世界中で新しいサービスの提供に向けて、次々とスタートアップ企業が登場しており、日本も例外ではありません。従来の企業ではなし得なかったニッチ市場へ参入すべく、各社でサービス・プロダクト開発が進められています。
そんな中、競合企業との差別化を図り、有益な製品を開発するためのノウハウが、広く普及しつつあります。その一つがデザインスプリントと呼ばれる手法で、欧米を中心に、広く世界中で採用されています。
今回はそんなデザインスプリントから得られる導入効果や、その実践方法について、事例を踏まえながらご紹介します。
デザインスプリントとは
デザインスプリントは、短期間で製品のプロトタイプまでを一から開発し、検証に至るまでのフレームワークです。Googleのスタートアップ部門であるGoogle Venturesが編み出した開発手法として、広く知られており、今では多くのスタートアップで採用されています。
通常、新しい製品の開発には多くの時間を要しますが、近年は、社会のトレンドやニーズの移り変わりが激しく、市場が求める製品のありようはダイナミックに変化しています。デザインスプリントの手法を採用することで、短期間で効率よくサービスを開発し、より市場ニーズにフィットした製品の提供、及び改善に努めることができます。
デザイン思考との違い
デザインスプリントと似た言葉として、デザイン思考と呼ばれる言葉が知られています。デザイン思考は、新しいデザインを生み出すための考え方の一種として知られており、人間が主体となって考えるための方法です。
一方で、デザインスプリントは、デザインを形にするためのフレームワークの一種です。デザイン思考がデザインスプリントに参加するメンバーの間で浸透していれば浸透しているほど、優れたデザインのプロダクトの創出を促せます。
デザイン思考で培ったイノベーション能力を、デザインスプリントをはじめとする各種開発フレームワークで活かしましょう。
デザインスプリント導入のメリット
デザインスプリントを導入することは、組織に良い影響を与えます。デザインスプリント導入のメリットについて、確認しておきましょう。
アイデア出しを高速で行える
デザインスプリントの1つ目のメリットは、アイデア出しを高速で行える点です。デザインスプリントはその仕組みの都合上、限られた短い期間のなかでアイデアを出し、プロトタイプにまで落とし込まなければならないため、必然的にアイデア出しに使える時間も限られてきます。
開発期間が極端に限られている分、アイデアについても素早くアウトプットしなければならず、ダラダラとアイデアを募るよりも効率よくアイデアを集められます。
高い集中力で業務に取り組める
デザインスプリントは、とにかく従来よりも、はるかに短期間でプロジェクトを完成させなければならず、そのためには高い集中力が必要です。
プロジェクト参加メンバーは、否が応でも、テキパキとプロジェクトを前進させなければならないプレッシャーにさらされるので、無期限のプロジェクトに比べて、はるかに高いパフォーマンスを発揮します。
短期間では熟慮できない故に良いものができないのでは、と思われるかもしれませんが、デザインスプリントにおいては単に開発して終わり、ではなく、検証や改善の時間も踏まえています。そのため、後から改善を適切に加えていくことで、完成度の高い製品の登場を促せる、合理的な手法です。
チームワークや信頼関係が向上する
短期間で成果を出すためには、個人で持てる限りの力を発揮することはもちろんですが、チームでプロジェクトを完成させるアプローチも必要です。お互いに効率的な連携ができる関係性や役割分担を実現し、チームワークの向上につながります。
また、プロジェクトを通じてお互いのできること・できないことを明確にし、業務に対する取り組み方を互いに知ることができるため、信頼関係の向上にも役立ちます。
まだチームを結成して間もない頃にデザインスプリントを実践することで、チーム力の強化と相互理解を深めるのも有効な方法でしょう。
デザインスプリントの実践ステップ
デザインスプリントは、主に以下の5つのステップに則って実践します。また、1つの行程にかけられる時間は1日で、5つのステップをこなして完成とするため、およそ5日間の計画となります。それぞれの工程についての理解を深めましょう。
1.理解
1つ目のステップは、「理解」です。新たに開発するサービスやプロダクトを通じて、どのような課題を解決するのか、どんなユーザーをターゲットにすべきなのかなどを検討します。
理解のステップにおいては、問題解決に必要な情報収集に努めます。ユーザーインタビューやリサーチ情報の収集などを行い、課題解決のきっかけを掴み、今後のステップに役立てます。
2.発散
2つ目のステップは「発散」です。「理解」のフェーズを通じて獲得した情報を参考にしながら、課題解決につながるアイデアのアウトプットを進めます。
