ITと人材育成で地域を元気にする方法とは?(相澤謙一郎氏へのインタビュー)

ITと人材育成で地域を元気にする方法とは?(相澤謙一郎氏へのインタビュー)

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地域を活性化するために、どのようにIT技術を活用できるのか。そんな問いに答えるべく、岐阜を拠点に全国へ展開するソフトウェア開発会社「タイムカプセル」の相澤謙一郎氏にお話を伺いました。「ITで地域から日本を元気にする」というキーワードを掲げ、観光アプリ開発や地域人材の育成、自治体のDX支援など、幅広い活動を展開する同社。その取り組みは地域の経済や社会にどのような影響を与えているのでしょうか。

今回のインタビューでは、同社のユニークな取り組みと、それに込められた思いに迫ります。

〇相澤謙一郎氏
300本以上のスマホアプリの開発に携わり、累計のアプリダウンロード数は1,000万を超える。『ちゃぶ台返し』、『あべぴょん』などが好評を博す。
県立東濃実業高等学校、大阪音楽大学にてアプリ開発の講師を担当。
共著「これからの自治体産業政策-都市が育む人材と仕事-」

ーー御社について教えてください。

相澤氏(以下敬称略):当社はソフトウェア開発会社で、”ITで地域から日本を元気に”というキーワードを掲げ、ソフトウェアやアプリケーションの開発を行っております。岐阜県で創業した会社ですが、現在では開発拠点が函館から沖縄まで全国に広がり、全国12ヶ所にオフィスを構えています。各地域でエンジニアやデザイナーを採用し、地域に根ざした開発体制を整えながら、日本全体の活性化を目指して事業に取り組んでいます。

ーー ありがとうございます。特に地域活性化に関して、どのような取り組みをされていますか?

相澤:私たちは、ソフトウェアの開発を通じて地域を元気にし、活性化していくことを目指しています。具体的には、観光促進のために自治体と協力して地域の情報を発信する観光アプリを開発し、観光客の誘致に取り組んでいます。

また、地域人材の育成にも力を入れています。たとえば佐賀県教育委員会様と連携し、小学生から高校生までが自宅で英語を学べる「SAGA e スタディ」というシステムを開発し、現在運用しています。

さらに、地域のDXを推進する取り組みとしては、岐阜県美濃市役所に弊社の人員を派遣し、行政内部でDXをサポートする活動を行っています。このように、多方面から地域活性化に貢献しています。

ーーまず、情報発信部分の観光アプリについてですが、具体的にはどのような内容のアプリを作っていますか?

相澤:具体的には、その地域を訪れた方がスムーズに周遊できるよう、地図を中心に観光情報や飲食店情報などを提供する機能がメインとなっています。今の時代、観光する際にはほとんどの方がスマホで地図を確認するので、利便性を重視した設計です。

たとえば、大垣市の例で言うと、大垣城や松尾芭蕉が巡ったエリア、水の都と呼ばれる名所など、地域の見どころを網羅的に紹介しています。このアプリを使うことで観光客の皆さんが地域の魅力をより一層楽しめる内容となっています。

ーーこれは自治体と一緒に開発するというイメージで進めている感じですか?

相澤:はい、その通りです。自治体から開発のご依頼をいただき、コンテンツなどを一緒に考えながら提供する形で取り組んでいます。

ーーありがとうございます。次に、地域人材の育成についてお伺いしたいのですが、どのような取り組みをしていますか?

相澤:地域の人材育成に関しては二つあります。まずは1つ目になりますが、私たち自身が地域でIT人材の育成に取り組んでいます。具体的には、小学校や中学校、高校、大学などでプログラミングやデザインのワークショップを開催し、地域のIT人材を育てる活動を行っています。また、育成した人材が地元で働ける環境を作ることも大事だと考えており、そのために地方で人材育成を行い、働く場を提供する取り組みを進めています。

二つ目は、地域全体の学習環境をITで向上させる取り組みです。たとえば、佐賀県では小学校3年生以上の生徒が無料で使える英語学習システムを提供し、学習環境の充実を図っています。

ーーこれは実際に授業で使われるものですか?

