変化が激しく予測困難な時代に適応していくには、社員1人1人の主体性が必要不可欠です。部下に仕事を任せるために、権限委譲の適切な方法を覚えておきましょう。
今回は、権限委譲の概要から取り組み方まで解説します。この記事を読めば、適切な方法で仕事を部下に任せられるようになるため、参考にしてみてください。
権限委譲とは
権限委譲とは、上司が持っている業務を部下に与えることをいいます。
部下に業務の権限を譲る際は、仕事の責任は上司が持ち続けなければいけません。その理由は、権限委譲とは部下を育てる目的で取り組むものだからです。部下に仕事を丸投げするために取り組むものではありません。
部下に業務の裁量を与えて自律性を養い、組織全体のパフォーマンスを向上させるために権限委譲は実施されます。
権限委譲が必要な3つの理由
権限委譲の説明をしましたが、なぜ必要なのでしょうか?次に、権限委譲が必要な理由をご紹介します。
部下を育てるため
権限委譲は部下を育てる目的で、取り組むものだと説明しました。仕事を任せて、成功体験と失敗体験を積ませることは、最も効果的な部下の育成方法になります。
成功した場合は、部下に自信を与えられて、ステップアップするための挑戦心を育むことができます。失敗した場合は、学習の機会と捉えて、どのような方法であれば、乗り越えられるのかを説明してあげましょう。このように、部下を育てるために権限委譲が行われます。
上司が成長していくため
上司が中間管理職から上級管理職に成長するために、権限委譲を実施する必要があります。その理由は、上級管理職になると仕事の幅は広がり、1人で業務が裁けなくなるためです。
権限委譲で部下を育てて仕事を任せられるようになれば、重要度の高いコア業務に集中できるようになります。このように、中間管理職が上級管理職へステップアップするために、権限委譲を行うのです。
組織全体のパフォーマンスを上げるため
権限委譲は、組織全体のパフォーマンスを上げるためにも実施されます。上司の業務を部下に任せれば、付加価値のある仕事に投下できる時間が捻出できます。
部下自身が成長していけば、現場で起きた問題は即座に解決できるようになるでしょう。このような仕組みで、組織全体をボトムアップしていけば、組織全体のパフォーマンスを上げていけます。
権限委譲の取り組み方-3STEP-
権限委譲は3つのステップで取り組みます。
- 権限委譲する仕事を準備する
- 権限委譲の適任者を探す
- 権限委譲を実施する
それぞれのステップについて詳しく説明します。
権限委譲する仕事を準備する
まずは、権限委譲する仕事を準備しておきましょう。権限委譲する仕事は、部下が業務に携わることで、成長できるものを選んでください。何故なら、権限委譲は部下を育成するために取り組むものだからです。
自分がやりたくない仕事を部下に権限委譲するものではありません。部下が成長できる仕事を準備しましょう。
権限委譲の適任者を探す
次に、権限委譲の適任者を探します。権限委譲する仕事を与えることで、能力が伸ばせる適任者を選ぶようにしましょう。そのために、権限委譲の候補者を複数名出して、各自のスキルの棚卸ししてみてください。
「どのようなスキルが足りないのか?」「そのスキルを磨くためにどうすれば良いのか?」を考えながら適任者を決めます。
権限委譲を実施する
次に、適任者に仕事内容や目的を説明して権限委譲を実施します。その際に、望む結果を共有しておき、結果を出すためのマイルストーンを説明しておきましょう。説明することで、やるべきことが明確になるためです。
指定の業務を終えたら、部下から報告をもらい承認します。部下のレベルが上がったら、報告の回数を減らすなどの工夫をしましょう。
(参考資料:econoshift.com「権限委譲の原則とそのやり方の4ステップ」)
権限委譲を行う場合の6つのポイント
権限委譲の取り組み方を説明しましたが、ポイントを押さえておけば、効果が見込みやすくなります。ここでは、権限委譲を行う場合のポイントをご紹介します。
1.部下との信頼関係を構築する
権限委譲を成功させるためには、上司と部下の信頼関係が必要不可欠です。
その理由は、信頼関係を構築できていないと、相手の発言の印象が大きく変わるためです。例えば、部下が上司を信頼していないと、任された仕事に対して「余計な仕事を押し付けられた」と感じてしまう恐れがあります。
このようなトラブルが起きないように、権威委譲を実施する前に、部下との信頼関係を構築しておきましょう。
2.目標を設定しておく
