事業承継の成功と後継者育成の秘訣

事業承継の成功と後継者育成の秘訣

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日本全国の中小企業では、経営者の高齢化が進み、事業承継の重要性がかつてないほど高まっています。平均年齢が63歳を超える経営者の多くが、事業の未来を誰に託すかという課題に直面しており、この問題を解決しなければ、利益を上げている企業であっても廃業に追い込まれるリスクがあります。特に、事業承継を計画的に進めないことで、企業の持続的成長が妨げられ、雇用や地域経済にも悪影響を及ぼす可能性が高いのです。

事業承継は単なる経営者交代ではなく、企業の財産や文化、経営ノウハウを次世代に引き継ぐ重要なプロセスです。本記事では、事業承継の基本的な概念から、承継を成功に導くための秘訣、そして後継者育成のポイントまで、詳しく解説します。事業承継を円滑に進め、企業の未来を明るくするために必要な知識と実践法をお伝えします。

休廃業・解散件数と経営者平均年齢の推移図
出典:2021年版中小企業白書第2部第3章

事業承継とは?

ビジネスパーソンが握手している 手前にはペンとドキュメント

事業承継とは、現経営者から新しい世代の経営者へ、会社の経営権や運営の責任を引き継ぐプロセスです。このプロセスには、経営権の移転だけでなく、会社の資産や株式、企業文化、経営ノウハウの継承も含まれます。事業承継の方法には、親族内での承継、従業員への引き継ぎ、またはM&Aを通じた第三者への譲渡などがあり、企業の状況に応じた適切な選択が求められます。

事業承継が必要な理由は、企業の持続的な成長と発展を確保するためです。経営者の高齢化が進む中、事業を引き継ぐ準備を怠ると、利益を上げている企業であっても廃業に追い込まれるリスクがあります。また、計画的な承継は、企業の経営を安定させ、従業員や取引先の信頼を維持するだけでなく、企業が新しいリーダーシップのもとでイノベーションを推進し、競争力を保つためにも重要です。

企業の未来を支える事業承継の重要性

暗闇でビジネスパーソンが光る鍵を手にする

事業承継とは、会社の経営権や運営の責任を、今の経営者やオーナーから新しい世代の経営者へと移すプロセスです。このプロセスには、経営権の移転だけでなく、会社の財産や株式、独自の企業文化や経営ノウハウも含まれます。事業承継は一般的に、親族内での引き継ぎ、従業員への引き継ぎ、または会社の売却や合併などの方法で行われます。

事業承継のメリットは多岐にわたります。まず、創業者や現経営者が築いた価値を保ちつつ、事業を次の世代に引き継ぎ、持続的な成長を可能にします。事業承継によって、貴重な業界知識や経営の知恵、会社の運営方法が新しいリーダーに伝わり、組織の知識基盤を維持します。新しい世代が新しいアイデアや技術を持ち込むことで、イノベーションが進み、市場での競争力を保つ助けにもなります。

また、計画的な事業承継は、予期せぬリーダーの退職や健康問題から企業を守る役割も果たします。スムーズな移行は、ビジネスの中断を防ぎます。承継計画がしっかりしていると、従業員の士気が向上し、企業への信頼も高まります。従業員は安定した経営体制が整っていることを知ることで、安心して仕事に集中できるようになります。

事業承継は単なるリーダーシップの交代以上の意味を持ち、組織の未来を築き、新たなステージへスムーズに移行するための戦略的な取り組みです。成功させるためには適切な計画と準備、関係者全員の協力が必要です。

事業承継の3つの種類

M&Aボタンをクリックするビジネスハンド

事業承継には、引き継ぐ相手に応じて「親族内事業承継」「社内事業承継」「M&Aによる事業承継」の3つの種類があります。それぞれの概要と特徴を以下に説明します。

親族内事業承継

親族内事業承継は、経営者の親族、特に子供や近い親戚に事業を引き継ぐ方法です。従業員や取引先から受け入れられやすく、事業や経営ノウハウの継承が比較的スムーズに進むことが多いです。また、税制上の特典がある場合もあります。しかし、後継者候補がいない場合や、適任者が見つからないことが問題になることもあります。

社内事業承継

社内事業承継では、役員や従業員が経営者として事業を引き継ぐケースです。信頼できる内部の人材に事業を引き継ぐことで、会社の経営や文化が維持されやすく、従業員からの賛同も得られやすいというメリットがあります。しかし、後継者に辞退されるリスクや、株式の買い取り資金の負担が大きい点がデメリットです。

