新型コロナウイルスは日本経済に大きな打撃を与えており、先行きは不透明なままです。アパレルや半導体などの輸出入に大きな影響を与えており、自国産業の保護や技術覇権争いに繋がってきています。大手企業でも安心とは言えず、恐ろしい時代を迎えているのは事実です。今後、日本経済はどのような未来を迎えるのでしょうか?今回は、中小企業が知っておきたい日本経済と5年後の未来について解説します。
中小企業が知っておきたい日本経済の未来
まずは、中小企業が知っておきたい日本経済の未来について解説します。
日本経済は苦境に立たされる
日本経済は今後、「世界で起きるインフレ」と「日本経済の成長率の低下」で苦境に立たされることになります。
1.世界で起きるインフレ
新型コロナウイルスの感染拡大で落ち込んだ世界経済は、今後、急ピッチで回復していくと予想されています。新型コロナウイルスの不透明な状況は不安材料ではありますが、ワクチンの普及や各国の政策対応は、経済回復に大きな影響を与えています。
IMF(国際通貨基金)、OECD(経済協力開発機構)、世界銀行は2022年には、経済成長は大幅に上方修正すると見解がされており、実際に各国でインフレ(米国6.2%、ユーロ4.1%、韓国3.2%)が起きているのも事実です。
また、各国、地域による格差拡大や分断に警鐘を鳴らしています。世界中でインフレが始まる中で、日本の新型コロナウイルス感染者数が減少しなければ、インフレの恩恵が受けられず、仕入値が高騰して、商品やサービスの価格を値上げせざる得ない状況になります。
2.日本のプレゼンス力の低下
日本は少子高齢化、日本のプレゼンス力の低下が深刻な問題となっており、日本経済の成長率は低下しています。2010年には中国でGDP成長率が抜かれました。
PwCマクロ経済担当チームが発表したレポート「The long view: how will the global economic order change by 2050?」では、今後、大きく成長する国は、ブラジル、中国、インド、インドネシアなどの新興国で、年平均3.5%のペースで成長すると言われています。
その一方で、日本の成長率は1.6%程度に留まると予測されており、GDP成長率は他の国にも抜かれてしまう恐れがあるのです。国内に海外製品が普及したら、日本企業は衰退していくかもしれません。
グリーン成長戦略は有望ビジネスになる
2015年のパリ協定により、世界が協力し合い地球温暖化対策をしていくことが宣言されました。従来は、機関投資家は売上や事業計画を重視して投資先や取引先を決めていましたが、温暖化対策に貢献している企業かどうかも投資判断基準として見られるようになりました。そのため、グリーン成長戦略に事業転換すると、有望ビジネスになっていくと言われています。グリーン成長戦略には、以下のようなビジネスがあります。
【グリーン成長戦略】
- 洋上風力産業:風車本体・部品・浮体式風力
- 燃料アンモニア産業:発電用バーナー
- 水素産業:発電タービン・水素還元製鉄・運搬鉛・水電解装置
- 原子力産業:SMR・水素製造原子力
- 自動車・蓄電池産業:EV・FCV・次世代電池
- 半導体・情報通信産業:データセンター・省エネ半導体
- 船舶産業:燃料電池船・EV船・ガス燃焼船など
- 物流・人流・土木インフラ産業:スマート交通・物流用ドローン・FC建機
- 食品業:スマート農業・高層建築物木造化・ブルーカーボン
- 航空機産業:ハイブリッド化・水素航空機
- カーボンリサイクル産業:コンクリート・バイオ燃料・プラスチック原料
- 住宅・建築物産業:次世代型太陽光産業
- 資源循環関連産業:バイオ素材・再生材・廃棄物発電
- ライフスタイル関連産業:地域の脱炭素化ビジネス
業界別で事業成長率に格差が出る
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ビジネスに大きな変化が出ており、業界別で事業成長率に格差が出ると予想されています。どのような産業が成長しているのか、どのような産業が停滞しているのかを把握して、事業内容を見直す必要があります。
トップ | ワースト | ||
AI | 17.0% | 航空 | -21.0% |
商品先物 | 16.0% | 旅行 | -18.6% |
家賃保証 | 15.8% | 空港 | -18.0% |
ディスカウントストア | 13.9% | レジャー施設 | -16.6% |
ネット証券 | 12.5% | 居酒屋 | -16.4% |
総合商社 | 11.8% | ブライダル | -15.9% |
アウトドア用品 | 11.7% | ホテル | -15.7% |
保育 | 11.7% | 冠婚葬祭 | -15.4% |
中古車 | 10.9% | カラオケ | -14.3% |
ゲーム | 10.9% | カメラ | -13.4% |
参考資料:業界動向「業界別成長率ランキング」
ハイブリッドワークに働き方が切り替わる
新型コロナウイルス感染拡大の防止で、テレワークが普及しましたが、5年後にはテレワークは特別な働き方ではなくなります。就職先や転職先を選ぶ際の大きな条件にもなることでしょう。