権限委譲する際は、適任者の能力より、少し高い目標を設定しましょう。その理由は、権限委譲とは部下を育成する目的で行うものだからです。高すぎる目標を設定すると部下のプレッシャーになってしまいます。それを避けるためにも、少し努力をすれば届く目標を設定しましょう。
3.部下の個性を見極める
権限委譲の適任者を決める場合は、社員の個性を見極めてください。
各自の強みに合わせた権限委譲が実施できれば、成功しやすいためです。また、成功体験を積むと、部下は積極的に行動しようと考えるようになり、課題に対しても前向きに取り組むようになります。
各自の強みに合わせた権限委譲ができるように、部下の個性を見極めましょう。
4.報告のタイミングを決める
権限委譲する際に、報告のタイミングを決めておきましょう。部下は上司に「何をどのように決定して仕事を進めたか」を報告する義務があります。上司は業務の進捗状況を把握しておかなければ、与えた仕事に支障をきたす恐れがあります。最悪の場合は、大きな損失を被ることになるため、注意しなければいけません。
部下に裁量を与えて見守ることは大切ですが、どのタイミングで報告すべきかを決めておきましょう。そうすれば、業務の進捗状況が把握できて、大きなトラブルに発展するのを防げます。
5.部下に完璧を求めない
権限委譲を実施すると決めたら、部下に完璧な仕事を求めないように心がけましょう。その理由は、完璧を求めると部下の神経が擦り減り、神経が参ってしまうためです。
「これだけしかできないのか。自分だったら、もっと出来るのに。」というように、自分と同じレベルで仕事の結果を求めてしまいがちです。しかし、「6割程度の仕事ができたら上出来だと認めよう。」と考えてあげて、部下が安心して新しい仕事に取り組めるようにしてあげることが大切です。
6.上司が仕事の責任を持つ
権限委譲を実施した後も、上司が仕事の責任を持つように心がけてください。その理由は、上司の仕事とは部下を育てることだからです。部下の様子を観察して、仕事で悩んでいたら支援してあげて、失敗したら責任を持ってあげましょう。
権限委譲を実施する際に「失敗しても責任は私が持つから、挑戦してみなさい。」と伝えてあげると、部下は成長の機会を与えてくれたと、意欲的に仕事に取り組んでくれるようになります。
権限委譲に取り組んでいる企業事例
最後に、権限委譲に取り組んでいる企業事例をご紹介します。
星野リゾート
リゾートホテルを運営する株式会社星野リゾートでは、フラットな組織文化を醸成するために「エンパワーメント理論(著者:ケン・ブランチャード)」が導入されています。この理論を奨励し、誰もが自由に意見交換できるフラットな組織を作っているのです。
また、支配人は立候補により決められ、誰でもキャリアに関係なく挑戦できます。このような仕組みで、社員のモチベーションや責任感を醸成しているのです。この理論を奨励した結果、離職率が低下しただけではなく、若手が積極的にチャレンジできる職場となりました。
ザ・リッツ・カールトン
世界中で5つ星ホテルを運営するザ・リッツ・カールトンでは、ホテル業で最優先である顧客満足度を第一とした権限委譲を行っています。具体的に説明すると、以下のような権限委譲をしています。
- 上司の判断がなくても自分の裁量で行動できる
- 他のセクション業務を手伝う場合には、自分の業務を離れられる
- 全ての従業員に1日の決裁権として2,000ドルを与える
このような権限を与えることにより、スタッフがプライドを持って主体的に仕事に取り組め、顧客満足度を向上させていけるのです。
インターネット関連サービスを提供しているGoogle社では、「企業情報をオープンにして、社員に権限を委ねて仕事して欲しい」というスタンスで権限委譲をしています。
具体的に説明すると、週1度の全社員ミーティングで、創業者や管理職者が直接、会社の状況や進捗状況を説明しているのです。そこでは、社員は今後の展望や変更点などを聞け、質疑応答の際には自由に発言できるようになっています。
このような仕組みで、自主性を持って業務にあたる従業員を育成しているのです。
まとめ
今回は、権限委譲の取り組み方をご紹介しました。権限委譲は、部下の育成や上司自身の成長、組織全体のパフォーマンスの向上に欠かせないものです。
権限委譲に成功している企業は、業績を順調に伸ばしています。ぜひ、これを機会に部下に仕事を与える際は、権限委譲の実施方法が適切であるかを見直してみてください。
株式会社ベリーグッド社は、経営コンサルティングサービスを提供しています。権限委譲の方法にお悩みの方の相談も受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。