2023年、Googleは、テキサス州ダラス南部のエリス郡Red Oakに6億ドル以上を投じて新しいデータセンターを設立すると発表しました。ダラスは急速な経済成長を遂げており、多くの企業が拠点を移し、世界中から20代〜60代の現役世代が集まることで、人口増加や産業発展が進んでいます。特に、技術産業の中心地として注目を浴びており、それに伴って不動産需要も急増。世界中の投資家がダラスに注目し、企業や人々が次々と集まっています。他のアメリカの大都市が人口減少に直面している中、前例のない成長を遂げています。今回は、この好景気に沸くダラスの現状を深掘りしていきます。
ダラス・フォートワース都市圏とは?
ダラス・フォートワース都市圏(Dallas-Fort Worth Metroplex、以下DFW)は、アメリカ・テキサス州北部に位置する広大な都市圏で、ダラス市、フォートワース市、アーリントン市を中心に、周辺の複数の郡を含む地域を指します。人口約780万人(2023年時点)を抱え、アメリカでも最も急成長している都市圏の一つです。DFWは経済、文化、交通の主要なハブとして機能し、世界中から企業や人材を引き付ける地域として知られています。
DFWは、19世紀後半に鉄道網の発展に伴い、ダラスとフォートワースがそれぞれ商業と物流の中心地として発展したことに始まります。ダラスは繊維産業と金融の拠点として栄え、フォートワースはカウボーイ文化と家畜市場で知られる「カウタウン」として発展しました。この2つの都市が補完的な役割を果たしつつ、現代では巨大な都市圏として統合されています。
DFWの地理的特性は、その成長を支える要因の一つです。アメリカ南部の「サンベルト地帯」に属し、温暖な気候と平坦な地形が特徴です。また、全米のほぼ中央に位置するため、東海岸と西海岸をつなぐ交通の要衝としての地位を確立しています。
DFWは多様な産業が集積する経済の中心地として知られています。主要産業には、金融、物流、テクノロジー、航空宇宙、エネルギーなどがあり、大手企業の本社が数多く集まる「企業密集都市圏」として全米で注目されています。例えば、アメリカン航空、エクソンモービル、AT&Tといったフォーチュン500企業の本社がこの地域に位置しており、地元経済の発展を牽引しています。
また、DFWはテクノロジー産業のハブとしても急成長しており、スタートアップ企業やIT企業が続々と進出しています。さらに、GoogleやAmazonなどの大手企業がデータセンターや物流施設を拡張することで、地域の雇用創出と経済成長を支えています。
DFWは交通の利便性においても際立っています。ダラス・フォートワース国際空港(DFW空港)は、全米第4位の利用者数を誇り、国内外の主要都市へのアクセスを可能にしています。また、高速道路網や鉄道網が整備されており、物流拠点としての重要性が高まっています。これらのインフラは、企業活動や観光産業を支える大きな要因となっています。
DFWは、豊かな文化と多様なライフスタイルを提供する地域でもあります。多様な人種や文化背景を持つ住民が集まることで、レストランや芸術、音楽などの文化的な選択肢が豊富です。また、プロスポーツチーム(ダラス・カウボーイズやダラス・マーベリックスなど)が地域住民にとっての誇りであり、イベントや試合が頻繁に開催されています。
さらに、広々とした住宅と低い生活コストが、家族世帯や移住者にとって大きな魅力となっています。近年では、高品質の教育機関や医療施設が増加しており、生活環境の向上が進んでいます。
DFWは2028年までに人口約847万人に達すると予測され、さらなる経済発展が期待されています。しかし、急速な成長に伴い、交通インフラや住宅供給の課題が浮上しています。これらの課題に対応するため、スマートシティ技術の導入や公共インフラへの投資が進められています。
ダラスの急成長と不動産市場の現状
ダラス・フォートワース・アーリントン(DFW)都市圏は、2028年までに全米で5番目に成長が速い大都市圏になる見込みで、人口は2023年の780万人から2028年には約847万人に増加すると予想されています。この人口増加率は8.64%に達し、他のアメリカの都市圏と比べても著しい成長を示しています。特に、カリフォルニア州からの移住者の流入が増加しており、ダラスはオースティンを抜いて最も人気の移住先として注目されています。
サンベルト地帯の成長
「人口の増加はサンベルト地帯に集中している」としばしば言われています。このエリアでは、オースティンやヒューストンを含む複数の都市が急速に成長しており、それぞれ2028年までに13.55%と9.62%の人口増加が見込まれています。この成長は、ダラスを含むサンベルト地域全体における不動産需要の増加を引き起こしています。人口増加は住宅の需要を促し、ダラス地域の不動産市場を活性化させています。
ダラス地域への移住者の流入が加速する背景