M&Aによる事業承継

M&Aによる事業承継は、外部の企業や個人に事業を売却する方法です。親族や社内に後継者がいない場合、幅広い選択肢からふさわしい後継者を見つけることができ、現経営者は売却益を得ることができます。しかし、希望額での売却が難しい場合や、適切な買い手が見つからないリスクも伴います。

これらの事業承継の方法にはそれぞれのメリットとデメリットがあり、会社の状況や経営者の意向に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。

経営者の世代交代の現状

見開きの本にBUSINESS SUCCESSION PLANの文字

日本の中小企業における経営者の年齢分布と事業承継の進行状況に関するデータをみると、深刻な課題が浮かび上がっています。経営者の年齢が60〜70代に集中し、その多くが後継者未定の状態です。特に、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業の経営者の数が245万人に達し、その約半数が後継者未定であるという状況は、多くの企業にとって存続のリスクとなっています。

事業承継の進行状況と課題

多くの経営者が具体的な承継計画を立てずに事業承継を先延ばしにしています。これが事業承継が遅れている大きな要因となっています。また、自らが築き上げた事業から手を引くことへの心理的抵抗も、事業承継を複雑化させています。事業承継が遅れると、後継者は十分な準備期間を持てず、経営能力を充分に発揮できない問題が生じています。

経営者が高齢化し、事業承継が遅れることで、利益を上げている企業でさえも廃業するケースが増えています。これは日本経済の活力に大きな影響を与える重要な問題です。この問題を解決するためには、経営者自身が意識を変え、積極的に行動を起こすことが必要です。

事業承継を成功させるためのポイント

事業承継がうまくいけば、企業は新たな段階に入り、新しい市場に適応し、持続的な成長を遂げることが可能になります。一方で、不十分な計画や実行は企業の将来に深刻な危機を招くことがあります。事業承継を成功させるためには、いくつかポイントがありますのでご紹介します。

1.承継計画の策定

最初のステップは、詳細かつ実行可能な承継計画の策定です。承継計画には次の要素を盛り込みましょう。

(1) 明確なタイムライン

承継の各ステップの時期を明確にし、プロセス全体をタイムリーに進行させる。

(2) 財務および法的構造の整備

企業の財務状況を整理し、法的要件を満たすことで、スムーズな資産移転を保証する。

(3) リスク管理

予期せぬ状況に備えて、リスク評価と管理策を計画に組み込む。

2.後継者の育成

従来は親族内承継が主流でしたが、近年、同族承継の割合が減少し、事業承継の方法も親族への承継から内部昇格へと変化しています。後継者の育成が、安心して事業を承継するための鍵となっています。

近年事業承継した経営者の就任経緯
出典:2021年版中小企業白書第2部第3章

有能な後継者を育成することは、事業承継の成功に不可欠です。後継者育成には以下の戦略が効果的です。

(1) 教育とトレーニング

後継者に必要なスキルと知識を提供するための継続的な教育プログラムを用意する。

(2) 実践的経験

後継者に実際の経営課題を経験させ、問題解決能力を養う。

(3) メンターシップ

現経営者や他の経験豊富な専門家が、後継者の成長を支援する。

3. 企業文化の継承

企業文化は、組織のアイデンティティの核を成し、従業員のモチベーションと組織の一体感を保持する重要な役割を果たします。文化の継承には以下の方法が有効です。

(1) 価値観の明確化

組織の基本的な価値観と信念を明確にし、それを全員が理解し共有する。

(2) コミュニケーションの強化

開かれたコミュニケーションを奨励し、全員が文化的な変遷を理解し受け入れる環境を作る。

(3) 参加と関与

従業員が文化形成プロセスに参加し、その維持に積極的に関与することを奨励する。

4. その他、事業承継の成功のためのポイント

その他、事業継承をうまく行うには、次のことを抑えておきましょう。

(1) 経営層のサポートを得ること

経営層全体が承継計画を支持し、積極的に関与できる環境を作りましょう。

(2) ステークホルダーとの連携を大切にする

投資家、顧客、サプライヤーなど、外部ステークホルダーとの良好な関係を維持し、承継プロセスをスムーズに進めましょう。

(3) 状況の変化に対応できる柔軟性を持つこと

市場や内部状況の変化に応じて承継計画を適宜調整することができるよう常に柔軟に対応できるように意識しましょう。

事業承継を成功させるコツは、計画を立てて体系的に進めることです。これは会社が長期にわたって成功を続けるためにとても重要なステップです。計画的な事業承継を行うことで、会社は変わりゆく市場の環境に上手く対応し、持続的な成長を実現することができます。

