日本では長く低金利の時代が続いてきましたが、世界情勢が多くのリスクにさらされる中、各国の金融機関では金利の引き上げが進んでおり、日本の金融機関においても金利上昇は間違いなく進んでいくと言われています。
金利が上昇することで、真っ先に影響を受けるのは、資金の中で借り入れ割合が大きい中小企業です。低金利で成立していたビジネスモデルも、金利上昇によって従来のような事業形態を維持できなくなる可能性があります。
そこでこの記事では、金利を固定化させる方法やメリットについて、紹介していきたいと思います。
金利が上昇するのはなぜ?現在の金利上昇の背景
まずは、なぜ今後金利が上昇すると言われているのか、その仕組みと現在の金利状況の背景ついて解説していきます。
新型コロナウィルスが世界経済に与えた影響
2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、経済不安も増大し、世界経済は停滞しました。このような未曾有の社会危機の勃発に際して、経済面での対応として世界的に低金利対策が行われ、中小企業の負担軽減を図る動きが活発化しました。
しかし、この1年で新型コロナウィルスも一般化し、WHOの緊急事態宣言も解除されるなど、収束の兆しが見えてきました。このような状況変化を受け、最近は、政治や商業、経済など社会の各側面で急速に脱コロナ体制への巻き戻しが行われています。
経済も正常化に舵を切っており、各国の金融機関ではコロナ対応として行っていた低金利対策を終わらせて、最近は、むしろ金利の引き上げを敢行しています。
進む金利の引き上げ
このような金利上昇の背景にあるのは、コロナの収束だけではありません。昨年始まったウクライナ戦争の長期化や、それに伴う資源高、付随する輸送高も影響しています。
資源価格が高騰することによって、各国の商品価格も上昇し、世界ではインフレが急速に進んでいるのです。
このような状況において、金利引き上げを実施することで、インフレによる急激な通貨価格の暴落を防ごうという取り組みが各国で行われています。円安が進む日本においても例外ではなく、金利引き上げは日銀が主導して行われています。
日本では、1999年に日本銀行が「ゼロ金利政策」を導入して以降、ほぼ一貫して金融緩和策が取られてきました。これにより、日本では20年以上、超低金利時代が続いてきましたが、世界の流れに歩調を合わせるかのように、金融緩和策から金融引き締めへと金融政策が転換しつつあるようにみえます。
2022年12月末に日本銀行は、それまで0.25%程度としていた長期金利の上限を0.5%程度に引き上げました。これに関して日銀の黒田総裁は、「利上げや金融引き締めではない」ことを強調し、金融緩和策を当面維持することをアピールしましたが、長期金利の上限引き上げは、近年の日本の金利政策においては大転換であり、今後どこかしらのタイミングで金利の引きあげが行われると想定しておくべきでしょう。
金利の上昇が中小企業に与える影響
では、金利上昇が企業経営に対してマイナスなことが明らかになりました。では、企業の中でも特に、中小企業に対してはどのような影響を与えるのでしょうか?具体的に確認していきます。
利子による負担の増加
金利上昇によって真っ先に影響を受けるのは、資金のなかで借入金依存度の高い中小企業です。大企業は、たとえ資金調達コストが金利の引き上げによって増大したとしても、コマーシャルペーパーや社債など市場からの調達、公募増資、転換社債など多方面から資金調達をすることが可能です。
しかし、銀行からの借入への依存度が高く、他の資金調達手段に乏しい中小企業の場合、金利の上昇は直接コストの増加につながります。
日本は、これまで世界でも稀有な低金利国家であったこともあり、多くの中小企業は、低金利であることを前提としたビジネスモデルを構築していました。しかし、金利上昇によってそのようなビジネスモデルが大きく傾いてしまうリスクがあります。長く低金利が続いたことで、金利高騰時の会社経営にまつわるナレッジが蓄積されていないのです。
債務不履行リスクの増大
借入金利の上昇は、企業が債務不履行に陥るリスクの増大につながります。日本の中小企業の事業モデルの多くは、低金利を前提としており、利払負担の増加に耐えられない可能性が大いにあります。
金利上昇は、多くの中小企業を債務不履行に陥れる可能性を持っていると考えられます。これは借入側のみだけでなく、貸付側にとってもリスクが大きいです。
設備投資や新規事業開発の鈍化
