地方の中小企業では、求人を出しても応募が集まらず、採用が長期化するケースが増えています。広告に頼った採用が限界を迎える中、今注目されているのが、採用を「一過性の施策」ではなく「企業に資産として残るインフラ」として整える考え方です。
今回は、採用コンサルティングを手がけるAqsh株式会社 代表取締役の塚田崇博氏にインタビューしました。地方企業が採用できない本当の理由や、SNS・リファラル採用を活用した打ち手、定着につなげる仕組みづくり、さらにAIによる人手不足解消の可能性まで伺います。
立命館大学 理工学部情報学科卒
大学卒業後、販売職に特化した人材派遣会社を大阪で設立。
14期目に株式譲渡を行い、岩手県八幡平市へ移住。
自治体主催のプログラミング合宿への参加をきっかけに、IT×人事を強みとするAqshを起業。
スタートアップを含む中小企業の成長支援を行う。
2003年 株式会社Be-Groove 設立
2017年 代表退任後、岩手県八幡平市へ移住
2020年 Aqsh合同会社 設立
2021年 Aqsh株式会社 設立
- Aqsh株式会社の事業概要
- 広告頼みの採用が限界を迎えている理由と「採用インフラ」という考え方
- 地方中小企業が採用できない本当の理由——「伝えられていない」構造
- 「採用できない」と感じた地方中小企業が最初に取り組むべきこと
- なぜ求人票は「金太郎飴状態」になってしまうのか
- 求職者に刺さる求人票をつくるための2つのポイント
- 地方中小企業の採用を変えた具体的な成功事例
- 採用できない企業が無意識にやっているNG行動
- 地方採用で本当に機能するのは「ハイブリッド型」の採用チャネル
- 採用広報が弱い企業でもできる、最小工数で始めるSNS活用術
- SNS運用が続かない「三日坊主問題」をどう解決するか?
- 採用広報に効果的なSNSはどれ?中小企業が続けやすい媒体選びの考え方
- 採用後に辞めさせないための「定着」を支える仕組み
- 求人検索エンジンの次に来る「未来の採用」とは
- 人手不足は採用だけでは解決しない—AIで仕事の構造を変える
Aqsh株式会社の事業概要
ーー本日は、地方の中小企業が抱える採用の課題について、Aqsh株式会社の塚田さんにお話を伺います。まずは、御社のこと、そして塚田さんご自身について簡単にご紹介いただけますでしょうか。
塚田氏(以下敬称略):Aqsh株式会社は、採用コンサルティングを主軸とする会社です。
私たちは採用を「広告出稿」ではなく、「インフラ構築」と捉えています。採用サイトや求人原稿など、求職者に情報を継続的に届けるための情報基盤を整備する支援を行っています。
特徴は、広告枠購入のような一過性の施策ではなく、企業に資産として残る採用インフラを構築する点です。いわばフロー型ではなく、ストック型の採用を重視し、継続的に人材と出会える状態をつくることを目的としています。
具体的には、採用サイト構築、SNS広告の一部運用支援、ショート動画の企画・制作、採用原稿作成などを、採用ブランディングまで含めて一気通貫で支援しています。
私自身は人材業界に24年間携わってきました。京都出身で、大阪で起業後、2017年に岩手県八幡平市へ移住し、現在は同地を拠点に事業を行っています。
移住後は、起業家コミュニティや商工会など地域活動にも関わり、地域のつながりに支えられながら仕事を続けています。
広告頼みの採用が限界を迎えている理由と「採用インフラ」という考え方
ーー御社の特徴として、「採用インフラを会社に残す」というお話がありました。一方、一般的なフロー型の採用支援は、どのような形なのでしょうか。
塚田:代表的なのは、採用広告を扱う広告会社です。大手のR社やM社などは、広告枠を販売するビジネスモデルで、支援は基本的に契約期間中に限られます。人材紹介や派遣も含め、契約終了後に企業側に資産として残るものはほとんどありません。人手不足になるたびに再度依頼する必要があり、継続的に費用が発生する構造です。これがフロー型の採用です。
ーーそれに対して、御社に依頼すると、会社に資産が残るということですね。
