みなさん。こんにちは。今回はHCD-Net認定 人間中心設計専門家飯塚幸雄氏へのインタビュー記事を掲載します。「UXのプロから見た小売業におけるDXとは?」ということで小売業のDX化について教えて頂きました。
飯塚幸雄氏
HCD-Net認定 人間中心設計専門家
一般企業でプログラマー、システムエンジニアとして勤務した後、Webデザイナーへと転職。
Web制作会社数社にサーバサイドエンジニア・フロントエンドエンジニア・ディレクターとして計7年間勤務したのち独立。
現在はフリーのUXデザイナーとして活動、大手アパレルや大手コーヒーチェーン、エンタメ企業、GSチェーン、専門小売店等
大手企業を中心にUIUX支援を行った実績多数あり。
—————————————————————————————————
ーまずは、これまでの経歴について教えていただけますか?
飯塚幸雄氏(以下、敬称略):
1社目はプログラマーとしてキャリアをスタートさせました。その後、システムエンジニアとして勤務した後、Webデザイナーに転身しました。Web業界に身を置いてからはサーバサイドから始まり、フロントエンドからデザイン、さらにはディレクション全てを行い、これは独立した方がいいなと思いまして、フリーランスをはじめました。
地道に知り合いから案件をいただきながら、目の前のことの改善、特にユーザー目線でのアドバイスをしている中で実績を認められて、
皆さんが知っているような大手企業からお声がけをいただけるようになりました。
特に、店舗を沢山もっているようなフランチャイズをやっているような企業やSPA(製造小売)などの案件を沢山やらさせていただいているような感じです。
ー現在取り組まれていることについて教えてください。
飯塚:大手小売企業様のECサイトのUIUXチームに所属しています。
タスクとしては、店舗で行われているような陳列や棚、什器の改善と同じようなことをECでも実現できるよう、プランニングやプロジェクトのディレクションを行っています。
具体的には各デバイスのUIだけでなく、UX全般に携わっています。
直近では、CRMを実現するために奔走していました。
具体的には、お客様がECでお気に入り登録した商品の在庫が少なくなった際に「在庫が少なくなりましたよ」とメールでご案内するといったもので、特筆するようなものではありません。ですが、このような「当たり前のこと」ができていない状態だったので、たくさんある課題から優先順位をつけ、まずここからやりましょうということで提案させていただいた案件になります。
ーコロナの影響でECは伸びていますか?
飯塚:そうですね。ここ1年ぐらいはコロナの影響でリアル店舗よりもECはかなりの右肩上がりで推移しておりましたが、現在は伸び悩んでいます。これは、コロナ特需を鑑みた経営計画を打ち出していることもありますが、企業の考え方にも問題があると感じています。
といいますのも、現在お付き合いしている企業様は昭和なイメージの人が多く、「いい商品作って、箱(店)を作って並べれば売れる」という考え方が浸透しており、ECにも同じような考えで運営されている状態です。
そのため、マーケティングや、UXの優先順位が低いので、ECならではの打ち手がないことが原因だと推測しています。
ー脱却と言いますと、具体的にはどのようなことをやっていますか?
飯塚:先ほど述べたようなCRMの提案にしても、単に他社で導入されているからという理由ではなく、顧客の行動分析、さらには季節要因なども考慮した購買状況の分析などを通して、きちんとプランニングをしたうえで行っています。
それらのプロセスを通じて、その企業で貯めている情報をちゃんと活用しましょうということを現場サイドに啓蒙しています。
ーなんと、データ分析からやられているのですね!
飯塚:そうです。戦略策定は経営陣が考えるわけですが、具体的にどうやる?については、私の方でUXデザインのプロセスを活用したプランニングをしています。
ーそもそも、なぜその領域のことまでやっているのですか?
飯塚:僕が支援する企業様は、定量的なファクトに基づき意思決定をされていることが多いため、僕の提案も必然的にそういったファクトが必要になります。
僕自身は、ユーザインタビューなど定性的な手段で情報を集め、ペルソナや、カスタマージャーニーを作り、そこから見える課題に対して解決案を考え実行することが多いのですが、その情報ではファクトに偏りが見られ、現場はOKでも経営層には通じません。
そのため、定量的なデータが必要になるわけですが、DXという言葉が一般化している現在は、購買情報などが比較的利用しやすい状態で保持されております。このデータを分析すればいいのですが、データサイエンティストやデータアナリストがいない、、、そのため、必然的にデータアナリストの領域の仕事をやらざるを得ませんでした。
ちなみに、GoogleAnalyticsでの分析はユーザ行動の可視化の際に普通に行うのですが、最近ではBI(ビジネスインテグレーション)ツールを活用して定点的にデータ分析をしたり、マクロを組んだりして分析などもしていたりします。
ー支援している中で、苦労されている点はありますか?
飯塚:そうですね。データは十分にあるけど、欲しい情報がすぐに取れない時は苦労しますね。
例えば、誰が何を買ったかはデータとしてあるが、どのアイテムを、どれぐらいの年代の人が、月に何回購入したか、というデータがすぐに取れないといったことはよくあります。
この辺りは、データアナリストが存在すればいいですが、「データ分析から導かれる情報」に価値を感じてもらうまでは、データ分析にコストをかけるという判断はできないと思います。
そのため、まずは自分がデータドリブンなやり方を証明することで、そのようなことができる環境を作ろうとしています。
ー飯塚さんにとってのDXとはどのようなものですか?
飯塚:自社のビジネスを、その時代にマッチできるように、変えていく。そのために、必要なファクトを用意できる環境をつくること、といったところでしょうか。
今は、モノ消費からコト消費へ変わっていますが、古い考え方に縛られたままでは、顧客のニーズに答えることはできません。
いまの顧客に求められるものを仕組として考えたり、それに合うように移行したりすることが重要だと思います。
また、ユーザーが気づかない課題の抽出、また、その課題をどう取り除くのかという点は、定性的にインタビューだけではなく、定量的に分析するなど多角的な分析も必要だと感じています。
そして、そのようなアプローチをする環境を整備することも重要です。
情報を集めるだけでは意味がなく、分析して仮説を出してプランして実行してという一連のサイクルが回らないと、お客様が求めるものは何かを導いたり、経営層が納得するファクトを導くことができないと思います。
最近DXの文脈で、とにかくデータをトレジャーデータを使って集めましょうみたいな話がありますが、単にデータを集めるだけでは意味がなく、何のためにそれを使うか見えていないとDXは失敗しますね。
繰り返しになりますが、
自社のビジネスを、その時代にマッチできるように、変えていく。そのために、必要なファクトを用意できる環境をつくること、
それがDXじゃないかなと思います。
ー貴重なお話をありがとうございました!