中小企業庁の事業承継の支援策

中小企業庁の外観

中小企業庁では、中小企業の事業承継を促すために様々な支援策を提供しています。以下にご紹介します。

事業承継税制

事業承継において経営者が抱える課題の上位に相続税・贈与税があります。これについては事業承継税制を通じて、税制の適用により事業承継がスムーズに進むよう支援しています。

事業承継税制とは、中小企業の経営承継をスムーズに行うための税制のサポートです。この制度は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(通称「円滑化法」)に基づいており、会社や個人事業者の後継者が引き継ぐ資産に対して、贈与税や相続税の納税を猶予する支援を行っています。

具体的には、この税制には法人版と個人版の二つのバージョンがあります。法人版は、会社の株式などの資産を後継者に移す際に、税の負担を軽減するものです。個人版は、個人事業者が使っている事業資産を対象に、税の猶予を適用するものです。どちらも経営承継を支援するために設計されています。以下はその概要になります。

法人版事業承継税制

法人版事業承継税制は、非上場会社の経営承継をサポートするための税制です。この制度により、認定された後継者が非上場会社の株式を相続や贈与で取得する際、特定の条件のもとで贈与税や相続税の支払いを一時的に待つことができます。もし後継者が亡くなるなどの特定の状況が発生した場合、これらの税金の支払いは完全に免除されることもあります。

さらに、2018年の税制改正では、この制度が大幅に拡充されました。改正内容には、以下のようなポイントがあります:

  1. 株式の制限撤廃:以前は、非上場株式の3分の2までしか税の猶予の対象にならなかったのですが、この制限がなくなり、より多くの株式が対象になりました。
  2. 猶予される税額の割合の増加:以前は猶予される税額が80%だったのが、100%に引き上げられ、実質的に全額猶予されるようになりました。

これらの税制を利用するためには、「特例承継計画」または「個人事業承継計画」を提出する必要があります。これは、事業承継の詳細な計画を示すもので、税務局に提出する必要があります。また、2026年3月31日までにこの計画を提出する期限が、さらに2年間延長されました。

個人版事業承継税制

個人版事業承継税制では、事業用資産の承継を促進し、個人事業者が事業をスムーズに後継者に引き継ぐことができるようにしています。具体的には、相続や贈与に関する税金を100%猶予することで、後継者の財政的な負担を軽減し、事業が継続的に発展することを支援しています。

この制度は、青色申告をしている事業者(不動産貸付業を除く)の後継者が特定の認定を受けた場合に適用されます。後継者が事業用資産を贈与や相続によって引き継ぐ際、一定の条件を満たすことで、贈与税や相続税の支払いが一時的に待たされます。さらに、後継者が亡くなるなどの特別な事情がある場合、これらの税金の支払いが完全に免除されることがあります。

中小企業庁の後継者育成支援

中小企業庁は経営者への支援だけでなく、後継者への支援にも力を入れています。具体的には、「アトツギ甲子園」というピッチイベントを実施し、後継者が既存の経営資源を活用した新規事業アイデアを競う場を提供しています。これにより、後継者の挑戦を後押しし、事業活動の活性化を図っています。

また、中小企業庁では地域経済の担い手として後継者を育成するエコシステムの構築を目指し、後継者支援を各地で支援しています。これらの取り組みは、後継者が事業を継承し、発展させることを促すことに寄与しています。

中小M&A推進計画でM&Aを支援

中小企業庁は、中小企業のM&Aを支援するために、「中小M&A推進計画」を2021年4月に策定し、その計画に基づき同年8月に「M&A支援機関登録制度」を創設しました。

登録制度のホームページでは、登録された支援機関(仲介業務やFA業務を行う)のデータベースが提供されており、中小企業が仲介者やFAを選定する際に有用な情報源となっています。データベースからは、支援機関の種類、M&A支援業務の開始時期、専従者の有無、所在地などを確認・検索できます。