塚田:はい。例えば採用サイトは企業に帰属しますし、採用の考え方や進め方、情報発信のノウハウも社内に残るよう支援しています。単に制作して終わりではなく、継続的に採用できる仕組みまで含めて提供する点が、ストック型・資産型の採用です。
地方中小企業が採用できない本当の理由——「伝えられていない」構造
ーー地方の中小企業が「採用できない」状態に陥る最大の構造的要因はどこにあるとお考えでしょうか。
塚田:最大の要因は、人事を専任で担う担当者がいない企業が大半であることです。多くの中小企業では、社長や部門長が採用業務を兼務していますが、本業が優先されるため、どうしても採用に十分な時間やリソースを割くことができません。その結果、求人を掲載して終わりになり、改善や継続的な情報発信まで手が回らない――こうした構造が「採用できない」状態を生み出しています。
ーー本来は丁寧に取り組むべき採用活動が、うまくいっていない企業ほど後回しになっている、ということですね。
塚田:その通りです。端的に言えば、「伝えられていない」状態にあります。地方には、事業内容や働き方の面で魅力的な企業が数多くありますが、そうした魅力が十分に発信されておらず、地域の人にすら認知されていないケースが少なくありません。
ーーそれは意外ですね。
塚田:これは多くの地方都市に共通する問題です。特にBtoB企業は、「悪い評判があるわけではないが、無名」という状況に陥りやすい。
現在の採用市場では、無名であることは、求職者にとって「存在していない」のと同じです。顕在層には偶然情報が届く可能性はありますが、潜在層にはほぼ届きません。
地方では労働人口そのものが減少しているため、潜在層へのアプローチは不可欠です。そのためには、SNSやWebを通じた継続的な情報発信など、「待つ採用」から「取りに行く採用」への転換が求められます。
しかし、その考え方や具体的な手法が十分に浸透しておらず、「分からない」「手が回らない」という状態が続いていることが、結果として採用難を生む構造的な要因になっていると考えています。
「採用できない」と感じた地方中小企業が最初に取り組むべきこと
ーーでは、企業が「採用できていない」と気づいたとき、まず最初に取り組むべきことは何でしょうか。
塚田:即効性という観点で言えば、まずは自社の採用情報をインターネット上にきちんと出すことが最低条件になります。Web上で「この会社は今、採用をしている」という事実が確認できなければ、そもそも採用活動はスタートラインに立てません。
ただし、最初から高額な投資をする必要はありません。そのうえで、地方企業に特に有効なのが、リファラル採用を戦略的に行うことです。
ーー紹介を仕組みとして整える、ということですね。
塚田:はい。社員だけでなく、取引先や顧客も含め、「人を探している」ことを明確に周知し、紹介を募る仕組みを設計することが重要です。場当たり的ではなく、戦略として行うことで、地方では最も即効性のある施策になるケースが多いと考えています。
なぜ求人票は「金太郎飴状態」になってしまうのか
ーー求人票を見ていると、内容がどれも似通っていて、会社名を隠すと区別がつかない、いわば「金太郎飴状態」になっているものが多いと感じます。こうした求人票は、なぜ生まれてしまうのでしょうか。特に問題になりやすいポイントはどこだとお考えですか。
塚田:最大の原因は、企業側が採用原稿を書くことに慣れていない点です。多くの企業はハローワーク掲載には慣れていますが、文字数制限が厳しく、求職者視点で「自社の違い」や「独自の魅力」を考える習慣が育ちにくい構造があります。
その結果、仕事内容の列挙に終始し、「その仕事を通じてどんな経験や価値が得られるのか」が伝えられていません。社名を入れ替えても成立する原稿になり、求職者の記憶に残らないのです。
求職者に刺さる求人票をつくるための2つのポイント
ーーそうした求人票に対して、どのような改善を勧めているのでしょうか。
塚田:ポイントは二つあります。
一つ目は、会社としての思いや理念を最低限きちんと書くこと。
二つ目は、リアルな条件を正直に伝えることです。
仕事には、必ずトレードオフがあります。
