ヨーロッパでは、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが先進的に進められています。この流れに伴い、環境保護を促進するスタートアップが急増しています。これらの新しい企業は、創造的なアイデアを基に、環境保護と経済成長を両立させる新しいサービスや製品を開発し、持続可能な社会の実現に大きく貢献しています。今回は、世界中から注目を集めるこれらのスタートアップの事例を3つご紹介します。
【フランス】WePost|電車に乗るついでに運んでもらう
WePost社は、フランス・マルセイユに本拠を置くスタートアップで、SNCF(フランス国鉄)の乗客に小規模な荷物の配送サービスを提供するカープーリングモデルを展開しています。
通常であれば車で輸送する荷物を、人間が電車に乗るついでに運んでもらうということで環境負荷を減らしつつ、運ぶ人の電車賃を安くなります。電車の乗車客はこのサービスに登録して、荷物を受けとり、電車に乗って目的地の提携ホテルに荷物を渡すだけで、電車のチケット料金が最大20ユーロ安くなります。
WePostの仕組み
WePostの仕組みは次のようになっています。
1.スマホでマッチング
WePostは、独自のシステムで荷物を送りたい人と、そのルート上で旅行する予定の人をマッチングします。配達を希望する旅行者はWeb上でルートと日付を指定します。配達員を探している人は、荷物の種類、荷物の写真、重量を入力し、発送日と希望のルートを選択します。
旅行者は旅行中に荷物を運ぶことで小額の収入を得ることができ、荷物を送りたい人は迅速かつコスト効率の良い方法で荷物を送ることができます。
2.収益モデル
WePostは荷物の重量、配送時間、距離に基づいてコストを計算するアルゴリズムを持っています。
旅行者は平均して1回に15ユーロ稼いでいます。一般に荷物を送るコストは20ユーロとされており、他の従来の配送サービスよりも低価格といえます。
3.セキュリティと透明性
安全性を確保するため、WePostはユーザーに身分証明書の提示を求め、違法物品が流通することのないように管理しています。荷物は透明または開閉可能な容器に入れることが求められ、これによってどの段階でも荷物の中身を確認することが可能です。
4.利便性と効率性
WePostのサービスは主に小規模かつ緊急の配送に特化しています。ユーザーはWePostのウェブサイトで必要な情報を入力し、配達希望のルートと日付を指定することで、配達員とのマッチングが行われます。
このビジネスモデルは、環境に優しく持続可能な交通手段(電車)を活用し、旅行者と荷物を送りたい人々との間で新しい経済的な価値を生み出すことによって、都市間での効率的な荷物配送を実現しています。
WePostの使い方
1.旅行者はWeb上で登録を完了します。登録の際にはプロフィールとIDを入力し、その他の質問事項に回答します。
2.次に、予定している旅行(日程、行き先など)の情報を入力します。
3.WePostが旅行者にマッチする荷物の配送を希望する人を検索します。マッチングが成功した場合、WePostからSMS通知が送られるのでログインして配送を認証します。通常、契約締結は出発直前に行われます。
4.旅行者は認証コードを使用して提携ホテルまたは直接本人から荷物をピックアップします。認証にはWePostのQRコードラベルを使用します。
5.目的地では、旅行者が指定の提携ホテルで荷物を渡すか、または駅の指定された場所で本人に直接荷物を渡します。これは契約に基づきます。
6.最終的に、荷物の配送を依頼した人がQRコードを使用して荷物を受け取ります。この時点で受け取りが完了し、決済の手続きとなります。
【フィンランド】 RePack|eコマースの包装材
RePackはフィンランド発のスタートアップで、eコマースの高まりで需要が高まっている荷物に再利用可能な包装袋を開発し、持続可能なシステムを構築しました。
この包装袋は、ポリプロピレン素材で作られ、耐水性と耐久性に優れ、最大20サイクル(往復40回)の使用が可能です。消費者は商品を取り出した後、包装袋を折りたたんでポストに返送します。これにより、包装材の再利用が促進され、廃棄物が削減されます。
RePackは、環境に優しい包装オプションを求めるブランドや消費者から高く評価されており、ヨーロッパ全域および北米で販路を拡大しています。この包装袋を利用するとプラスチックやダンボールの使用に比べて大幅なカーボンフットプリントと廃棄物の削減が可能です。また加盟店での買い物を10%オフにするなどのインセンティブを顧客に提供することで返却率が上がっています。
RePackは、環境に関する賞を受賞しており、国際的な認知度も高いです。日本市場への進出も検討中であり、すでに複数の日本企業や消費者からの関心が寄せられています。RePackは、独特なビジネスモデルと環境への配慮で、オンラインショッピングの持続可能性を高める重要な役割を果たしています。
RePackのビジネスモデル
RePackの仕組みは、次のようになります。
【包装と配送について】
ブランド(店側)は商品をRePack包装袋に梱包し、顧客に発送します。包装袋は防水性と耐久性に優れた柔らかいポリプロピレン素材で作られており、清潔に保たれた状態で繰り返し使用が可能です。
【顧客による返送について】