全国に事業承継・引継ぎ支援センターを設置

事業承継・引継ぎ支援センターが2021年4月から全国の47都道府県に開設されました。事業承継または事業引継ぎを検討している企業からの相談を無料で受け付けています。専門家が対応し、円滑な事業承継や事業引継ぎをサポートし、事業承継診断、事業承継計画の策定、譲渡・譲受事業者間のマッチングといったサービスをワンストップで提供しています。

事業承継・引継ぎポータルサイトはこちらのリンクからアクセスできます。

4. 世代交代と事業承継の10の成功事例

机に成功事例の文字がある紙

事業承継は一世一代の大仕事ですから、失敗するわけにはいかず、誰もが慎重に進めたいと思います。そのためには様々な成功事例を参考にして、自分に合ったアプローチをイメージすることで、前向きな一歩を踏み出せるのではないでしょうか。。『中小企業白書2021』では、事業承継の成功事例が紹介されていますので、詳しく見てみましょう。

1.株式会社ユニックス|従業員アンケートで後継者選定

株式会社ユニックスは、大阪府東大阪市に拠点を置く表面処理加工業を営む企業で、1984年に現会長の苗村昭夫氏によって設立されました。この会社は特にポリウレタンの表面処理技術を強みとしており、研究開発型企業として長年にわたって産学連携などにも積極的に取り組んできました。

事業承継の背景

苗村会長が高齢になるにつれて、事業承継の必要性が高まりました。親族内で適任の後継者が見つからなかったため、会社は従業員への事業承継を決定しました。

従業員アンケートと後継者の選定

事業承継プロセスの一環として、苗村会長は後継者選定のために従業員アンケートを実施しました。アンケート結果により、全従業員から支持された町田氏が後継者として選ばれました。町田氏は当初はプレッシャーから社長就任を拒んでいましたが、苗村会長の1年間の説得により最終的に承諾しました。

準備と教育

町田氏は約3年間の準備期間を経て、中小企業大学校で経営について学び、2016年に苗村会長がまだ代表権を保持している状態で社長に就任しました。

株式承継とファンドの活用

株式の承継に際して、会社は「おおさか事業承継・創業支援ファンド」からの出資を受け入れました。これにより、苗村会長や彼の家族が保有する無議決権株式をファンドが買い取り、町田氏が議決権のある株式の3分の2を容易に保有することが可能となりました。

事業承継の完了と新たな展開

2020年10月、町田氏は代表取締役社長としての役職に正式に就き、新体制のもとで事業の拡大を目指しています。会社は粉体関連の新市場での販路開拓に力を入れています。苗村会長は事業承継が無事に完了したことに対して安堵と感謝の意を表しており、引き続き会社のサポートを行う意向を示しています。

2.株式会社山尾工作所|商工会の専門家派遣制度を利用

兵庫県稲美町の株式会社山尾工作所は、1950年に創業された金型の設計・製造や金属部品のプレス加工を行う企業です。創業者の娘である山尾和子氏の夫、山尾輝勝氏が1990年に経営を引き継ぎましたが、輝勝氏の高齢化に伴い事業承継の問題が浮上しました。当初は輝勝氏の息子、直孝氏が見習いとして入社していましたが、具体的な事業承継計画は立てられていませんでした。

事業承継の危機と取り組み

2008年頃から、主要取引先が事業承継の見通しを問い合わせるようになり、2018年には取引先から事業承継計画の早急な提出と実行を強く求められました。これにより、輝勝氏は後継者としての直孝氏の育成と事業承継計画の策定を急ぐ必要に迫られました。

支援の利用と計画の策定

この危機を受けて、輝勝氏は稲美町商工会主催の事業承継セミナーに参加し、事業承継に必要な基礎知識を学びました。その後、商工会の専門家派遣制度を利用して、中小企業診断士、税理士、社会保険労務士との面談を通じて自社の情報を整理し、事業承継計画を策定しました。この計画は同年10月に取引先に提出され、「完成度の高い事業承継計画書」と評価されました。

承継完了とその後の展開

輝勝氏が重篤な病気になったことを契機に、計画書に従って事業承継の準備が進められ、2019年6月には直孝氏が社長に就任し、輝勝氏は会長に就任しました。直孝氏のリーダーシップの下、事業承継後に小規模事業者持続化補助金を活用して販路拡大や新しい製造工程の開発に基づく経営革新計画が進められ、2020年3月期の決算で売上が前期比15%増となりました。さらに、新型コロナウイルスの影響下でも、金融機関や公的支援機関との関係強化により、対策融資を早期に受けることが可能となりました。

