みなさん。こんにちは。今回は事業承継と地域経済活性化の両方を実現できる「地域共創基盤」を作り実践されているCFOジャパン中嶋 智氏へのインタビュー記事を掲載します。
CFOジャパンは2021年11月に長野県岡谷市の老舗衣料品店カネジョウを買収したことで注目を集めました。カネジョウでの現在の取り組みと今後の方向性、「地域共創基盤」について語って頂きました。
中嶋 智氏(なかしま さとし)
地元の山口銀行で勤務後、株式会社シャルレの経理部門で上場企業の経理財務を一から学び、経営のプロフェッショナルを目指して医療機関向けの電子カルテなどの製造・販売を行う株式会社ソフトウェア・サービスへ転身。創業者社長の右腕として本部機能の強化を行い、2年半で新規上場に成功。その後、ウイングアーク1st株式会社のCFOとして2回目の新規上場、1年後に指定替えを行い、企業価値向上のためIR強化、国内及び中国でM&Aや資本提携を推進した。
2013年にCFOジャパン合同会社(後に株式会社に組織変更)を創業。ダブルワークでベンチャー企業のCFOを担い、VCからの大型資金調達を実行。
現在、CFOジャパン株式会社の代表として、企業のマネジメント強化を通じて事業成長を支援することに取り組んでいる。2021年には株式会社カネジョウの代表取締役社長に就任。
新しい事業承継の方法「地域共創基盤」とは?
ーー地域共創基盤について教えてください。
中嶋 智氏(以下、敬称略) :CFOジャパンは中小企業を支援することを軸にしています。今、中小企業は主に2つの問題を抱えています。1つ目は後継者不在といった事業承継の問題、2つ目は少子高齢化による人口減少に伴う需要減です。
地域経済においては、会社が減り、働く場所が減っています。若い人は働く場所を求めて都会に行くため、高齢化に拍車がかかっています。特に地域の消費に売上が依存している、小売業やサービス業は厳しくなってきています。
もともと後継者を紹介するサービスをやっていましたが、経営には興味があるという人はいましたが、お金を出して買い取り、債務保証まで踏み込める人はなかなかいませんでした。
そのため、会社のオーナー権、債務保証はCFOジャパンが行い、経営者候補の方が経営に専念できるようにする。その仕組みが地域共創基盤になります。
ーーありがとうございます。地域共創基盤において、会社のオーナー権を取得した後はどのようなことをしていますか?
中嶋:そうですね。オーナー権を取得した後は、その会社を強くするために3つのトランスフォーメーションが必要だと思っています。
1つ目は、BX(ビジネストランスフォーメーション)が必要です。以前からやってきた仕事がだんだん時代に合わなくなっているため、ビジネス部分でのトランスフォーメーションが必要です。
2つ目は、DX(デジタルトランスフォーメーション)です。地方であればあるほどIT化が進んでいません。
3つ目は、MX(マネジメントトランスフォーメーション)です。トップはマネジメントをやってきたが、その下の層は現場のプロフェッショナルではあるものの、マネジメント経験がないため、マネジメントがしっかりできていないです。やはり、マネジメントをしっかり機能するかたちでないと、その会社が持っている良さを発揮することはできません。
この3つのトランスフォーメーションを推進することで、我々がオーナー権を獲得した会社を強くします。さらに、その地域において、シナジーがある会社を探しつつ、強い企業集団を作りたいと思います。そのことで、さらに雇用を作り、地域に貢献をしたいと思っています。
ーーいわゆる金融系のファンドの事業再生の方法とは違いますね。
中嶋:そうですね。金融系ファンドの場合は、まずはバランスシートをきれいにしましょう、リストラをしましょうということで進めるケースは多いと思いますが、我々の場合は、全くそういうことはやりません。
まず、株式会社カネジョウを買収するにあたって、そこで働く皆さんにお願いしたこととして、「心と科学を融合させてください」と話したことがあります。
カネジョウにおいては従業員同士の助け合い、お客さんとの絆は十分あったと思います。しかし、データに基づいて、指標管理をしながら改善をするということは、今まであまりやってこられなかったのだと思います。心は十分あります。そこに科学を加えることで会社が強くなると思います。
ーー売ることはないのですか?
中嶋:そうですね。原則として売ることは想定してません。会社を商品のように仕入て売り飛ばすような、所謂、金融ファンドがやるような利ザヤを稼ぐようなことは絶対にしません。
カネジョウへの支援内容は?
ーーカネジョウに関しては、具体的にはどのような支援をしていますか?
中嶋:まずは、MXを進めています。各売り場の責任者である課長に対してのマネジメント支援を行っています。具体的には、当たり前のことですが、目標や計画を立てて、それをベースに進捗管理をすることで組織として成果を出すためのマネジメントの基本を徹底しています。
彼らが強くなれば、その中から店長候補が生まれてきて、将来お店のマネジメント、さらには会社のマネジメントに加わって頂きたいと思っています。
ーー従業員は何人ですか?
中嶋:パートの方と正社員で28人になります。30年以上勤務しているベテランの方もいらっしゃいます。
ーー目標と計画の管理はどれぐらいのスパンで実施していますか?
中嶋:通常は1年単位で事業計画を策定して、月次で管理する場合が多いと思いますが、カネジョウではスピードを持って動きたいため、3か月スパンで事業計画を策定して、月次で管理しています。
ーー成果に関してはいかがですか?
