地域活性化と関係人口~KPIとしての実効性を考える~

地域活性化と関係人口~KPIとしての実効性を考える~

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日本は少子高齢化と人口減少が急速に進み、地域社会の担い手不足が深刻化しています。特に地方では出生数の低下に加えて若者が都市部へ流出し、人口減少に拍車がかかっています。これに対し、2014年の「まち・ひと・しごと創生法」施行以降、各自治体は移住促進などの人口対策を進めてきましたが、依然として東京圏への一極集中は続き、地方創生の取り組みは正念場を迎えています。

こうした中、「関係人口」という新しい視点が地方創生のキーワードとして注目されています。関係人口とは「移住した定住人口でもなく、観光に来た交流人口でもない、地域と多様に関わる人々」を指す概念で、「観光以上・移住未満」の関わり方とも表現されます。例えば他地域に住みながら特定の町の祭りに毎年参加する人、オンラインで地方のプロジェクトに継続的に関与する人、あるいはふるさと納税などで地域を支援する人も含まれます。

関係人口は地域に新たな視点や人材をもたらし、地域活性化の担い手になり得る存在として期待されています。本稿では最新情報をもとに、地方活性化と関係人口の関係について考察します。特に関係人口をKPI(重要業績評価指標)として用いることの実効性に焦点を当て、現状の課題と背景、具体的な事例、関係人口増加の地域へのインパクト、そして定義や指標の曖昧さがもたらす影響を分析します。最終的に、関係人口をKPIとする地域活性化策は本当に有効なのか、多角的な視点から結論づけます。

課題:人口流出と東京一極集中がもたらす地方の苦境

渋谷のスクランブル交差点

地方自治体が直面する若者流出と東京圏の構造的優位

地方自治体にとって、若年層の人口流出は喫緊の課題です。総務省の住民基本台帳人口移動報告(2024年速報)によれば、20代の人口移動では東京都が約88,776人もの大幅な転入超過となり、2位の神奈川県に4倍以上の差を付けています。一方、大半の地方県では20代の転出超過が続き、若者世代の流出が深刻であることが示されています。この傾向は東京圏の「一極集中」が依然として強固であることを物語っており、就職先や大学などあらゆる機会が集中する東京が構造的に優位な「若者の就職・生活の聖地」となっている現状があります。実際、2024年の東京都への人口流入(全体)は約7.9万人に上り、前年よりも1万人以上増加しました。反面、東北など地方圏では出生数減と社会減(転出超過)が重なり、秋田県で年▲1.87%をはじめ全国最大級の人口減少率を記録しています。日本全体でも2024年に日本人が前年より約89.8万人減少し(戦後最大の減少幅)、人口減に歯止めがかかっていません。

このように地方は若い人材の確保競争で著しく不利な状況に置かれています。多くの自治体が移住促進策に取り組み、豊かな自然や低コストの暮らしといった地方ならではの魅力をPRしてきました。しかし、進学先や就業先が持つ訴求力の方が強力で、都市部にはない魅力をアピールするだけでは容易に若者を呼び込めないのが現状です。全国的な人口減少下では、各地域が限られた若年層の「定住人口の奪い合い」を余儀なくされ、地方間競争はゼロサム化しがちです。東京圏への女性若者の流出も顕著で、地方で将来の出産世代が減ることでさらなる少子化悪循環が懸念されています。この構造的課題を前に、地方自治体は発想の転換を迫られているのです。

「移住ありき」から「関係人口重視」へ:施策転換の背景

上述のように、地方が若年層の定住人口を直接奪い合う戦略には限界があります。そのため近年、「移住者を増やす」から「移住せずとも地域に関与する人を増やす」方向へ舵を切る動きが広がっています。これが関係人口を重視した施策への転換であり、その背景には以下のような考え方があります。

まず、関係人口は「人材の共有」によって地域を支えるという発想です。移住政策だけでは人材の奪い合いになりがちですが、関係人口の創出によって「人材の共有」が実現する、と指摘されています。例えば首都圏の人がリモートワーク等で地方の仕事に関わったり、週末だけ特定の村のボランティアをするなど、一人の人間が複数の地域に貢献することが可能になります。これにより、都市と地方が人材を取り合うのではなく、双方がメリットを享受できる関係づくりを目指せます。