ダラス地域への人口増加は、移住者の増加によってもたらされています。2022年7月から2023年7月の1年間で、ダラス・フォートワース都市圏の人口は約10万1,419人増加しました。この人口増加のうち、1日あたり約278人が新たに移住してきており、その40%以上が国際移民です。移住者の流入は多様なバックグラウンドを持つ人々を集め、地域社会の多様化にも寄与しています。特に、コリン郡、カウフマン郡、ロックウォール郡では移住者の増加が顕著で、これらの地域の人口変動は今後も続くと予測されています。
ダラスの人口増加の要因
ダラスにおける人口増加の要因は、経済的および社会的な要素が密接に絡み合っています。これらの要因が、ダラスを魅力的な移住先としての地位を強化しています。
1. 経済の中心地~大手企業の主要拠点が集まる~
ダラスは、金融、テクノロジー、ヘルスケア、物流、エネルギーといった多様な産業が成長しており、特にテクノロジー関連企業や物流業界の拡大が目立ちます。2020年には1万社以上の企業が集まり、本社密集度の高い都市圏の一つとなり、経済の中心地としての地位を強化しました。2014年には北米トヨタ、2016年にはクボタが米国販売子会社の本社をダラス郊外に移転するなど、日本企業の進出も進んでいます。高所得層の移住が増え、経済活動も一層活発化しています。
2. 豊富な雇用機会
ダラスでは、多様な分野で雇用機会が豊富に存在します。特に、IT、製造、サービス、金融業界での需要が高く、専門職から技術職、ブルーカラー労働者まで幅広い職種が求められています。ダラス・フォートワース・アーリントン都市圏では、2022年11月から2023年11月にかけて約13万9700人の雇用が新たに生まれ、全米トップの雇用増加を記録しました。就業者増加率3.3%は、ダラスの経済成長を反映しています。
3. 生活コストの低さと税制の優遇
ダラスは、ニューヨークやサンフランシスコ、ロサンゼルスなどの大都市と比べて生活コストが低く、特に住宅費が手頃です。広々とした住まいを手に入れやすく、住み心地の良い生活が可能です。また、テキサス州は州所得税がないため、特に高所得者層や企業経営者にとって経済的に有利です。この税制の優遇は他州からの移住者にも大きな魅力となっています。
テキサス州には個人所得税も法人所得税もありません。その代わり、事業税としてフランチャイズ税が存在します。この事業税の税率が低いのも特徴です。年間レシートが118万ドル未満の企業はフランチャイズ税が免除され、118万ドルから1,000万ドルの企業には0.375%、1,000万ドルを超える企業には0.75%の税率が適用されます。この低税率が、企業がテキサス州を進出先として選ぶ大きな理由となっています。
テキサスは生活費やビジネスコストが抑えられており、光熱費や交通費も安価です。特に「テキサス・トライアングル」と呼ばれるヒューストン、ダラス・フォートワース、オースティン、サンアントニオなどの主要都市圏では、コストパフォーマンスの高い生活が可能で、多くの移住者や企業に支持されています。
また、テキサス州には多くの高等教育機関があり、技術、エンジニアリング、サービス分野での優れた人材を育成しています。さらに、シリコンバレーに比べて人件費が低いため、企業にとって優秀な人材を確保しやすく、ハイテク企業やスタートアップの進出も進んでいることも人口増加の要因になっています。
4. インフラと交通の利便性
ダラス・フォートワース国際空港は国内外へのアクセスが非常に良く、ビジネスや観光においても利便性が高いと評価されています。また、高速道路や公共交通機関が整備されており、都市圏内での移動も容易です。道路や公共サービスのインフラも強化されており、住民の生活環境が向上しています。
5. 教育と生活環境の整備
ダラスには多くの有名大学や教育機関が存在し、特に子育て世帯にとっては教育環境が整っていることが魅力です。また、ダラスは多文化都市であり、レストラン、ショッピング、アート、音楽といった娯楽の選択肢が豊富で、多様な文化体験ができる点も移住者にとっての魅力の一つです。
ダラスの不動産市場の現状
ダラスの不動産市場は、急速な人口増加や経済発展により、住宅価格の上昇と需要の高まりが見られます。以下に、ダラスの不動産市場における現状と動向を解説します。
1. 住宅価格の上昇
ダラスの住宅価格は過去10年間で142%も急騰しており、2023年時点でダラス・フォートワース(DFW)都市圏の住宅価格の中央値は約40万ドルを超えています。前年同期と比べても約10%の上昇が見られ、全米平均よりも高い水準です。特に郊外地域での価格上昇が顕著ですが、ニューヨークやロサンゼルスのような他の大都市と比べると、まだ手頃な価格帯が維持されており、移住者にとっても魅力的な市場となっています。
2. 不動産需要の拡大
