ウクライナ侵攻はなぜ起きた?波及する世界経済への影響を解説

ウクライナ侵攻はなぜ起きた?波及する世界経済への影響を解説

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日本から8,000キロ以上も離れた東ヨーロッパのウクライナでは、2022年2月以来、ロシアによる軍事侵攻によって、国土が多大な戦禍に見舞われている事態が続いています。近年稀に見る大規模な軍事衝突が発生したことで、現地では経済活動はおろか、通常の生活を送ることもままなりません。

また極東の日本を含めた世界各国で、世界大戦クラスの武力衝突が与えるような経済的な影響も決して小さくなく、欧米やアジア、アフリカなどあらゆる地域の経済活動に影響が見て取れます。

この記事では、そもそもウクライナ侵攻はなぜ発生したのか、そして世界経済にはどんな影響をもたらし、今後どのような影響やリスクをもたらしうるのかについて、解説します。

ウクライナ侵攻の背景

2022年2月、ロシア連邦は特別軍事作戦の名目でウクライナ領土へ軍事侵攻を開始し、首都攻略を含めた全方位からの攻撃を進めました。

ロシアやロシアと親しい関係にあるベラルーシと国境を接し、首都キーウを含むウクライナ北部、以前から紛争地帯であった東部、ロシアが実効支配を続けてきたウクライナ領クリミア半島と接する南部の三方向からの一斉攻撃が行われましたが、北部への電撃作戦が失敗に終わったことや、他地域でもウクライナ軍が反攻作戦にて一定の成果を挙げたことで、2023年5月現在は膠着状態に陥っています。

そもそも、このような大規模な軍事侵攻が発生した背景には、さまざまな要因が考えられますが、一つには、ウクライナが旧ソ連の一部であったことが大きな要因として挙げられます。ウクライナは、厳しい氷土に囲まれたソ連において、貴重な不凍港、つまり冬場でも凍ることなく船舶が通行可能な黒海沿岸地域として重宝されてきました。

また、冷戦期においては東西のボーダーラインであり、現在も西側諸国の軍事同盟であるNATO加盟国のポーランドとも国境を接していることから、ウクライナは東西の緩衝地帯として、ロシアにとっては重要な地域です。近年、ウクライナでは事実上の西側諸国連合であるEU加盟を目指す動きが加速しており、ロシアは、緩衝地帯を失うことを危惧しました。

この結果、ロシアは2014年にウクライナ領であるはずだった、クリミア半島の一方的な併合を宣言するとともに、ウクライナ東部のドンバス・ルハンシク州にて活動する親ロシア派勢力への軍事支援を非公式に行い、ウクライナのEU加盟やNATO加盟を阻害する動きを展開してきたのです。

侵攻直前にも、ロシアはウクライナのNATO加盟に対して、抗議や一定の制裁を設ける用意があることを発表し繰り返し牽制を行ってきましたが、侵攻という強行手段をとり、世界中を震撼させました。

現在ウクライナは、西側諸国の支援を受けています。兵器や装備の現代化は進んでおり、同じくしてロシアと国境を接するスウェーデンやフィンランドのNATO加盟も進められています。ロシアはNATOの脅威を遠ざけるどころか、結果的にロシア国民にもより多くの脅威をもたらすこととなってしまいました。

ウクライナ侵攻がもたらす世界経済への影響

ロシアによるウクライナ侵攻は、世界各国の経済活動において、さまざまな影響を与えました。中でも必ず理解しておきたいのが、以下の2つの問題です。

エネルギー供給の問題

侵攻後に生じた最も大きな変化の一つと言えるのが、エネルギー供給の問題です。

ロシアは、世界有数の石油およびガスの産出国であり、結びつきが最も強かったのがドイツをはじめとする、西欧・東欧諸国です。NATO加盟国でありながら。ロシアのエネルギー資源への依存度が高かった国々では、ウクライナ侵攻に伴い急激な供給量の低下に備え、大きくエネルギー政策を転換せざるを得なくなりました。

フランスのように、自国における原子力発電を推進している地域では、この影響は比較的小さく済んだものの、近隣諸国がエネルギー問題に直面したことで、燃料価格や光熱費の高騰を招き、一般生活や企業経営に多大な影響を与えています。

現在は、脱ロシアエネルギーで協調が取れ、ロシア産エネルギーに頼らない暮らしや活動の実現が進みつつありますが、これは、アメリカによるエネルギー輸出の増加や有数の産油国などが揃う中東諸国との交渉の中で実現したことです。ロシアのエネルギーに頼らなくて良くなった一方、他の産油国との関係改善や、関係悪化を回避するための政治が求められるようになったことは間違いありません。

穀物輸出の停滞

エネルギー供給の問題と合わせ、注視しなければならないのが、ウクライナからの穀物輸出です。ウクライナは豊かな土壌と広大な国土を持つ国で、世界でも有数の小麦やトウモロコシの輸出国です。同国の主要産業でもある穀物の輸出は、ロシアによるウクライナ侵攻により、深刻な被害を受けています。砲撃によって土地は荒廃し、ロシア軍の占拠が続いていることでまともな収穫や輸出はままなりません。

