各分野で、DX推進(デジタル技術を浸透させていき、人々の生活をより良いものへと変換する取り組み)が行われています。農業の分野にもDX推進が求められており、農林水産省は、2030年までにDXを浸透させると舵を取っています。
なぜ、農林水産省は、2030年までに農業DXを浸透させようとしているのでしょうか?農業事業者は、どのように農業DXに取り組んでいくべきなのでしょうか?
今回は、農業DXが2030年までに求められる背景と、農業事業者が取り組むべきことをご紹介します。
農業DXとは
農業DXとは、農業にデジタル技術を浸透させていき、人々の生活をより良いものへと変革することをいいます。
農作物の消費ニーズの多様化や農業従事者の減少が進む中で、農業を成長させていかなければいけません。そのために、消費者ニーズを的確に捉えて、いかに効率的に応えていくかが鍵となります。
「農業従事者がデジタル技術を活用して、消費者が求める多様なサービスを提供できる(=Farming as a Service)」という姿が農業DXの目的となります。
農業DXが求められる背景
農業従事者がデジタル技術を活用して、消費者が求める多様なサービスを提供していくことが農業DXの目的です。
農業従事者は、何故、農業DXに取り組まなければいけないのでしょうか?ここでは、農業DXが求められる背景について解説していきます。
1.労働者の高齢化
農業DXが求められる背景の1つに、労働者の高齢化が挙げられます。
農林水産省の報告書『令和3年度 食料・農業・農村白書の概要』によると、65歳以上の農業従事者は全体の70%(95万人)を占めています。その一方で、49歳以下の農業従事者は、全体の11%(15万人)にとどまっています。
労働者の高齢化により、農作業中による事故が起きたり、体力不足で収穫量が減ったりなどの問題が起きています。
農林水産省は「2030年には農業従事者が激減する」と警鐘を鳴らしており、労働者の高齢化は、国内農業の続存にも大きな影響を与えています。
2.労働力不足
農業DXが求められる背景の2つ目は、労働力不足です。
農林水産省の報告書『農林業センサス』によると、2010年度の農業従事者数は約205万人でしたが、2020年度は約136万人に減少しています。この結果から、10年間で3割の農業従事者が減ったことが分かります。農業に興味を持つ若手の人材もいますが、離農することも珍しくありません。
総務省が調査した『農業労働力の確保に関する行政評価・監視結果報告』によると、若者が農業に就業しない理由として、農業で受け取れる報酬が少ないなど、期待と現実のギャップだと述べられています。
3.後継者不足
労働力不足で起こる後継者不足による廃業が、深刻な問題となっています。
農林水産省の報告書『農林業センサス』によると、農業を経営する事業者は、2010年度は約168万人でしたが、2020年度に約108万人に減少。この結果から、10年間で4割の農業事業者が廃業したことがわかります。
農業事業者の廃業が加速すると、農作物の供給に大きな影響をもたらします。そのため、若手の人材を育成することが急務になっているのです。
農業DXが抱える課題
農業では、農業従事者の高齢化、労働力不足による廃業が深刻な問題となっています。また、消費ニーズも多様化してきているため、農業従事者は、消費者が求める多様なサービス(=Farming as a Service)を提供していかなければいけません。しかし、現状では、農業DXは浸透していません。農業DXが浸透しない理由とは、何なのでしょうか?ここでは、農業DXが抱える課題をご紹介します。
1.データを活用して農業を行っている農業事業者がまだ少ない
全国179地区で、スマート農業の現場実証が進められています。他の地区の現場実証やインフラ整備は、これから実施される予定です。しかし、データを活用して農業を行っている農業事業者は、全体の2割で、データを軸にした経営改善ができていません。
2.農業基盤整備へデジタル技術を活用した実装例が少ない
インターネットを通じて、生産者と消費者が繋がれるようになりましたが、まだまだ限定的な状態です。また、農業を営む地域の課題として挙げられる鳥獣害治作や、農業基盤整備へのデジタル技術の本格的な実装は、未だに行われていません。
3.農作物の流通の効率化・自動化に関して遅れている
農作物の流通の効率化・自動化に関しては、他の産業よりも遅れています。インターネット販売による生産者と消費者の繋がりは増えましたが、それ以外で生産・販売を展開している事例は、まだまだ少ないのが現状です。
4.行政事務の非効率さ