山尾直孝社長は、長期的な安定経営と取引先に安心してもらえる企業への成長を目指しており、事業承継を成功させた経験を生かしています。

3.藤安醸造株式会社|後継者が新たな商品開発で伝統を継承

鹿児島市に本拠を置く藤安醸造株式会社は、1870年に創業された老舗のみそとしょうゆメーカーです。この会社は「ヒシク」というブランド名で、特に料理店向けに県内有数の評価を受けています。2020年には創業150年を迎えました。

後継者としての取り組み

藤安健志専務は創業者の家系から7代目にあたり、3人兄弟の次男です。大学卒業後、大手しょうゆメーカーで5年間勤務し、2010年に家業である藤安醸造に入社しました。大手メーカーでの勤務経験から、中小企業が生き残るためには価格競争に巻き込まれない商品価値の創出が重要であるとの認識を深めました。

新たな商品開発

藤安醸造に入社してからは、営業活動に同行したり、商品出荷を手伝うなどしましたが、初期の数年間は従業員との距離感に苦労しました。この期間を経て、健志専務は前職での経験を活かし、高付加価値の商品開発に取り組みました。これにより、鹿児島県産の素材を使用しただししょうゆ、ぽん酢、煎り酒を含む新ブランド「休左衛門亭」を立ち上げ、製品の差別化を図りました。

新ブランドの成功

新ブランド「休左衛門亭」は、高価格設定(180mlで1,200円)にも関わらず、市内の薩摩藩島津家別邸「名勝仙巌園」での出店が成功し、観光客や地元客からの注目を集めました。これにより、年間数百万円の売上を記録し、社内外からの信頼を築くことができました。

経営の将来像

健志専務は、数年後に会社を継ぐことを視野に入れつつ、外部での学びを続け、人脈を広げることにより、さらなる成長を目指しています。彼の取り組みは、従来にはなかった視点での商品開発と利益率の高い新ブランドの構築、新たな販売経路の開拓に成功しました。これにより、藤安醸造は長期的に安定した経営を目指しています。

4.株式会社エーアイテック|工場移転が事業承継のきっかけに

長野県松本市に本社を置く株式会社エーアイテックは、FA(Factory Automation)機器の開発・設計・製造・販売を行っている企業です。この会社は特に熱や流体の制御技術に強みを持ち、自動車産業の重要な部品の生産設備に不可欠な技術を提供しています。

事業承継の経緯

大林泰彦氏は元々IT企業でエンジニアとして働いていましたが、2006年に父である先代社長から事業承継の打診を受け、2008年に入社しました。入社後は営業部門から始め、製品カタログ作成や3DCAD管理システムの導入、社内システムの刷新などに取り組みました。これらの経験を通じて業務フローの理解を深め、事業承継の準備を進めました。

工場移転とその影響

2014年には需要増加に対応するため、6倍の面積を持つ近隣の空き工場に移転しました。この移転により生産スペースが拡大し、大規模な生産ラインが導入可能となり、作業効率も大幅に向上しました。工場移転は事業承継を推進する大きな契機となり、大林氏がリーダーシップを発揮する機会も増え、2017年4月には社長に正式に就任しました。

事業承継後の取り組み

社長就任後の大林氏は、業務改革を積極的に行い、財務透明性の向上、協力会社との関係強化、電装設計CADの導入などを実施しました。また、働き方の改革として、子育て中の女性エンジニアの時短採用やフレックスタイム制を導入し、従業員のモチベーション向上を図りました。これらの改革により、売上および営業利益は事業承継前と比べて大幅に増加しました。

結果と将来の目標

事業承継と工場移転は会社のブランド力と魅力を高め、新しい市場への進出と効率的な運営を可能にしました。大林社長はこれを良いスタートと捉え、今後もブランド力の強化と働きやすい環境作りを進め、さらに魅力的な会社を目指すとしています。

5.有限会社てっちゃん|女性ならではの視点で業態転換

有限会社てっちゃんは、北海道札幌市で人気の海鮮居酒屋を運営していた企業です。2020年に新型コロナウイルス感染症の影響で業績が大きく落ち込み、一度は閉店と廃業を決意しました。しかし、後を継ぐことになった佐藤ゆかこ社長が感染症流行を踏まえた新しいニーズに合わせて事業再出発を模索することを決めました。

