エンパワーメントという言葉を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。スピードと変化が求められる時代において、企業の生き残りをかけたキーワードの一つがエンパワーメントです。
「エンパワーメントを導入したいけど、何をすればいいのかわからない」という人も少なくないでしょう。
そこで、本記事では、エンパワーメントの定義や歴史的な背景、導入の効果、身近な事例について解説します。エンパワーメントの導入に関心を持つ経営者の方々はぜひ参考にしてください。
エンパワーメントとは?
まず、エンパワーメントの定義や歴史的背景について、具体的にみていきましょう。
エンパワーメントの定義と歴史的背景
エンパワーメントは、英語で表現すると「empowerment」となり、「権限・権利を与えること」「能力をつけること」という意味になります。
17世紀には、エンパワーメントは法律用語として「公的な権威、法律的な権限を与える」ことを指していました。
20世紀になると、ブラジルの教育者・哲学者であるパウロ・フレイレが、著書『被抑圧者の教育学』のなかで、エンパワーメントを「社会的に抑圧された人や集団に対し、本来持っている能力を引き出せるようにサポートし、生活や環境を自分でコントロールできるようにすること」と定義。社会学的な意味で用いられるようになったのです。
1950年代には、公民権運動(黒人解放運動)の運動理念として用いられ、その後、フェミニズムや市民運動に影響を与えるようになりました。
日本においては、ジェンダーや障害者、被差別部落などの差別を排除する人権運動の中で用いられており、昨今では、保健医療福祉や教育、企業などでも用いられ、「人が本来持っている能力を引き出す」という意味が含まれるようになりました。
エンパワーメントの4つの効果
ビジネスの現場では、エンパワーメントは社員一人ひとりが本来持つ能力を引き出すことで、企業の成長につなげる方法を指します。
企業にエンパワーメントを取り入れることによって生まれる効果について、具体的にみていきましょう。
業務の効率化
エンパワーメントのもともとの意味である「権限を与える」という観点から考えると、旧来の管理職が指揮命令を待つ形から、一人一人に意思決定権が与えられることによって、業務のスピードがアップします。
クライアントへの対応もスピーディーになり、顧客満足度の向上にもつながります。トラブル対応も現場の担当者が迅速に柔軟に対応することで、企業のイメージアップにもつながるでしょう。
スピードが求められる時代においては、エンパワーメントを取り入れることは必要不可欠と言えます。
社員の能力を育てる
エンパワーメントの導入により、社員が受身ではなく、主体的に考えながら仕事に取り組む姿勢がみられるようになります。
社員一人ひとりは、それぞれ異なる強みを持っています。各々の潜在的な能力が開花することで、新しい知恵や発想が生まれます。主体的に考えることで、社員の責任感も生まれてくるでしょう。
社員のモチベーションを高める
仕事を任され、能力を認められれば、社員のモチベーションが高まります。自主的に工夫して取り組み、良い結果につながれば、さらに仕事のやる気も増し、企業にとっても大きなプラスになります。
ただ、上司の指示を仰ぐことで力を発揮しやすいタイプの社員もいます。自主的に取り組むことを求められるとストレスを感じる社員もいるでしょう。それぞれの個性に合わせて、フォロー体制を整えてエンパワーメントを取り入れることが大切です。
社員のコミュニケーションの活性化
社員一人ひとりの能力が発揮されることで、お互い競争するのではなく、協力する風土が生まれてきます。
お互いが自分の強みを活かし補い合いながら、より良い仕事をし達成していこうという思いがあれば、会話が生まれ、コミュニケーションの活性化にも繋がります。
エンパワーメントの身近な事例
エンパワーメントの導入事例として、ザ・リッツカールトンホテルや星野リゾートといった有名企業の取り組みがあります。ここでは、筆者が実際に経験したエンパワーメントの事例を体験談として紹介させていただきます。
権限付与の効果とサンクスカードの活用
以前、人事異動により企業の総務・労務を担当することになった筆者は、前任者から引継ぎをし、当初はマニュアル通りに業務を進めていました。