例えば、残業が少なければ収入は控えめになり、収入を重視すれば責任や負荷は大きくなる。こうした現実を隠さずに伝えることが重要です。
誰にでも好かれようとする求人は、結果として誰にも刺さりません。
「何を捨てて、何を取る会社なのか」を明確にし、二つから三つほど具体的に示すことで、他社との違いが明確になり、価値観の合う人材を引き寄せることができます。
地方中小企業の採用を変えた具体的な成功事例
ーーこれまで御社が支援してきた中で、具体的な成功事例があれば教えてください。
塚田:一つ目は、岩手県八幡平市の建設業の企業です。
差別化が難しい業種でしたが、まず経営者とともにビジョンや理念を「今の時代の言葉」で再定義しました。それを採用原稿やパンフレットに反映し、リファラル採用を実施しました。
結果として、社員が自社の価値を短い言葉で説明できるようになり、紹介が生まれやすい状態になりました。この企業は100年以上にわたり地域の除雪を担ってきた会社であり、「建設業」ではなく「地域を守り、未来をつくる会社」として打ち出したことで、その価値に共感した未経験の若者の採用につながりました。
二つ目は、ビジネスホテルの事例です。
事業承継のタイミングで、ビジョンと行動指針を整理し、「宿泊に安心や楽しみをプラスワンで提供する」という思想を採用原稿に反映しました。その結果、理念に共感した若年層からの応募が増え、安定した採用につながりました。
ーー支援前後で、具体的な成果の変化はありましたか。
塚田:地方企業なので応募数自体は多くありませんが、建設業の企業では約5年間、採用ゼロだった状態から、1年で3名の採用に至りました。
ビジネスホテルの事例では、比較データはありませんが、支援開始から約2か月で想定ポジションの採用が完了し、スピード感のある採用が実現しました。
ーーお話を伺っていると、採用支援にとどまらず、コーポレートアイデンティティの整理まで支援されている印象があります。
塚田:はい。ただし、特別な手法を使っているわけではありません。
コーポレートアイデンティティの整理そのものは、本来どの企業でも取り組めるものです。ただ、自社の魅力や価値は、内部にいるほど見えにくい。当たり前だと思っている強みほど言語化されず、埋もれてしまいがちです。
そこで第三者として関わり、「それは価値です」と整理し直すことで、企業の輪郭が徐々に明確になっていきます。そうした壁打ち役として伴走することが、私たちの大きな役割だと考えています。
採用できない企業が無意識にやっているNG行動
ーー採用できない企業ほど、無意識にやってしまっているNG行動には、どのような共通点があるのでしょうか。
塚田:大きく二つあります。
一つ目は、買い手市場だった頃の感覚が抜けておらず、「選ぶ側」という意識が残っていることです。現在は完全に「選ばれる側」の時代ですが、その意識転換ができていない企業ほど、採用の場面でも無意識に上から目線になりがちです。この姿勢は、入社後の育成にも表れます。「見て覚えろ」といった職人型の育成では、若い人材は定着しません。離職者は良い評判を広めないため、結果として悪評が広がり、応募が減るという負の循環に陥ってしまいます。
二つ目は、応募者対応の遅さです。
応募後の連絡が遅い企業は少なくありませんが、理想を言えば、応募から数分以内にコンタクトするのが望ましい。対応スピードは単なる事務処理ではなく、「どれだけ大切にしているか」を伝えるメッセージそのものです。ここを軽視している限り、採用の改善は難しいと考えています。
ーー今は完全に売り手市場になっている、ということですね。
塚田:はい。優秀層に限らず、いわゆる「平均的な人材」であっても、今は複数の選択肢を持っています。その中から、条件や価値観を比較しながら企業を選ぶ――それが現在のスタンダードです。
ーー売り手市場とは、具体的にはどのような状況なのでしょうか。
塚田:分かりやすい例で言えば、一般事務職です。
以前であれば、八幡平市で正社員の事務職を募集すると、1枠に5人、10人と応募が集まりました。求人そのものが少なく、希望者は盛岡まで出るのが一般的だったからです。
しかし現在は、同じ条件で募集しても応募ゼロというケースが珍しくありません。