商品を受け取った顧客は、商品を取り出した後、RePackを手紙サイズに折りたたみ、返送先の住所が書かれたラベルを貼って、ポストに投函します。作業は非常に簡単で、顧客は特別な手続きをする必要はありません。
【クリーニングと再配布について】
使用済みのRePackは会社に戻り、そこで洗浄と検査が行われます。適切なコロナ対策で返却されてから3日間は使用されることはありません。清掃されたRePackは、再びブランド(店側)に納品され、新たな商品の配送に利用されます。
【経済的・環境的利益について】
顧客が追加料金を支払ってRePackを選択します。顧客は包装袋を返送することで次回の購入時に割引を受けるなどのインセンティブを得ることができます。このシステムは、廃棄物の削減と資源の再利用を促進し、環境への影響を大幅に減少させます。
【持続可能性について】
RePackは約20サイクル使用でき、使用後は100%リサイクルが可能です。使い捨てプラスチックやダンボールに比べてカーボンフットプリントと廃棄物を大幅に削減できます。
RePackのシステムは、環境保護だけでなく、消費者とブランドの双方に経済的なメリットをもたらすことを目指しています。この仕組みにより、オンラインショッピングの持続可能性が向上し、包装廃棄物の問題に対する実用的な解決策を提供しています。
【ドイツ】 RECUP|ケータリング業界向けリユースシステム
「RECUP」は、ドイツのスタートアップ、reCup GmbHが開発した使い捨てのコーヒーカップを減らすためのデポジット制度です。
ユーザーはコーヒーを購入する際に1ユーロの保証金を支払い、返却時にその金額が返金されるシステムです。このシステムはドイツ国内で広く受け入れられ、1万4,700店以上の店舗が参加しています。RECUPのカップはリサイクルプラスチック製で、最大1,000回再使用可能であり、サイズも多様です。
同様に、「REBOWL」というフードテイクアウト用の容器も開発されています。これは5ユーロのデポジットで使用でき、返却すると全額戻ってくるシステムです。REBOWLは耐熱性があり、電子レンジでの使用も可能で、大容量や仕切り付きのバリエーションがあります。REBOWLは、テイクアウトやデリバリーサービスの「Lieferando」とも提携しています。
RECUPの仕組み
RECUPの仕組みは次の通りです。
【カップの購入時のデポジット支払いについて】
ユーザーはコーヒーを購入する際、カップの保証金として1ユーロ(約144円)を支払います。この金額はカップを返却する際に返金されるため、実質的なコストは発生しません。
【カップの返却とデポジットの返金について】
コーヒーを飲み終えた後、ユーザーはRECUPのカップをドイツ国内にある1万店以上の参加店舗のいずれかで返却します。カップを返却すると、初めに支払った1ユーロが返金されます。返却は購入した店以外でも可能です。
【参加店舗の検索とアプリの利用について】
専用のアプリを使用することで、ユーザーは近くの参加店舗を簡単に探すことができます。アプリでは地図上に店舗が表示され、カップの返却場所を簡単に見つけることが可能です。
【カップの再利用と管理について】
返却されたカップは店舗で洗浄され、次の顧客に提供されるため、カップは何度も再利用されます。これにより使い捨てカップの消費を削減し、環境への負荷を減らします。
【店舗の参加と経済性について】
店舗はこのシステムに参加することで、使い捨てカップのコストと廃棄物処理の手間を減らすことができます。システムの導入には月額のシステム料金が発生しますが、それが使い捨て容器のコストよりも安い場合が多いため、店舗にとって経済的なメリットもあります。
このように、RECUPは環境保護だけでなく、利用者と店舗双方にメリットをもたらす持続可能なシステムとして機能しています。
これらの取り組みは、ドイツにおける循環型社会の形成を助け、環境負荷を減らすために役立っています。
まとめ:スタートアップがビジネスのあり方を変えていく
これらのスタートアップ企業の事例からは、持続可能な未来を形作るための革新的なアプローチが垣間見えます。WePost、RePack、そしてRECUPは、それぞれ異なる分野で環境への配慮を核としたビジネスモデルを展開し、経済的な利益と環境保護の両立を目指しています。彼らの努力は、単にビジネスの成功に留まらず、社会全体の持続可能性への意識向上に寄与しています。
最後に、これらのスタートアップの取り組みが示すように、イノベーションによって環境問題への新たな解決策が生まれ、経済的にも社会的にも利益をもたらす持続可能な開発は十分可能です。私たち一人ひとりが意識を高く持ち、行動に移すことが、持続可能な未来を創造する鍵となるでしょう。
これからも多くのスタートアップがこのような環境志向のイノベーションを推進し、私たちの生活やビジネスのあり方を変えていくことでしょう。
※参考文献
SNCF. Pour payer moins cher votre billet, cette société vous propose de voyager avec de petits colis
WePost!
ヨーロッパ・北米で拡大する再利用できる包装袋。フィンランド発スタートアップ・RePack
「デポジット制コーヒーカップ・RECUP」 | ELEMINIST(エレミニスト)
Recup