「レッドオーシャン」とは、競争が激しい市場のことを指します。この言葉は、多くの企業が同じ顧客を対象として戦っている市場を表しています。このような市場では、価格競争が主となり、利益率が低下する可能性が高いです。言い換えると、レッドオーシャンは既存の市場での競争が激しい状況を指す言葉で、企業が新しい価値を創造するのが難しい市場を意味します。
それに対して、競争が少なく、まだ開拓されていない市場は「ブルーオーシャン」と呼ばれ、ここでは新しい価値を創造しやすいとされています。
中小企業の経営戦略においては、レッドオーシャンを避けるべきだというのが定説とされていますが、レッドオーシャンには一定のメリットがあります。
この記事では、レッドオーシャン市場のメリットとデメリットを考慮しながら、レッドオーシャンにおける中小企業の成長戦略について解説していきます。
レッドオーシャンとは?
レッドオーシャンとは、すでに競合が市場内に多数存在し、競争が激しくなっている市場を表す言葉です。新規参入の企業も多くあり、価格競争や機能面での競争が激化している市場のことを指します。
2005年に欧州経営大学院のW・チャン・キムとレネ・モボルニュが著書『ブルー・オーシャン戦略』の中で提唱しました。また、レッドオーシャンに対する用語である、ブルーオーシャンとは、未開拓で競合の存在しない(もしくは極端に少ない)市場を表す言葉です。
競合がいないブルーオーシャンにおいては、価格戦略を独自に展開することができ、広告宣伝費をはじめとするマーケティングコストも抑えられるので、利益を多く得ることが可能です。
ブルーオーシャンは、戦略的には理想となる市場ですが、この市場を常に独占しておくことは商品やサービスに優位性がないと、かなり難しいという側面もあります。
初めは、ブルーオーシャンの市場であったとしても、競合他社が参入し始めれば、競争が激化していき、やがてレッドオーシャン化することは常であり、ブルーオーシャンとレッドオーシャンは隣り合わせであるといえます。
レッドオーシャン市場のメリット
ブルーオーシャン市場は確かに理想的ですが、すべての市場をブルーオーシャンに変換するのは容易な挑戦ではないことは、明白です。新たなブルーオーシャン市場を絶えず識別し、そこで事業を展開するのは、極めて難しい作業と言えます。
多くの多角経営企業は、レッドオーシャン市場とブルーオーシャン市場の両方で事業を展開しています。これらの市場では、それぞれ異なる戦略が必要とされ、多くの企業がこのアプローチを採用していると考えられます。
レッドオーシャン市場にも独自のメリットが存在することは認識されており、以下でそのメリットについてご紹介いたします。
確実な需要
レッドオーシャンの特徴的な点は、その市場規模の大きさです。これは、多くの顧客が存在し、確固とした需要があることを意味します。従って、適切に市場に参入し戦略を展開すれば、一定の市場シェアを獲得する機会があり、それが利益の向上に寄与する可能性が高まります。
成功時の利益拡大の可能性
レッドオーシャン市場では、成功を収めた場合、競合からシェアを奪取し、売上の大幅な増加が期待できます。この潜在的なメリットのため、意図的にレッドオーシャン市場に参入し、それを成長戦略の一環とする企業も少なくありません。
製品開発のコストと時間の削減
レッドオーシャン市場では、製品やサービスの形態がほとんど決まっています。これにより、ゼロからの製品開発の必要性が減少し、企業は他社との差別化に焦点を当てやすくなり、消費者のニーズに迅速に対応できます。
既存のひな形があるため、製品開発に多くの時間や費用を費やすことなく、効率的に市場に対応することが、レッドオーシャンのもう一つのメリットです。
レッドオーシャンにおける成長戦略
レッドオーシャン市場には、新しい事業や製品を生み出すための手がかりとなる要素が豊富に存在します。では、中小企業がこのレッドオーシャン市場でどのように成長を遂げることができるのでしょうか。以下で探っていきましょう。
市場の特定
レッドオーシャンでの勝利への道のりでは、市場の特定が重要なステップです。市場を特定する際、セグメンテーション、つまり市場の区分けを行いましょう。セグメンテーションは、市場内の多様な顧客を様々な観点で分類し、特定の属性に基づいてグループ(セグメント)を作るプロセスです。