次に、移住促進策が成果を上げにくい要因として「ハードルの高さ」があります。いきなり生活の拠点を移す決断は多くの人にとって重く、「地方に興味はあるが移住までは…」と躊躇するケースは少なくありません。関係人口という選択肢は、「その地域が好きで力になりたいけれど移住は難しい」という層にアプローチできます。「観光以上、移住未満」の関与を認めることで、より多くの人に地域との接点を持ってもらう狙いです。総務省の定義でも、観光客とも移住者とも異なる多様な関わりを持つ人が関係人口とされています。

さらに、テレワークの普及やライフスタイルの多様化も追い風です。コロナ禍以降、都市に住みつつ地方と関わるリモート副業・兼業、あるいは二地域居住(週末だけ地方で暮らす等)への関心が高まっています。2025年には二地域居住推進に関する法整備も進み、政府も「住民票を移さなくても地方に関わることで地域活力を維持する姿」を地方創生の一つの形に位置付けました。首都圏から必ずしも転出しなくても、東京に居ながら地方に関わる関係人口の存在が地方の活力維持に寄与し得ると考えられているのです。

このような背景から、政府も関係人口の創出拡大に本腰を入れ始めました。2025年6月には政府の地方創生基本構想において「関係人口を今後10年で1,000万人創出」という数値目標が示され、自治体が関係人口を「ふるさと住民」として登録する制度を創設し達成を目指す方針が打ち出されています。同時に「東京圏から地方への若者移住を倍増させる」目標も掲げられましたが、人口減少を前提に「人口規模が縮小しても経済成長し社会を機能させる適応策」を取る一環として、関係人口の活用が位置付けられています。つまり、関係人口は移住者ほどは増えない前提であっても地域を支える戦力として重視され始めているのです。

以上のように、地方自治体が定住人口の獲得競争に固執せず、広く関係人口を募り地域に関与してもらう方向へ政策転換するのは、時代の要請といえます。それでは実際に関係人口をKPIに据えた地域活性化の取り組みはどのように展開され、成果を上げているのでしょうか。次章では具体的な事例を見ていきます。

事例:関係人口をKPIとした地域活性化の取り組み

瀬戸内海の一風景

関係人口の創出・拡大を掲げた自治体の取り組みは全国各地で増えてきました。ここでは成功例とされる代表的な事例を2つ紹介し、その内容と成果を見てみましょう(必ずしも定量的な「成功」指標があるわけではありませんが、革新的な試みとして注目されたケースです)。

事例1:広島県「せとうちファンづくりプロジェクト」–三市連携で都市と人材マッチング

瀬戸内エリアの広島県竹原市・三原市・尾道市の3市は、美しい自然環境や豊かな歴史・食文化資源に恵まれています。しかし近年は人口減少と少子高齢化の波を受け、農業従事者の高齢化・後継者不足、地域企業の人材不足、コミュニティの活力低下など共通の課題に直面していました。こうした課題に対応するため3市が共同で立ち上げたのが「せとうちファンづくりプロジェクト」です。これは地域の魅力に惹かれた都市部の人々を「ファン」として継続的に関わってもらう仕組みづくりで、民間企業と連携しながら関係人口創出を図る取り組みとなっています。

具体的には、農業の担い手不足解消に向けて3市がパートナー企業「株式会社おてつたび」と提携し、農家と農業に関心のある若者をマッチングしました。おてつたびは地域の農家の手伝いニーズと都市部の若者ボランティアを繋ぐサービスで、参加者は一定期間現地に滞在して農作業を手伝います。その結果、収穫作業が遅れて困っていたみかん農家には県外からやる気ある若者が駆け付け、テキパキと作業をこなしてくれたおかげで大いに助かったといいます。参加者に対しては滞在費や交通費の補助も用意され、受け入れ態勢を整える工夫もされています。この仕組みにより農家の労働力不足を補うと同時に、参加した若者が農業や地域の魅力に触れる機会を創出し、継続的なファンになってもらうことにつながっています。

