ターゲットはDXに成功

アメリカのDX事例から学ぶ、日本の中小企業が取り組むべき課題とは?

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デジタルトランスフォーメーションは、現在世界中の企業が取り組んでいる喫緊の課題であり、日本企業も例外ではありません。しかしながら、思っていたような結果をDX推進から得られないばかりか、人材不足の影響により、まともにDXを進められないというケースも散見されます。

 

今回は、DX先進国であるアメリカのDX事例や導入状況を踏まえ、日本の中小企業が今取り組むべきDXのあり方について、ご紹介します。

 

日米で分かれるDXへの取り組み状況

まずは、日本とアメリカの間でどれくらいDXの取り組みに差が生まれているのかについて、確認しておきましょう。

 

日本はアメリカに対して大きく遅れをとる

情報処理推進機構(IPA)が2021年10月11日に発表した調査結果では、「全社戦略に基づいてデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる」という企業の割合は、日本は45%、米国は72%と、大きなギャップが生まれていることがわかっています。

 

参考:「DXに取り組んでいる」45% IPAが白書、米国に後れ: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

また、DXの推進力となるDX人材の不足感についても、アメリカは54%の企業が不足感を覚えていないにもかかわらず、日本ではわずか17%の企業しか不足はないと回答していません。

 

つまり、残りの83%の日本企業は程度の差こそあれ、DX人材の不足が課題となっていることがわかります。

 

DXの遅れは何をもたらすのか?

多くの企業がDXに対して積極的に取り組んでいるのは、労働人口の不足に伴い生産性の向上が不可欠になりつつあることが、大きな理由として挙げられます。また、経済産業省は「2025年の崖」の到来を呼びかけ、各社へ積極的なDXの推進を呼びかけています。これは、日本国内の企業が抱える基幹システムが老朽化することで、運用負担が年間およそ12兆円まで膨れ上がり、競争率の低下につながることを危惧したものです。

 

DXの実現は、更なる成長を求める企業はもちろん、組織の持続可能性を高める上でも不可欠な取り組みとなっています。

 

アメリカにおけるDXの実践事例

 DX先進国であるアメリカにおいては、どのようなDXが実践されているのでしょうか。ここで2つの代表的な事例をもとに、アメリカ式のDXを確認しておきましょう。

 

ドミノ・ピザ

デリバリーピザ大手のドミノ・ピザは、デリバリー・飲食業界の中でも早い段階からDXを実現してきた企業の一つです。

 

2008年ごろ、同社はサービス品質の低下に伴い顧客離れが進み、株価も上場以来最低値を記録するなどの低迷に悩まされていました。そこで同社では業界では当時初となるオンラインデリバリーシステムを構築し、確実かつ迅速な配達が行える環境を実現したことで、サービスの向上に努めたのです。

 

そして2010年に最高デジタル責任者(CDO)となった Dennis Maloney 氏主導の下、全社的なDXが始まりました。デジタルデバイスを使ってどこからでもピザを注文できるシステムを整備し、事前登録しておいた個人情報を活用することで、スピーディに注文を届けてもらえるようアップデートされています。

 

現地での売上の65%はこのデリバリーシステムからの注文となっており、従来の煩雑なシステムを解消しつつ、サービスの向上にも取り組めた先進的な事例です。

 

参考:米国企業におけるDXの成功例 p.3 (dir.co.jp)

 

ターゲット

米大手小売店のターゲットは、同業界の中でも比較的DXの遅れていた「腰の重い」大企業とされてきましたが、2015年にCIOの座にMichael McNamara 氏が就任して以来、急速なDXの実現に成功させています。

 

同社がまず取り組んだのは、自社テクノロジーチームの構築です。これまではテクノロジー部門の人員の70%が外部委託業者で占められていたところ、新たにエンジニアを大量に雇用し、自社エンジニア比率を逆に70%にまで引き上げています。

 

また、全米1,900店舗を展開している実店舗経営の強みを生かし、オンライン注文と実店舗の融合にも注力しました。オンラインで購入した商品は、1時間以内に最寄りの店舗で受け取れるというシステムを構築し、顧客の商品購入に必要な時間を大幅に抑えるこに成功しました。

 

参考:米国企業におけるDXの成功例 p.5 (dir.co.jp)

 

DXに対する日米の決定的なアプローチの違い

上記はいずれもアメリカにおける大企業の事例ですが、中小企業においても日本より先進的な取り組みが行われています。ここでは、もう少し具体的に日米の間でどんな違いがあるのかについて、見ていきましょう。

 

中小企業が大半を占めるのは両国とも同じ

まずは、中小企業の割合についてです。現在日本にはおよそ382万という数の企業があるとされていますが、そのうちの99.7%は中小企業です。

 

一方のアメリカについても、分母こそ後者の方が大いにせよ、同様の傾向が見られます。アメリカでは国内の中小企業が占める割合は99.9%にのぼるとされており、全労働者の47.1%は中小企業に勤めているということです。

 

参考:日本企業の99.7%が中小、暮らし密着で社会を支える/後継者不足が課題、650万人の雇用失う恐れも:朝日新聞DIALOG (asahi.com)

 

US_SSMB_Full_Report.pdf p.7 (fb.com)

 

大企業の事例だけを見てみると、アメリカでも日本同様、大企業だけだDXを実現できていると考えてしまいがちです。しかし実際には、日本よりもわずかに中小企業の割合が大きいアメリカの方が、遥かにスムーズにDXを実現できつつあるのです。