相澤:はい、利用の仕方は学校や先生の方針によって異なりますが、授業に取り入れて活用している先生もいらっしゃいます。たとえば、先生が管理画面から問題を作成し、ミニテストを行うことも可能です。従来はプリントを配ってテストを実施していましたが、このシステムを使えば、生徒全員が持っているPCやタブレットで簡単にテストができ、採点もオンライン上で自動化されます。これにより、先生方の手間が大幅に軽減されます。私自身も大学の非常勤講師をしており、採点がいかに大変かを実感していますが、このシステムでは採点結果がデータとして自動的に記録され、管理がしやすくなります。

さらに、生徒の学習状況もデータとして蓄積されるため、個別の進捗を把握しやすくなっています。生徒は個人学習でもこのシステムを活用でき、進度に合わせて柔軟に学習が可能です。たとえば、先に進みたい生徒は高校3年生の内容まで学習でき、逆に復習したい生徒は前の内容に戻って学習することもできます。このように、生徒一人ひとりの学習ニーズに応じた柔軟な学びをサポートするシステムになっています。

ーーちなみに、このシステムは今後、英語以外の教科にも広げる予定はありますか?

相澤:はい、まずは英語の内容をさらに充実させる計画があります。設問や問題を毎年増やし、学びを深められるよう取り組んでいます。そのうえで、英語以外の教科にも広げていきたいと考えています。

背景として、大都市圏では進学校や実業系の高校、スポーツに特化した学校など、多様な選択肢が子どもたちの受け皿として用意されています。しかし、地方では地域ごとにそうした多様性が確保しづらく、進学校が県庁所在地周辺に集中していることが多いのが現状です。広範なエリアにおいて、受け皿となる学校が限られているため、生まれ育った環境によって学習機会が制限されてしまうケースがあります。

そこで、オンライン学習環境が整うことで、地域による学習機会の格差を解消し、どこに住んでいても質の高い学びが得られるようになると考えています。タイムカプセルとしては、学びたいと思えばどの地域でも学べる環境を広めていくことを目指しています。

ーーなるほど、ありがとうございます。DX推進に関してですが、市役所内での具体的な取り組みについて教えていただけますか?

相澤:そうですね、まず市民の皆さんへの情報発信ツールとして、市役所のホームページが中心になっています。そのため、ホームページをより見やすく改善する方法についてのご相談をいただくことがあります。また、地域財源としてのふるさと納税も重要ですので、納税者を増やすための施策にも取り組んでいます。具体的には、ふるさと納税の返礼品の選定や、ランディングページの改善など、ウェブ上での申し込み体験を向上させるためのサポートを行っています。おかげさまで、美濃市役所様ではふるさと納税額が増加するなど、成果も少しずつ現れています。

さらに、公用車の管理についてもご相談をいただくことがありました。通常、職員の方々はホワイトボードで空き状況を確認していますが、「空いていると思った車が実は使われていた」といったトラブルも発生しやすい状況です。そこで、パソコンからリアルタイムで空き状況や予約状況が確認できる仕組みの導入についても支援しています。

こうしたさまざまな市役所内の課題に対し、私たちのスタッフが伴走しながら解決策を提供し、DX推進に貢献しています。

ーーなるほど。特定の分野に限定するわけではなく、市役所内の優先順位に沿って話し合いながら進めているという感じですか?

相澤:そうですね。市としてのDX目標やKPI、新しいツールやシステムの導入計画に基づきながら、基本的には市役所の計画に沿った実行目標の達成をサポートするのが軸となっています。その一方で、日常的な課題や疑問にも柔軟に対応し、現場のニーズに寄り添ったサポートを行っています。

ーーありがとうございます。現在、サテライトオフィスを積極的に展開されていますが、どのような背景や意図があるのでしょうか?

