水産業DXとは?求められる背景から取り組み方まで徹底解説!

水産業DXとは?求められる背景から取り組み方まで徹底解説!

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第一次産業の労働者不足は、深刻な問題となっています。漁業は、労働者不足に留まらず、水産資源データの不足も問題視されています。その理由は、水産資源データに基づいた漁獲、養殖をしなければ、漁業生産量が落ちてしまうためです。この問題を解決するために注目を浴びているのが「水産業DX」です。

産業DXを推進すれば、どのような効果が見込まれるのでしょうか?また、どのように水産業DXを推進していけば良いのでしょうか?今回は水産業DXについて詳しく解説します。

水産業DXとは

水産業DXとは、水産業にデジタル技術を浸透させていき、人々の生活をより良いものへと変革することをいいます。

具体的に説明すると、ICTを活用して水産資源のデータ管理をし、根拠に基づいた漁業をすることで漁業生産量を上げていけます。また、サプライチェーンの可視化をすれば、消費者が安心して購入できるようになるでしょう。

このように、水産業の業務効率化やサービスの品質向上のために、水産業DXを推進していく必要があります。

水産業DXが求められる背景

水産業DXが求められる背景は「労働者不足」「漁師の年収」「水産資源のデータ不足」です。

1.労働者不足

水産業DXが求められる背景の1つ目が、労働者不足です。

水産庁『水産業の就業者をめぐる動向』によると、国内の漁業就業者は減少傾向にあり、2019年には前年比4.6%減少して14万4,740人となっています。就業形態別に見ると、独立・自営を目指す新規就業者は前年から3割近く減少しています。

水産業に限った話ではありませんが、一次産業は3K(きつい・汚い・危険)のイメージが定着していて、後を継ぐ若い世代が少ないことが、労働者不足の原因となっている状況です。

2.漁師の年収

水産業DXが求められる背景の2つ目が、水産業の所得です。水産業の所得は、国内の漁業生産量が減ってきていることから減少傾向にあります。

水産庁『漁業生産の状況の変化』によると、漁業生産量は、1984年に1,282万tとピークを迎えていましたが、2018年に442万tまで減少しました。その結果、漁師の年収が下がってきており、農林水産省の統計では200万円〜400万円が最多となっています。そのため、水産業DXで漁業生産量を上げていく取り組みが必要になってきているのです。

3.水産資源のデータ不足

水産業DXが求められる背景の3つ目が、水産資源のデータ不足です。水産業の所得の改善をするためには、国内の漁業生産量を増やしていかなければいけません。また、熟練の漁師による経験や勘になる捕獲量に頼らず、データを活用して正確な捕獲量を予測する必要があります。そのためには、水産資源のデータを蓄積していかなければいけません。

現在、捕獲量を予測したり、水域の状況を観測する水産資源のデータが不足しています。このデータをIoTを活用して取得していき、AIを活用して分析し、データを活用しながら漁業生産量を上げていかなければいけません。そのため、水産業DXで水産資源を取得していく必要があるのです。

水産業DXのメリット

水産業DXが求められる背景を説明しましたが、取り組むと、どのようなメリットがあるのでしょうか?次に水産業DXのメリットをご紹介します。

1.漁業の業務効率化

水産業では、水産資源のデータが不足していると説明しました。データ不足のため、海洋環境と資源変動の関係が十分に解明されておらず、適切な資源評価ができていません。

また、漁獲報告も手入力などアナログで行っており、大きな負担となっています。漁業者の経験と勘に基づき、非効率な操業を行っていることが多いです。この問題は、水産物DXで解決できます。

例えば、漁獲報告も管理システムで行えば、場所や時間を問わずにスマホで報告できます。また、蓄積したデータを分析すれば、適切な資産評価ができるでしょう。水産物DXを推進すれば、漁業の業務効率化が図れるのです。

2.漁師の所得向上

水産業DXで業務効率化をしていけば、漁師の所得を上げることができます。その理由は、データに基づいた漁業が行えるようになり、高品質な魚が安定的に釣れるようになるためです。また、ICTを活用した流通革命を起こせば、消費者により新鮮な魚を届けることができます。サービスに付加価値が与えられ、現在の売値より高い価格が着きます。

3.若手人材の育成

水産業は「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージがあるため、若手人材が獲得しにくかったです。また、漁師の高齢化が加速しており、熟練者の知見やノウハウが継承されずに廃業を迎えていることも多々あります。このような問題も、水産物DXで解決できるのです。