 

経営者主導で行われるアメリカのDX

アメリカがスムーズのDXを実現できている理由の一つに、経営者主導のDXが行われている点が挙げられます。

 

上述したドミノ・ピザやターゲットについては、いずれも経営層の責任者がDXをトップダウンで進めていったことが成功の要因として考えられています。DXは従来のIT導入とは異なり、文化的な革新が求められる取り組みでもあります。

 

現場の声に則った実用的なシステムの導入はもちろん、テクノロジーを有効活用できる企業文化の醸成のためには、経営層の関与が欠かせないところです。

 

DXの「内製化」が顕著に進んでいるアメリカ

もう一つの成功要因が、DXを内製化して取り組めている点です。アメリカではDXの推進を外部企業に委託するのではなく、自社でエンジニアを抱え込むことで、主体性を確保できています。

 

前述のターゲットの事例においても、まずは自社エンジニアの割合を増やすことからDXを進めていました。自社でリソースを割き、確実に自社にとって利益になるシステムの導入と、従業員のDXリテラシーを高めることで、次世代でも持続可能なDX企業として生まれ変わることに成功しています。

 

数字で見る日米のIT事情に関するギャップ

日本とアメリカの間でDX対応にギャップが生まれているのには、さまざまな要因が考えられます。具体的な数字から、どんな部分が日本企業には不足しているのかについて、確認しておきましょう。

 

圧倒的なIT人材の不足

まず見ておきたいのが、IT人材の確保状況についてです。総務省が発表しているデータによると、2015年の日米の情報処理・通信に携わる人材数の推計は、日本が105万人であるのに対し、アメリカは420万人と、4倍もの差をつけて確保できているのがわかります。

 

参考:総務省|平成30年版 情報通信白書|日米のICT人材の比較 (soumu.go.jp)

 

人口比で考えてみても、日本のIT人材不足は浮き彫りになっており、必要十分な数の確保は今後も課題として残り続けるでしょう。

 

また、採用技術が高度化するとともに、ますますハイレベルなエンジニアやデータサイエンティストが必要になってくることも予想されます。高度な業務に対応できる人材を確保するためには、外部から雇い入れるだけでなく、自社でもDXに向けた人材教育に取り組まなければいけなくなるでしょう。

 

システム会社に依存する日本企業のDX

上記のデータからもう一つ取り上げたいのは、エンジニアが所属している企業の属性です。アメリカではユーザ企業にエンジニアの65%が在籍している一方、日本でユーザ企業に属しているのはわずか28%です。

 

これは、アメリカでは各企業で自社エンジニアの囲い込みが行われている一方、日本企業ではほぼ自社でエンジニアを抱えず、業務は全て外部のベンダー企業に委託していることを示している結果でもあります。

 

雇用習慣の違いから、人材の流動性の低さがこのような結果をもたらしているとはいえ、今後DXを推進していく上では、自社でのDX人材確保、及び育成が欠かせないものになっていくでしょう。

 

DXの遅れを解消するために日本企業が実行すべきこと

こういった日本とアメリカにおけるDXの進捗状況や課題の違いを受けて、日本の中小企業はどのような問題から解消していくべきなのでしょうか。ここでは優先的に取り組むべき三つのポイントについて、おさらいも兼ねて確認しておきましょう。

 

自律的なDXに向けた取り組み

一つ目は、自律的なDXの推進に力を入れることです。アメリカでDXに成功している企業の多くは自社エンジニアの確保や、その他DX人材の養成にかねてより取り組んできました。外部企業に委託せず、DXのコアとなる部分は自社で開発することで、効果的な導入効果と持続可能な企業文化を養うことができます。

 

業務を委託しなくともDXを進められる企業へと生まれ変わることが、強く求められています。

 

社内人材への徹底したIT教育

二つ目は、IT教育の強化です。アメリカではある程度DX人材の確保が追いついている一方、日本では顕著な人材不足が発生しています。人材不足の解消を一朝一夕で実現することは難しく、外部から招き入れるためのコストは増加傾向にあります。

 

そのため、必要最低限の新規人材確保で済ませられるよう、既存社員のIT教育も強化しなければなりません。基礎的なITスキルを養っておけば、時間をかけずにスムーズな移行も実現するため、DXの負担を軽減するために必要となるでしょう。

 

経営者の積極的なコミットメント

三つ目は、経営者の積極的なDXへの関与です。DXは企業文化を一から作り直すことが求められますが、これはデータドリブンで客観的な意思決定が経営層にも求められるためです。従来のように主観的な経営判断の影響力は必然的に小さくなりますが、データに基づく意思決定により、企業の安定性は飛躍的に向上します。

 

企業成長を円滑に実現し、将来性のある組織として世間に認められる上でも、このような意識改革は必須となります。CDOやCIOといった役職も設置し、トップダウンで速やかにDXを実行できる仕組みを整備するのも有効です。

 

おわりに

今回はアメリカのDX事例を取り上げながら、日本の企業が目指すべきDXのアプローチや組織作りについて、ご紹介しました。

 

日本はアメリカと比べて今ひとつDXが進んでいませんが、それには人材の流動性が低いことや、DX人材の母数が不足していることなど、多くの要因が絡み合って遅れを生んでいると考えられます。

 

DX実現に伴う「もつれ」を少しでも解消するためにも、できることから有効な解決策に取り組んでいく必要があるでしょう。