農業分野以外でも、せとうちファンづくりプロジェクトでは「地域企業と都市圏在住のスキルある副業人材」や「都市圏のファミリー層と地域コミュニティ」とのマッチング事業も展開しています。例えばITスキルを持つ都会の会社員が副業として地元企業の課題解決に協力したり、子育て世代の家族が週末に地方コミュニティのイベントに参加するなど、多面的な関係人口を増やす仕掛けです。これらにより、地域のノウハウ不足やコミュニティ衰退といった課題に外部から人材と知恵を呼び込み、補完する効果が期待されています。

このプロジェクトは関係人口を増やすこと自体が目的ではなく、増えた関係人口が具体的な地域課題の解決に結び付くよう設計されている点が特徴です。現に農家支援では即効性のある成果が生まれ、農家から感謝の声が上がりました。参加した若者にとっても地方での貴重な体験となり、「また来たい」「別の形でも地域に関わりたい」というリピーターや将来の移住希望者に育つ可能性があります。こうしたウィンウィンの関係を作り出している点で、せとうちファンづくりプロジェクトは関係人口施策の成功例として注目されています。

事例2:鹿児島県日置市「ひおきとプロジェクト(ネオ日置計画)」–メタバースで創る仮想の故郷

鹿児島県日置市では、コロナ禍で帰省や訪問が困難になった人々から「なかなか故郷に帰れない」「いつか行ってみたいが今は行けない」といった声が多く寄せられました。そこで日置市は、コロナ下でも関係人口を創出し地域とのつながりを保つためのユニークなプロジェクト「ひおきとプロジェクト」を立ち上げます。その柱の一つが2022年8月に開始された「ネオ日置計画」です。

ネオ日置計画は、仮想空間(メタバース)上にもう一つの日置市を再現しようという試みです。具体的には、市内の名所や風景をメタバース上に構築し、全国どこからでもスマホやPC、VRゴーグルでアクセスできるバーチャル日置市を作り上げました。立ち上げ資金はクラウドファンディングやふるさと納税で募り、再現する名所も「建設名所決定戦」という利用者からの投票企画で決定するなど、企画段階から関係人口(応援者)の参加を促す工夫がされています。

さらに日置市は、関係人口を募るために「ひおきカメカメ団」というファンクラブ的な制度も創設しました。「町を応援したい人」は「関わり隊」、「将来移住に興味がある人」は「住んでみ隊」として登録を呼びかけ、入隊したメンバーはメタバース空間づくりに参加したり、市からの情報提供を受けたりできます。バーチャル空間への建設費用を寄付した人も一緒に町づくりに加われる仕組みで、単なるオンライン観光ではなく双方向的に“自分の故郷を自分たちで作る”感覚を味わえるようにしました。

もちろん、こうした大胆な試みに対して市民の理解を得ることも重要です。日置市では地域住民向けの説明会を開催し、メタバース事業の目的や進め方について周知する努力も行われました。受け入れ側の不安や誤解を解消し、関係人口を温かく迎える土壌を作る工夫といえます。また、ユーザー側にとっても特別なアプリをインストール不要で無料利用できるようにし、時間や場所を問わず気軽に故郷・日置市を感じられるよう配慮されています。これにより高齢者から若者まで幅広い世代が参加しやすく、コロナ禍で一時途切れた故郷との結びつきをオンラインで維持・強化することに成功しました。

ネオ日置計画はデジタル技術を活用した関係人口施策の先駆例として評価できます。現時点でこの仮想空間を通じた経済効果など定量的成果を測るのは難しいものの、市外在住者が継続的に地域に関与できる新しい形を提示しました。クラウドファンディングを通じて資金と共感を呼び込み、ふるさと納税による資金調達も活用した点で、関係人口の熱意が地域の財政的支えにもなり得ることを示唆しています。また、このプロジェクトをきっかけに生まれた「関わり隊」「住んでみ隊」のネットワークは、日置市にとって将来的な移住者予備軍・地域サポーターのデータベースとなりました。デジタル空間で育まれた愛着が実際の地域振興につながるよう、今後オフラインイベント等への展開も検討されています。仮想と現実を横断して関係人口を育むこの取り組みは、関係人口KPIの新たな可能性を感じさせるものです。

