スマホ操作に長け、SNSやアプリを自在に使いこなす若者たち。
彼らは「デジタルネイティブ」と呼ばれ、ITに強い世代だと広く信じられています。しかし実際のビジネス現場では、Excelをはじめとするパソコンの基本スキルに苦手意識を持つ新入社員が少なくありません。
このギャップは単なる「新人教育の遅れ」では済まされない問題です。データ活用や業務効率化が欠かせないDX推進において、Excelスキル不足は組織全体の生産性を阻む“見えない壁”になりつつあります。
なぜ、デジタルネイティブ世代はExcelを避けてしまうのか?
その背景には、スマホ中心の成長環境や教育現場での学習機会の不足といった要因があります。本記事では、若者がExcelを克服するためのステップと、企業が取るべき現実的な対策を徹底解説します。
若手社員がExcelに弱い理由と課題
デジタルネイティブ世代、特に1990年代後半以降に生まれた「スマホネイティブ世代」は、物心ついた頃からスマホが身近にありました。
情報収集からコミュニケーション、大学のレポート作成まで、多くをスマホ一台で完結させてきたため、パソコンに触れる機会が上の世代に比べて圧倒的に少ないのが実情です。
実際に、新入社員研修の現場では、以下のような声が聞かれます。
「キーボードでの文字入力に慣れていない」
「ファイルの保存場所の概念が分からない」
「Excelのセルの結合や基本的な関数でつまずく」
彼らはスマホアプリのような直感的な操作には慣れていますが、Excelのような多機能で体系的な学習が必要なツールには戸惑いを感じやすいのです。 学校でExcelの使い方を体系的に学ぶ機会が少なかったことも、苦手意識を持つ一因と言えるでしょう。
Excelスキル不足でDXが止まる3つのリスク
企業のDXを推進するためには、社員一人ひとりがデータを活用し、業務効率化を図る意識とスキルを持つことが不可欠です。 Excelは、売上データ集計、顧客リスト管理、プロジェクトの進捗管理など、多くのビジネスの現場でデータ活用の入り口として機能しています。
若手社員のExcelスキルが不足していると、以下のような問題が生じ、DX推進の足かせとなりかねません。
非効率な手作業で失われる時間と精度
Excelの関数やマクロを使えないと、本来は一瞬で処理できる作業を手作業で繰り返してしまいます。たとえば、売上データを一件ずつ目視で確認してしまうケースです。
これにより作業時間が膨らむだけでなく、集計ミスのリスクも高まります。業務の正確性やスピードを損なうことは、DX推進に必要な「データを武器にする文化」の醸成を妨げてしまいます。
データ活用不足で次の一手が見えない理由
グラフやピボットテーブルを使いこなせないと、データは単なる数字の羅列で終わってしまいます。例えば、売上のトレンドを把握したり、顧客データを分析して営業戦略に活かすといった「次につながる活用」ができません。
結果として、せっかく集めたデータが眠ったままになり、意思決定の質を高める機会を逃してしまいます。
業務改善の機会損失でDXが遅れるリスク
DX推進の本質は、データに基づく業務改善です。しかしExcelスキルが不足していると、業務フローの中の非効率を発見することすら難しくなります。
たとえば工数管理のデータから、特定の工程に時間が偏っていることを見抜き、自動化や改善提案につなげる――こうしたアクションが生まれにくくなるのです。その結果、改善のチャンスを逃し、変化に対応するスピードが遅れてしまいます。
Excelスキル底上げの3つの方法
上述した3つのリスクは、企業のDXを推進するうえで見過ごせないポイントです。とはいえ、裏を返せば「Excelスキルを底上げするだけで、多くのリスクを回避できる」ということでもあります。
ここでは、そのための具体的な改善策について見ていきましょう。
1.体系的な研修で基礎力を強化
新人研修や階層別研修の中に、Excel活用スキルを組み込み、関数・グラフ・ピボットテーブルなどの基本を体系的に習得させることが効果的です。
特に「実務データを使った演習形式」にすることで、研修で学んだ内容がすぐに現場で応用できるようになります。
2.OJTで“使いながら学ぶ”文化を育成
現場でのOJTを通じて、先輩社員が若手に実際の業務データを使いながらノウハウを伝える方法も有効です。
例えば、日次報告の集計や定例会資料の作成など、ルーティン業務にExcelを活用する機会を組み込むことで、自然とスキルが身につきます。こうしたプロセスを通じて「データを扱うことが当たり前」という文化も醸成されます。
3.サポートツールの導入で学習ハードルを下げる
最近では、Excelの操作をガイドするアドオンや、定型作業を自動化するRPAツール、さらにはChatGPTのように数式やマクロの作成をサポートするAIも登場しています。
