なぜ今「韓国コスメ」と「Z世代」なのか

韓国コスメは、日本市場においてこれまでK-POPや韓流ドラマと連動した「一時的なブーム」と捉えられることが少なくありませんでした。しかし近年では、そうした見方は実態とやや異なりつつあります。特にZ世代を中心とした若年層にとって、韓国コスメは特別な存在というよりも、日常的に選ばれる身近な選択肢として定着しつつあります。
価格帯、成分設計、パッケージ、情報取得から購買までの導線が精緻に設計され、「継続的に選ばれる前提」が整っている点が特徴です。現在の状況は、もはや単なる流行ではなく、消費者の価値判断や購買基準そのものの変化を示しています。
若年層において「日本ブランド」であることは購買理由にならない
かつては「日本製」「国内大手」「長年の実績」といった属性自体が信頼の源でした。しかしZ世代において、これらは購買理由として機能しにくくなっています。
彼らが重視するのは、自身の悩みや価値観との適合性、SNS上での評価、実体験に基づく具体的な情報です。ブランドの国籍や歴史は、判断材料として優先度が高くありません。その結果、日本ブランドは品質面で劣らなくても、若年層の購買プロセスで強く意識されにくい状況に置かれています。
資生堂の業績低迷が示す、構造的な変化
この変化を象徴する事例が、資生堂の業績動向です。同社は2025年12月期に約520億円の最終赤字を見込んでおり、2期連続の赤字となる可能性があります。主因は米州事業でののれん減損で、特に米国発スキンケアブランド「ドランク エレファント」の不振が影響しました。
同ブランドは若年層向け成長市場を期待されていましたが、競争激化の中でポジショニングが曖昧になり、「誰のためのブランドか」「どの価値を提供するのか」を十分に伝えられなかったとされています。資生堂自身も、若者向けと誤認された結果、模倣品や在庫過多につながった点を課題に挙げています。
これは単なる施策の失敗ではなく、Z世代がブランドを認識・評価するプロセスとのズレを示しています。Z世代は、企業の公式メッセージよりも、
- SNS上で誰がどう使っているか
- どの文脈で語られているか
- 自身の価値観や生活とどう結びつくか
を通じてブランドを理解します。そのため、企業側の想定したターゲットや訴求が、そのまま受け取られるとは限りません。
資生堂の事例が示すのは、高い技術力や資本力があっても、Z世代市場で「意味の設計」や「語られ方」をコントロールできなければ、ブランド価値は正しく伝わらないという現実です。特に海外市場では、「品質」や「信頼性」はすでに前提条件となり、差別化要因になりにくくなっています。
重要なのは、この問題を一企業の判断ミスに矮小化しないことです。日本を代表する企業でさえ、
- ブランドの物語をどう構築するか
- 個人主導の情報空間とどう向き合うか
- 想定外の解釈をどう受け止めるか
といった点で難しさを抱えています。これは日本企業全体が直面する構造的課題です。
資生堂の業績低迷は、研究開発不足ではなく、Z世代の登場によってブランド価値形成のプロセス自体が変化したことを示しています。従来の成功モデルが通用しなくなっている可能性を、冷静に受け止める必要があります。
韓国コスメの定着とZ世代の消費行動は、単なるマーケティング手法の違いでは説明できません。そこには、
- ブランドはどう信頼を獲得するのか
- 価値は誰が、どの文脈で語るのか
- 企業と消費者の関係はどう変化したのか
という根本的な問いがあります。
本稿では化粧品業界を一例に、日本企業が直面する構造変化を整理し、これからの時代に「選ばれる企業」であり続けるために何を再設計すべきかを考察します。この課題は、化粧品業界に限らず、日本のBtoCビジネス全体に共通する論点です。
韓国コスメはなぜZ世代に選ばれたのか

韓国コスメがZ世代から圧倒的な支持を集める背景には、単なる流行や価格競争では説明できない構造があります。そこには、プロダクトそのものよりも「どう意味づけ、どう語り、どう共有されるか」を重視する、これまでとは異なる競争原理が存在しています。
プロダクト力ではなく「編集力」の勝利
成分・効果・価格帯はすでにコモディティ化