金利が上昇すると、企業は、銀行からの借入を以前のように受けることが難しくなります。つまり、借入を実施して積極的に事業規模を拡大するということが、以前よりも難しくなるということです。
特に、設備投資や新規事業開発といった、まとまった資金を初期に必要とするプロジェクトなどは、金利が上昇してからでは、ますますやりにくくなってしまうでしょう。
最近は、デジタルトランスフォーメーションの機運が高まっていることもあり、各企業で大規模な設備投資や業務改革が進められています。
金利上昇が進めば、こういった一連のデジタル改革も鈍化してしまう可能性があると言えるでしょう。
資金確保のための人件費カットによる人手不足
金利上昇により、資金繰りが苦しくなった中小企業の中には、目先の運転資金確保のために、賃下げや解雇など人件費カットという選択肢を仕方なく取る企業もあらわれると考えられます。
しかし、中長期的には、日本の中小企業は、生産労働人口の減少による人手不足に苦しむと言われており、人件費カットは、中小企業の人手不足に追い討ちをかける可能性が高いといえるでしょう。
金利上昇によって資金繰りが悪化し、資金確保のために人件費をカットするという方向性に進んでしまうと、一時的に財務状況が改善してもその後、人手不足によって事業継続が困難になるなど、負のスパイラルに陥るリスクが高まると言えるでしょう。
借入金利を固定化させる方法
このように金利が上昇することは、企業運営に対してさまざまなリスクをもたらします。可能な限り、金利を固定化させることが望ましいと考えられます。
この項目では、借入金利を固定化させる方法をいくつかご紹介していきます。
長期での借り入れにする
借入額の返済期間が1年を超えるものを、長期借入金と呼びます。長期で借入をする際に、固定金利での契約を行えば、金利変動の影響がないことから、景気の良し悪しにかかわらずキャッシュフローの計画を明確に構築することができます。
借入に際しての審査では、精緻な事業契約を求められるため、基準は厳しくなります。また短期金利と比較すると、長期金利の方が金利は割高になることが多いです。しかし、金利変動が起きた時でも、見通しを立てやすくなるという観点においては、非常に利点があると考えられます。
金利スワップを活用する
金利スワップとは、金利を対象とする金融派生商品金利の取引のひとつとされています。同じ種類の通貨で、異なる種類の金利(固定金利と変動金利など)を取引の当事者間で交換する(スワップする)取引のことを指しており、キャッシュフローを交換する金融契約です。
金利上昇だけでなく、急な金利低下など変動する金利に対して、借入する企業、貸付する金融機関それぞれが自社のリスクヘッジとして活用します。
金利スワップは、元本交換を行わずに、金利部分だけを当事者間で交換します。また、取引所を通さずに、当事者間で直接取引をする店頭取引(相対取引)によって行われるのも特徴なので、交換する期間や条件などは、当事者間であらかじめ取り決めることができます。
例をみていくと、現在変動金利で借り入れをしている企業が、将来の金利上昇リスクを鑑みて、スワップの相手との間で「変動金利受け取り、固定金利支払い」という金利スワップを契約します。この取引を行うことで、借入企業が今後支払う金利が固定されるので、金利上昇に比例して、借入コストが上昇していくリスクを回避することができるのです。
固定金利と変動金利のスワップ以外に、異なる種類の変動金利同士の交換なども金利スワップとして稀に行われるほか、交換する金利を金利関連指標とするケースも存在します。
一方、固定金利同士のスワップは、将来のキャッシュフローも固定化されているので、ありえません。
金利キャップ
金利キャップとは、はじめに少額の手数料を支払う代わりに、将来金利が上昇した時、支払い金利が一定の上限に抑えられるようにする金融商品のことです。
金利キャップも、最初の段階で少額の手数料を払ってリスクヘッジをするということなので、借入側にとって、財務状況を安定化させる助けになるような施策と言えます。
まとめ
今回の記事では、昨今の金利上昇がどのような背景で行っているのかという現状の解説に始まり、これまでの日本の金利をめぐる環境や、金利上昇が特に中小企業に与えるリスクを踏まえて上で、借入金利を固定化する方法をいくつかご紹介してきました。
金利上昇は、企業運営をしている人にとってはまさに今頭を悩ませている課題かと思います。ぜひ本記事を参考に、金利の固定化を検討してみてはいかがでしょうか。