比較的「人気」とされてきた職種ですら採用が難しい状況で、不人気職種に至っては、さらに厳しい環境に置かれています。
ーーなぜ、そこまで状況が変わったのでしょうか。
塚田:理由は一つではなく、複合的です。
都市部と比べて給与水準が低いこと、働いてもスキルが身につかないと思われていること、過去の評判が影響しているケースもあります。
さらに、企業側の受け入れ体制に対する不安も大きい。教育制度や評価制度が十分に整っておらず、10年、20年先のキャリアを描きにくいと見られていることが、応募を遠ざける要因になっています。
ーー人が、地域の外に流れているということですね。
塚田:はい。加えて、今や地方企業の競合は、近隣都市ではありません。八幡平市の企業にとっての競合は、盛岡ではなく、仙台や東京です。
移動やリモートワークが当たり前になり、「行こうと思えば行ける」時代になりました。
その結果、給与水準で勝てない地域企業は、地域性や社会的意義といった別の価値を明確に提示しなければ、選ばれにくくなっています。
ーーそれは、かなり厳しい競争環境ですね。
塚田:そうですね。この構造は民間企業だけの話ではなく、自治体の採用にも共通しています。市役所の採用ですら、「盛岡か北上か」ではなく、「地元か仙台か」という比較になっているのが現状です。
ーー自治体ですらそうであれば、中小企業はなおさらですね。
塚田:その通りだと思います。
地方採用で本当に機能するのは「ハイブリッド型」の採用チャネル
ーー地方において、実際に機能しやすい採用チャネルには、どのようなものがありますか。
塚田:まず中途採用については、IndeedやGoogle for Jobsに確実に掲載されていることが最低条件です。ここに表示されていなければ、そもそも検討対象に入らないケースが多い。
新卒採用は、考え方が比較的シンプルです。最も重要なのは、学校への直接的なアプローチです。進路指導や就職担当の先生と継続的な関係を築き、可能であれば学生と直接会える場に参加する。中小企業にとっては、こうした取り組みこそが不可欠です。
加えて、リファラル採用も有効です。WebサイトやSNSは、直接応募を大量に集めるための主役ではなく、紹介を後押しするための「装置」として位置づけています。地方では、デジタル単体に頼るのではなく、紹介や学校訪問といったアナログ施策と組み合わせた「ハイブリッド戦略」が効果的だと考えています。
ーーリファラル採用では、紹介にインセンティブを設けるケースもありますか。
塚田:はい、あります。例えば盛岡市のバス会社では、深刻な運転手不足を背景に、紹介者に謝礼金を支払うリファラル報奨制度を導入しています。
人手不足が特に深刻な業界では有効な手法ですが、制度として導入している企業は、まだ多くありません。ただし、採用難が続く現状を踏まえれば、検討する価値の高い施策であることは間違いないと思います。
採用広報が弱い企業でもできる、最小工数で始めるSNS活用術
ーー採用広報があまり強くない会社でも、少ない工数で会社の魅力を伝えるとしたら、何から始めるべきでしょうか。
塚田:優先順位をつけるなら、まずはSNSです。Webサイトを一から作るよりも圧倒的に始めやすく、採用広報においては、必ずしも「プロっぽさ」は必要ありません。
むしろ、社員の日常や雑談、仕事中の何気ないやり取りといった“ありのまま”の姿のほうが、今の求職者には響きます。完成度の高い動画よりも、スマートフォンで撮った短い動画や写真のほうが、親近感や信頼につながりやすい。
一方で、工数の割に効果が出にくいのが、合同説明会などのイベント出展です。知名度が低い企業ほどブースに人が集まりにくく、費用対効果は高いとは言えません。そのため、まずはSNSで日常を発信し、認知と親近感をつくることが現実的だと考えています。
【ポイント】
- 最小工数で始めるなら、まずはSNS
- 完成度よりも「リアルさ」「親近感」
- 半径5メートル(社員・元社員・取引先)からファンをつくる
- SNSは「直接応募獲得」ではなく、信頼と紹介を生む土台
SNS運用が続かない「三日坊主問題」をどう解決するか?
