DX推進室が疲弊しない体制設計:タスク整理・外部人材・PMOで実現する「続くDX」
現代の企業にとって「DX推進」は単なるIT活用ではなく、業務プロセス・組織文化・意思決定ルールそのものを変革する仕事です。
しかし、実際にDX推進室・DX推進部が成果を出し続けるためには、ただタスクを積み上げるだけでは限界があります。
「兼務による時間不足」「専任者の不在」「組織内のコミュニケーション不全」……これらが積み重なり、担当者が燃え尽きてしまう“DX疲れ”に至っている組織も少なくありません。
本稿では、DX推進がやるべき具体的タスクの整理から、疲弊しないための体制設計、外部人材・PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の活用法までを整理し、実際の成功事例も交えて解説します。
1. DX推進とは何か? 本質を改めて整理する
まず、DX推進の定義を再確認しましょう。これは単に便利なツールを導入することではありません。
経済産業省の「デジタルガバナンス・コード」においても、DXは以下のように定義されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード」
ポイントは次の3点です。
- 業務・組織・意思決定プロセスを変革すること
- ITツール導入は「手段」であり「目的」ではない
- 変革を“持続的に回す仕組み”が成果を左右する
つまり、DX推進担当は、単なる「システム導入係」ではなく、経営・現場・ITをつなぐハブ機能としての役割を持つ必要があります。
2. DX推進がやること:5つの全体像
DX推進担当が「実際に何をやるのか」を明確にすることで、業務負荷が可視化され、合理的な体制設計が可能になります。業務はおおよそ次の5つの領域で構成されます。
2-1. DX推進計画の立案
DXは「とりあえず何かやる」では失敗します。目的・優先領域・評価指標を含む実行可能な計画の立案が必要です。
- 目的(Why):何のためにDXを行うのか
- 優先順位(Priority):どの業務から着手するか
- ロードマップ(When):いつまでに何を達成するか
- KPI(Goal):成果をどう定量的に測るか
典型的な失敗例は「ツールありき」の計画です。必ず「経営課題の解決」から逆算した設計が不可欠です。
2-2. DX施策の実行・プロジェクト管理
計画に基づき、個別施策(業務自動化、データ利活用など)を推進します。ここでの役割は調整と管理です。
- ステークホルダー調整:経営・事業部・IT部門間の利害調整
- 進捗管理・課題解消:障壁を取り除き、現場を価値創出に集中させる
- 効果の可視化:Before/Afterの成果を測定し、報告する
2-3. DXツール導入と運用設計
ツールは「入れて終わり」ではなく、定着して初めて価値を生みます。
- 現場の課題を起点とした選定
- 部門横断の運用ルールの設計
- 導入後のヘルプデスク・活用支援
2-4. 従業員へのDX・AI教育
一部の推進担当者だけでなく、全社員がデジタル活用できる状態を目指します。最近では生成AIの活用も必須科目です。
- DXリテラシー教育:なぜDXが必要かの共通言語化
- ツール操作教育:実務に即したハンズオン
- AI活用ガイドライン:セキュリティ、リスク管理、プロンプト活用
2-5. 自律的に回る体制づくり
最終目標は、DX推進室の手を離れ、現場が自律的に改善を継続できる状態(自走化)です。
- 各部門へのDXリーダー(アンバサダー)配置
- ナレッジ共有の仕組み化
- 成功事例の横展開
3. 「DX疲れ」の本質:構造的な原因
多くの企業でDX推進室が疲弊してしまう背景には、構造的な問題があります。
3-1. 兼務・専任不足による負荷過多
多くの担当者は既存業務との「兼務」であり、まとまった時間を確保できません。結果、戦略立案などの“重要だが緊急ではない仕事”が後回しになります。
3-2. ツール一辺倒と属人化
現場の課題を無視してツール導入を先行させると、現場の反発を招きます。また、知識が特定の担当者に属人化し、「あの人がいないと分からない」状況が負担を加速させます。
