SXSWレポート「ブランドポッドキャストか音声広告か:貴社に最適なのはどちらか?」

SXSWレポート「ブランドポッドキャストか音声広告か:貴社に最適なのはどちらか?」

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このセッションでは、ポッドキャストの専門家たちが、ポッドキャストの持つ価値やブランド構築への活用について語っています(Marriott InternationalのRobin Bennefield氏、AGI社Margaux Natiello氏、Right Side Up社Krystina Rubino氏、Quill社 Fatima Zaidi氏が登壇)。

アメリカのポッドキャスト広告市場は、2022年に約2,422億円に達し、前年比で26%の成長を記録しました。さらに、2025年には約5,500億円規模にまで拡大すると予測されています。

一方、日本では2024年の市場規模は約356億円と見込まれており、2033年には約1,331億円に達するとの予測があります。

アメリカではすでに、ポッドキャストは企業がブランディングを強化したり、ユーザーとの接点を築くうえで欠かせないマーケティング手法となっています。日本でも今後の市場拡大が期待されており、今回のセッションはその可能性を探るうえで大いに参考になるはずです。

ポッドキャストが持つ価値とブランド構築の可能性

SXSW2025のセッション「Brand Podcast or Audio Ads: What's Right for Your Company?(ブランドポッドキャストか音声広告か:貴社に最適なのはどちらか?)」

ポッドキャストは、ブランドが自分たちの“声”を届けるための非常に有効な手段です。他社との競争が激しい中、単なる露出ではなく、“関係性”や“活動”を通じて、リスナーとの距離を縮めることが重要になっています。

Fatima Zaidi氏は、「私たちのクライアントの多くは、ポッドキャストを通じて“声の資産(audio capital)”を構築し、長期的な信頼関係を築いてきました」と語ります。

ポッドキャストで実際に商品を紹介する際にも、「その製品を本当に愛用しているクリエイター」に語ってもらうことを大切にしているそうです。

私たちが手がけるポッドキャストでは、“その商品やサービスを心から好きな人”としか提携しません。なぜなら、聴き手には本音が必ず伝わるからです。たとえば、あるクリエイターは、製品を購入して自分で使い、それを自然と友人に勧めていたんです。私たちはその方のポッドキャストを聴いて“これは本物だ”と感じ、そこからパートナーシップを組みました。

信頼とエンゲージメントを育てる方法

L’Oréalのような大手ブランドもポッドキャストを活用しています。消費者は今、“本物らしさ(authenticity)”を求めています。ただ商品の話をするだけでなく、その背後にある人や想い、ストーリーを知りたがっており、こうしたアプローチは、社内でのブランド理解にもつながり、インターナル・ブランディングの一環としても評価されています。

Fatima氏は関連してポッドキャストの「従業員エンゲージメント」への波及効果についても述べています。

企業のステークホルダーや従業員も、ポッドキャストによってブランドへの理解を深め、エンゲージメントが高まっています。教育的なコンテンツは、信頼の基盤にもなります。

ブランドが得た意外な効果

Robin Bennefield氏は「私たちが制作しているポッドキャスト『About the Journey』は、旅そのものではなく、旅を通じて“自分を見つめ直すこと”にフォーカスしています」と紹介します。

更に「ポッドキャストを通じて築いた3年間の関係性が、思いがけず新たなパイプラインに繋がりました。紹介で次々に新しいチームと出会い、そこからまた新たなプロジェクトが生まれていった」と語っていました。

メッセージを“所有”する強み

Krystina Rubino氏は「今の時代、どのブランドも“注目”を奪い合っています。そんな中で、ポッドキャストはメッセージを自分たちでコントロールできる貴重なメディアです」と強調しつつ、ブランドが自分たちの考えや価値観を、特定のオーディエンスに向けて“自分の言葉”で語る場。それこそが、ポッドキャストならではの強みであることを説きました。

重要なのは、ブランドとして “今、何を達成したいのか” を明確にすることです。もし認知度の拡大が目的なら、既存の人気番組にスポンサーとして入るのが効果的。逆に、ブランドストーリーを丁寧に届けたいなら、自社制作のポッドキャストが最適です。

また、ポッドキャストはすぐに結果が出るメディアではないと冷静に分析しつつ、次のように語ります。

「ポッドキャストは“時間”という貴重なリソースをリスナーに求める媒体です。だからこそ、得られるエンゲージメントは深く、長期的なリターンがあるんです」とその特徴について語っていました。