事業承継への道のり

佐藤社長は事業承継か新たな創業かで迷いましたが、北海道よろず支援拠点での専門家のアドバイスを受けることにしました。専門家の新宮隆太氏が同社の財務状況やブランド力を評価し、業態転換を組み合わせた事業承継を勧めました。このアドバイスにより、佐藤社長は廃業の進行を停止し、新たな事業戦略を立てるための準備を始めました。

業態転換と新メニューの導入

佐藤社長は、食と営業の専門家と協力し、新たなメニューの開発に取り組みました。特に、かつて父が考案した人気のぎょうざを中心に、テイクアウトとイートインで提供する計画を立てました。また、健康を意識した低糖質のぎょうざの開発も進め、他店との差別化を図ることにしました。

再出発と将来の展望

事業承継の手続きを2020年10月に完了させた後、佐藤社長は「てっちゃん」の店名を維持しつつ、新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた消費者のニーズ変化や自身のライフスタイルに合わせた業態転換を行いました。舟盛りの提供をやめ、酒類を提供しない方針で、ぎょうざを主力商品としてリニューアルしました。これにより、「てっちゃん」は地域の家庭にとって手軽で健康的な食事の選択肢として再出発を切ることができました。佐藤社長は、店を忙しい家事や育児に追われるお母さんが利用しやすい場所にすることを目指しています。

6.不動技研工業株式会社|M&Aによる事業承継で事業拡大

不動技研工業株式会社は長崎県長崎市に本拠を置き、火力発電プラントのボイラーやタービン、舶用機械の設計などを手がける企業です。2018年には過去最高益を記録しましたが、脱炭素化の世界的潮流により主要市場である火力発電事業の縮小が予想され、新しい事業機会を模索し始めました。

M&Aによる事業承継と拡張

この過渡期に、長崎県内に位置する株式会社PAL構造からM&Aの提案を受けました。PAL構造は様々な構造物の設計を得意とする企業で、業績は良好でしたが後継者不在という課題を抱えていました。不動技研工業は、PAL構造の提案を受け、両社の強みを活かすためのM&Aを前向きに検討し始めました。

PMIによる統合プロセス

2019年4月にPAL構造は不動技研工業のグループ企業となり、統合の効果を最大化するためPMI(Post-Merger Integration)委員会を設置しました。エンジニアリング、建設、自動車、ICTなど四つの事業領域で課題抽出を行い、11の協業分野で具体的な取り組みを開始しました。この統合により、設計業務の上流工程と下流工程を分けることが可能となり、専門外の案件にも対応できるようになりました。

事業拡大と新たな可能性

M&Aと統合により、不動技研工業は事業範囲を拡大し、従業員の常駐や人材交流を通じて新たな協業を進めています。グループとしての規模が拡大し、人材採用も容易になりました。さらに、株式会社不動技研ホールディングスを設立し、濵本代表取締役会長は両社の異なる企業カラーが新たな付加価値を生み出すことを期待しています。

この事業承継と拡張の取り組みは、世界的な市場の変化に対応すると同時に、企業の持続可能な成長を目指す戦略的なアプローチとして位置づけられます。

7.株式会社タカハシ包装センター|M&Aによる事業承継

株式会社タカハシ包装センターは島根県浜田市に本社を置き、食品トレーなどの包装資材を漁業者や食品加工業者、スーパーなどに卸している企業です。地元市場の縮小と地域顧客の廃業により成長が頭打ちになったため、同社は新たな市場として首都圏に目を向けました。しかし、地元志向が強い従業員の中に転勤可能な人材がおらず、東京進出には困難が伴いました。

M&Aによる事業承継の検討

高橋将史社長は首都圏への進出を目指す中で、M&Aを通じて首都圏の同業者の人材や経営資源を獲得することを検討し始めました。2010年からM&Aの仲介業者を通じて条件に合う譲渡企業を探していましたが、なかなか適切な企業は見つかりませんでした。

M&Aセミナーと転換点

2019年9月、高橋社長は民間の経営支援団体によるM&Aセミナーに参加し、「まず一度やってみる」というスピードを意識した発想に変わりました。その後、食品関連企業に焦点を当てて幅広く候補を探し、最終的に東京の印刷会社である株式会社キョウワに目をつけました。