相澤:根本的な背景として、私自身が以前、広告業界でフリーペーパーやムック本の制作を中心に、全国各地で地域の情報発信や商店街の活性化に取り組んできた経験があります。会社員時代には、東北から福岡まで日本各地にオフィスがあり、紙媒体を通じて地域を盛り上げ、町の活性化や繁盛店のプロモーションに携わっていました。こうした経験から、地域活性化に対する強い思いとやりがいを感じていました。

その一方で、時代の流れとともに、情報発信が紙からWebやスマートフォンに移行し、デジタルを活用して地域を元気にすることの重要性が高まっています。タイムカプセルでも、この経験を活かしつつ、全国47都道府県での展開を目指しており、日本各地に開発拠点を設置しています。

ーーサテライトオフィスを拡大するだけでなく、人材育成やリクルート活動も積極的に行っているとのことですが、その点について詳しく教えていただけますか?

相澤:はい。拠点を設けた際には、必ずその地域の地元の方を採用するか、IT人材の育成を目的として自治体や学校と連携し、プログラミングワークショップを開催しています。これにより、地域の若者が地元で働ける場を創出する活動を行っています。

たとえば、九州の中央部にある宮崎県高千穂町は、人口約1万人強の山間部で、これまでIT企業が進出していない地域です。私たちはこの町の唯一の高校である高千穂高校と連携し、高校生向けのプログラミングワークショップを開催しています。その結果、新卒でタイムカプセルに入社した高千穂高校出身のエンジニアが現在2年目を迎えており、来年4月には新たに1名が加わる予定です。

現在、高千穂のオフィスにはエンジニア4名とマネージャー1名の体制があり、来年には6名になります。こうして、IT産業がなかった地域でもエンジニアという新しい職業が若者の選択肢に加わり、地域への貢献を実感しています。今後もこうした取り組みを全国に広げていきたいと考えています。

ーー ありがとうございます。今後の方向性について教えていただけますでしょうか?

相澤:今後の目標は、47都道府県すべてに開発拠点を設け、地域に根ざした環境でエンジニアやクリエイターが活躍できるようにすることです。現在、函館から沖縄までオフィスを展開していますが、まだ進出できていない地域があるため、さらなる全国展開を目指しています。

将来的には、各県に1拠点だけでなく、複数の拠点を設置し、どの地域でも地元で働ける機会を広げたいと考えています。これまでエンジニアやクリエイターの仕事は東京や名古屋、大阪、福岡など都市部に集中しており、地方では職場が少なく都会へ移住せざるを得ない状況でした。リモートワークが進んだものの、依然として都市に集中する現状を、地方でも技術者が活躍できるよう変えていきたいと考えています。

ーー 話は変わりますが、気仙沼では学校をリノベーションしてオフィスを構えられたとのことですね。

相澤:はい、その通りです。気仙沼での取り組みはユニークです。東日本大震災の影響で小中高校の統廃合が進み、廃校となった「小原木中学校」の2階をリノベーションしました。

このプロジェクトでは、気仙沼市役所や気仙沼信用金庫、私たちタイムカプセルを含む複数の民間企業が協力し、「ITベースこはらぎ荘」として再生させました。現在、2階には複数の企業が入居し、ありがたいことに満室です。こうして地域の資産を活用し、地元の方々に働く場を提供しています。

ーーすごいですね。

相澤:ありがとうございます。1階は公民館として利用されていて、2階には私たちのようなソフトウェア開発会社やデザイン会社、YouTube関連の会社など、多様な企業が入居しています。現在、3階のリノベーションも検討されている状況です。

気仙沼は仙台からのアクセスが悪く、いわゆる陸の孤島のような場所です。カツオの水揚げは盛んですが、地理的なハンデがあります。それでも、拠点を設けたことでさまざまな企業が集まり、地域の方々に新しい仕事の選択肢を提供できるようになりました。

さらに、地元の小中高校生が実際に活動する企業を目にすることで、「こんな仕事が地元にもあるんだ」と視野を広げ、将来を考えるきっかけになっていると思います。こうした取り組みが地域の活性化につながっていると感じています。

ーー実際、気仙沼でも若い方の採用を行っているのですか?

相澤:はい、行っています。気仙沼では地元の気仙沼高校でプログラミングワークショップを開催したり、地域の学校を訪れて会社説明などをしています。また、「ITベースこはらぎ荘」でのプログラミング体験ワークショップに参加した方が入社に至ることもあります。現在、地元出身の方々が実際に働いています。

ーー各地のサテライトオフィスでも、同じようにプログラミングワークショップを行っているのでしょうか?