化粧品市場では、有効成分や処方技術、品質管理の水準が全体的に底上げされ、一定の価格帯において性能差は競争優位になりにくくなっています。
韓国コスメが支持を広げた理由は、成分や効果の優位性ではありません。これらはすでに市場参入の前提条件となり、選択の決定打になりにくい段階に入っています。
差を生んだのは「世界観」「ストーリー」「語られ方」
差別化の要因となったのが「編集力」です。ここでいう編集力とは、
- どのような価値観に基づくブランドか
- 使うことでどのような体験が得られるか
- それをどの言葉やビジュアルで伝えるか
を一貫した文脈として設計する力を指します。
韓国コスメは商品単体ではなく、使用シーンやライフスタイルの一部として語られます。SNS上でも、広告的説明より個人の体験に基づく共有が主流であり、その語られ方自体がブランド価値を形成しています。
Z世代にとっての価値は「科学 × ビジュアル × 共感」
Z世代は感覚的魅力だけでなく、成分や理論への納得感、視覚的な理解、共感できる体験談を同時に求めます。
韓国コスメは専門的情報を排除せず、理解可能な形に再編集することで、Z世代の情報処理スタイルに適合してきました。科学的根拠、ビジュアル、共感ストーリーが同時に成立している点が、継続的な支持につながっています。
K-POP・韓流と連動したソフトパワー戦略
国家レベルで設計されたカルチャー輸出
韓国コスメの浸透には、K-POPやドラマなどと連動した文化輸出の影響が大きく関わっています。コスメは単体ではなく、音楽・映像・ファッションと結びついた文脈の中で認知されてきました。
その結果、韓国コスメは商品以上に、韓国的な美意識やライフスタイルを体現する存在として受け取られています。
コスメは「文化消費」の一部
Z世代にとって化粧品は、実用品であると同時に価値観や美意識を表現する手段です。コスメ選択は、「どの文化や世界観に共鳴するか」を選ぶ行為でもあります。
韓国コスメは、この文化消費の文脈に自然に組み込まれています。
日本が得意だった分野での逆転
かつて日本はポップカルチャーや生活文化の輸出で強い存在感を持っていました。しかし現在、化粧品という生活文化に近い分野では主導権が韓国に移りつつあります。
これは技術力の差ではなく、文化とプロダクトをどう結びつけ、どの文脈で語ってきたかという発想の違いが生んだ結果です。
次章では、この構造の中で日本メーカーがどのような対応を取っているのか、その意味を整理していきます。
日本メーカーが「韓国コスメ風」を名乗り始めた意味

日本メーカーが「韓国コスメ風」という表現を使い始めた背景には、消費者の価値基準が大きく変化した市場構造があります。本章では、その変化の中で日本ブランドに何が起きているのかを整理します。
日本ブランドであることを前面に出さなくなった背景
近年、日本の化粧品メーカーの中には、自社製品を紹介する際に「韓国コスメ風」や「K-beauty発想」といった表現を用いるケースが見られるようになっています。一見すると流行への追随のようにも映りますが、その背景には市場環境の変化があります。
若年層、とりわけZ世代においては、「日本ブランドであること」そのものが、必ずしも購買理由として機能しなくなっています。
彼らが重視しているのは、国籍や企業規模ではなく、以下のような要素です。
- どのような悩みに応えてくれるのか
- どのような世界観を提示しているのか
- SNS上でどのように語られているのか
このような消費行動の変化により、ブランドの出自を前面に打ち出す意味は相対的に低下しています。その結果、日本メーカーは「日本であること」を強調するよりも、現在の消費文脈に適合した語り方や表現を優先するようになっています。
「技術」「品質」だけでは選ばれない市場構造
日本の化粧品メーカーは、研究開発力や品質管理において、依然として高い水準を維持しています。しかし、市場全体を俯瞰すると、これらの要素はもはや差別化の決定打にはなりにくくなっています。
現在の化粧品市場では、重心が以下のように移行しています。
- 技術や品質は前提条件
- 選択理由は意味や体験