2021年5月に日経BP総合研究所が実施した「5年後の未来に関する調査」では、ICT分野だけではなく、製造や建設・不動産、物流・流通などでも、移動やヒトと接触する仕事は減ると予測されています。そのため、ハイブリッドワークに切り替えなければ、業務非効率や採用難に陥ってしまうかもしれません。また、オフィススペースのムダが、経営が資金繰りに大きな影響を与えるかもしれません。
日本経済の未来に対して中小企業がすべきこと
日本経済の未来に備えて準備をしておけば、中長期でも安定した経営ができるようになります。中小企業は、今後どのような準備をしていけばよいのでしょうか?次に、日本経済の未来に対して、中小企業がすべきことをご紹介します。
自社の事業内容を分析する
新型コロナウイルス感染拡大により、多くの業界でマイナスの影響が出ているため、自社の事業内容を分析しましょう。その理由は、新型コロナウイルスは、どのような分野で影響が大きいか小さいかを見極め、将来的に回復が見込めるかを分析すれば、事業の再構築や新規事業に取り組むことができるためです。
日本経済の5年後は、業界によって明暗が分かれることは間違いありません。2021年5月に日経BP総合研究所が実施した「5年後の未来に関する調査」では、製造業界や医療業界、IT業界はプラスに働き、卸売や商社、不動産はマイナスに働くとされています。
どのような事業にすれば、売上が見込めるのか事業の再構築をしてみることが大切です。また、海外への販路を確保しておくことで安心が増すことでしょう。
世界の動向を見据えて経営判断を下す
日本は、長期的なデフレを経験しているため、世界で起きているインフレが経験できるとは想像できません。しかし、インフレに興味・関心を持ち動向を確認しておくことが大切です。
日本と世界は繋がっているため、世界で起きているインフレの影響は間違いなく受けます。インフレに関して興味を持たずにいると、突然の原材料や運搬費の高騰に大打撃を受けてしまう恐れがあります。そのため、世界の動向を把握した上で経営判断を下せるようにしておきましょう。詳しくはこちらの記事をご覧ください。中小企業補助DXニュース「2022年度のインフレを大予測!価格高騰に中小企業はどう立ち向かう?」)
SDGsに積極的に取り組む
SDGs (Sustainable Development Goals)は、2015年9月に国連サミットで採択された世界目標で、「貧困の終止」「地球の保護」など17の目標と169の行動指針が定められています。地球環境の問題(地球温暖化・異常気象・自然開発)を解決するために、発展途上国と先進国は力を合わせて解決していかなければいけません。
SDGsとは、国連サミットが採択した地球環境の問題を解決するための目標です。国連サミットでSDGsが採択された後、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、PRI(責任投資原則)を採択しました。この動きにより、SDGsに取り組んでいる企業を応援する時代が到来してきているのです。
ステークホルダーから信頼獲得、支持を得るために中小企業は、SDGsに取り組むようにしましょう。
多様な働き方を認めていく
多様な働き方とは、誰もが自分の人生で実現したいことを追求しながら、無理のないスタイルで労働することをいいます。
仕事で充実したいこと、プライベートで充実したいことを実現できるような働き方を労働者は選びたいため、優秀な人材を確保するためには多様な働き方を認めていく必要があります。新型コロナウイルス感染防止でテレワークが普及したため、オフィスで働く必要がなくなりました。
2021年6月に日経BP総合研究所が実施した「5年後の未来に関する調査」では、ビジネスパーソンの約5割が遠隔地への異動辞令が出たとき、赴任せずに働くことを希望すると回答しています。
また、製造業でも、遠隔地に赴任しない異動を選べるようになってきているため、多様な働き方を認められる職場環境の整備は必須となります。
まとめ:中小企業が今取り組むべきこと
今回は、日本経済の未来について説明しました。最後におさらいをしておきましょう。
【日本経済の5年後の未来】
- 日本経済は苦境に立たされる
- グリーン成長戦略は有望ビジネスになる
- 業界別で事業成長率に格差が出る
- ハイブリッドワークに働き方が切り替わる
【中小企業が取り組むべきこと】
- 自社の事業内容を分析する
- 世界の動向を見据えて経営判断を下す
- SDGsに積極的に取り組む
- 多様な働き方を認めていく
ぜひ、未来の安定経営のために事業内容を見直してみてください。
※参考文献
『日経BP総合研究所「分断の警鐘が鳴る世界経済、米中のけん引に期待も日欧では雲がかかる」』
『PWC「PwC、調査レポート「2050年の世界」を発表 先進国から新興国への経済力シフトは長期にわたり継続‐インド、インドネシア、ベトナムが著しく成長」』
『日経BP総合研究所「「グリーン成長戦略」は有望ビジネスにつながる?」』
『業界動向「業界別成長率ランキング」』
『日経BP総合研究所「コロナ禍を経て「5年後にテレワークが定着」は6割超、ハイブリッドワークの広がりでオフィススペースも減少へ」』
『日経BP総合研究所「コロナ禍を経て「5年後にテレワークが定着」は6割超、ハイブリッドワークの広がりでオフィススペースも減少へ」』