プロダクト開発のためにアイデアを出すタイミングは、後にも先にもここが最初で最後となります。この期間の間(基本は1日)に、形になりそうなアイデアを探し出さなければならないため、最も創造性の高いステップであるとも言えます。
1つ前のステップではこのことを逆算し、情報収集の時からアイデアをなんとなく膨らませるイメージを持ち、「発散」フェーズに備えることが大切です。
3.決定
3つ目のステップは「決定」です。このステップにおいては、「発散」フェーズで生まれたどのアイデアが最も課題解決にふさわしいかを決定し、実行に移していきます。プロジェクトを進めるにあたって必要な情報を整理し、チーム内で役割を決めたり、認識を固めたりします。
4.プロトタイプ
4つ目のステップは「プロトタイプ」です。このフェーズでは、プロダクトを実際に使ってみることができる段階にまで仕上げ、アイデアを形にします。実際にアイデアを形にしてみることで、その使用感を確認したり、どんな機能が有効であるかを肌で感じ取ることができます。
短期間の作業であるためディテールを作り込むことは難しいですが、必要なエッセンスをできる限り搭載し、完成にこぎつけましょう。
5.検証
5つ目のステップが「検証」です。実際にプロトタイプを作成して得られた知見をまとめ、必要だった機能や課題となる箇所について、チームで話し合います。機能性についての改善点はもちろん「実際に製品化する際の問題とは?」という、ビジネスの観点からプロダクトを評価することも大切です。
検証結果をもとにレポートをまとめ、製品化が可能なのかどうか、あるいは何を改善すべきなのかを整理することが大切です。
デザインスプリントの導入事例
デザインスプリントを導入している事例は次々と登場し、一定の成果を各社で収めています。ここで、国内企業におけるデザインスプリントの導入事例を確認してみましょう。
Enlyt
アジャイル開発を手掛けるEnlytでは、サービス開発においてデザインスプリントを実践しています。
セオリーに則った短期間でのサービス開発では、デザインやページそのもののアップデートを実現しました。デザインスプリントを通じて、よりユーザビリティが高いページのあり方や、ユーザーニーズに刺さるデザインのあり方を発見することができ、製品開発の改善につなげられています。
参考:https://enlyt.co.jp/blog/design-sprint
AOKI
紳士服でお馴染みのAOKIでは、ビジネスファッションのサブスクリプションサービスの展開に伴い、あらかじめデザインスプリントを実践し、プロジェクトの満足度アップを目指しています。
通常なら5日間で実践するところを工程を短縮し、2日間という密度で実施した結果、最小限にまで無駄な議論や手続きを排除し、ユーザーテストなどにまで到達することができています。
参考:https://finders.me/articles.php?id=264
デザインスプリント実践のポイント
デザインスプリントの実践においては、以下の3つのポイントを押さえておくことが大切です。
スケジュール管理に気をつける
1つ目のポイントは、スケジュール管理です。デザインスプリントは短期間でアウトプットを実現するということが重要であるため、どれか一つの手順に遅れが生じてしまうと不都合が生じます。
モチベーションや高いパフォーマンスを維持する上でもスケジュールを守ることは必須で、とにかく時間厳守で前進することが大切です。
インプットの時間をしっかりとっておく
2つ目のポイントは、インプットに時間をかけることです。1つ目の情報収集はもちろんですが、実際にデザインスプリントを開始するにあたって、メンバーの中で、ある程度の見当をつける事前情報収集を行っておくことがベターです。特に、デザインスプリントに慣れていないタイミングでは、既存情報が不足していたり、どのように情報を整理していいのかがわからず、実行に移せないという事態も起こりかねません。
情報のインプットには時間をかけ、テキパキとアウトプットにつなげられるよう備えておきましょう。
アイデアは取捨選択する
3つ目のポイントは、アイデアに深くこだわりすぎないことです。多くの優れたアイデアが現れたとしても、短期間の間に実装できるのは一部であるため、全てを実装することにこだわりすぎてしまうと、アウトプットに統一感がない、機能性に劣るといった不具合が発生しかねません。
当初の課題解決のコンセプトに則り、「どの機能が最も大切なのか」ということを踏まえ、実装アイデアを洗練させましょう。
まとめ
デザインスプリントは、中小規模の組織で積極的に採用されている、非常に有力な開発フレームワークです。改善や検証の時間を確保することが前提となっているため、確実にプロダクトを開発し、改善まで進めなければならない際にも役立ちます。
積極的にデザインスプリントを採用し、チーム力の向上と技術力の向上に努めましょう。