにおいても共通する大前提があります。
それが、取組を行う前日までに「キャリアアップ計画」を提出することです。

この「事前計画」がなければ、どれだけ正社員化や賃上げを行っても、助成金は支給されません。

正社員化支援の活用方法

スーパーでPOPを飾るぱーど女性

まずは正社員化コースについて解説します。

正社員化コースとは

正社員化コースは、有期雇用労働者等を正規雇用労働者へ転換した場合に支給される、キャリアアップ助成金の中核となるコースです。

ここでいう正社員には、

  • 勤務地限定正社員
  • 職務限定正社員
  • 短時間正社員

といった多様な正社員も含まれます。

助成額(中小企業)

  • 有期 → 正規
    • 重点支援対象者:80万円
    • それ以外:40万円
  • 無期 → 正規
    • 重点支援対象者:40万円
    • それ以外:20万円

※ 新規学卒者で、雇入れ日から1年未満の者は原則対象外です。

実務上の重要ポイント

実務で特に注意すべき点は次の3つです。

  1. 就業規則に正社員転換制度が明記されていること
  2. 転換後6か月間の賃金が、転換前より3%以上増額していること
  3. 「呼称だけの正社員化」は対象外

つまり、雇用区分・処遇・制度の実態が伴っていなければ、助成金は認められません。

処遇改善支援の活用ポイント

年金手帳と一万円札

次に、処遇改善支援について、各コースをわかりやすく解説します。

賃金規定等改定コース―― 「評価される賃上げ」を制度としてつくる

非正規雇用労働者の基本給を定める賃金規定等を、3%以上引き上げた場合に支給されます。

中小企業(1人当たり)

  • 3%以上4%未満:4万円
  • 4%以上5%未満:5万円
  • 5%以上6%未満:6.5万円
  • 6%以上:7万円

さらに、

  • 昇給制度の新設
  • 職務評価手法の活用

を行った場合、1事業所あたり20万円の加算があります。

これは単なる賃上げではなく、「評価と昇給の仕組みづくり」を促す制度設計になっています。

賃金規定等共通化コース――「同一労働同一賃金」を制度として実装する

賃金規定等共通化コースは、非正規雇用労働者の賃金の決め方を、正社員と同じルールに統一した場合に支給される処遇改善支援です。

ここで評価されるのは、「いくら賃上げしたか」ではありません。
“どうやって賃金が決まるのか”という仕組みそのものです。

多くの中小企業・自治体関連団体では、

  • 正社員:職務・等級・役割に応じて給与決定
  • 非正規:時給や個別契約ベース

という二重構造が残っています。

このコースでは、 非正規雇用労働者についても

  • 職務内容
  • 役割・責任

に応じた賃金規定を新たに整備し、 正社員と共通の考え方で処遇を決める制度を導入することが要件です。

助成額(1事業所1回)

  • 中小企業:60万円
  • 大企業:45万円

実務上のポイント

  • 一部の労働者だけではなく、すべての有期雇用労働者等に適用する必要があります
  • 単なる賃上げでは対象外(制度改定が必須)
  • 「同一労働同一賃金」への対応を、実務的に進めるための入口として使いやすいコースです

👉 正社員化の前段階として、「公平な処遇ルール」を整える位置づけになります。

賞与・退職金制度導入コース――「長く働いてもらう前提」を制度で示す

賞与・退職金制度導入コースは、非正規雇用労働者にも賞与や退職金といった長期雇用を前提とする制度を新設した場合に支給される助成金です。

正社員化が難しい現場でも、「この人には、これからも働いてほしい」というメッセージを制度として示すことが評価されます。

助成額(1事業所1回)

  • 賞与または退職金のいずれかを導入
    → 40万円(中小企業)
  • 賞与・退職金を同時に導入
    → 56万8,000円(中小企業)

実務上の注意点

  • 就業規則への明記が必須
  • 名称だけの制度では不可(実際の支給・積立が必要)
  • 一部の対象者限定ではなく、非正規雇用労働者全体に適用することが原則

活用シーン

  • 指定管理・委託事業など、長期継続が前提の業務
  • ベテラン非正規職員の離職防止
  • 「正社員化までは踏み切れないが、処遇改善はしたい」場合

👉 処遇改善の中でも、定着率向上に直結しやすいコースです。また、 助成金ありきではなく、「制度を整えた結果、助成金が付いてくる」という使い方が最も失敗しにくいと言えます。

社会保険適用時処遇改善コース―― 「社会保険加入の不利益」を制度で打ち消す【時限措置】

短時間労働者を新たに社会保険に加入させ、賃金加算・手当支給・労働時間延長などの処遇改善を行った場合に支給されます。

⚠️ 重要な注意点
このコースは、令和8年3月31日までの時限措置です。

中小企業(1人当たり)

  • 手当等支給メニュー:50万円
  • 労働時間延長メニュー:30万円

👉 「使える期間が限られている」ことから、早期の検討・実行が強く求められます。

短時間労働者労働時間延長支援コース―― 「年収の壁」を越えて働ける環境をつくる

年収106万円の壁・社会保険適用拡大への対応として整理された新しいコースです。

  • 週所定労働時間の延長
  • 賃金の増額
  • 社会保険への新規加入

を組み合わせて実施した場合に支給されます。

特徴として、

  • 1人当たり最大75万円
  • 既存の社会保険適用時処遇改善コースからの切替申請が可能
  • 人手不足対策と年収の壁対策を同時に進められる

点が挙げられます。

👉 今後の主力となる処遇改善コースとして注目されています。

申請までの基本フロー(失敗しないために)

