Jason Ye
DeSpread共同創業者兼CEO。Web3分野における豊富な経験を活かし、グローバルなスタートアップ支援とエコシステム構築に取り組む。
Robbie Oh
Altos Ventureアソシエイト。Web3スタートアップの創業メンバーとしての実績を持ち、Entrepreneur Firstにも参加経験あり。投資と起業双方の視点から次世代事業を支援。
Youbin Kang
Nonce Classic創業者兼CEO。ソウル大学で経営学とベンチャー起業を専攻後、デロイトで戦略コンサルタントを経験。2018年に暗号資産取引会社Alphanonceを共同創業し、COOを務めた。2020年にNonce Classicを設立し、20〜30社以上のWeb3スタートアップを支援。
Daniel Hwang
Kintsugi Technologies CEO。2013年よりビットコインマイニングや送金事業に携わり、ブロックチェーン分野で10年以上の経験を持つ。stakefishやF2Poolでチームを率いたほか、Blockchain Infrastructure ForumやValidator Commonsを創設。持続可能なブロックチェーン推進にも注力。
暗号資産と韓国の特別な関係
近年、暗号資産(仮想通貨)に関する国際的なカンファレンスやプロジェクトの多くが韓国に注目しています。毎年6万人以上が韓国を訪れ、会場には2万人近い参加者が列を作る光景が見られます。この背景には、韓国市場が持つ独特の魅力と課題が存在しています。本記事では、セミナーで交わされた議論を整理し、韓国市場の現状と未来を考察します。
第1章:韓国市場の特徴と構造
暗号資産コミュニティの4つの要素
暗号資産のコミュニティは「ビジョン」「投資家」「ユーザー」「ビルダー」の4つの要素で構成されるといわれます。韓国では特に「ユーザー」の存在感が大きい点が特徴です。投資家や機関投資がまだ十分に育っていない一方で、一般ユーザーが市場を牽引してきました。
ユーザー市場としての強み
韓国は世界有数のデジタル先進国であり、ITインフラの整備や高い教育水準によって、新しい暗号資産や関連サービスを試す「消費者」としての力を持っています。米国や中国が開発者市場として強みを持つのに対し、韓国は「ユーザー市場」として世界のプロジェクトから注目されているのです。
投資環境の背景
株式市場は10年以上停滞し、不動産市場も高齢世代に独占されているため、若者世代にとって資産形成の選択肢は限られています。その結果、暗号資産が「数少ないリスク資産」として注目され、若年層を中心に投資が広がってきました。
第2章:国際プロジェクトを惹きつける理由
韓国市場の魅力
ベトナムなど他国では取引所に課題が多い一方で、韓国は取引量の多さとユーザー基盤の厚さで際立っています。そのため、海外プロジェクトは韓国を「トークン販売」や「初期ユーザー獲得」の場として位置付けています。
投資とスタートアップの動き
2008年以降、韓国は急速にモバイルやデジタル分野への投資が進み、外国企業も消費者向けスタートアップに積極的に資金を投じてきました。新技術を歓迎する文化が暗号資産にも広がっており、海外チームにとって参入しやすい環境が整っています。
リスティング効果
韓国の大手取引所であるBithumbやUpbitへの上場は、プロジェクトにとって「飛躍のチャンス」です。上場が即座に注目を集め、価値を高める「リスティング効果」は、韓国市場ならではの現象といえます。
第3章:課題と批判
投機市場という側面
一方で、韓国は「海外プロジェクトの資金回収の場」と批判されることもあります。十分な実用性を持たないトークンが売り込まれ、短期的な投機の場となるリスクが存在しています。
規制と透明性の不足
韓国政府は包括的な暗号資産規制を十分に整備できていません。取引所ごとに独自基準を設けてはいるものの透明性に欠け、健全な市場育成を阻害していると指摘されています。今後は統一的で厳格な規制整備が求められています。
Terra崩壊の影響
2021年には韓国から世界的なプロジェクトが登場しましたが、Terraショックによって市場全体が大きな打撃を受けました。それ以降、多くのプロジェクトが国内ではなく海外市場に軸足を移す傾向が強まっています。
第4章:成熟する韓国の投資家層
投資家の成長
かつては「新規上場=熱狂」という図式がありましたが、近年では投資家層が経験を積み、プロジェクトの持続性や実用性を冷静に判断する傾向が強まっています。若年層から中高年層までが学びを深め、市場は徐々に成熟しています。
投資判断の変化
現在では「ユースケースがあるのか」「本当に価値を生み出すのか」といった点に注目する投資家が増えており、単なる投機市場から「選別の市場」へと変わりつつあります。
第5章:韓国市場の未来展望
規制整備の必要性
今後の最大の課題は「透明性と信頼性の確保」です。政府と取引所が協力し、統一された上場基準や監査制度を導入することで、国内外のプロジェクトがより健全に参入できる市場をつくることが可能になります。
ビルダー育成の重要性
韓国市場はこれまで「ユーザー」と「投資家」が中心でしたが、持続的な発展のためには「ビルダー(開発者)」の育成が不可欠です。大学やスタートアップ支援との連携によって、真に革新的なプロジェクトを育む環境が求められています。
グローバル市場との接続
韓国発のプロジェクトが再び世界をリードするためには、シンガポールや米国など海外市場との接続が不可欠です。Terra崩壊の教訓を踏まえ、より強固で持続的な基盤を構築できるかが試されています。
結論:矛盾を抱えつつ進化する韓国市場
韓国は「暗号資産プロジェクトの登竜門」としての魅力を持ちながらも、「投機的市場」と批判される矛盾を抱えています。しかし、その矛盾こそが世界の注目を集める理由でもあります。
若者が資産形成の手段を求め、取引所が影響力を拡大し、海外プロジェクトが集まる――このダイナミズムの中で、韓国市場は単なる投機の場から「持続的なイノベーションの拠点」へと進化できるのか、いままさに岐路に立っているのです。