みなさん、こんにちは。今回は富山大学 学術研究・産学連携本部の大森氏、大西氏へのインタビュー記事を掲載します。産学連携のメリット、富山大学の強みなどについて語っていただきました。
京都大学農学部農業工学科卒業後、大手総合商社にて事業を幾つか
取締役執行役員に就任。その後、幾つかのベンチャー企業の役員に
2019年10月より 富山大学学術研究部教育研究推進系教授に就任。
現在は、研究推進機構 学術研究・産学連携本部 教授として産学連携お
大手総合商社にて貿易業務およびプロジェクト(ガスケミカル)案件の推進に従事。
2021年10月より富山大学学術研究部教育研究推進系准教授に就任。
現在は、研究推進機構 学術研究・産学連携本部 准教授として産学連携および起業支援等を行う。
産学連携のメリットとは?
ーー産学連携のメリットについて教えてください。
大森 清人氏(以下、敬称略):一般的な話として、1つ目は自社で出来ない研究をアウトソースして、研究を進めることができることです。そして、2つ目は、大学では基礎研究を含めて深いところから実用化に近いところまで研究しているので、一気通貫で研究成果を取り入れることができることです。
さらに、3つ目は費用に関するところです。企業が研究者を雇用するとなると、経費的には年間1,000万円以上かかることになりますが、共同研究であれば、遙かに少ない金額で進めることができます。
ーーそれは、低いリスクで取り組みができるということでしょうか。
大森:そういうこともありますが、それよりも着目すべき点は、大学での研究は、最先端の研究も含めて、研究の中身に厚みがあるということです。
さらに、大学には色々な分野の研究者がいますので、研究者が協力しあって、解決に近づけることができます。企業の研究者と大学の研究者が共同研究することで、双方の研究者が幅を広げられるという大きなメリットがあります。
富山大学の強みとは?
ーーありがとうございます。次に富山大学の強みをお聞かせください。
大森:一つは、伝統的に医薬系、特に和漢薬を含めた医薬品分野の研究に強いといえます。最近では、COVID19の中和抗体などの感染症薬を含めた医薬関係の研究があります。
もう一つは、軽金属関係、中でもアルミ系の研究に強みがあります。富山大学には全国からアルミ関係の先端技術研究者が集まっています。
更に、触媒化学にも強みがあります。これは最近カーボン・ニュートラルで注目を集めている分野でもあります。空気中の二酸化炭素や工場等から排出される二酸化炭素を利用してメタンなどの燃料やプラスチック材料などを作り出す研究で大きな成果を上げている複数の研究者がいます。
富山大学産学連携本部の強みとは?
ーー次に、産学連携本部の強みについてお聞かせください。
大森:知財を含め、企業や社会のニーズや課題を的確に研究者に伝えることができる専門性の高い人材が多く揃っています。
ここ数年は、重工メーカー、総合電機、総合商社、医薬品メーカー等大企業出身の専門的な知識を持ったコーディネーターやURAをメンバーとして採用してきました。
企業のニーズをわかりやすく研究者に伝える、また大学の研究シーズをわかりやすく企業に伝える、そういった橋渡しを出来る人材が揃っているのが強みです。
大西 正史氏(以下、敬称略):産学連携本部の中でも、富山大学は色々な企業出身の人が来ていて、多様性があるのが特長です。化学メーカー出身者は、化学の研究に興味がありますし、重工メーカー出身者は機械的なことに発想があります。産学連携本部に多様性があることで、研究者に向ける目が増えてきたことも強みといえるでしょう。
ーープロジェクトをコーディネートされる際に、意識されていることはありますか?
大森:先ほどの私たち、富山大学産学連携本部の強みとも関連しますが、まずは企業のニーズや課題を聞き出して、それに合わせて大学の研究シーズをアジャストさせることを心掛けています。具体的には、次のような流れです。
1.企業の課題に合わせて、大学側でそれに対応する研究者を探し出す。
2.企業と大学の研究者の対話のなかで企業研究者が気がついていなかったことやさらに発展的な事柄も含めて解決策を提案する。
3.共同研究を進めるなかで最適な解決策を探し出していく。
産学連携の事例とは?
ーーコーディネートされた事例にはどのようなものがありますか?
大森:ある大手建設会社と一緒に、先進的なロボット研究を始めることになっています。今までのロボット開発の概念とは異なり、簡単なロボットを複数組み合わせることで建設現場の省人化・省力化に結びつけようというプロジェクトです。
産学連携本部が企画し、共同研究相手先を見つけ、若手研究者の研究成果をアレンジし、共同研究に結びつけました。建設業界の人材不足という課題を起点に大学の研究成果を社会実装化する取り組みです。
また、富山大学の特色ある分野である「芸術文化学部」と国内有数の大手不動産会社を結びつけ、大規模ショッピングモール内に同学部の常設展示スペースを設けました。定期的に教員や学生の作品、制作物を展示するとともにワークショップや公開授業を開催し、商業施設とアカデミアの連携について複数年にわたって共同研究を進めているところです。
本件も商業施設を文化発信拠点にしたいという企業側の課題を起点に構想したものです。
ーーどのくらいのプロジェクトがありますか?
大森:年間約250件の共同研究プロジェクトが進行しています。
ーー医薬品やアルミ関係の企業との共同研究は多いですか?