こうしたツールを導入することで、若手社員がつまずきやすいポイントを解消し、スキル習得のスピードを高められます。また、学習の習慣化にもつながります。
まとめると:
・研修で基礎を固める
・OJTで実務に落とし込む
・ツールで学習をサポートする
この三位一体の取り組みによって、社員一人ひとりのExcelスキルを着実に高めることができます。結果として、データ活用が進み、企業のDX推進に弾みがつくでしょう。
新人のExcel苦手を克服する育成法
Excelはビジネスの現場で依然として重要なツールです。 苦手意識を克服し、スキルを身につけることで、仕事の効率は格段に上がります。ここでは、初心者でも取り組める3つのステップを紹介します。
1.目的を明確にする
まずは「何のためにExcelを学ぶのか」という目的を具体的に設定しましょう。
例えば、「毎月の売上報告書を効率的に作成したい」「顧客リストを整理して、DM送付先を素早く抽出したい」など、身近な業務に結びつけると学習意欲が湧きやすくなります。
2.基本操作からマスターする
いきなり難しい関数に挑戦するのではなく、まずは基本操作を確実に身につけることが大切です。
例えば:
✅ショートカットキー
Ctrl+C(コピー)、Ctrl+V(貼り付け)など、基本的なショートカットキーを覚えるだけで作業スピードは格段に上がります。
✅基本的な関数
SUM(合計)、AVERAGE(平均)など、使用頻度の高い簡単な関数から試してみましょう。
✅表・グラフの作成
データを視覚的に分かりやすく表現する表やグラフの作成機能は、Excelの最も基本的な機能の一つです。
✅ウィンドウ枠の固定
縦横に長い表を見る際に、項目名を常に表示させておく「ウィンドウ枠の固定」は非常に便利な機能です。
3.実践で使い、慣れる
学んだ知識を定着させるには、実際に手を動かすのが一番です。会社の業務データを使って練習したり、オンラインの練習問題を活用したりして、繰り返し実践しましょう。
脱Excel&スマホ活用で業務改革
Excelは依然として強力なツールですが、すべての業務に最適なわけではありません。複数人での同時編集やリアルタイム共有が求められる場面では、クラウドサービスやスマホアプリを活用した方が、効率的で現代的なワークスタイルに合致します。
脱Excelとスマホ活用で進む業務改革事例
複数人での同時作業や、外出先での迅速な入力・共有が求められるシーンでは、Excelに依存するよりも、クラウドサービスやスマホアプリを活用した方が圧倒的に効率的です。
若手社員が使い慣れているスマホを業務に取り入れることで、教育コストを下げつつ即戦力化できるのも大きなメリットです。ここでは、実際に「脱Excel」が効果を発揮している具体的な業務の事例を紹介します。
✅勤怠管理・経費精算
スマホアプリで打刻やレシート申請を行えば、Excelでの集計は不要になり、承認もスピーディーに。
✅日報・作業報告
チャットツールや専用アプリを使えば、移動中でも簡単に入力でき、写真や位置情報も即座に共有可能。
✅在庫管理・受発注
従来の専用端末をスマホアプリに置き換えることで、教育コストを削減しながら現場効率を向上。
✅営業活動(CRM・SFA)
外出先から顧客情報や商談状況を更新でき、営業活動のスピードが加速。
こうした「脱Excel」や「スマホ完結」の業務改革は、若手社員が活躍しやすい環境を作るだけでなく、業務全体の効率化、ペーパーレス化、そしてリアルタイムなデータ活用を促進し、企業全体のDX推進に大きく貢献します。
DX時代に企業に求められる姿勢とは
大切なのは、若手社員に「Excelを克服させること」だけに固執しないことです。むしろ、彼らが使い慣れたデバイスやツールで力を発揮できる環境を整えることが、企業の成長に直結します。
Excelスキルの育成はDX推進の第一歩。しかし同時に、「脱Excel」「スマホ活用」といった新しい働き方を取り入れる柔軟さこそ、変化の時代を生き抜くために欠かせない視点です。
まとめ|Excel教育とDX推進の両立
「デジタルネイティブなのにExcelができない」という現象は、若者のITスキルが低いのではなく、彼らが主に接してきたデジタル環境がPC中心ではなかったことに起因します。
このギャップを埋めるためには、若者自身がExcelの重要性を理解し、基礎から学ぶ努力をすること。そして企業側は、若者のスキル不足を前提とした教育体制を整えるとともに、彼らの強みであるスマホを活かせる業務フローへと改革していくこと。
この両輪で取り組むことが、変化の激しい時代を乗り切るための真のDX推進に繋がるのではないでしょうか。