ーーSNS運用が続かない企業も多いですが、この課題はどう解決すればよいでしょうか。
塚田:一番の課題は、「誰がやるのか」という点にあります。理想は内製化ですが、社内リソースだけで継続するのは、現実的に難しい企業も少なくありません。そのため、外部のサポートをうまく活用することは、有効な選択肢だと考えています。
私たちは、AIを活用して投稿作成のハードルを下げる技術的な支援も行っていますが、最も重要なのは「習慣化するまでの伴走」です。ダイエットやジムと同じで、結果が出るまで横で支える存在がいるかどうかで、継続率は大きく変わります。
最終的な理想形は、特定の担当者に依存するのではなく、社員一人ひとりが自然に情報発信できる文化をつくることです。そこまで到達できれば、SNSは最も強力な採用広報の基盤になります。
【ポイント】
- 最大の壁は「継続」と「担当者問題」
- AIやツールで作業負荷を下げる
- 習慣化するまでの伴走支援が鍵
- ゴールは「全社員が発信する文化」の定着
採用広報に効果的なSNSはどれ?中小企業が続けやすい媒体選びの考え方
ーーSNSにもさまざまな種類がありますが、どれを使うのが最も効果的でしょうか。
塚田:理想を言えば、YouTubeショートです。短い動画で十分なので、週1本でも継続できれば、非常に強力な施策になります。ハードルはありますが、可能であればぜひ取り組んでほしいですね。
ただ、現実的には動画制作を難しく感じる企業も多く、その場合はX(旧Twitter)やInstagramから始めるケースが多いと思います。重要なのは媒体そのものよりも、「無理なく続けられるかどうか」です。
ーー「プロっぽさはいらない」「日常でいい」というお話でしたが、具体的にはどんな内容を発信すると良いのでしょうか。
塚田:重要なのは、PR色を強く出しすぎないことです。きれいな場面だけを切り取る必要はありません。
例えば、現場で汗や油にまみれて作業している様子など、リアルな仕事風景を、そのまま発信するだけで十分です。つくり込まれたメッセージよりも、「実際にどんな人が、どんな環境で働いているのか」が伝わることのほうが、求職者には響きます。
ーー編集は最小限で、「ありのまま」を見せればよい、ということですね。
塚田:その通りです。正直なところ、何が当たるかは誰にも分かりません。本業とは直接関係のない投稿が、思いがけず反響を呼ぶこともあります。
戦略的なブランディング手法も存在しますが、最初から完璧を目指すと、かえって続かなくなってしまう。考えすぎず、とにかく発信を続けること――それが最も重要だと考えています。
採用後に辞めさせないための「定着」を支える仕組み
ーー採用だけでなく「定着」まで含めて考えた場合、危機対応として、辞めないために最も重要な打ち手は何だとお考えでしょうか。
塚田:「辞めない」という観点で言えば、育成と人事評価をきちんと行うことに尽きます。早期離職や突然の退職の多くは、「自分は見てもらえていない」という感覚から生まれます。
以前、元DeNAの人事の方が「『言っても無駄』『いても無駄』をなくすことから始めよう」と話していたのが、とても印象に残っています。
まず「言っても無駄」。
意見を言っても聞いてもらえない、あるいは否定される状態が続くと、人は次第に発言しなくなります。大切なのは、否定する前に一度受け止める姿勢です。
もう一つが「いても無駄」。
ここにいても成長できない、将来なりたい先輩がいない、頑張っても正しく評価されていない。そう感じた瞬間、人は組織から離れていきます。
これを防ぐためには、
・育成計画を持って人を育てること
・成長をきちんと評価すること
この両輪が不可欠です。
そのための、最もシンプルで効果的な打ち手が「日報」だと考えています。