1カ月、2カ月と仕事をしていくうちに、「この仕事、もっと工夫できることがありそうだ」と感じるようになってきたのです。
始めに取り組んだのが、消耗品のリユースです。次々消耗品を発注していますが、机の中に眠っている使いかけの消耗品でまだ使えそうなものを一度回収し、それを必要とする他の社員が使うことで、消耗品の発注を減らせるはずだと思ったのです。
社員への呼びかけのための回覧やポスター、リユースボックスの作成は、手の空いているアルバイトの人たちにも手伝ってもらい、少しずつ社内にリユースの意識が浸透していきました。
1年後、消耗品の発注の年間費用を1年前のリストと比較すると、大幅に減り経費削減につながっていることが一目瞭然でした。
時期を同じくして、企業を改革するためのさまざまな案が経営陣から提案されており、その一つに「サンクスカード」の活用がありました。
私の上司は、「いろいろな工夫をしてくれてありがとう」「経費削減してくれて感謝です」といったメッセージを添えたサンクスカードを、何度か机の上に置いてくれていたのです。
小さな工夫を上司がきちんと見てくれ、それを評価してくれていることがモチベーションアップにつながりました。
カードを受け取った社員も、「サンクスカードありがとうございます」の言葉を上司に伝えることができ、社内の良いコミュニケーションが生まれたことを実感しました。
若手による業務改革チーム発足
同じ会社の取り組みですが、ある時「若手社員による業務改革チーム」発足が発表されました。
1つの係から1〜3名ずつメンバーが選ばれ、合計約10人から成るチームで、私もメンバーの1人として毎月ミーティングに参加しました。
「職場改善につながることなら何でもかまわないから、考えてほしい」という期待を背負って選ばれたメンバーでした。
思いつくことを自由に雑談するなか、「上司の声かけがない」「コミュニケーションが希薄」「仕事のミスが多い」「職場の書類をすぐに探せるよう、整理整頓したい」など、思い思いの意見が出てきました。総務の私は、「社員が気軽にコミュニケーションできるスペースがほしい」という案を出しました。
会社から任されたチームの意見として、一つひとつ実現していきました。業務改革チーム主導で、社内での声かけが広がり、仕事のミスをなくすためのチェックリストを作成したり、コーヒーコーナーを作ることで自由にコミュニケーションできるスペースもできました。
一つひとつは小さなことですが、若手チームの生の声が形になっていったことは、有意義だったと感じています。
大規模イベントを新メンバーだけで運営
次に、セミナーやシンポジウムを企画している会社でのエンパワーメントについて紹介します。毎年、コンファレンス会場で行う大規模なイベントを開催していますが、ある年、転職で入社したばかりの管理職と入社3年目の私の2人が、新しいイベント企画チームとして任されることとなりました。
二人ともイベント企画は初心者でしたが、自由な発想を出し合い、試行錯誤で作り上げていきました。少ない人数で取り組むメリットとして、一つひとつの内容を会議にかける手間を省くことができるためスピーディーに進めることができ、型にはまらない思い切ったことにもチャレンジできました。
もちろん、事業の進捗状況は社内に共有し、必要なときには周りにサポートを求めることができる体制をつくりながら進めることを心がけました。
結果としては、予想を超えて来場者も多く大成功を収めることができ、私にとっても自分の潜在能力を発見して、自信をつけた経験でした。
変化を好まない会社でしたが、これを機にほかのイベントについても私たちのノウハウを活用し、少しずつ新しい取り組みをするようになっていきました。
まとめ:エンパワーメントは難しくない!小さなことから取り組もう
身近なエンパワーメントをご紹介しましたが、いかがでしたか?社員のモチベーションを高め、能力を育て、業務の効率化や社内のコミュニケーション活性化につながり、ひいては事業の成長に結びつくのがエンパワーメントです。
組織にエンパワーメントを取り入れようとしても、難しく感じてなかなか一歩を踏み出せないという経営者も多いのではないでしょうか。
まずは小さなことから取り組み、社員を信頼し支えることをしていきましょう。