消費者は、成分や機能といったスペックの比較よりも、「自分にとってどのような価値があるのか」「自分の生活にどのように組み込まれるのか」を基準に判断する傾向を強めています。この構造の中では、技術力をどれだけ強調しても、それだけで選ばれる理由として十分に伝わらないケースが増えています。
これは模倣か、あるいは自己否定か
日本メーカーが韓国コスメ的な表現を採用する動きに対しては、「模倣」や「独自性の喪失」といった評価がなされることもあります。しかし、この現象を単純な模倣と断じるのは適切ではありません。
むしろ問われているのは、自社ブランドの価値を現代の言葉でどのように表現するかという課題です。従来の「日本品質」や「高機能」といった語りは、現在の若年層にとって十分な意味を持ちにくくなっています。その結果、他国の成功モデルを参照せざるを得ない状況が生まれています。
これは自己否定というよりも、ブランド価値の翻訳が停滞している状態と捉える方が実態に近いと言えるでしょう。
ブランドの「国籍」が価値を失った市場で何が起きているのか
ブランドの国籍が明確な価値指標ではなくなった市場では、消費者の判断基準は、より抽象的かつ感覚的なものへと移行しています。
「どこで作られたか」よりも、以下の点が重視される傾向が強まっています。
- 誰が支持しているのか
- どのように語られているのか
- 自分の感覚に合うか
韓国コスメは、こうした変化に比較的早い段階で適応してきました。一方、日本メーカーは、国籍や歴史に依拠した語りに長く支えられてきたため、価値の提示方法を転換するまでに時間を要しています。
現在起きているのは、日本ブランドの価値が失われたということではありません。価値の前提が変化した市場において、語り方の再設計が追いついていない状況にあると言えます。
次章では、この再設計において重要な役割を果たしている「Z世代インスタグラマー」という存在について、流通構造の観点から整理していきます。
Z世代インスタグラマーという新しい「流通」

化粧品市場では、広告や店舗に代わり、Z世代インスタグラマーが重要な役割を担い始めています。本章では、彼らがなぜ単なる発信者ではなく、新しい「流通」として機能しているのかを整理します。
メディアは広告代理店から個人へ
フォロワー数=信用力という新しい指標
Z世代の消費行動において、インスタグラマーのフォロワー数は人気ではなく、一定の信用力を示す指標として機能しています。ただし重要なのは規模ではありません。
化粧品領域では、数千〜数万人規模のアカウントでも、
- 投稿内容が具体的
- コメントやDMでの双方向性が高い
- フォロワーとの属性が近い
といった条件を満たせば、高い購買影響力を持ちます。フォロワー数は「量」ではなく、「関係性の濃さ」を示す指標へと再定義されつつあります。
テレビCMより、インフルエンサーの一言が売上を動かす
マスメディア広告は認知形成には有効ですが、Z世代の購買決定への直接的影響は限定的です。一方、インスタグラマーによる
- 使用感の共有
- 注意点や合わなかった点の言及
- 個人の肌条件との相性説明
は、実体験に近い情報として受け取られやすく、企業発信よりも短期間で売上に反映されるケースが増えています。
商品開発・販促・顧客接点が個人に分散
現在の化粧品市場では、販促や顧客接点の主導権が企業だけにあるとは言えません。インスタグラマーは、
- 実使用に基づく評価
- 消費者視点での再解釈
- コメント欄での質問対応
を通じて、事実上の顧客接点を担っています。その結果、商品価値や使用シーン、訴求ポイントが企業の想定とは異なる形で市場に伝わることも珍しくありません。販促機能はすでに個人へと分散しています。
なぜ化粧品インスタグラマーは収益化しやすいのか
商品特性がインフルエンサー流通と相性が良い
化粧品はインフルエンサーを介した流通と親和性の高い商材です。理由は、
- 数千円台が中心で購入ハードルが低い
- 消耗品でリピート前提
- 肌悩み別に比較・検討されやすい
といった特性にあります。特定のインスタグラマーを継続的に参照するフォロワー層が形成されやすく、反復購買につながる安定した収益構造が生まれています。
「レビュー」がそのまま購買導線になる