日報は、育成・評価・コミュニケーションを同時に成立させる仕組みです。
ーー日報であれば、形式は特に問わないのでしょうか。
塚田:いえ、実はやり方はとても重要です。単に「何をやったか」を並べるだけの事実報告では、ほとんど意味がありません。
大切なのは、
・なぜそう考えたのか
・どのように行動したのか
・その結果、何を学んだのか
といったプロセスを言語化することです。
日報が、管理のためのツールではなく、上司や自分自身とのコミュニケーション、そして内省のツールとして機能したとき、初めて定着につながります。
ーー育成や定着の部分も、御社の支援領域に含まれているということですね。
塚田:はい。今回は採用をテーマにお話ししましたが、私たちの支援はそこにとどまりません。理念に基づく育成計画や人事評価制度の構築、そしてそれを現場で機能させるための仕組みづくりまでが、支援の範囲です。
採用時に伝えた期待と、入社後の現実をきちんと一致させること。
日報を通じて、承認と成長実感を積み重ねていくこと。
これこそが、定着における最大の危機対応だと考えています。
求人検索エンジンの次に来る「未来の採用」とは
ーーIndeedや求人検索エンジンが当たり前になった先にある、「未来の採用」は、どのような形だとお考えでしょうか。
塚田:結論から言えば、王道ですが「コミュニティをつくること」だと思います。そして、そのコミュニティの中から採用していく。これが、これからの採用の基本形ではないでしょうか。
理想は、その会社のファンで構成されたコミュニティがあり、「入りたい人の予備軍」が常に存在している状態です。すぐに実現するものではありませんが、コミュニティを持たない企業が持続的に成長するのは、これからの時代、かなり厳しくなっていきます。
「たまたま採用できた」を繰り返すだけでは、事業計画は立てられません。だからこそ、「どうやってコミュニティをつくるか」は、すべての企業が本気で向き合うべきテーマだと思います。
重要なのは、まずコミュニティに貢献することです。地域や業界のために、どんな価値を提供している企業なのか。その姿勢そのものが、評価や信頼につながっていきます。これは短期施策ではなく、長期的な投資です。
こうした活動を積み重ねることで、接点が増え、信頼が蓄積され、結果として「今年は1人、来年は2人」と、採用が徐々に計算できるようになります。
やっていることは非常に泥臭く、人間関係づくりに近い。SNSやWebはあくまで援護射撃で、主役は「人と人とのつながり」です。
採用インフラの次に来るのは、コミュニティ形成の時代だと考えています。
ーーその「コミュニティ」とは、具体的にはどのようなイメージでしょうか。
塚田:一例として、私たちAqshの取り組みをご紹介します。
私たちは「採用」をテーマに、ITやマーケティングを活用した改善に継続的に取り組んできました。その過程で、同じ課題意識を持つ人材業界の方々とつながり、成功事例や失敗事例を共有したり、開発した仕組みを使ってもらったりしています。
すると、同業であっても自然と協力関係が生まれ、共同で仕事をしたり、声をかけ合ったりと、人の流れが生まれていきます。それは引き抜きではなく、価値観の共有と信頼の積み重ねがもたらした結果です。
地域の例では、岩手県八幡平市のIT人材育成プログラム「スパルタキャンプ」があります。そこで学びや考え方を継続的に共有してきた結果、受講生が仕事を手伝ってくれたり、別の仕事を紹介してくれたりといった関係が生まれました。
これは、いわゆる「ギブファースト」だと思っています。学びや機会を先に渡し続けることで、人が集まり、コミュニティが育っていく。現在では100人規模のコミュニティとなり、その中から仕事や採用につながっています。