以上の事例から見えてくるのは、関係人口をKPIに据えることで地域課題の解決やファン層の拡大に一定の成果が出始めていることです。ただし同時に、こうした取り組みを評価・運用していく上での課題も浮かび上がっています。次の章では、関係人口の増加が地域にもたらすインパクトと、KPIとして用いる際の留意点について考察します。

考察:関係人口増加が地域にもたらす効果とKPI運用上の課題

YOSAKOI祭り

関係人口増加の地域へのインパクト(経済・社会・文化の視点)

関係人口が増えることは、地域に多方面のメリットをもたらすと期待されています。その代表的なものとして経済的効果があります。関係人口として地域に何度も足を運ぶ人が増えれば、その度に宿泊費・食事代・観光娯楽費などの消費が生まれます。仮に現地に行けなくても、ふるさと納税を通じた金銭的な支援も可能です。つまり「関係人口=応援してくれる人」が増えるほど地域経済は潤い、活性化していくと考えられます。

例えば先述の広島県の事例では、県外からの参加者受け入れに対する補助金制度が整備されたことで、外部人材が気軽に訪問しやすくなり、その分地域内で消費を落としていく好循環が生まれました。また、関係人口の存在は観光以上に深い愛着心につながるため、一過性でなく継続的な経済効果(リピーター消費や特産品の定期購入等)も見込めます。政府もこの点に注目し、関係人口創出に積極的な自治体に対する財政支援策を講じています。関係人口の増加により、「これまで資金面で実行できなかった事業が可能になる」とされるように、外部の応援者の力で新規事業を興したりサービスを維持したりする原資を確保できる可能性も広がっています。

社会的な効果としては、関係人口が地域にもたらす知見や人的ネットワークの広がりが挙げられます。全国各地から多様なバックグラウンドを持つ人々が関わることで、地域住民だけでは得られない発想や最新の技術がもたらされます。実際に、建築を学ぶ大学生が関係人口として村の空き家改修プロジェクトに参加し、専門知識を活かしてリノベーションに貢献した例もあります。このように、外部の人材が新しい風を吹き込み、停滞しがちな地域課題にブレイクスルーを起こす契機になり得ます。

さらに、関係人口が増えることで地域内外の人々の交流が活発化し、都市住民と地域住民が相互に理解を深める機会も増えます。都会の価値観と地方の知恵が交わることで、新しいコミュニティ活動やビジネスが芽生える土壌が生まれるでしょう。例えば、広島のプロジェクトでは、都市部の副業・兼業人材と地元企業・団体との協働が進められており、業務改善や新商品開発のアイデア創出といった効果が期待されています。実際、一部の副業人材がプロジェクト終了後も助言や支援を継続するなど、継続的な関係性につながるケースも見られます。このような人的交流の広がりは、地域社会に活力と多様性をもたらし、ひいては定住者にとっても暮らしやすい環境づくりにつながると考えられます。

文化的側面の効果にも目を向けてみましょう。関係人口の中には、その地域の伝統行事や文化に魅せられてファンになり、運営を手伝ったり情報発信したりする人もいます。例えば、ある地域の祭りが好きで毎年訪れスタッフ同然に参加する都市部在住者がいれば、その人は地域文化の担い手の一人と言えます。高齢化で地元の祭り継続が危ぶまれるようなケースでも、外部からのサポーターがいることで存続できている例があります。

また、関係人口がSNS等で地域の魅力を発信すれば、その土地の文化や魅力が広く認知される効果もあります。ブランド総合研究所の調査では、関係人口の約7割が「地域貢献につながる行動をしたい」と回答しており、実際に多くの人がボランティア参加や情報発信といった形で関わっています。こうした活動が積み重なれば、その地域に対する外部からの評価やイメージ向上にも寄与し、結果として観光客や移住希望者の増加にも波及するでしょう。関係人口自身が地域の「語り部」となってくれることで、地域文化の継承やシティプロモーションが半ば自発的に行われるような好循環も期待できます。