人口増加が不動産市場の需要を押し上げる主要な要因となっています。特に、他州からの移住者や国際移民の流入により、住宅を購入・賃貸する人々の数が増えています。この需要の高まりが、住宅価格の上昇に拍車をかけており、市場での競争が激化しています。
3.賃貸市場の動向
ダラス地域は若年層の移住者が増加しており、これが賃貸市場の強い需要を支えており、ダラスの賃貸市場は活発ですが、変動があります。近年、住宅購入が難しい層が増えており、特に住宅価格の急騰と金利の上昇が背景にあります。そのため、多くの人が短期的に賃貸物件を選ぶ傾向が強まりました。2022年には賃料が前年比で17.5%上昇し、2023年も一部の地域で賃料の増加が続いていますが、全体的には賃貸市場の成長ペースがやや緩やかになってきています。
ダラスの商業用不動産市場の成長
ダラスは商業用不動産市場でも成長を見せています。リモートワークの普及により一時的にオフィス需要が減少しましたが、企業移転の増加や物流施設への需要拡大により、商業用不動産市場が再び活況を呈しています。
1. オフィス市場の動向
リモートワークの影響で、オフィススペースの需要は変化しましたが、ダラスでは多くの企業が本社を移転してきています。オフィス需要が回復基調にあり、特にダラス中心部や北部の郊外エリアで新しいオフィススペースの開発が進行中です。
2. 物流施設への需要
eコマースの成長により、ダラスは物流拠点としての役割が強化されています。大手企業が物流ネットワークを拡大し、倉庫やフルフィルメントセンターへの需要が急増しており、物流施設への投資も進んでおり、ダラスの商業用不動産市場は今後も成長が期待されています。
3.データセンターへの需要
ダラス・フォートワース地域は、北バージニア州に次いで全米第2位のデータセンター市場です。現在、南ダラスではCompass Data CentersとStream Data Centersの施設が、北フォートワースではQTS Data Centersの施設が、そしてガーランドではNTT Dataの施設が建設中です。この成長は、テキサスがデータセンター市場での地位をさらに強化していることを示しています。
ダラスの今後の見通しと課題
ダラス・フォートワース(DFW)都市圏は、今後数十年にわたり急成長すると予測されており、2100年までにアメリカ最大の都市圏になる可能性があります。人口が約3,391万人に達する見通しであり、これにより経済活動が大きく拡大するでしょう。この急成長は、経済全般に大きな影響を与えると考えられ、特に以下のポイントが重要です。
(1)人口増加と経済成長
DFWの人口が急増することで、消費者市場が拡大し、サービス業や小売業をはじめ、広範な産業に成長の機会が生まれます。また、移住者の増加に伴い、住宅やインフラ整備への投資が進み、これが地域経済にさらなる勢いをもたらすと予想されます。労働力の増加も、技術産業や製造業の発展を支える重要な要素となります。
(2)不動産市場の課題
急速な人口増加に伴い、不動産市場も活発に成長していますが、住宅価格の高騰が問題となっています。特に中低所得層にとって、手頃な住居を確保するのが難しくなっており、住宅価格の上昇が労働者の採用や維持にも影響を与えています。この問題に対処するため、価格抑制策や供給拡大が必要ですが、現在のところ、これらの取り組みは十分ではありません。
(3)インフラ整備の遅れ
急速な人口増加に対応するため、交通インフラや公共サービスの整備が重要です。特に郊外地域では、交通渋滞が深刻化しており、インフラの整備が追いついていないことが大きな課題となっています。
(4)商業用不動産の不安定さ
一方で、商業用不動産市場には不安定な要素も見られます。アトランタなど他の都市では債務不履行が増加しており、ダラスでも同様のリスクが懸念されています。高金利やインフレの影響で、特に商業用不動産ローンの返済が困難になる企業が増加する可能性があります。
まとめ
ダラスは人口増加と経済成長に支えられ、不動産市場においても魅力的な都市としての地位を確立しています。住宅価格や賃貸需要の上昇、商業用不動産市場の成長が続いている中で、今後も投資家や移住者にとって注目される地域であり続けるでしょう。しかし、インフラ整備や住宅価格の高騰への対応が今後の課題として残されており、これらの問題に対処する政策や開発プロジェクトがダラスの持続的な成長に重要な役割を果たすでしょう。
※参考文献
2100年のダラスが米国最大の都市圏となる?
Will These be the Most Populated U.S. Cities in 2100? (Before and After)
FRB「アメリカ経済、今後6カ月は成長鈍化見通し」 ベージュブック - 日本経済新聞
なぜ、ダラスに北米拠点を置く日本企業が急増しているか | Forbes JAPAN 公式サイト
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