相澤:はい、進出したエリアでは必ずワークショップを実施し、地元の学校と連携して授業に組み入れてもらうこともあります。こうした活動を通じて、地域での採用に積極的に取り組んでいます。

ーー実際、この取り組みはどれくらい前から始められたのですか?

相澤:2014年頃なので約10年前に始めました。当社は岐阜でスタートし、最初にプログラミング授業を導入していただいたのは、伝統ある県立岐阜商業高校さんです。スポーツが盛んな高校ですが、高校2年生と3年生向けにプログラミング授業を担当しました。

そのときの高校生が大学入学と同時にタイムカプセルでアルバイトとして働き始め、4年間の勤務を経て正式に入社しました。彼をきっかけに後輩たちも新卒で入社し、現在では岐阜商業高校から10名近くの卒業生が働いています。

この取り組みを他の学校にも広げ、東濃実業高校や岐阜工業高校、岐阜高専などからも採用を行い、20名近くの開発チームを形成しています。一定の規模で開発ができる体制が整ったので、今後も同様の取り組みを他の地域に展開していきたいと考えています。

ーー各地にサテライトオフィスを設置されているとのことですが、仕事は地元から受託して行っているのですか?

相澤:はい、その通りです。各地域の企業や自治体のDX支援に取り組みたいと考えています。たとえば、10年以上活動している岐阜では、以前は地元にWebやスマートフォンアプリを開発できる企業がほとんどなかったため、東京の会社に依頼するのが一般的でした。このような状況は他の地域でも同じです。

地域の企業からは「地元に開発会社があれば、コミュニケーションが取りやすく、地域の理解もあるので発注したい」という声をよく聞きます。私たちはそのニーズに応えるため、人材を地域で育成してきました。その結果、岐阜県では地元企業からの依頼が増え、松山の拠点でも愛媛県庁や地元の鉄道会社からの仕事が増えています。

こうして地域企業のDXを支援し、地元が元気になることで私たちの仕事も増え、採用活動が活発になります。その結果、地域に働く場が広がり、経済の活性化にもつながると考えています。私はこれを「ソフトウェア開発の地産地消」と呼び、これまで大都市に依頼するしかなかった状況を変え、地元での開発体制を全国に広げていきたいと考えています。

ーー以前、気仙沼で公共施設の予約をDX化し、利用率が大幅に上がったというお話をされていましたが、詳しく教えていただけますか?

相澤:はい、気仙沼では「気仙沼市スポーツ施設予約システム」という公共施設の予約・決済システムを開発させていただきました。最初に市役所からご相談いただいたのはコロナ禍で、キャッシュレス対応が求められていた背景がありました。従来、公共施設の予約は電話や現地での対応、支払いは現金といった方法が一般的でしたが、弊社のシステムを導入いただき、予約から決済までオンラインで完結できるようになりました。

最初は市営のテニスコートで導入されましたが、予約・支払いが簡便になることで稼働率が約1.8倍に上昇したと伺っています。電話での空き状況の問い合わせや現金支払いも減少し、コンビニ決済やクレジット決済の便利さから、利用者の負担が軽減されただけでなく、市職員の皆さんの負担も軽くなったとお聞きしています。現在では、テニスコート以外にもグラウンドや野球場など10以上の施設で導入されており、今後さらに多くの施設での展開を予定しています。

ーーなるほど。この開発も地元の方が担当されているのでしょうか?

相澤:そうですね。施設ごとに料金体系やキャンセルポリシーが異なるため、現地でのヒアリングが欠かせません。気仙沼では、地元のスタッフが中心となって打ち合わせを行い、施設の条件をシステムに反映する作業を行っています。

また、自治体の方々からも、採用活動に苦戦しているという話をよく聞きます。市役所でも人手不足が深刻で、窓口業務が重要ではあるものの、負担を減らす必要性が増しています。市民の多くは、ネットでの予約や支払いに慣れているため、オンライン対応が可能になると市民にとっても利便性が高く、役所の電話や窓口対応の削減にもつながり、Win-Winの形が実現しています。特に採用が難しい地方部でこうした取り組みを広げていきたいと考えています。

ーーこれから自治体内の窓口業務もDX化を進めていくということでしょうか?

