トレンドの変遷が加速する現代のマーケットで、成長できる組織を実現するためには、柔軟な思考力を持った人材や、その思考力を活かせる環境づくりが欠かせません。多くの先進企業で導入されている思考のフレームワークとして代表的なのが、デザイン思考です。
デザイン思考の実践によって、新しいアイデアの創出を促し、マーケットの拡大につなげることができます。今回はそんなデザイン思考の導入メリットや、具体的な導入方法について、ご紹介します。
デザイン思考とは
そもそもデザイン思考とは、ユーザーの視点に立って解消が必要なニーズを発見し、それを軸にした製品開発や企画の検討を行い、課題解決に貢献するというものの考え方です。
需要に即したビジネスを展開する上で、ユーザーへの視点は欠かせませんが、デザイン思考においては特にユーザーニーズへ敏感になり、それらへ確実に応えられるビジネスモデルの構築を促します。
アート思考との違い
デザイン思考と似たような言葉に、アート思考と呼ばれるものがあります。アート思考は、現実の芸術作品のように、現実との接点を持たない、作り手ベースの自由な発想を求める考え方です。
一方でデザイン思考は、ユーザーニーズに基づくアイデアの創出を行います。アイデアを創出する上での出発点が両者では異なるため、アート思考とデザイン思考を取り違えないようにすることが大切です。
デザイン思考を導入する3つのメリット
デザイン思考の導入は、企業に多様なメリットをもたらします。
アイデアの積極的な創出につながる
1つ目のメリットは、アイデアの積極的な創出です。後ほどご紹介しますが、デザイン思考を成功に導く上では、とにかくアイデアを多く出すことが求められます。また、デザイン思考はPDCAサイクルを回し、何度も試行錯誤を繰り返すことになるため、必然的に常にアイデアを創出し続けている環境が実現します。
結果的に、アイデアに対して前向きな組織作りが進み、お互いに意見を前向きに捉え、とにかく試してみようという企業文化が養われていきます。
広い消費者ニーズに応え、市場を拡大できる
2つ目のメリットは、消費者ニーズを多様に捉え、市場拡大につながる点です。消費者のニーズに対する答えは、必ずしも一つであるとは限りません。喉の渇きを癒せる新商品の開発を検討する場合、ペットボトル飲料を売る以外にもゼリーを販売したり、ポップアップストアを展開して、街ゆく人に直接カップで提供したりと、多くのアプローチがあります。
デザイン思考は、従来の手法や考え方にとらわれることなく、ユーザーニーズの解消に焦点を当てることで、これまでは考えもしなかった方法で、問題解決を試みるきっかけづくりに貢献します。
多様な意見と人材を受容できる
デザイン思考は、とにかく多くのアイデアと試行錯誤が求められるため、否が応でも多様な意見と人材を受け入れなければいけません。上限関係や経歴にとらわれることなく、新しいビジネスを検討することができます。
デザイン思考の実践方法
デザイン思考は、以下の5つのステップに則って実践します。
ユーザー視点に基づく共感
1つ目のステップは、ユーザー視点に基づく共感を得ることです。自社がターゲットとしているユーザーは、どのような課題を抱えているのかについて、多様な視点から検討します。
ユーザーインタビューやアンケート調査、商品の売れ行きなどからユーザー視点を固め、現状を分析します。
問題発見
ユーザー視点を集めることができたら、そこから問題の発見を進めます。自社のユーザーとなりうる潜在顧客は、どんな問題を抱えていると考えられるのか、深掘りを進めます。
ユーザーが気づいている問題だけでなく、ユーザー本人も気づいていない、本質的な問題を発見できるのがベストです。
アイデア発見
3つ目に、アイデアの発見です。提起した問題の解決につながる、有効なアイデアを検討します。アイデア発見は、最終的には質の高いアイデアの採用が必要ですが、そこに至るまでには、とにかく数を出すことが必要です。
メンバーから多様な意見を募り、実現可能なアイデアの発見を促しましょう。
課題解決に向けたプロトタイプ開発
有効そうなアイデアが見つかったら、プロトタイプの開発を進めます。製品開発における試作品は、とにかく最低限の要件を押さえた簡素なものでも構いません。とにかくアイデアを形にする工程を通じて、それまでには気がつかなった発見や課題をまとめ、ブラッシュアップします。
テストとフィードバック
プロトタイプのブラッシュアップが済んだ後は、市場でのテストです。試作品がどれくらい世間の注目を惹き、ニーズの解決につながるのか、その実効性を検証します。
また、テスト段階ではそこから得られた売上や評価はもちろんですが、今後の改善につながるフィードバックも重視します。フィードバックを受けて、より優れた商品やビジネスモデルの構築に努め、改善サービスの提供に努めます。