中嶋:昨年の12月から現場でマネジメントをし始めましたが、各売り場の責任者、課長職の皆さんにおいては特に、一定の範囲の責任を持ちつつ、達成しなければならない目標についてこだわりが強くなってきたり、従来とは異なる提案が増えたと思います。大きな進歩だと思います。
ーーそこに至るまでのフレームワークや教え方はどういうやり方でやっていますか?
中嶋:例えば、研修などの教育ですぐにできるものではないと思っています。マネジメントの必要な知識を身につけていただきながら、現場での生のやりとりがマネジメント育成では効果が大きいと考えています。日報で状況報告をしてもらいながら、週1回は個別でのミーティングをやります。目標への進捗などの話をしながら、自分の考え方を伝えることをやってきました。
CFOジャパンのマネジメント育成カリキュラムでは、「求める」「やらせる」「教える」「評価する」の4つの仕組みを会社に定着させることでマネジメント層が継続的に育つことをお伝えしてきています。そのコンサルティングで培われてきたやり方を活かしていますし、経営者として自分でマネジメントを行ってきた経験も活かしながら行っています。
ーー人材マネジメント以外ではどのような取り組みをしていますか?
中嶋:DXも推進しています。今まではPOSレジを利用していたものの、商品単位がざっくりしていました。品番、サイズ、色、アイテムごとで把握でき、お客様データで紐づけられて把握ができるようにしたいと思っています。
さらには、それに見合った提案ができるようにしたいと思っています。以前のシステムはオンプレでしたが、今回はクラウドを導入しようとしています。
ーーBXにあたることもやっていますか?
中嶋:はい、取り組んでいます。小売店の場合は、多店舗展開をすることで成長することを目指すケースが殆どかと思いますが、カネジョウの場合は、多店舗展開をすることで売上を伸ばすのではなく、今のお客様と関係を深めることで、成長させることを目指しています。
そのため、今年の4月に経営理念について「我々はお客様の幸せのサポーターである」と定めました。お客様が幸せになるために求めているものを提供するということに主眼に置き、今いるお客様へのラインナップを増やすことを考えています。
ーー新しい経営理念はどのような背景で策定しましたか?
中嶋:商圏人口が減っている中で、勝ち残るためには単なる物売りではダメと考えてます。そのため、カネジョウは、お客様にとって、生活の一部にならないといけないと考えています。キーワードの一つとして「幸せ」を掲げ、社員が一丸となって、お客様が「幸せ」になることをどうやって貢献するかを考え続けています。
地元ではカネジョウを知らない人はいないぐらいの知名度があります。特に、シニア世代の方々にとっては、子供の時に、親にカネジョウに連れて行ってもらって、カネジョウのレストランで食べたという幸せな日々の思い出をお持ちな方も少なくありません。我々は、目の前のお客様だけではなく、その家族も「幸せ」になって行かれることに貢献したいと思います。
ーー今回のカネジョウの買収に関して、地元の方の反応はいかがでしたか?
中嶋:商工会議所の新年会に参加したのですが、たまたま2代前の社長(前社長の父親)がいらっしゃって、地元の色々な方々を紹介していただきました。やはり、カネジョウのことを皆さんが気にかけていらっしゃるのを感じます。ここで失敗してはいけない、事業を成功させることはもちろん、地域の方と協力して信頼を構築することが大切だと思いました。
また、地元の金融機関からM&Aの相談が来るようになりました。特に、事業承継の相談を頂くようになりました。新型コロナがあり、何とか頑張っているが、これから先を考えるとM&Aを視野にいれないといけないと考えているところがでてきているのではないかと思います。
株式会社カネジョウの今後の方向性は?
ーー今のカネジョウをプラットフォームとして広げるイメージですか?
中嶋:そうですね。今回の諏訪地域においては、カネジョウを中心にグループを広げたいと考えています。
ーー具体的にはどういうかたちで広げることを考えていますか?
中嶋:カネジョウは婦人向けの小売業になります。そのお客様にとっての「幸せ」を追及したいと考えています。そのため、4つのキーワードを設定しています。
1つ目は「家族との絆」、2つ目は「健康」、3つ目は「周囲とのつながり」、4つ目は「自己肯定感」になります。例えば、1つ目の「家族との絆」を考えると、写真館は候補になると思います。
カネジョウで着物や服を購入していただき、お宮参りや成人式などのイベントを写真館で撮っていただき、家族とのよい思い出を作って頂くお手伝いをするということになります。
また、「健康」で考えますと、カネジョウには寝具を売る部門がありますが、マッサージや整骨院はシナジーがあるかと思います。
一方で、長野県には健康食品やオーガニック食品が色々とあるので、それらとの連携もあり得ると思います。
当社が候補として挙げる第一条件は、その地域で必要不可欠だということです。雇用を生んでいたり、その会社が無くなると隣町までに行かないと買えなくなる、困る。常に、求められていることが重要です。
「地域共創基盤」の今後の目標とは?
ーー今後の目標について教えてください。
中嶋:まずは、長野県で成功モデルを作りたいと思っています。それは売上や利益規模だけではなく、地元経済に貢献ができることが大切だと思っています。それが実現できた場合、日本の様々な業種、色々な地域でやりたいと思っています。
岡谷市で起こっていることは、日本のあらゆるところで起こっていると思います。今回の取り組みが成功すれば、他の地域でもうまくいくものと思っています。
頑張っている中小企業が、今後強くなるために、自分は何ができるのだろうと考えていく中で、地域共創基盤ができました。会社が継続するためには、利益を生み続けることが重要ですが、一方で地域への社会貢献であったり、新しいビジネスを創出する基盤になればと思っています。
ー貴重なお話をありがとうございました!
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