相澤:はい、将来的には窓口業務の完全自動化、無人化を目指しています。公共施設で言えば、予約や支払いのほか、当日の鍵の管理や照明の操作などが現在は有人対応で行われています。例えば、鍵についてはスマートロックを導入し、予約者のスマートフォンとIDを連携することで、誰が何時に開け閉めを行ったかといった履歴が残るようにすれば、管理人が夜間に確認に行く必要がなくなります。

また、照明についても技術的な検証を進めており、API連携で照明の操作履歴を残す仕組みも実現可能です。誰がいつ照明をつけた・消したかをIDで紐づけできるため、電気がつけっぱなしになっていないかも遠隔で確認できるようになります。こうした仕組みを導入することで、施錠や消灯の確認がデータ上で可能になり、無人化が一層進むと考えています。

このようにDX化が進むことで、これまで活用されなかった施設も有効に利用できるようになり、利便性の向上につながると期待しています。

ーー例えば、どのような場所が活用できるようになるのでしょうか?

相澤:たとえば学校のグラウンドや体育館などが考えられます。かつては学校のグラウンドが放課後に解放され、子どもたちが自由に野球やドッジボールを楽しんでいました。しかし、近年では安全面の配慮から、関係者以外の利用が制限されることが一般的です。

こうしたシステムが普及すれば、市民の皆さんが学校のグラウンドや体育館を手軽に利用できる環境が整うことで、スポーツや運動の機会が増え、さらにキャッチボールなど場所が限られる活動もしやすくなります。今では、子どもたちが思い切り遊べる場所が少ないという声も聞きますが、このような仕組みを活用することで、学校施設を安全に開放でき、市民生活がより豊かになるのではないかと考えています。

ーー無人化によって、施設の閉鎖が避けられる可能性もありますよね?

相澤:そうですね。公共施設の維持には、利用者が少ない一方で管理コストがかかり、赤字のため閉鎖が検討されるケースも多いです。しかし、無人化と共通システムの導入により、ランニングコストを極力抑えた運用が可能になれば、施設を最低限の維持管理費で継続できるかもしれません。

公共施設は一度閉鎖や取り壊しとなると、再度建設するのは難しいです。ですから、そうなる前にコストダウンや利便性の向上に努めるべきだと思っています。例えば、施設のウェブサイトで利用方法を明示し、予約や支払いがオンラインで完結し、鍵の受け渡しも不要にすることで、利用しやすい環境を整えることが重要です。

その上で、もし市民に利用されないのであれば、廃止の選択も理解されるかと思いますが、現状では情報が分かりにくいために利用が促進されていない施設も多いのではないかと感じます。こうした施設を改善し、より多くの市民にとって利用しやすい環境を提供することが大切だと考えています。

ーー他に今後の準備中の取り組みや、今後したいことがあれば教えてください。

相澤:そうですね。現在、公共施設の予約と決済システムを運用して気づいたのは、予約や支払いを簡単にすることで、気仙沼ではテニスの利用者が増えるなど、人々の活動が活発になったことです。システムをユーザーにとって使いやすくすることで、利用が促進されるという手応えを感じています。今後はこうした取り組みをさらに広げていきたいと考えています。

将来的には、気仙沼のシステムと健康ポイントを連携させたり、地域通貨とも紐づけたりすることも視野に入れています。たとえば、地域通貨で公共施設の予約や支払いができたり、運動することで健康ポイントが貯まる仕組みを作り、地元の金融機関、たとえば気仙沼信用金庫と連携して、預金を地域通貨に変えて公共施設や地元の店舗で使えるようにする、といった展開が考えられます。

こうしたフィンテックを地域単位で回していくことで、人々の生活がより便利になり、地域全体の活性化につながると思います。私たちは現地にスタッフが常駐しているので、地域のニーズに合わせてシステムを開発し、地域全体を元気にする取り組みをさまざまな地域で進めていきたいと考えています。

ーー ありがとうございます。直近では、新たなオフィスを増やす予定などもありますか?