インスタグラマーの投稿は感想にとどまらず、
- 使用工程
- 成分や特徴の整理
- 向いている人・向かない人の明示
を含み、購買判断に必要な情報が揃っています。さらに投稿からECや公式サイトへ直接遷移できるため、レビューと流通が一体化した構造が成立しています。
代理店ビジネス拡大の背景
この環境下で、インフルエンサー特化型の代理店ビジネスが拡大しています。主な役割は、
- インスタグラマーのマネジメント
- 投稿条件・報酬設計
- 企業との契約・運用支援
です。
EMME(エメ)/コスメ・美容(@emme_tokyo.jp)のような事例では、複数のインスタグラマーを束ね、企業にとって一つの販路として機能させています。編集・管理機能を介在させることで、スケール可能な流通構造が形成されています。
Z世代インスタグラマーは感覚的な存在ではなく、市場構造の一部です。
彼らは情報流通・信頼形成・購買接点を担い、消費行動のプロセスそのものに組み込まれています。
資生堂の苦戦が象徴するもの

資生堂の若年層市場での苦戦は、個社の問題にとどまらず、日本の大手ブランドが直面している構造変化を象徴しています。本章では、その背景にある市場とのズレを整理します。
歴史・技術・ブランド資産が「選ばれる理由」にならない
資生堂は、日本を代表する化粧品企業として、研究開発力や品質管理、豊富なブランド資産を長年にわたり築いてきました。これらの価値が失われたわけではありません。
しかし若年層市場で苦戦している背景には、「資産を持つこと」と「現在の市場で選ばれること」が一致しなくなっている構造的変化があります。
歴史や実績は過去の成功を説明できますが、現在の消費者、とりわけZ世代にとっての購買理由を自動的に与えるものではありません。「長く続くブランド」であること自体が、価値として機能する場面は限定的になっています。
組織構造と意思決定スピードの限界
大企業であるがゆえに、意思決定が複雑化し、スピードが低下しやすい点も課題です。化粧品市場では、
- 成分トレンド
- SNS上の話題
- インフルエンサー動向
が短期間で変化します。この環境下で従来型プロセスを前提とすると、商品投入やプロモーションが市場の変化に追いつかず、機会損失が生じやすくなります。迅速な仮説検証や小規模実験を行いにくい組織構造は、Z世代市場との相性が良いとは言えません。
「管理されすぎたマーケティング」が生んだ断絶
資生堂を含む日本の大手企業では、ブランド毀損を避けるため、表現やトーンが厳密に管理されてきました。しかしSNS時代において、この管理の徹底は、
- 無難で予測可能
- 感情や個人性が見えにくい
発信を生みやすく、消費者の生活文脈から乖離する要因にもなっています。
Z世代が求めているのは完成度の高い広告ではなく、「使ってみてどうだったか」という主観的で具体的な情報です。ここに、企業発信と個人発信の間の明確な断絶があります。
若者から見た「遠いブランド」
資生堂は今も「信頼できる」「品質が高い」と評価されています。一方でZ世代からは、
- 自分たちの生活と結びつかない
- 誰向けのブランドか分かりにくい
- 日常会話に登場しない
といった距離感を持たれがちです。これは否定というより、「関係性が形成されていない」状態に近く、購買検討以前に選択肢から外れてしまう原因となっています。
資生堂の苦戦は、特定企業の戦略ミスではありません。日本企業が長年築いてきた成功モデルが、Z世代を中心とする現在の市場環境では機能しにくくなっていることを示す、象徴的な事例と捉えるべきでしょう。
これは日本のソフトパワー衰退の兆候なのか

韓国コスメの台頭や日本ブランドの苦戦は、単なる市場競争を超え、日本のソフトパワーの在り方そのものを問いかけています。本章では、若者の価値観変化と国際環境の中で、日本が置かれている状況を整理します。
「日本製=高品質」という神話の終焉
日本企業は長らく、「日本製であること」自体を品質保証としてきました。しかしグローバル市場では品質の底上げが進み、「一定水準以上の品質」は差別化要因ではなくなっています。