自社の商品やサービスがどの顧客層のニーズを満たすのかを理解することで、ターゲットとなる顧客に対してどのようにアプローチすべきかの方向性が明確になります。市場の細分化を行うことによって、より効果的な戦略が展開できるようになります。
顧客の特定
市場の特定と並行して、自社の商品やサービスのターゲット顧客も精確に特定することが重要です。ターゲット顧客の特定は、性別、年齢、居住地、家族構成など、多岐にわたる要素を考慮することで、効果的に行うことができます。
市場に存在する様々なニーズを分析し、自社の製品やサービスを最も利用する可能性が高い顧客層を見つけ出しましょう。
中小企業にとって、ターゲット顧客を明確に定義することは、不必要な広告や宣伝コストを削減する上で大変有益です。予算を最大限に活用し、効率的にビジネスを展開することが可能となります。
レッドオーシャン内のブルーオーシャンの発見
厳しいレッドオーシャン市場では、競合からの差別化を実現しない限り、売上を向上させるのは難しいタスクです。そこで重要となるのが、レッドオーシャンの中の隠れたブルーオーシャンを見つけ出すことです。
具体的には、レッドオーシャン市場の中で見過ごされている、新しいビジネスの機会やニッチな分野を探求します。これらの未開拓のエリアでは、差別化と組み合わせることで、新たなビジネスチャンスが明らかになるでしょう。
差別化の策略
競合他社との差別化戦略を展開することにより、価格競争から一定の距離を保つことができます。これにより、独自のブランドイメージを効果的に築くことが可能となります。
差別化のポイントを見つける際、レッドオーシャン市場において未だニーズが満たされていない顧客層を特定することが重要です。これらのニーズを正確に把握し、これに対応する製品やサービスを提供することで、他の競合商品やサービスから独立したポジションを築くことができます。
先に述べた市場や顧客の絞り込みと並行して、この差別化のアプローチを検討することで、市場での独自の立ち位置を強固にする手助けになるでしょう。
複数分野の融合
レッドオーシャン市場内で、異なる領域を結びつけることで、新たなブルーオーシャンを創出する道が開けます。競合の少ない新たなニッチな市場、つまりブルーオーシャンを作り出すことが可能です。例として、「外国語レッスン」という既存の領域は競争が激しいレッドオーシャンですが、この分野に「大人向け・オンライン・日本人講師」といった特性を加えるとしましょう。外国語レッスンに大人向け・オンライン・日本人講師という分野が融合することは次のような意味を持ちます。
特定のターゲット層の対象化:
大人向けの外国語レッスンは、特定の年齢層を対象にしており、それにより市場を絞り込むことができます。このことで、その年齢層の具体的なニーズや要求に焦点を当てたサービスを提供することができ、それによって競合他社と差別化を図ることが可能です。
オンラインプラットフォームの活用:
オンラインでのレッスン提供は、地理的な制約をなくし、全国または世界中どこからでもアクセスできるというメリットを提供します。これにより、地方に住んでいる人や、外出が難しい人でも簡単にレッスンを受講できます。
日本人講師による指導:
日本人講師による外国語レッスンは、日本人の学習者が外国語を学ぶ上での特有の問題や疑問に対して、より適切な指導やアドバイスを提供する可能性があります。これは、日本人講師が日本の文化や学習環境をよく理解しているためです。
これらの理由から、大人向け・オンライン・日本人講師の特性が加わることで、既存の外国語レッスン市場から一線を画した新たなニッチな市場になるというわけです。
このように、複数の分野を創造的に組み合わせることで、レッドオーシャン市場内においても競合のいない、独自の領域、すなわちブルーオーシャン市場を構築することができます。
自社ブランドの確立
続いて、自社ブランドの構築に焦点を当てましょう。効果的なマーケティングと広報戦略を組み合わせることにより、自社の製品やサービスの優れた点を顧客に効果的に伝えることが可能です。このアプローチを用いることで、レッドオーシャン市場であっても、安定した市場シェアとブランド力を確立し、競合からの差別化を実現することができます。