M&Aの実行と経験の蓄積

キョウワは異業種であるものの、企業規模や地域が当初の希望通りであり、社風や従業員の質が魅力的でした。2019年10月に実名交渉を申し込み、同年末にM&Aを実行しました。高橋社長とキョウワの窓口が共に専門資格を持っていたため、デューデリジェンスやリーガルチェックもスムーズに進行しました。

事業の将来展望

このM&Aを通じて、高橋社長は首都圏市場への参入への手応えを感じており、新型コロナウイルス感染症の影響で計画が遅れたものの、将来的には首都圏からさらに「外貨」を稼ぎ、事業を全国および世界に拡大していくことを目指しています。この経験を基に、事業展開と成長を目指す計画を進めています。

8.株式会社新家製作所|個人によるM&A 事業引継ぎ支援センター活用

株式会社新家製作所は、石川県加賀市に拠点を置き、産業用コンベアチェーン部品などの金属部品加工を行う企業です。創業者の急逝後、実弟が一時的に社長職を務めましたが、経営経験の不足と高齢を理由に後継者を探すことにしました。この過程で山下公彦氏が後継者として登場し、会社の事業承継が行われました。

事業承継への道のり

山下氏は東京の大手航空部品メーカーで製造から企画まで広範な経験を積んだ後、地元金沢市に貢献するため創業を志しました。地元での創業を目指す中で、後継者不足に悩む中小企業の現状を知り、M&Aを通じて経営者になる道を模索するようになりました。石川県事業引継ぎ支援センターを通じて新家製作所の情報を得た山下氏は、後継者不在の新家製作所のM&A案件に参加し、事業承継を決意しました。

M&Aのプロセス

山下氏は新家製作所の財務状態を調査し、長年の大手顧客との安定した取引関係や自身の技術が活かせる事業内容を評価しました。低い譲渡金額が提示されたこともあり、資金調達は経営承継円滑化法の認定を受けた上で、日本政策金融公庫からの低利融資を利用し、事業承継特別保証制度を通じてスムーズに進められました。

M&A後の成果と展望

2020年7月に山下氏が社長に就任し、新家製作所は安定した経営体制を確立しました。山下社長はIT機器やデータの活用を推進し、受注の採算性向上や従業員のモチベーション向上に努めています。また、地元の小規模製造業との連携を深め、技術や技能の次世代への承継と経営基盤の安定化を図ることを目指しています。

この事例は、M&Aを通じて適切な後継者が見つかり、地域企業の持続可能な発展を促すモデルとして示されています。

9.有限会社ショッピング|東京からの移住者へ事業承継

有限会社ショッピングは、徳島県海陽町で地域密着型のスーパーマーケットを運営していた企業です。1970年に設立され、飲食料品の提供を通じて地元コミュニティの中核として機能していました。後継者がいない問題と過疎化による売上減少が重なり、創業者である大黒彪央会長は廃業も含めた事業の存続を検討していました。

事業承継の模索と実現

大黒会長は地域の買い物の利便性と地域衰退を懸念しており、後継者を探すことにしました。地域の神社での活動を通じて知り合った岩崎氏が後継者として浮上しました。岩崎氏は東京での長年の生活の後、海陽町に移住し、自給自足的な生活と農業・食品加工に携わっていました。スーパーマーケットの運営を通じて地域に貢献し、自身のビジネスを展開したいと考えていた岩崎氏は、大黒会長からの事業承継の提案に応じました。

事業承継のプロセス

徳島県事業引継ぎ支援センターのバックアップを受けて、大黒会長と岩崎氏は事業承継に関する交渉と協議を進めました。2020年3月には基本合意に至り、岩崎氏は事業承継を正式に引き継ぎ、同年7月に社長に就任しました。事業承継には公的支援を活用し、円滑な資金調達が行われました。

新経営体制下での取り組み

岩崎社長は従業員を増員し、高付加価値商品の充実を図りながら、地域住民や旅行客を引きつける商品構成に変更しました。また、地元の特性を活かしたオーガニックワインの導入など、新しい試みを導入しています。さらに、地域の自然栽培ファームや直営カフェ、自社ブランドの加工品製造販売、EC事業への展開も計画しており、地域の再活性化に寄与することを目指しています。