大森:富山県の代表的な産業は、製薬とアルミニウムを中心とした軽金属、化学品等、プラスチック成形等の製造業です。また、高岡市を中心とした西部地区は、仏具を中心とした銅製品、鋳物加工など伝統産業の集積地でもあります。
富山大学の企業等との共同研究では、約半数がこれら富山県内企業との取り組みです。日常の製品向上に向けた業務改善や課題解決に加え、伝統技術を活かした新分野への進出などについても積極的な協力を行っています。
また、アルミ関係では昨年度「先進アルミニウム国際研究センター」を開設し、高岡キャンパス内に施設を建設中です。富山県内のアルミニウム産業界とタイアップし、アルミニウムの資源循環や先進加工技術についての研究を推進しています。
富山大学における産学連携フォローアップ体制について
ーー産学連携のフォローアップ体制についてですが、お問い合わせからの流れを教えてください。
大西:産学連携本部のホームページに問い合わせ窓口を設けています。お問い合わせ内容に基づき、担当者から迅速に連絡させて戴きます。共同研究や学術指導など、課題やニーズをできるだけ詳細にお伝え戴けましたら幸いです。ご要望に沿うことができる学内研究者との打ち合わせを設定いたします。ご希望の研究者がある場合はその旨を、お知らせください。
ーー共同研究に至るまではどのような流れになりますか?
大森:まずは、企業と産学連携本部でZoomやTeamsなどを使い、遠隔でミーティングをもち、企業側の課題やニーズを整理します。産学連携本部では企業の要望に添った研究者を推薦し、研究者を入れた具体的なミーティングを設定します。そこでは、課題を明確にし、ソリューションを導くための研究方針について打ち合わせします。
打ち合わせに基づき、産学連携本部より費用、期間などを含めた見積書を企業側に提示いたします。両者が合意できれば、共同研究の申し込み契約に進めます。
ーー一般的に研究費の見積もりはなされないのでしょうか?
大森:一般的に、国立大学では研究費の見積もりを含めた提案の方式は、あまりないように思います。
富山大学では、研究者の知識やノウハウを含めた知の対価も含めて提案の中身をはっきりさせ、このくらいの費用がかかるということを提案しています。この方法ですと、研究者側も結果を出すことへの意識が高まります。
ーー通常だと企業側の予算ありきの場合が多いということでしょうか?
大森:予算ありきの場合が多いのだと思います。しかし、予算ありきの場合は、何をどこまでやるのかというのが、はっきりとしないことがあります。
「こういった作業に何時間かけます。この研究をするために、こういった材料が必要です。」ということを明確化させることで、ゴールが見えやすくなります。
また、中身を明確化することは、ゴールに対して「研究者がコミットする」という意識付けをすることにもなります。
ーーそこが他の大学との違いということですね。
大森:そうですね。富山大学の産学連携が実現したいのは、「ニーズ発信型」であることです。ニーズを起点に共同研究を進め、企業の抱えている課題を研究者が解決するということです。
また、知の対価をお願いすることで、研究者が「いつまでに研究成果を出す」ということに最大限コミット出来るように工夫しています。
ーー知財に関してフォローアップ体制はありますか?
大森:共同研究で生まれた知財は、企業と大学で共有するケースが多いです。産学連携本部では、企業知財部出身者を知財担当にしていますので、特に企業が求める知財のあり方が理解でき、そこをできるだけフォローできる体制で運営しています。
知財の使い方は、共同研究をした企業が独占的に使うというケースが多いと思いますので、場合によっては、特許出願前に企業へ譲渡することもあります。共同保有している場合でも、こちらの権利を企業側に譲渡する場合もあります。出来るだけその知財が有効に使われるように大学側からも提案していく体制になっています。
ーーその他、取り組まれていることがあればお聞かせください。
大森:大学の研究成果を社会実装化する観点で云えば、方法の一つが、共同研究で大学と企業が一緒に成果を求めていくことだと云えます。もう一つは、スタートアップという形で研究者自身が関与しながら、研究成果を社会に合うように進めていくということがあると思っています。
共同研究を進めていくということにプラスして、スタートアップの育成に産学連携本部として力を入れていきたいと思っています。
産学連携で相談する際のポイントとは?
ーー最後に、相談する際に企業側が心がけるべきことはありますか?
大森:相談されるということは、解決したい困りごとがあるのだと思います。なるべく具体的に解決したい課題を出していただくことがよいかと思います。例えば、製造業であれば、製造課題で困っているところを具体的に出してもらう方がよいです。より具体的であればあるほど、対処しやすくなります。
どういうことに困っている、どういう課題を解決したいというのを具体的に出してもらうほど、大学としても取り組みやすいです。
ーー研究者のデータベースで探すのは、結構大変ですが、それを検索する前に相談してしまった方がよいのでしょうか?
大森:シーズ集として出しているものは、研究者が研究者の目で売り込みたいものを書いているものなので、必ずしも企業のニーズに合ったものとは限りません。企業側から解決したい課題をまずは相談していただければ、私共で研究者を選定してご紹介することができます。そちらの方が効率がよいと思います。
ーー産学連携の経験がない方にメッセージはありますか?
大森:大学に相談することや大学と共同研究することは、敷居が高いと感じられる方もおられます。産学連携の経験がない方も、気軽に大学へコンタクトして頂ければと思います。何気ないご相談の中から、生まれた共同研究が多いかなと思います。この研究は、この大学でないといけないという風に決めるのではなく、何でも相談していただければと思います。
富山大学のホームページの中に、ワンストップ窓口というのを設けておりますので、そちらに気軽にお問い合わせいただければと思います。
ーー本日はお忙しい中、ありがとうございました。
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