申請のイメージ

申請の流れは次の通りです。

  1. キャリアアップ計画の作成・提出(事前)
  2. 就業規則・賃金規程の整備
  3. 正社員転換・処遇改善の実施
  4. 6か月間の賃金支払い
  5. 支給申請(6か月後、2か月以内)

特に重要なのは、「事前計画」と「6か月ルール」です。この2点を軽視すると、不支給リスクが一気に高まります。

DX・人材戦略との関係

チームワーク人事管理サークル構想

キャリアアップ助成金を活用する過程では、

  • 雇用区分の整理
  • 賃金・評価ルールの明文化
  • キャリアパスの可視化

が必然的に求められます。

これはそのまま、人材DXの基礎整備です。人が定着しなければ、DXは進まない。キャリアアップ助成金は、その土台をつくる制度と言えます。

中小企業向け|キャリアアップ助成金の活用モデル

タブレットの上にHuman Resourcesの文字

キャリアアップ助成金は、単発で使うと「申請が大変な割に効果が薄い」制度になりがちです。

一方で、人材戦略の段階設計に組み込むことで、

  • 採用力の向上
  • 定着率の改善
  • 管理・評価の仕組みづくり
  • DX推進の下地整備

までを、実質的な負担を抑えながら進めることが可能になります。以下では、実務で再現性の高い「4段階モデル」として整理します。

【第1段階】現状把握と「使える人材」の見極め― 正社員化ありきにしない ―

主な課題

  • 非正規社員が多いが、役割や期待値が曖昧
  • 正社員化するべき人材が見えていない
  • 就業規則・賃金規程が古い/形骸化している

この段階でやるべきこと

  • 非正規社員の職務内容・稼働実態の棚卸し
  • 「今後も必要な業務」「属人化している業務」の洗い出し
  • 正社員・非正規の違いが制度上どう定義されているかの確認

👉 まだ助成金は使わなくてよい段階です。

ポイント

キャリアアップ助成金は、「誰を正社員にするか」が決まっていない状態では使えません。この段階は、「人を選別する」ためではなく、「育てる価値のある人材を見極める」ための準備期間です。

【第2段階】処遇改善から入る(定着率を上げる)

活用する主なコース

  • 賃金規定等改定コース
  • 社会保険適用時処遇改善コース(※期限注意)
  • 短時間労働者労働時間延長支援コース

なぜこの順番なのか

多くの中小企業では、「正社員にしても辞めてしまう」ことが最大のリスクです。

そこでまず、

  • 賃金
  • 社会保険
  • 労働時間

といった生活基盤の安定を先に整えます。

期待できる効果

  • 離職率の低下
  • 「ここで働き続けたい」という心理的定着
  • 労働時間・賃金データの可視化(DX下地)

👉 この段階で初めて助成金を活用します。

【第3段階】正社員化コースで「核人材」をつくる

対象者の考え方

  • 第2段階で定着が確認できた人材
  • 既に業務の中核を担っている人材
  • 今後、後輩指導や業務改善に関われる人材

活用する主なコース

  • 正社員化コース

実務上の設計ポイント

  • いきなり「無限定正社員」にしない
  • 職務限定・勤務地限定正社員を積極活用
  • 賃金3%増の設計は制度変更とセットで行う

この段階の意味

正社員化はゴールではありません。「責任と役割を明確にするフェーズ」です。助成金は、その移行コストを補填するためのものです。

【第4段階】制度を「仕組み」に固定化する

この段階で行うこと

  • 正社員転換ルールの明文化
  • 昇給・評価制度の整理
  • キャリアパスの可視化(簡易でOK)

活用できるコース

  • 賃金規定等共通化コース
  • 賞与・退職金制度導入コース

到達点

  • 非正規 → 多様な正社員 → 中核人材
    という育成ルートが社内で共有される
  • 採用時に「将来像」を説明できる
  • DXや業務改善を任せられる人材が育つ

👉 この段階では、助成金は「主役」ではなく「後押し」になります。

キャリアアップ助成金を活用した人材育成・定着の4段階モデル一覧

段階 目的 主な施策 活用する助成金
第1段階 現状把握 職務整理・人材の棚卸し ―(まだ使わない)
第2段階 定着 賃上げ・社会保険整備 賃金規定等改定コース

社会保険適用時処遇改善コース(※期限注意)

短時間労働者労働時間延長支援コース

第3段階 戦力化 正社員化・役割明確化 正社員化コース
第4段階 自走 制度の固定化・将来設計 賃金規定等共通化コース

賞与・退職金制度導入コース

中小企業が失敗しないための視点

  • 「正社員化=ゴール」にしない
  • 助成金の期限から逆算する
  • 制度整備は“完璧”を目指さない

キャリアアップ助成金は、人事制度が未成熟な中小企業ほど、正しく使えば効果が大きい制度です。

まとめ|キャリアアップ助成金は「人材への投資」

右肩上がりのグラフ

キャリアアップ助成金は、「もらえるから使う」制度ではありません。

  • 非正規雇用をどう位置づけるか
  • 人材をどう育て、どう定着させるか
  • 組織としてどんな未来を描くか

その答えを実行に移すための政策ツールです。

特に、

  • 社会保険適用時処遇改善コースは令和8年3月31日まで
  • 短時間労働者労働時間延長支援コースは今後の中心施策

という点を踏まえ、「いつ・どのコースを使うか」を戦略的に考えることが、人材戦略の鍵となります。