Techsaurceセミナー報告:スマートホスピタルとヘルステックの最前線

Techsaurceセミナー報告:スマートホスピタルとヘルステックの最前線

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2025年8月に開催された「Techsauce Global Summit 2025」では、スマートホスピタルとヘルステックの最新動向をテーマとするパネルディスカッションが行われました。医療現場でのデジタル変革、チーム編成、患者中心のサービス設計、そしてAIやIoTの活用事例まで、多岐にわたる知見が共有されました。

Techsaurceセミナー報告:スマートホスピタルとヘルステックの最前線

登壇者プロフィール(セッション登壇者)

チョイ・ジョンス博士
サムスンメディカルセンター 最高技術責任者。医療分野における高度な技術導入とデジタルトランスフォーメーションを推進し、スマートホスピタル構築の第一線で活躍しています。

プラウド・パタナヴァニッチ
メドパーク病院 副最高総務責任者兼イノベーション部門ディレクター。医療サービスの質向上と業務効率化のための革新的プロジェクトを主導し、多職種連携による組織運営の改善に取り組んでいます。

スージー・A・ラフ
ラフ&コー 創設者兼エグゼクティブアドバイザー。国際的なビジネス戦略とイノベーション推進に豊富な経験を持ち、医療・ヘルスケア分野における顧客中心アプローチの普及に尽力しています。


本セッションは、スマートホスピタルの実現とヘルステック導入における課題と成功事例をテーマに展開されました。医療現場の複雑さ、患者ニーズの多様化、技術革新の加速を背景に、登壇者たちは実務経験をもとに、現場で何が機能し、何が課題なのかを具体的に語りました。

アジャイルチームと自律的開発体制の構築

メドパーク病院の事例では、完全自律型のアジャイルチームが紹介されました。

チームは全員がフルタイムでプロジェクトに参加し、プロダクトオーナーが全ての仕様を細かく指示するのではなく、開発チーム自身がユーザーやステークホルダーと直接会い、観察・ヒアリング・検証を行う体制をとっています。

プロダクトオーナーの役割は、優先順位の決定に特化しています。何を先に開発するべきかは、ビジネス上の価値と患者への影響を両面から評価する必要があるため、高度な判断力が求められます。

医療現場でのデジタル変革と多職種連携の重要性

サムスンメディカルセンターのチョイ博士は、病院の電子カルテ(EMR)導入から30年以上の経験を語りました。

1990年当初、デジタル変革を担うのはIT技術者1人だけでしたが、現在では医師、看護師、放射線技師など、現場の業務フローを熟知したドメイン専門家が多数参画しています。

この変化は、単なるIT導入ではなく、患者中心の医療サービス設計を可能にするものであり、現場経験者がシステムの将来像を構想する重要性を示しています。

サービスデザインと開発の融合における課題

スージー・A・ラフ氏は、サービスデザインチームとアジャイル開発チームの協働の難しさについて言及しました。

医療は人命に直結するため、サービスデザインは時間をかけた調査と安全性の検証が必須です。一方、開発チームは短いスプリントで迅速に進めるため、このスピード感の差が調整の難易度を高めます。

特にタイではサービスデザイナーの人材が不足しており、適任者を見つけるまでに試行錯誤が続いたといいます。

「技術よりも人」に焦点を当てた最終メッセージ

ディスカッションの最後に、各登壇者は次のような提言を述べました。

チョイ博士:「ITの視点だけでなく、患者や医療従事者の視点で考えることが、大きな変化を生みます。」

パタナヴァニッチ氏:「医療は病院内だけで完結するものではありません。患者の生活全体を理解し、その背景や心理に寄り添うことが、本質的な健康アウトカムの改善につながります。」

AI・IoTを活用したヘルステック製品の紹介と商談

1. AIによる転倒検知システム

高齢者や要介護患者向けに、カメラとAIを組み合わせた転倒リスク検知システムが紹介されました。

患者にウェアラブル機器を装着させる必要がなく、設置されたカメラ映像をAIボックスで解析し、転倒の前兆を迅速に検知します。

すでにタイ国内の高級老人ホームでPOC(概念実証)と導入が進んでおり、日本や米国市場への進出も計画されています。

2. AIデータ統合・分析サービス

金融機関やトレーディングプラットフォーム向けに、AIによるデータ統合・可視化サービスを提供する事例も紹介されました。

複数のデータソースを統合し、意思決定を支援する仕組みは、医療分野にも応用可能とされています。

3. チケッティング・施設管理システム

RFIDや専用ハードウェアと連携し、施設運営やイベント管理を効率化するチケッティングシステムの事例も取り上げられました。

ネットワーキングと市場連携の可能性

セッション後半は、参加者同士によるビジネスマッチングや情報交換が活発に行われました。

特に高齢化が進む日本市場は、AI転倒検知や介護支援ソリューションにとって有望であるとの意見が多く、パートナー候補や顧客紹介が相次ぎました。

総括

本セミナーを通じて、スマートホスピタルやヘルステック分野においては、技術革新と同等以上に「人」の要素が重要であることが明らかになりました。

効果的なチーム編成、現場知識の活用、患者視点での設計、そして多職種連携が成功の鍵となります。

AIやIoTなどの最新技術は大きな可能性を秘めていますが、最大限の効果を発揮するには、患者や利用者の生活全体を理解し、それに基づいた設計・運用が不可欠です。今後のヘルステック業界は、人間中心設計(Human-Centered Design)を核とした進化が求められます。

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