STP分析の導入
自社ブランドの構築後は、STP分析の実施を検討しましょう。STP分析は、製品やサービスの販売ターゲットの特定や、ビジネスの競争力の源泉を効率的に明確化するための戦略的フレームワークです。
STP分析のプロセスは以下のようになります。
セグメンテーション (Segmentation)の適用
セグメンテーションでは、ユーザーや消費者の属性や好みに基づき、潜在的な顧客層を分類します。製品やサービスのローンチ後も、セグメンテーションは継続的に見直し、最適化を図ることが重要です。このプロセスを通じて、効果的にターゲット市場にアプローチし、ビジネスの成長を支える基盤を強化できます。
ターゲティング (Targeting)の実施
大規模な顧客層を特定した後、ターゲティングを活用して、自社にとって最も重要な顧客層をさらに洗い出します。このステップでは、ペルソナ(架空の顧客像)を作成し、そのペルソナのストーリー、利益、および問題点を具体的にイメージします。この方法により、製品またはサービスが顧客の実際のニーズとどのように一致するかを深く理解することができます。
ポジショニング (Positioning)の重要性
具体的なストーリーや詳細なターゲット理解をもとに、ポジショニングのステップを実施します。顧客の深い理解を踏まえ、市場全体を俯瞰し、自社の製品やサービスをどのように位置付け、より魅力的に提示するかを再評価します。この段階では、以前よりもはるかに明瞭かつ具体的な基準で、自社の優位点を判断し、強調することができます。
STP分析は、製品やサービスの実際の導入後も定期的に見直しを行うことで、その効果を最大限に引き出すことができます。この進行的なアプローチにより、マーケティング戦略を常に最適化し、市場と顧客の変化に迅速に対応することが可能となります。
ブラックオーシャンについて
開発の途中で、マーケットを常に考慮することは重要です。この際、「ブラックオーシャン」という概念にも精通しておくと、今後のビジネス展開に有利でしょう。
ブラックオーシャンという用語は、一般的なビジネスの文脈ではあまり使用されませんが、新しい市場や機会に対する障壁や困難を指します。ブルーオーシャン戦略(新しい市場を創造し、競争を避ける戦略)の対比として使用されます。
- ブルーオーシャン: 新しい市場を創出し、競争のない市場でビジネスを展開する戦略。
- レッドオーシャン: 既存の市場で競争が激しい場所、ここでは競争相手との差別化が重要。
- ブラックオーシャン: 参入障壁が非常に高い、あるいは未知の市場を指します。この市場では、リスクが高いがリターンも大きい可能性があります。
ブラックオーシャン市場では、市場自体がまだ定義されていないか、または市場への参入が難しい可能性があります。それでも、このような市場では大きな機会が隠されている可能性もあります。それ故に、ブラックオーシャン市場への参入や展開を検討する際は、十分な市場調査とリスク管理が不可欠です。
レッドオーシャンに関する書籍とは?
レッドオーシャンに関する本は少ないのに対し、ブルーオーシャンについての本はたくさんあります。ブルーオーシャンを学ぶことで、レッドオーシャンの理解も深まります。それでは、ブルーオーシャンについてのおすすめの本を紹介します。
まとめ:レッドオーシャンで勝ち抜くためには?
この記事では、中小企業がレッドオーシャン市場で成長するための戦略を紹介しました。この状態では、ライバル企業との血で血を洗う戦いが避けられませんが、それでも勝ち抜くための力になるのが、データ収集の重要性です。
事業を立ち上げる際、最初はブルーオーシャン市場であっても、時間が経つにつれて競合他社が参入し、容易にレッドオーシャン化する可能性があります。また、すべての事業が常にブルーオーシャン市場でスタートするわけではないのが現実です。
そのため、レッドオーシャン市場で中小企業が生き残り、成長を遂げるためには、データ収集とその分析が極めて重要となります。デジタル変革(DX)による効率的なデータ収集と分析は、企業の持続的な成功の鍵を握っています。これにより、適切な戦略と方向性を見極める基盤が築かれ、企業の生き残りが実現します。