以上のように、関係人口の増加は経済・社会・文化の各面で地域にもたらす恩恵が大きいと考えられます。もちろん、これらの効果はすぐに数値化できるものばかりではありません。しかし少なくとも、関係人口という概念が注目されて数年の間に、国内では様々なポジティブな変化が芽生え始めています。2024年2月の調査によれば、都道府県ごとに推計された関係人口は1県あたり平均約189万人にのぼり、全国合計では約8,900万人と見られています。このなかには、出身地ではないが応援したいと感じている人々も多数含まれており、関係人口のうち約26.2%が「その地域に住んでみたい」と答えています。また、86.2%が「実際に訪れてみたい」と回答しており、こうした地域への高い関心を実際の地域活性化にどうつなげていくかが今後のカギとなります。関係人口を増やし、彼らの持つ多様な力を引き出すことは、人口減少時代の地域維持における希望の一つであると言えるでしょう。

関係人口をKPIとする上での課題:定義の曖昧さと評価の難しさ

関係人口には大きな可能性がある一方で、その定義や指標の曖昧さゆえにKPI(重要業績評価指標)として扱う際の課題も指摘されています。

まず、「誰を関係人口と数えるのか」という定義の問題があります。関係人口は概念上非常に幅広く、「地域外に住みつつ関わる人」全般を指すため明確な線引きが難しいのです。総務省の定義自体が「移住者でも観光客でもなく多様に関わる人々」となっており、裏を返せば消極的・包括的な定義づけで積極的な範囲規定がない状態です。そのため自治体ごと、施策ごとにカウント方法が異なる恐れがあります。

例えば、「ふるさと納税の寄付者は関係人口に含めるのか」「年に1回訪れれば関係人口と言えるのか」「オンラインで関わるだけでも良いのか」など、解釈によって数字が大きく変わり得ます。兵庫県の調査研究では「関係人口の概念規定が曖昧で、定量化する手法は確立されていない」と指摘されており、現状では各種統計や独自調査を組み合わせて試行的に指標化している段階です。例えば兵庫県では関係人口を「縁のある人たち(県外出身者・ふるさと納税者等)」と「行き来する人たち(二地域居住者や特定プログラムの定期参加者)」に分類し、前者を狭義/広義に分けて推計するなど工夫しています。しかしこうした指標は県によって定義が違えば単純比較ができず、KPIとして客観性・汎用性に欠ける恐れがあります。

次に、「頭数としての関係人口」と「地域への効果」の相関という問題があります。仮に関係人口◯◯人増と数値目標を掲げて達成しても、その人数が増えたこと自体が地域活性化につながったかどうかを評価するのは容易ではありません。関係人口〇人といっても、内訳は濃淡様々です。年に数回訪れる熱心なファンと、一度SNSでフォローしただけのライト層が同じ「1カウント」で良いのかという問題です。質的な関わりの深さをどう評価するかも課題となります。実際、一部では「関係人口○万人創出!」と数値だけが独り歩きし、その中身(地域への具体的貢献度)が不透明なケースも見受けられます。

SNSのフォロワー数を単に増やすことが地域の活性化に直結するとは限らず、数値目標の達成だけでは実質的な効果が伴わないのではないかという懸念も一部で指摘されています。要は、KPIとして数値を追うあまり本末転倒になるリスクが存在するのです。関係人口の創出は本来、地域課題の解決や持続的な地域づくりの手段であるにもかかわらず、数の増加そのものが目的化し、本質を見失うような取り組みが見受けられることもあります。単に関与する人数の拡大を目指すだけでは、新たな課題や副作用を招く可能性があり、各取り組みが本当に地域の課題解決につながっているのかを常に見直す視点が求められています。

さらに、受け入れる地域側の体制整備も重要な課題です。関係人口を増やす施策を打っても、地元住民との認識ギャップや摩擦が生じれば逆効果になりかねません。例えば、自治体や事業者は関係人口施策の趣旨を理解していても、一般住民には十分共有されておらず「なぜ知らない人が地域に入ってくるのか」と不安に思われるケースがあります。実際に外部の人が訪れた際、騒音やゴミ問題などのトラブルが発生する懸念も指摘されています。こうした問題は関係人口そのものの評価とは別に運用上の課題ですが、関係人口をいくら増やしても地域社会に溶け込めなければ成果につながらない点で見逃せません。受け入れ側には事前の住民説明やルール整備、訪れる側にもマナー遵守の啓発など、ソフト面での対応が欠かせないでしょう。KPIとして関係人口数だけを追ってしまうと、こうした定性的な課題がおろそかになる恐れがあります。