この事業承継は、地域に根ざしたスーパーマーケットが地域コミュニティとの結びつきを保ちながら、新しいビジネスモデルへと進化する過程を示しています。また、後継者として地域外から新しいアイデアと活力をもたらした岩崎社長の取り組みは、地域密着型ビジネスに新たな可能性を示しています。

10.株式会社南西観光|同業他社とのM&A

株式会社南西観光は、1974年に創業された沖縄県那覇市に拠点を置くホテル業の企業です。大田誉社長が2015年に社長に就任して以降、ホテルの老朽化と持続可能な成長への懸念を背景に、事業多角化を模索し始めました。特に、ホテル業界における経験と知見を生かしつつ、M&Aを通じて事業の拡張を計画しました。

M&Aの決定とプロセス

南西観光ホテルは、観光客の獲得と高い稼働率を維持していましたが、将来の成長を確保するために同業他社とのM&Aを検討しました。大田社長は沖縄市内の「デイゴホテル」という家族経営で後継者不在のホテルの譲渡案件に着目しました。デイゴホテルは地元密着型の運営と良好なリピーター基盤を持ち、レストランが地元に人気がある点が魅力でした。

M&Aの実施

デイゴホテルとのM&A交渉は、屋号の継続と従業員の雇用維持を条件に進められました。新型コロナウイルス感染症の影響で経営環境が厳しくなる中、大田社長はポスト・コロナの市場回復を見越してM&Aを推進する決断をしました。2020年7月にM&Aが完了し、両社の強みを活かす戦略が立てられました。

両社のシナジーと今後の方針

南西観光ホテルとデイゴホテルは、M&Aを通じて両者の強みを統合し、ポスト・コロナの市場に備える準備を進めています。新たな需要に応じた共用ワークスペースの整備や、デイゴホテルのアットホームな接客と南西観光ホテルのスマートなオペレーションを融合させることで、サービスの質を向上させています。大田社長は、地元に愛されるホテルの伝統を維持しつつ、さらなる成長を目指しています。

この事例では、M&Aを通じて経営の安定化と事業多角化を図り、地域経済に貢献しながら業績の持続可能な成長を目指す戦略が示されています。

結論:経営者の世代交代と事業承継の重要性の再確認

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経済のグローバル化と技術の進化が進む現代社会において、企業の競争力を維持し、さらなる成長を遂げるためには、経営者の世代交代と事業承継が極めて重要です。企業の持続可能な成長はもちろん、イノベーションの促進や地域社会の繁栄にも寄与するため、単なる経営の引き継ぎを超えた意味を持ちます。

経営者の高齢化と事業承継の緊急性

日本では経営者の高齢化が進んでいます。多くの中小企業では経営者の後継者問題が深刻化しており、適切な事業承継が行われないことで、企業の存続自体が危ぶまれるケースも少なくありません。事業承継を先延ばしにすることは得策ではなく、早期に承継計画を立て、実行に移すことが必要です。

事業承継計画の重要性

事業承継は、経営者自身がその重要性を認識し、積極的に計画を立てることから始まります。承継計画には、後継者の選定だけでなく、彼らがスムーズに経営を引き継ぐようにするための教育や準備が含まれます。また、この過程では従業員や取引先とのコミュニケーションも欠かせず、全ての関係者が変化を受け入れ、支持する環境作りが求められます。

世代交代と事業承継への意識改革

事業承継の成功は、経営者だけでなく、全社員の意識改革から始まります。後継者や従業員に対して、事業のビジョンと将来計画を共有し、彼らが主体的に事業承継プロセスに関与できるよう促すことが重要です。経営者が事業承継への意識を改革し、積極的に次世代へのバトンタッチを進めることが、企業としての持続可能な成長を確実なものにします。

経営者としての責任として、事業を守るだけではなく、これを次世代に継承し、さらに発展させるための意識改革が必要です。これらの観点から事業承継の重要性について深く考え、実行に移すことの大切さを再認識するきっかけとなれば幸いです。

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※参考文献 

事業承継を通じた企業の成長・発展と M&Aによる経営資源の有効活用

事業承継ドクターが教える、100年企業へのヒント〜「年齢表」による見える化で、もう迷わない

中小企業・小規模事業者の現状

事業承継を通じた企業の成長・発展と M&Aによる経営資源の有効活用

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