スマートシティを実現するための中核となる「都市OS」と呼ばれるものが、近年注目を集めています。OSという言葉はパソコンやスマートフォンの利用時によく耳にしますが、都市に対して適用するとどのような定義になるのでしょうか。
この記事では、都市OSの定義をご紹介し、また活用することでスマートシティの実現に向けてどういった効果が期待されるのか、解説していきます。
都市OSとは?
まずは都市OSという言葉の定義を解説します。OSという要素に分解して一歩ずつ理解を進めていきましょう。
OSの本来の意味
OSとは、オペレーティング・システム(Operating System)の略語で、コンピュータやスマートフォンが、その機能を果たすために不可欠なソフトウェアです。パソコンであれば、WindowsやmacOS、Linux、スマートフォンではAndroidやiOSなどが有名です。
このOSを介してユーザーは、パソコンやスマートフォンを操作したり、他のソフトウェアやアプリを動かしたりします。
つまり、OSとは、コンピュータやスマートフォンにとっての共通の土台のようなものであり、この土台があるからこそ、その上で個別のアプリケーションやソフトウェアやネットサービスを動かすことが可能になるわけです。
都市のOSとは
それでは、このようなコンピューターやスマートフォンの動作にまつわるOSという概念を都市に適用すると、どのような意味になるのでしょうか?
都市OSとは、スマートフォンやパソコンが共通のOSを使ってアプリを動かしたり、さまざまなサービスを利用できるのと同じように、たくさんの自治体が共通の土台となるシステムを構築し、サービスやデータの連携をすることで、都市間の互換性や連携を効率化していこうという考え方です。
つまり、都市OSという共通の土台の上で、行政やインフラ、公共交通や物流、住民の健康や医療、福祉、教育、防犯、災害情報など都市に関するデータを蓄積して、より効率的な自治体運営をしていこうという考え方です。
スマートフォンにアプリを入れることで、新しい機能やサービスが利用できるようになるのと同じように、都市OSはアップデートを通じて、都市に対して新しい機能を追加しやすくなるという特徴を持ちます。
ある市町村において便利なシステムが開発され、活用されていたとしても、現状ではそれを他の市町村に導入するには、その市町村なりの設計が必要となって時間がかかったり、そもそもコストもかかってしまうので実現までに長い年月を要します。
都市OSがあれば、基盤が共通化されているので点の開発も、OSに対してインストールを行えばすぐに他の自治体に適用することが可能になるのです。
また、必要に応じて他の市町村の都市OSをネットワークで接続し、自治体間でデータを連携させることも可能になると考えられています。
都市OSの3つの特徴
次に、都市OSがどのように構想を元に進められているのか、要件などをさらに詳しくみていきます。
内閣府が発表した「スマートシティリファレンスアーキテクチャ(都市OSの要件)」によると、都市OSには3つの特徴があるとして、資料の中で列挙しています。ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
相互運用
従来の都市システムは、各地域に特化した規格で開発されていたため、他の地域やサービスへの応用が厳しくなっていました。
都市OSはそこをカバーすべく、各地域間で共通の機能や外部に公開可能なシステムやサービスを構築できるとされています。
各地域の成功事例や有用なサービスを相互に共有できるようになれば、各地域の発展につながり自治体ごとのサービス格差も軽減されるのではないかと考えられています。
データ流通
これまでは、産業や地域など分野・組織ごとに独立したデータシステムを持っていたため、他サービスへの活用が困難でした。
都市OSを活用すれば、それぞれ蓄積していたデータを連携できるようになり、さまざまな問題を解決できると想定されています。
拡張容易
システムを継続的に維持・発展させ続けるには、各自治体のめざす地域像や各地域が持つ課題に合わせ、機能を絶えず拡張・更新していく必要があるでしょう。
しかし、従来導入されてきたシステムは地域ごとの独自性が強く、またシステムそのものが拡張性に劣っていたため、他サービスとの連携が困難であったり、継続的なシステムのアップデートが難しいなどの課題を抱えています。
また、拡張する場合、多大なコストや労力を費やすことになり、非効率性が目立ちます。
都市OSの規格が統一されれば、このような課題が解決に向かうと期待されています。
スマートシティ構想の鍵となる都市OS