また、ロシアも世界トップクラスの穀物輸出国ですが、やはりウクライナ侵攻の影響で、十分な供給を期待することができません。ウクライナ支援を進めている西側諸国では、ロシアからの穀物輸出が大幅に制限されるリスクをはらんでおり、穀物事情においても脱ロシアを急ぐ必要があります。

また、アフリカやアジア諸国のような第三世界では、小麦やトウモロコシを主食としている国や地域は少なくなく、これまで、彼らへの穀物共有を支えてきたのがロシアやウクライナです。ウクライナからの穀物供給が失われつつあり、そこでロシアからの供給を絶つことは、深刻な飢餓や食料の高騰に発展する可能性があります。こういった地域の国々がロシアを敵に回し、ウクライナや西側諸国の支持に回れないのは、このような深刻な食料事情も背景にあります。

また、これらの穀物は人間が直接食べる分だけでなく、畜産における飼料として用いられるものも含まれています。穀物輸出は、現在回復傾向にあるものの、現地情勢が悪化すれば、飼料のさらなる高騰を招き、畜産業界が多大な損害を被ることもあるでしょう。

穀物輸出の停滞は、単に食料品の高騰を招くだけでなく、畜産をはじめとする他の産業の成長をも妨げており、深刻な問題として考えなければいけません。

ウクライナ侵攻が与えた日本経済への影響

ウクライナ侵攻による経済活動の停滞は、欧米や第三世界だけではありません。極東の日本においても、その影響を少なからず受けているのが現状です。

燃料の高騰

燃料の高騰は、欧米だけでなく日本でも依然として続いてます。石油価格はウクライナ侵攻後世界中で上がり続けており、日本でも侵攻後は値上げが続いています。

日本における価格高騰は、円安の影響もありますが、ウクライナ侵攻による供給リスクの拡大がなければ、ここまで急激な値上がりが進むことはなかったと考えられるでしょう。この結果、営業車を使った営業活動コストの増大や、輸送コストの増大など、さまざまな業界における経費圧迫が進んでいるのが現状です。

光熱費の高騰

燃料価格が上がったことで、必然的に光熱費の高騰も進んでいます。日本では東日本大震災以降、原子力発電所の稼働には慎重になっており、石油や天然ガスによる発電が主流です。これらの資源は外国からの輸入に頼っており、ロシアを含め、ウクライナ侵攻によって長期的な取引は望めなくなりました。

原子力発電所の稼働が開始すれば、ある程度価格の高騰は回避することができるものの、日本はエネルギー資源を自国で賄うことができない国であるため、国際情勢に左右されやすい状況は変わりません。

食料品や生活用品の値上げ

燃料費や光熱費が高騰したことは、食料品や生活用品の値上げに少なからず影響を与えています。ウクライナとロシアの武力衝突は今後、数年にわたって続くと考えられているだけでなく、昨年に引き続き円安傾向も続いていることから、今後も値上げしていくことは想定しておくべきでしょう。

地政学リスクの増大に備えて企業が検討すべきこと

ウクライナ侵攻による世界経済への大きな影響は、まさに地政学リスクがどのような事態をもたらすかを具現化したようなケースであると言えます。

地政学リスクには、今回のウクライナ侵攻だけではなく、近隣の中国による台湾侵攻の事態や、東南アジアやアフリカにおける軍事クーデターなどの政変も現実味があるため、引き続き備えておかなければなりません。

例えば、特定地域からの輸入が滞った、あるいは海外の輸出先が消滅したなどの場合に備え、別地域からの輸入ルートや新しい営業先の開拓を進めておく必要があるでしょう。特に海外進出を検討している場合、進出先の地政学リスクを正しく評価し、中長期的に経済活動ができるかどうかも考えておかなければなりません。

また、主な活動場所が国内である場合、燃料費の高騰や光熱費の高騰などに備え、できる限りコスト削減や少ないエネルギー消費で業務を遂行できる、生産性向上にも取り組む必要があるでしょう。このような課題解決に有効なのがDXです。業務をデジタル化し、積極的なデータ活用を進めることで、生産性を上げながら、業務を効率化していくことができます。

人材不足の深刻化など、ウクライナ侵攻以外の要因からもたらされるリスクに対しても、DXは有効です。自社の課題を洗い出し、積極的にデジタル化へ取り組みましょう。

まとめ

この記事では、ウクライナ侵攻の背景や、侵攻によってもたらされた世界経済への影響について解説しました。国別に経済への影響を確認することで、ウクライナ侵攻が与えている影響をより細かく知ることができるため、参考にしてみると良いでしょう。

また、ウクライナ侵攻以外にも、地政学リスクは世界中に存在しており、それらの影響を多かれ少なかれ受ける可能性があることも知っておかなければなりません。これらのリスクに備え、どのような対策を取る必要があるのか、早い段階から考えておきましょう。