化粧品分野でも日本の技術的優位性は残っていますが、それが明確な購買理由として評価される場面は減少しています。「日本製=高品質」という認識は完全には失われていないものの、それだけで選ばれる時代は終わりつつあります。
若者の価値観のグローバル化
Z世代は、SNSを通じて海外ブランドやインフルエンサー、多様な美意識に日常的に触れています。そのため、国籍を強く意識した消費行動は取りません。
この環境下で、日本ブランドは「国内標準」を前提にしたままグローバルな比較の場に置かれ、特別視されることなく選択肢の一つに埋もれがちです。これは日本離れというより、日本が特別な存在ではなくなった結果と捉える方が実態に近いでしょう。
国内市場縮小と内向き最適化の限界
少子高齢化による国内市場の縮小を背景に、多くの日本企業は国内需要に最適化してきました。しかしこの内向き最適化は、
- グローバル感覚との乖離
- 表現や世界観の固定化
- 変化への適応力低下
を招きやすく、若年層市場では従来の成功体験が通用しない場面が増えています。国内市場の論理が、新しい市場環境への適応を阻む足かせになるケースも見られます。
世界に「語る物語」を失いつつある日本企業
ソフトパワーの本質は、技術や製品ではなく、「どのような価値観と未来像を提示しているか」にあります。かつて日本は、精密さや誠実さ、生活を豊かにする工夫といった物語を製品を通じて伝えてきました。
しかし現在、多くの日本企業は品質や機能は語れても、「なぜ今このブランドを選ぶのか」という物語を十分に示せていません。
日本のソフトパワーが完全に失われたわけではありませんが、語られず、参照されなくなりつつある兆候は確かに存在します。この変化を一過性のトレンドと捉えるのか、構造的な転換点と受け止めるのか。
次章では、日本企業がこの状況から何を学び、どのように再構築すべきかを整理していきます。
日本企業が学ぶべき5つの教訓

これまで見てきた構造変化を踏まえると、日本企業が取るべき対応は個別施策ではなく、考え方そのものの転換にあります。本章では、韓国コスメやZ世代市場の事例から導き出される、5つの実践的な教訓を整理します。
教訓1:プロダクトアウトから「編集力」へ
良いものを作るだけでは足りない
技術や品質は競争の前提条件となり、「良いもの」と「選ばれること」の間には距離が生まれています。必要なのは、商品がどの文脈で理解され、どのような意味を持つかまで含めて設計する編集力です。
「誰が、どう語るか」まで設計する
企業発信だけでなく、第三者や個人による語られ方を前提にすることが重要です。解釈の広がりを許容する方が、結果としてブランドの存在感は高まります。
教訓2:個人を敵にせず、パートナーにせよ
インフルエンサーを共創者として捉える
インフルエンサーは広告枠ではなく、消費者視点を持つ共創者です。短期的な露出ではなく、価値共創を前提とした関係構築が求められます。
個人主導を前提とした組織設計
個人が情報流通の中心にある以上、法務・広報・マーケティングが分断された組織では対応できません。スピードと柔軟性を確保できる体制が必要です。
教訓3:ブランドは若者と共に更新される
ブランドは守るものではなく再解釈されるもの
ブランドの持続性は、世代ごとの再解釈によって支えられます。過去の「正しい語り方」を固定化することは、若年層との距離を広げます。
若年層に編集権を渡す覚悟
一定の編集権を若年層に委ねることは、コントロール放棄ではなく、ブランドを生かし続けるための戦略です。
教訓4:国内市場を前提にしない
最初からグローバル文脈で語れるか
Z世代は国境を越えた比較の中でブランドを評価します。国内向け最適化だけでは、グローバルな情報空間で通用しません。
日本向け最適化が足かせになっていないか
国内で磨かれた細やかさや高品質が、海外では冗長に映る場合もあります。スケールを前提とした設計が求められます。
教訓5:大企業こそ「小さく試す力」を持て
スタートアップ的な実験を許容できるか
変化の激しい市場では、完成形を目指すより、小さな仮説検証を繰り返す方が合理的です。大企業にも実験を内包する柔軟性が問われます。
失敗を学習に変えられるか
小さく試すことは失敗を前提とします。短期成果や過度なリスク回避が挑戦を阻んでいないかを見直し、失敗を管理し学習につなげる力が競争力を左右します。