デザイン思考は、上記のプロセスを何度も繰り返すことで、革新的なプロダクトやサービスの提供を実現します。
デザイン思考の浸透状況
それでは、実際のデザイン思考の浸透状況はどれくらいなのでしょうか。デザイン思考に関する調査を実行したところ、以下のような結果が得られています。
デザイン思考の導入企業は15%以下
調査によると、2018年時点でデザイン思考の導入国内企業はわずかに15%と低く、日本では、まだまだ浸透の余地が大きいことがわかりました。
そもそも、デザイン思考を会社経営に導入しようというアプローチの認知度がそこまで高くないこともあるため、時間の経過とともに浸透は進むと考えられますが、それでも主体的なテコ入れの余地は大きいと言えるでしょう。
参考:https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00097/00002/
導入企業では高い効果を実感
導入している企業の数はまだ多いとはいえませんが、先進的に導入している15%の企業のうち、70%以上は、「売り上げ・利益率の増加」に効果があったと実感しているという結果も出ています。
デザイン思考は、導入ハードルや認知の問題を抱えている一方、導入に踏み切ることができた企業では、確かな成果の獲得に至っているというわけです。
そのため、デザイン思考はアプローチそのものに問題があるのではなく、導入のきっかけを掴めずにいることが問題であると考えることができるでしょう。
デザイン思考が浸透しない理由
それでは、各企業でデザイン思考が浸透しない理由には、どのようなものが挙げられるのでしょうか。上記調査結果によると、以下の2つの理由が考えられるとしています。
デザイン思考への理解が進んでいない
1つ目の理由は、デザイン思考への理解が各社で進んでいない問題です。調査によると、デザイン思考についてある程度理解していると回答した会社は、全体の20%程度に留まっており、残りは「名前だけ聞いたことがある」「知らない」という回答に留まっています。
特に「知らない」という回答については、全体の50%に達しており、一層の認知が国内では求められます。
経営効果がわかりづらい
2つ目の理由は、デザイン思考を導入することで企業にどのような変化が訪れるのかという、経営効果についての理解が進んでいない点です。
経営効果がわからないと回答している企業は、主に大企業に集中しており、成果を数値化できない取り組みは、後回しにされやすいことにも起因しているとみられます。
一方でデザイン思考を導入した企業は、直接売上につながっているという回答が集まっているため、やはりデザイン思考の認知度を高め、どのように経営効果に関わってくるのか、という点を広く共有する必要があるでしょう。
デザイン思考を浸透させるための方法
デザイン思考を社内に浸透させる方法としては、以下のような手法が選ばれています。肝心なのは、やはり社内で実際に取り組んでみることと言えます。
デザイン思考研修の実施
最近は、デザイン思考の研修を実施するケースも増えています。外部講師を招き、座学でそのプロセスを学んだり、実際にグループワークで実践してみたりといった、体験型の研修も効果的です。
社内ワークショップの実施
2つ目は、社内ワークショップの実施です。社内メンバーで別途時間をとって、ワークショップを実施し、どのようにデザイン思考を取り込んでいけば良いのか、体で覚えるのに適した方法です。
社員同士でコミュニケーションをとる機会にもつながるため、お互いの情報共有を強化したり、信頼関係の構築にも役立つでしょう。
実践の繰り返し
3つ目の方法は、とにかく現場で実践を繰り返すことです。どれだけ模擬訓練を積んでも実践経験に勝るものはありません。実際のプロジェクトでデザイン思考を取り入れ、これまでとは異なるアプローチで問題解決に取り組んでみましょう。
数をこなすにつれ、精度の高いアイデアを出したり、素早くプロトタイプの開発を進められたりといった改善効果が期待できます。
まとめ
デザイン思考は、もはやデザイナーやアーティストだけのものではなく、会社経営やプロジェクト進行に欠かせない手法として世界的に採用されています。
日本ではまだ採用事例こそ少ないものの、導入企業では確かな実感とともに効果を発揮しているため、試してみる価値は大きいと言えます。
参考:
https://schoo.jp/biz/column/770
https://www.hr-doctor.com/news/management/management-skill/news-10043?content=news-10043