映像と音声の融合で広がるリーチ

最近では、音声に加えて動画も取り入れる事例が増えています。Marriottのポッドキャストでも、YouTube向けに一部エピソードを動画化した結果、再生時間が数十万時間に及ぶなど、大きな反響を得たといいます。オーディエンスは必ずしも“音声だけ”でコンテンツを消費するわけではないです。

Robin Bennefield氏は「私たちが大切にしているのは、最初の数秒で聴き手の心を掴み、最後まで聴いてもらうこと。感情に訴えかける瞬間を作り出し、物語の中に引き込む。これを繰り返し最適化しています」

さらに彼女は、音声だけでなく映像を取り入れたことがもたらした成果にも触れています。

最近はポッドキャストをYouTubeに展開しています。音声と映像の両方で語ることで、数十万時間単位の再生時間が生まれ、より多くの人にメッセージが届くようになりました。

TikTokやYouTubeショートなど、視覚的なフックが重要な場面も増えていることにも言及。「今日のメディア環境では、消費者の注意力はとても繊細です。Netflix、SNS、無数の選択肢がある中で、“ポッドキャストを聴こう”と感じてもらうこと自体が挑戦なんです」と語っていました。

目的に応じた正しい選択を

最後に、Margaux Natiello氏は「重要なのは、“今、自分たちが何を目指しているのか”を明確にすること」と語ります。

ブランド認知を広げたいなら、すでに大きなリスナーを持つ番組とコラボするのが良いでしょう。一方で、深い関係性を築きたい、ブランドの世界観をきちんと伝えたい、というのであれば、自社でポッドキャストを立ち上げる方が効果的です。

質疑応答

Brand Podcast or Audio Ads: What's Right for Your Company? Q&A

以下は会場からの質問に対するQ&Aになります。

ポッドキャストのこれからについて

質問: ポッドキャストの今後について伺いたいです。私たちはYouTube動画の制作もしていますし、ポッドキャストは5年間続けていて、エピソード数は200本近くになります。視聴者層のデータベースも持っていて、ライブ配信やWebサイト上での配信も行っています。ただ、予算はほとんどなく、自力でコンテンツを作っています。それでも最近は有名なカンファレンスにも招かれるようになってきました。

そこで質問ですが、「次に来る波」は何だと思いますか? これから注目すべき動きはありますか?

回答: 素晴らしいご質問ですね。実際、ビデオショーをやるかどうか、映像に対応させるかどうかはこの1〜2年で大きく変わったと思います。今では95%以上のケースで、映像コンテンツも併用しています。

高コストでフルの映像番組を制作する必要はありません。コストを抑えたプラットフォームを使い、そこからポッドキャスト向けに変換することもできます。たとえばTikTokで30秒や60秒のハイライトを投稿することで、別のチャネルへのトラフィックを流すことも可能です。

特にニッチな分野においては、「自分たちが存在する」という認知を取るだけでも大きな価値があります。LinkedInで「このエピソードを聞いた」とタグ付けされた経験もありますし、それがメトリクス的に非常に重要です。

ターゲットを絞ったポッドキャスト戦略について

質問: 私たちのポッドキャストは、ミレニアル世代の上層部を対象にしていて、iPhoneユーザーが多いのが特徴です。ですが、リスナーを維持するのに苦労しています。

また、弊社のエージェンシーは非常に幅広い層をターゲットにしており、スタートアップから超成功者まで支援しています。ポッドキャストのコンテンツもその広さを反映しています。ただ、私は最近そのプロダクトを変革できるポジションにつきました。

しかし、経営層に対して「ターゲットを絞ってもっと効果的な内容にする必要がある」と言い出すのが難しいのです。どのようにして、コンテンツの焦点を絞るような“難しい会話”を、ホストや上層部と進めればいいのでしょうか?

回答: 非常に共感します。そのような会話は簡単ではありません。ただし、私たちが繰り返し経験してきたのは、「焦点を絞ることで、むしろ広がりが生まれる」ということです。ターゲットを明確にすることで、その層の中で深く刺さり、結果として共有されたり話題にされたりして、より多くの人に届くようになります。

ホストには「これは君の番組だけど、これは同時にリスナーのための番組でもある」という視点を持ってもらうことが重要です。ホストが個人的な満足のためではなく、目的に応じたエピソードを作るようサポートする必要があります。

※本記事は、本メディアの記者がSXSW2025のセッション「Brand Podcast or Audio Ads: What’s Right for Your Company?(ブランドポッドキャストか音声広告か:貴社に最適なのはどちらか?)」に参加し、内容をまとめたものです。公式の発表とは異なる点がある場合がありますので、ご了承ください。

本セッションは、2025年3月7日16時~ Austin Convention Center Favorite Ballroom Bにて開催。

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