結論:化粧品業界の話で終わらせないために
本稿で扱ってきた変化は、化粧品業界に限らず、あらゆるBtoCビジネ
スに共通する構造的な課題です。最終章では、この事例を日本企業全体への問いとして捉え直します。
あらゆるBtoCビジネスに共通する警鐘
韓国コスメとZ世代をめぐる構造変化は、化粧品業界固有の現象ではありません。変化が見えやすかっただけで、同様の動きはアパレル、食品、家電、エンタメなど、あらゆるBtoC分野に広がっています。共通しているのは、
- 情報流通経路の変化
- 企業より個人を参照する消費者
- ブランドが「説明される存在」から「語られる存在」への転換
です。これに適応できない企業は、プロダクトの良し悪しに関わらず、選択肢から外れやすくなっています。
Z世代は日本企業を嫌っているのではない
Z世代が日本ブランドを避けているわけではありません。多くの場合、比較・検討の段階で強く意識されていないだけです。これは拒絶ではなく、関係性が十分に築かれていない状態と言えます。
日本企業の製品は、品質や信頼性では一定の評価を維持しています。しかし、
- なぜ今それを選ぶのか
- 自分の生活や価値観とどう結びつくのか
が十分に語られていません。魅力が「ない」のではなく、「伝わっていない」ことが問題です。
問われているのは技術力ではなく「時代を読む力」
日本企業の課題は、技術や品質の不足ではありません。本質的に問われているのは、
- 消費者はどこで情報を得ているのか
- 何を信頼し、何に共感しているのか
- どのような文脈で価値を判断しているのか
を読み取る力です。
時代を読むとは、トレンドを追うことではなく、変化の構造を理解し、自社の価値をどう接続し直すかを考えることです。
化粧品業界で起きている変化は、日本企業にとっての先行事例に過ぎません。この変化を他人事として見るのか、自社の事業に引き寄せて再設計するのか。その判断が、今後の競争力を大きく左右します。
エピローグ:日本企業は再び「選ばれる側」になれるのか

本稿の締めくくりとして、日本企業のソフトパワーと「選ばれる理由」を改めて問い直します。失われたかに見える価値を、いかにして時代の文脈に翻訳し直せるのか。その可能性を最後に考えていきます。
ソフトパワーは失われたのではなく、更新されていないだけ
本稿を通じて明らかになったのは、日本企業のソフトパワーが完全に失われたという事実ではありません。むしろ、かつて有効だった価値や語りが、現在の市場環境に十分に更新されていない状態に近いと言えます。
技術力や品質、誠実さといった日本企業の強みは、今もなお存在しています。ただし、それらをどのような文脈で、誰の言葉によって語るべきかについての再設計が追いついていません。
ソフトパワーは自然に蓄積されるものではなく、時代に応じて翻訳され続ける必要があります。
若者と市場は、常に「次の物語」を待っている
Z世代を含む若年層は、既存ブランドに対して無関心である一方で、新しい物語に対しては極めて敏感です。それは、必ずしも派手さや奇抜さを求めているという意味ではありません。
重要なのは、次のような問いに対して、明確な語りが用意されているかどうかです。
- なぜその企業が存在しているのか
- どのような価値観を大切にしているのか
- その商品やサービスを通じて、どのような体験が得られるのか
これらの問いに対する一貫した説明があれば、若年層は自然と耳を傾けます。市場は常に、「次に共感できる物語」を探している状態にあると言えるでしょう。
その物語を語れるかどうかが、これからの競争力を決める
今後の競争力を左右するのは、技術の優劣や資本力だけではありません。自社の価値を、時代の言葉で語り直せるかどうかが問われています。
それは一部の先進企業だけに許された特権ではありません。企業の規模にかかわらず、語る準備が整った企業から、再び「選ばれる側」になっていきます。
日本企業が再び選ばれる存在になれるかどうかは、最終的には市場が判断することになります。ただ一つ確かなのは、語られない限り、存在しないのと同じだという現実です。本稿が、その「語り直し」を始めるための一つの視点となれば幸いです。
