近年、AI技術が急速に進化する中で、日本の人工知能研究を牽引する存在として注目されているのが、東京大学の松尾豊教授が率いる「松尾研究室(通称・松尾研)」です。この研究室は、世界最先端のディープラーニング技術を生み出し続けるだけでなく、次世代のAI人材を輩出し、スタートアップの創業支援にも積極的に取り組んでいます。2024年度には前年度比で2倍近い50社のスタートアップを輩出予定であり、その勢いはとどまることを知りません。
松尾研が持つ強力なエコシステムは、大学、企業、そしてスタートアップの間でイノベーションを循環させることで、人材育成と技術の社会実装を同時に推進しています。日本が生成AI開発で遅れを取る中、この取り組みが国内AI業界の劣勢を巻き返す鍵となるのか、今大いに注目されています。この記事では、松尾研から生まれた代表的な10社のスタートアップを紹介し、その未来への可能性を探ります。
- 松尾研発スタートアップ10社ご紹介
- Gunosy|情報解析・配信技術が強み
- PKSHA|高度なアルゴリズムを駆使したAIソリューションの開発
- DeepX, Inc.|AI技術を活用して産業自動化を推進するテクノロジー企業
- READYFOR株式会社|社会課題の解決を目指すための資金調達プラットフォーム
- 株式会社ACES |AIアルゴリズムを活用して事業開発を行うテクノロジー企業
- 株式会社aiQ|最先端のデータ分析技術を駆使してビジネス支援
- bestat株式会社|3D画像処理技術に特化
- 株式会社ELYZA|大規模言語モデルの開発と実装に特化
- 株式会社Ollo|製造業向けの画像認識ソフトウェアを提供
- 株式会社Wanderlust|伝統的な産業向けに、AIやDXコンサルティング事業を展開
- 未来への挑戦:松尾研発スタートアップ®︎のさらなる可能性
松尾研発スタートアップ10社ご紹介
「松尾研発スタートアップ®︎」とは、松尾研の出身者が創業、または松尾研の支援を受けて設立された企業の中で、技術力と事業力の両面で成長の可能性が高く、さらに松尾研の理念に共感し、次世代の人材育成にも共に取り組む、選抜されたスタートアップ企業群です。ここでは、その一部をご紹介します。
Gunosy|情報解析・配信技術が強み
Gunosyは、スマートフォン向けに情報を提供するキュレーションサービスを主力とするインターネット企業です。2012年に設立され、急速に増加する情報の中で、ユーザーに適切な情報を届けることを目的としています。独自のアルゴリズムとデータ解析を駆使し、ユーザーが必要とする情報を最適化して提供するサービスを展開しています。
主なサービスには、ニュースキュレーションアプリ「グノシー」、ニュース提供アプリ「ニュースパス」、そして過去には「LUCRA(ルクラ)」などがあります。また、アドネットワーク事業や広告主との連携による収益化を行い、企業としての基盤を強化しています。
Gunosyは、AIや機械学習技術をいち早く活用し、情報解析・配信技術を強みとしています。創業以来、多様な情報接触ポイントを通じて蓄積したデータを基に、ユーザーのニーズに応じた情報提供を行っています。特にメディア事業において、データ活用に基づいた科学的な運営を強みとし、成長を続けています。
企業理念として、「情報を世界中の人に最適に届ける」ことを掲げ、ユーザーが必要とする情報にアクセスできる社会を目指しています。また、テクノロジーへの投資を重視し、変化の激しい市場環境に柔軟に対応し続けることを目指しています。
PKSHA|高度なアルゴリズムを駆使したAIソリューションの開発
PKSHA Technologyは、2012年に東京都文京区本郷で創業されたAI・アルゴリズム技術を基盤とした企業です。同社のミッションは、「未来のソフトウエアを形にする」ことであり、ソフトウェアを通じて社会に価値をもたらすことを目指しています。PKSHAは人間とソフトウエアが共に進化する「共進化」をビジョンとして掲げ、アルゴリズム技術を活用したプロダクトやサービスを提供しています。
PKSHAの強みは、機械学習や自然言語処理、画像認識などの高度なアルゴリズムを駆使したAIソリューションの開発です。これらの技術は、予測、行動解析、異常検知、対話理解など、多岐にわたる分野で活用され、社会に実装されています。また、業界進化をリードする「未来志向」や、ネットワーク効果を創出する「信頼のうねり」などの価値観を重視し、外部環境と共に進化し続けることを目指しています。
PKSHAは、研究と実装を同時に進め、ソフトウエアの社会実装を加速させることに注力しており、AI SaaS製品やセキュリティソリューションの提供を通じて、未来の社会問題を解決することを目指しています。また、2022年には、AI製品を「PKSHA」ブランドに統一し、犯罪検知ソリューション「PKSHA Security」などの本格展開を開始しました。
創業以来、東京証券取引所への上場や、複数の子会社の設立・買収を通じて事業を拡大し、ソフトウエアを通じた社会的価値の創造に取り組んでいます。
DeepX, Inc.|AI技術を活用して産業自動化を推進するテクノロジー企業