例えば、ICTに熟練の漁師のノウハウを蓄積しておけば、いつでも継承ができます。早期の育成が行えるように、若手人材の育成がスピーディーにできるようになるのです。

また、業務効率化ができて負担が少なく、所得が向上できれば、水産業に興味・関心を寄せる若手人材が出てくるでしょう。

 水産業DX推進の取り組み事例5選

水産業DXのメリットをご紹介しましたが、どのように取り組めば良いのでしょうか?取り組み方は、企業事例を参考にすると分かりやすいため、確認しておきましょう。ここでは、水産業DXの取り組み事例をご紹介します。

1.養殖の業務効率化

フィッシュ・バイオテックは、養殖の業務効率化を図り、サバ養殖モデルの確立を目指しています。

サバを養殖するための「水質測定データ」「作業日誌」「成長記録」「気象情報」をICTを活用して、自動収集しています。

これらのデータを活用して、生育途中でも生存率や飼料転換効率など養殖業における重要な経営指標を簡単に分析でき、高い生存率と飼料転換効率に必要な条件を算出しているのです。

費用の大部分を占める、飼料の給餌量最適化による“儲かる養殖業“の実現に向けて取り組んでいます。

2.水産業のサプライチェーンの可視化

日本IBMとアイエックスナレッジは、水産業のサプライチェーンに取り組んでいます。

日本IBMによる水産業のサプライチェーンの可視化を実現するために、Food Trustというブロックチェーン基盤上に、アイエックスが専用アプリを構築しました。アプリを開けば、システムに蓄積された漁獲データや加工、流通データ、レストランでの調理データが閲覧できるようになっています。

これにより、お客様は、自分が食べている魚の漁獲場所や加工、流通、開封、保管までのサプライチェーンの過程を知ることができます。

3.漁獲量予測による業務効率化

KDDI総合研究所は、スマート漁業の実現に向けて、実証実験に取り組んでいます。

センサーによる海洋状況の把握を目的としたスマートブイによる水温データの測定や、カメラによる水中撮影の実験を開始しています。

この実証実験を通して、漁獲量予測による漁業の効率化を図るとともに、波高推定実験など、漁業作業の安全性向上の寄与に取り組んでいます。

4.バーチャル見本市の開催

香川県信用漁業協同組合連合会がバーチャル見本市を開催しました。バーチャル見本市を開催した理由は、新型コロナウイルス感染症の感染リスクを回避しながら、遠方のバイヤーや多忙なバイヤーを集客して、商談機会を得るためです。

また、見本市を主催する物理的、時間的負担やコスト削減のために開催しました。

バーチャル見本市は、エリアを問わずにバイヤーの集客ができるだけでなく、来場者の行動データ分析、ニーズ把握、営業活動の改善に繋げています。

5.海難救助

株式会社nanoFreaksは、海難事故から大切な家族を守る「yobimori(よびもり)」を開発しました。

Yobimoriは、海上で事故が起きた際に、わずか数秒で近辺の海上保安官に通知を飛ばしてくれるデバイス+アプリシステム。起動すると即座にSOSの信号機が遅れ、位置情報が共有されます。

また、yobimoriアプリによって救助従事者に対し、事故当事者の漂流予測や、救助状況などをわかりやすく可視化した情報を提供してくれるため、救助率を上げることができるのです。

まとめ

水産業DX推進に取り組み、水産資源データを蓄積・解析していけば、漁業生産量を上げていけます。熟練の職人の経験と勘に基づいた漁業から、データで裏付けされた漁業に切り替えれば、漁業生産量を上げていけます。

その結果、漁師の所得が上がり、若手の人材の確保がしやすくなるのです。水産業を成長させるためには、水産業DXが欠かせません。ぜひ、これを機会に水産業DXに取り組んでみてください。

畜産業におけるDXの記事は本サイトの「畜産DXとは?求められる背景から取り組み方まで徹底解説」をご覧ください。

農業におけるDXの記事は本サイトの「農業DXが2030年までに求められる背景とは?事例付きで取り組み方を紹介畜産DXとは?求められる背景から取り組み方まで徹底解説」をご覧ください。

※参考文献
『水産業の就業者をめぐる動向』
『漁業生産の状況の変化』
『サステナブル・シーフードの未来をつくる海のイノベーターたち』
『IoTBiz 【スマート漁業】DX化の進む水産業・漁業でのIoT/M2Mの活用事例や製品を一挙紹介!』
『フィッシュ・バイオテック株式会社の公式ホームページ』
『「Ocean to Table Council」設立のお知らせ~海の豊かさを守り次世代へ繋ぐ~』
『マイナビニュース KDDI総合研究所など、三重県でスマート漁業の実証実験』
『デジタルクロス 香川県信漁連、漁協の販路拡大に向けたバーチャル見本市サービスを実証実験』
『株式会社nanoFreaks 公式ホームページ

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