農林水産省が所管する行政手続きや、補助金の申請業務などは、記入項目が多いことが問題となっています。また、これらの行政手続きは手作業が一般的で、農業従事者や政府関係者の大きな負担になっています。この問題を解決するために、行政事務のオンライン化は必須です。
農業DXの課題を解決する農林省の取り組み
農業DXの課題を解決し、2030年に迎える問題に備えるために、農林水産省は「農業DX構想」を立案しました。農業DX構想で、政府方針に基づく農業DXの推進が行われています。実際に、どのような取り組みがされているのかを確認しておきましょう。
1.データを活用した農業の推進を目指す『現場系プロジェクト』
生産現場 |
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農村振興 |
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流通・消費 |
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食品産業 |
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行政事務 |
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2.農林水産省の行政手続きのDX推進を目指す『実務系プロジェクト』
- 業務の根本見直しプロジェクト
- データ活用人材育成推進プロジェクト
- データを活用したEBPM・政府評価推進プロジェクト
- 農業者データ活用促進プロジェクト
- 農業DX情報発信プロジェクト
- 農業農村整備事業業務支援システム刷新プロジェクト
- ドローン等を活用した農地・作物情報の広域収集・可視化及び利活用技術の開発プロジェクト
- 統計業務の効率化プロジェクト
- 農林水産省働き方改革プロジェクト
3.農業事業者と農林水産省の連携を目指す『基盤系プロジェクト』
- eMAFFプロジェクト
- eMAFF地図プロジェクト
- MAFFアプリプロジェクト
- 農業分野オープンデータ・オープンソース推進プロジェクト
- データのコード体系統一化プロジェクト
- 行政手続データ項目標準化プロジェクト
- 筆ポリゴン高度利用プロジェクト
- バックオフィス業務改革に資する人材情報統合システムの整備・活用プロジェクト
農業DXの取り組み事例
農林水産省が舵をとり農業DX推進をしていますが、農業事業者は、どのように取り組めば良いのでしょうか?次に農業事業者が取り組んでいる農業DXの事例を簡単にご紹介します。
1.石川県野々市市 | 農産のスマートライスセンター |
2.神奈川県茅ヶ崎市 | オンライン直売所を通じた生産者と顧客のダイレクトな交流 |
3.新潟県新発田市 | ドローンで得たデータの活用 |
4.北海道中標津町 | データを活用した牛群管理・個体選抜 |
5.鹿児島県曾於郡 | 農業データの可視化による農業経営の高度化 |
6.東京都府中市 | スマホを使った農作物生産記録・農薬利用記録管理 |
7.宮崎県 | 施設栽培でのデータ活用による生産の拡大と経営の改善・発展 |
8.鹿児島県枕崎市 | データを活用した農業経営の改善 |
9.神奈川県 | 農業者と青果流通事業者間のやり取りのデジタル化による流通現場業務の効率化と見える化 |
農業DXの取り組み事例の詳細を知りたい方は、農林水産省で紹介されている『農業DXの取組事例』をご参考にしてみてください。
まとめ
農林水産省が2030年までに農業DXの浸透を目指す理由は、農業従事者の高齢化や労働力不足による、農業事業者の減少です。このまま農業事業者が減少していくと、第一次産業の農業は危機的状況に追い込まれてしまいます。
この問題を解決していくために、農業DXで業務効率化をしていき、多様化する消費ニーズに応えていかなければいけないのです。
今回は、農林水産省の取り組みから、各地域の農業事業者のDX推進の事例までご紹介しました。ぜひ、これを機会に農業DXに取り組んでみてください。
また、水産業におけるDXの記事は本サイトの「水産業DXとは?求められる背景から取り組み方まで徹底解説!」をご覧ください。
さらに、畜産業におけるDXの記事は本サイトの「畜産DXとは?求められる背景から取り組み方まで徹底解説」をご覧ください。
※参考文献
『農業のデジタルトランスフォーメーション(DX)について』
『令和3年度 食料・農業・農村白書の概要』
『農林業センサス』
『農業労働力の確保に関する行政評価・監視結果報告』
『農林水産省 「農業DX構想」の概要』
『農業DXの取組事例』