ーー直接「採用します」と言わなくても、関係性の積み重ねが結果的に採用につながる、ということですね。
塚田:その通りです。学びの場をつくる、仕事や情報を共有する。そうした関係性を続けていくこと自体が企業の魅力になり、結果として採用につながっていくのだと思います。
人手不足は採用だけでは解決しない—AIで仕事の構造を変える
ーー最後に、何かお伝えしたいことはありますか。
塚田:今、私たちはAI活用にかなり力を入れています。ただし、「人の代わりにAIがやる」という考え方ではありません。正確には、人がやらなくていい仕事をAIに任せ、人の能力をどう拡張するか、という発想です。
仕事を分解してみると、多くは小さなタスクの集合体で、「1ミリも効率化できない仕事」は、実はほとんどありません。その前提に立って、AIを組織にどう組み込み、どこまで自動化できるかというメソッドが形になってきています。現在は、その一部をアプリ化する段階まで進んでいます。
正直に言えば、「人を紹介してほしい」という依頼だけで人手不足を解決するには、どうしても限界があります。一方で、企業の魅力を可視化したり、少人数でも回る業務体制を構築したりすることであれば、より直接的な支援が可能です。
だからこそ今後は、採用支援にとどまらず、「人手不足そのものをAIでどう補うか」という領域にも、本気で取り組んでいきたいと考えています。
ーー業務プロセスをAIで効率化していく、というイメージでしょうか。
塚田:はい。その一例として、無人店舗向けにAI機能を組み込んだカメラシステムを導入しました。
高価な既製品を使うのではなく、安価なカメラと基板、ソフトウェアを組み合わせて構築することで、従来の約10分の1のコストで、死角のない監視環境を実現しています。
こうした仕組みは、防犯用途にとどまらず、農業や工場などにも応用可能です。人が常に見に行かなくてもよい状態をつくること自体が、人手不足の解消につながっていくと考えています。
ーーハードとソフトを組み合わせた、現場実装型の取り組みなんですね。
塚田:そうですね。私たちはハードを売るのではなく、企画とソフトウェアを中心に、現場に合う形で実装するというスタンスを取っています。ロボットアームなども年々価格が下がってきており、AIと組み合わせれば、中小企業や地域にとっても現実的な選択肢になりつつあります。
もう一つお伝えしたいのは、「地域に技術を定着させる」という視点です。
例えば、長野県塩尻市の「KADO」というBPO拠点は、地域に仕事と人材を根づかせ、現在では年間約5億円規模まで成長しています。私はこれをそのまま真似るのではなく、「採用・育成」を入口にしながら、IT領域へと広げていく拠点を、各地域につくりたいと考えています。
場ができれば、人が集まり、仕事も集まる。何より、地域の課題を、地域の人間の手で解決できるようになります。
外から人やシステムを持ってくるだけでは、
・課題が正しく見えない
・解決策がズレる
・コストが高すぎて導入できない
といった問題が、今後さらに顕在化していくでしょう。だからこそ、「その前に、地域で筋トレをする」ことが必要だと思っています。
ーーその構想は、すでに動き始めているのでしょうか。
塚田:はい。八幡平ではすでに、小さなWebサイト制作や予約フォームの導入といったところから、少しずつ始めています。実際に手を動かしてみると、「やりたいけれど、頼める人がいない」という仕事が、地域には想像以上に眠っていることが分かりました。
一件一件は小さな仕事でも、積み上げれば立派な仕事になります。まずは10人程度が、地域のITの仕事だけで生活できる状態をつくる。それが、今私が描いている直近の目標です。
ーー本日は、お忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