3-3. 評価基準の曖昧さ
DXの成果(時間削減、売上向上への寄与)が可視化されていないと、組織は担当者の努力を正当に評価できず、モチベーション低下を招きます。
4. 疲弊しない体制設計:外部リソースとPMOの活用
持続可能な体制をつくるためには、社内リソースだけで完結させようとせず、外部の力を戦略的に取り入れることが重要です。
4-1. 兼務・専任のバランス設計
完全な専任チームが組めない場合でも、役割を明確に分けることで負荷を分散します。
- 兼務者(現場):現場課題の吸い上げ、テスト運用、実務への適用
- 専任者(本部):全体計画、予算管理、評価制度設計、外部との連携窓口
4-2. 外部人材の戦略的活用
「経験者」を外部から借りることで、学習コストと失敗リスクを下げることができます。
- 初期のグランドデザイン設計
- 最新のAI活用方針の策定
- 客観的な視点でのプロジェクト評価
注意点:「丸投げ」はNGです。外部人材はあくまで推進支援であり、決定権と責任は社内に残すことがノウハウ蓄積の条件です。
4-3. PMO(プロジェクト管理オフィス)機能の導入
複数のプロジェクトが走る場合、PMOを設置して「交通整理」を行います。進捗管理、リソース調整、課題のレポートラインをPMOに集約することで、推進リーダーは意思決定や戦略業務に集中できます。
5. 成功事例:体制設計が成果につながったケース
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の調査や事例集でも、体制面の工夫が成果に直結していることが報告されています。
5-1. 先進企業A社:意思決定の高速化
あるサービス企業では、経営層・事業責任者・IT担当が参加する月次の「DX会議」を設置。ここでプロジェクトのGo/No Goを即決するルールに変更しました。これにより、承認プロセスが数ヶ月から数日に短縮され、現場の熱量を維持したまま推進が可能になりました。
5-2. 製造業Y社:プロジェクトの分離と連携
製造業Y社では、「守りのDX(基盤改革)」と「攻めのDX(新サービス創出)」を別プロジェクトとして切り分けました。それぞれに適した人材と評価軸を設定しつつ、要所で連携する設計にすることで、複雑さを回避し成果を上げています。
6. 専門家インタビューから学ぶ「定着」のポイント
SaaS導入支援等の実績を持つサイバード社の元木理恵氏などのインタビューにおいても、ツール定着における「コミュニケーション設計」の重要性が語られています。主なポイントは以下の通りです。
6-1. 変化の理由を“イメージさせる”
単に「新しいツールを使ってください」と指示するだけでは現場は動きません。「なぜ変わるのか」「変わった先にどんな良いことがあるのか」というビジョンを具体的にイメージさせることが、心理的抵抗を下げる鍵となります。
6-2. 部門アンバサダー制度
DX推進室だけで全社をカバーするのは不可能です。各部門から「アンバサダー(推進リーダー)」を選出し、週次で現場の課題や懸念を吸い上げるフローを設ける。これにより、現場感のある施策が可能になります。
6-3. 完全移行スケジュールの明示
新旧ツールの並行期間は必要ですが、ダラダラと続けると現場は旧来の方法に戻ってしまいます。「いつまでに完全移行する」というゴールを明確に設定し、そこに向けて段階的にサポートを手厚くすることが成功要因です。
7. まとめ:疲弊しないDX推進体制とは
DX推進は、個人の頑張りに依存するのではなく、「設計された組織」で行うべきものです。
- タスクの明確化:計画・実行・教育・運用定着までを業務として定義する
- 役割分担:兼務・専任・外部人材・PMOを組み合わせ、リソース不足を補う
- コミュニケーション設計:現場を巻き込むアンバサダー制度やビジョンの共有を徹底する
社内のリソースだけで限界を感じている場合は、PMOや外部専門家の導入を検討し、「持続可能なDX推進体制」への移行を検討してみてはいかがでしょうか。