相澤:そうですね。先月、宮崎県都城市に新しいオフィスをオープンし、すでに何名か内定を出して拠点が立ち上がってきています。現在は福岡県や四国の徳島県、香川県でも物件を探しており、今年度か来年度には新たなオフィスをオープンできればと考えています。

ーー47都道府県すべてに拠点を置き、それぞれの地域でDXを推進していくということですね。

相澤:はい、まさに“リアル信長の野望”ですね(笑)。岐阜に拠点がある会社ですから、信長のように各地域で若い才能を引き入れて登用し、日本各地で活躍してもらいながら、全国規模でDXを推進していくのは楽しみでもあります。信長が若い武将たちを引き入れて全国制覇を目指したように、私たちも各地域に優秀な人材を配置し、日本をより良くしていけたらと思っています。

ーー 実際、IT系の拠点が地域にできて、そこに若い人が就職できるとなると、その地域に若者が残るための大きな役割を果たしていますよね。

相澤:そうですね。今までその地域になかった職業が生まれることで、地元の若者がそのまま地域に残れるだけでなく、都市部に出て行った人が「地元にこんな会社ができたらしい」と戻ってくる選択肢も増えています。私たちとしても、こうした「地元に戻る」選択肢の一つとなれるような企業を目指しています。そのために、給与体系や福利厚生が都市部の企業と遜色ない、もしくは同等であることが重要だと思っています。もし生活水準を落とさずに地元で働けるのであれば、「実家に戻ろうかな」と考える人も増えるのではないでしょうか。

ーー各拠点で社員が自由に働ける環境も整っているんですね?

相澤:はい。今年から「旅するように働く制度」を導入し、社員が年に1回、自分の働きたい拠点を選んで勤務できるようにしました。その際の交通費や宿泊費はすべて会社が負担します。つまり、会社のサポートで旅行しながら働けるという、社員にとっても嬉しい制度です。

ーーその制度でどれくらいの期間、他の拠点で働くことができるのですか?

相澤:基本的には最長1週間です。すでに利用している社員もおり、例えば高千穂の社員が1週間四万十町で働いたりしています。また、横須賀や気仙沼の社員が松山で1週間過ごし、日中はオフィスで働き、夕方には道後温泉に足を運ぶといった形で、仕事と観光を両立させています。

土日を絡めることもOKで、地元の社員と一緒に遊びに出かけたり、食事をしたりと、地域の交流も楽しんでいるようで社員からも好評です。

さらに気に入った拠点があれば、異動届を出して長期的に移住することも可能です。例えば、「1年ほど沖縄で働きたい」という場合には異動届を提出してもらえれば、どの拠点でも勤務できる環境を整えています。引っ越し費用は自己負担となりますが、自由に勤務地を選べるこの制度に、多くの社員が興味を持ってくれています。

ーーこれからの働き方として、いろいろな場所で働きたいと思う方も増えているので、自由度が高くて素晴らしいですね。

相澤:そうですね。いろいろな地域を実際に訪れてもらうことで、その地域の魅力をより深く感じてもらえると思います。「ここは美しい」とか「あれが美味しい」といった話も、やはり現地に行かないと伝わらない部分があります。YouTubeの時代とはいえ、現地で感じるものとは全く違いますからね。

地域の魅力を社員に体験してもらうことが、地方の活性化にもつながると考えています。また、この制度を通じて社員同士の交流が増えることで、リモートワークでは得られない親密さも生まれます。リモートで「マブダチ」になるのは少し難しいので、実際に一緒に働いたり、遊んだり、食事をしたりして、仲を深められる機会が増えれば、社員一人ひとりの人生にもプラスになると思います。

私自身も北海道から沖縄まで日本各地を飛び回り、各地域に「仲間」と言える人が増えてきましたが、これは私にとって一番の財産です。社員にもそんな経験をしてもらえたら嬉しいですね。

ーー素晴らしいお話をありがとうございました。これでインタビューを終了させていただきます。本日はお忙しい中、お時間をいただき本当にありがとうございました。

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