都市OSという考え方は、スマートシティ構想と密接に関わっていることから、スマートシティ構想についても簡単に説明していきます。
スマートシティ構想とは
スマートシティとは、2000年代後半頃から注目され始めた概念です。日本の内閣府はスマートシティを「ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場」と定義しています。
つまり、IoTやAI、ビッグデータなどの先進技術を活用することで、人々の生活がより便利になることを目指すのがスマートシティ構想の柱です。
MaaSやオンデマンドバスなどで交通弱者の移動が便利になったり、自動配送やドローン配達によって物流が効率化されたりと、インフラ・環境・経済など、生活のあらゆる場面での効率化の実現を目指しています。
それによって、急激な少子高齢化や度重なる災害、人口の一極集中、過疎化による人手不足、インフラの老朽化など、日本の都市が抱えるさまざまな課題が解決出来るのではないかと考えられているのです。
スマートシティ構想は、日本各地の自治体で実証事業が行われている段階です。2012年頃から実証は始まっており、交通、インフラ維持・管理、観光・地域活性化、物流、健康・医療など多様なカテゴリに分けて、各自治体で試験的に導入されています。
スマートシティ構想の課題解決方法としての都市OS
2012年ごろからスマートシティを実証してきたことで、課題も続々と上がってきました。その主な課題の一つが、拡張性の低さ、それに伴うスピード感の欠如です。
規格が統一されていないため、優れた事業が登場しても他の自治体に展開できず、日本全体でのスマートシティ化が停滞していることが指摘されてきました。
こうした課題から生まれたのが、前述の「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」における都市OSの要件です。
他の都市や企業とスムーズに連携できる「相互運用(つながる)」、幅広い種類のデータを連携できる仕組みをつくる「データ流通(ながれる)」、柔軟に機能拡張や更新を行える「拡張容易(つづけられる)」の3つを挙げ、これらを満たす都市OSを構築することで、スマートシティ化の効率的な実現を目指します。
今や都市OSはスマートシティ構想の柱だと考えられており、注目が集まっています。
都市OSの事例
都市OSはすでに導入され、実証が進んでいるものもあります。事例を見ていきましょう。
FIWARE
日本国内のいくつかの都市で導入されている都市OSに「FIWARE」というものがあります。これはEUが、官民連携で開発・実証した次世代インターネット基盤ソフトウェアです。
FIWAREは、FI(Future Internet)WARE(SOFTWARE)の略で、国や地方自治体、民間企業などの枠を超えて、それぞれが保有するデータの相互利用などを促すために開発されたソフトウェア群の総称です。
FIWAREは、およそ40種のモジュールによって構成されているソフトウェアの集合体(IoTプラットフォーム)で、用途に応じてソフトウェアを組み合わせ、都市OSを構築することができます。FIWARE自体がロイヤリティフリーのため、EUや日本以外の世界各地250以上の都市で利用されています。
日本でも高松市「スマートシティたかまつ」、会津若松市「スマートシティ会津若松」、富山市「富山市センサーネットワーク」などのプロジェクトで、すでにFIWAREの活用が進んでいます。
Expolis Cloud Platform (旧称: Anastasia)
Expolis Cloud Platformとは、エクスポリス社が開発したOSで、実装プロセスをマクニカが担っています。
Expolis Cloud Platformの大きな特徴は、それぞれの自治体のデジタル化の段階にチューニングしたスモールスタートに配慮している点です。
フロントでの基本的な機能はアイデンティティ管理やログイン、ダッシュボードですが、データの連携機能、連携したデータのオープンデータ化、アプリ開発を容易としたSDK・APIを備えていることから、機能を段階的に拡張していくことも可能です。
まちづくりのプロセスに合わせたデジタル化を進められるように展開しています。
https://www.expolis.net/expolis-cloud-platform
まとめ
今回の記事では、今後のスマートシティ構想の柱となる都市OSという考え方についてご紹介してきました。地方自治体同士が効率的にシステム連携をすることで、日本社会が抱えるさまざまな深刻な課題を解決できると期待されています。
ぜひヨーロッパなどでの成功事例を参照しつつ、日本の都市OS開発の動向を追ってみてはいかがでしょうか。