最後に、政策評価の難しさも挙げられます。関係人口をKPIに設定した場合、その数値目標の達成・未達成だけで政策の成否を判断するのは適切ではありません。仮に目標未達でも、少数の関係人口が地域にもたらした効果が大きければ施策は有意義だったと言えますし、その逆もあり得ます。アウトプット指標(人数)とアウトカム指標(地域の活力向上など)のどちらを重視すべきか、政策担当者は複眼的な検証が求められます。

現在議論されている地方創生2.0のKPI設定でも、「複数の指標を組み合わせて政策の進捗を検証していくこと」が提案されています。例えば関係人口の質的な波及効果を見るために、関係人口による地域プロジェクト数や、関係人口から定住化した人数、あるいは地域住民の満足度といった指標と組み合わせることも考えられるでしょう。曖昧な概念である関係人口単体をKPIに据えるだけでは不十分で、他のKPIとのセットで総合評価する枠組みづくりが課題となっています。

結論:関係人口KPIは地域活性化の切り札となり得るか

家族のイメージ シルエット

地方創生の文脈で登場した「関係人口」は、縮小時代における地域活性化の新たなアプローチとして大きな期待を集めています。若者の定住争奪が難しい中で、移り住まなくても関われる人々に目を向けたことは発想の転換であり、地方にとって一つの救いとなる可能性があります。実際、関係人口を増やす施策からは農家の労働力確保や地域ファン層の拡大など具体的な成果が生まれ始めています。また、関係人口の存在は経済波及効果だけでなく、新しい知恵の注入や文化継承、都市と地方の共生ネットワークづくりにも寄与し得ることが分かってきました。その意味で、関係人口をKPIに据えることには十分な意義があると言えるでしょう。

しかし同時に、本稿で見てきたように課題も浮き彫りです。関係人口という概念自体が曖昧で計測が難しい以上、KPIの設定・運用には慎重さが必要です。数字を増やすこと自体が目的化し、本来の地域課題解決がおろそかになっては本末転倒です。関係人口KPIを活かすには、「何のために増やすのか」「増えた人々と何を成し遂げたいのか」というビジョンを明確に持ち、それに沿った質的評価軸を組み合わせることが不可欠でしょう。

例えば、「関係人口を○人創出」という目標の裏に、「○人のうち×%が地元企業の支援に参加」「地域イベントの開催数アップ」「移住希望者○人輩出」といった具体的な成果指標を伴わせることが考えられます。関係人口はあくまで手段であり人材プールであって、ゴールは地域の活性化そのものです。その点を履き違えない運用こそが、関係人口KPIを有効な政策ツールとする鍵でしょう。

総じて言えば、関係人口をKPIとする地域活性化施策は「有効になり得るが、使い方次第」です。追い風となる社会変化(テレワーク普及や若者の地方志向の高まり等)もあり、この流れを活かさない手はありません。関係人口1,000万人創出という政府目標も掲げられ、今後ますます各地で実践が進むでしょう。大切なのは、数値の大小だけに一喜一憂せず、関係人口が実際に地域にもたらした変化を丁寧に捉えることです。幸い、多くの関係人口は地域に貢献したいという前向きな意欲を持っています。その“想い”を地域側のニーズとマッチングさせ、関係人口自身にも充実感を与えられれば、結果として定住人口の増加にもつながるかもしれません。関係人口KPIはゴールではなくスタートラインです。人と地域をゆるやかに繋ぎ直すこの試みを育てていくことで、人口減少時代にふさわしい持続可能な地域づくりへの道が拓けるのではないでしょうか。

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※参考文献
地域取組事例|地域への新しい入り口『二地域居住・関係人口』ポータルサイト

関係人口の定量化、指標化について