DeepXは、AI技術を活用して産業自動化を推進する日本のテクノロジー企業です。主にディープラーニングを活用し、ロボティクスや機械の自律化に焦点を当てたソリューションを提供しています。同社の使命は、産業分野における労働力不足や作業効率の問題をAI技術で解決し、より持続可能で効率的な産業環境を実現することです。
DeepXは、特に建設業、製造業、物流業など、労働集約的な産業において、自律型ロボットや自動化技術を導入することで、生産性向上と作業負担の軽減を目指しています。自社開発のAIアルゴリズムにより、ロボットや機械の知能化を進め、複雑な作業を自律的に実行できるようにしています。これにより、特定のスキルが必要な作業や危険を伴う作業の自動化が実現し、安全性や効率性が向上しています。
また、DeepXは、パートナー企業や産学連携を通じて技術開発を進めており、産業自動化の分野で急速に成長しています。産業用ロボットの活用範囲を広げ、AI技術の社会実装を進めることで、今後さらに多くの業界に貢献することが期待されています。
READYFOR株式会社|社会課題の解決を目指すための資金調達プラットフォーム
READYFOR株式会社は、クラウドファンディングの分野において日本初のサービスを提供する企業であり、社会課題の解決を目指すための資金調達プラットフォームを運営しています。2011年にオーマ株式会社にてクラウドファンディングサービス「READYFOR」を開始し、2014年にREADYFOR株式会社として独立しました。同社は、個人や団体が資金を必要とするプロジェクトに対して、寄付型や購入型のクラウドファンディングを提供し、多くの社会課題に対する取り組みをサポートしています。
READYFORは、特に社会的・公共的なプロジェクトに焦点を当て、政府では解決しきれない多様な社会課題に対して、フィランソロピーや寄付を通じて資金を集めることを目的としています。同社のサービスは、資金調達プラットフォームの提供に加え、資金調達戦略の設計や実行支援、さらには寄付プログラムの運営など多岐にわたります。
主なサービスには、一般的なクラウドファンディングに加え、法人向けの「SDGsマッチングサービス」や「遺贈寄付サポートサービス」、「継続寄付サービス」などがあります。また、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための基金を設立し、クラウドファンディング史上最高額となる8.7億円を達成するなど、社会的影響力も大きいプロジェクトを運営しています。
READYFORは、資金提供者と受け手の双方に寄り添い、透明性と信頼性の高いサービスを通じて、社会を良くするお金の流れを創り出すことを使命としています。また、SDGsに関連するプロジェクトや社会貢献活動への関心を高め、個人や企業が持つ想いを具体的な行動に繋げる支援をしています。
株式会社ACES |AIアルゴリズムを活用して事業開発を行うテクノロジー企業
ACESは、AIアルゴリズムを活用して事業開発を行う日本のテクノロジー企業であり、2017年に東京大学松尾研から誕生したスタートアップです。同社のミッションは「アルゴリズムで、人の働き方に余白をつくる」ことであり、属人的な知見や業務をAIによってデジタル化し、効率化する「AIトランスフォーメーション事業」を通じて、シンプルで持続可能な社会を実現することを目指しています。
ACESは、特にディープラーニングをはじめとする高度なAIアルゴリズムに重点を置き、人間が理解しにくい複雑な事象をそのままに解決できる技術を提供しています。これにより、従来は個人の知識や経験に依存していた業務をデジタル化し、持続可能な形で企業の成長を支援しています。
具体的なサービスとしては、クライアントのDXを支援する「DXパートナーサービス」や、AIアルゴリズムを搭載した「AIソフトウェアサービス」を提供しています。これにより、営業や採用といったビジネスの現場で個人の知見をデータ化し、成約率や業務効率の向上を実現します。
ACESのビジョンは、「アルゴリズムで社会をもっとシンプルにする」ことであり、AIを通じて複雑な課題を解決し、直感的かつ多様な生き方を支援する社会を目指しています。同社は、各業界のDXをリードする企業のパートナーとして、AIを活用した事業価値の創出に取り組んでいます。
株式会社aiQ|最先端のデータ分析技術を駆使してビジネス支援
株式会社aiQは、最先端のデータ分析技術を駆使してビジネス支援を行う企業で、特に深層学習を用いた時系列解析、自然言語処理、画像分類などに強みを持っています。CEOの山本氏をはじめ、機械学習の専門家たちが、クライアントに対して包括的なサポートを提供し、オーダーメイドのデータ分析ソリューションを開発しています。
aiQの特徴は、クライアントとの丁寧なヒアリングを通じてビジネス課題を深く理解し、データ活用の方法を共同で議論することで、実際のビジネスでのデータ活用を具体化することです。また、迅速にデータ分析環境を構築でき、クラウド機能の追加も柔軟に対応しています。
同社は、投資家向けにオルタナティブデータの提供も行っており、独自のディープラーニング技術を活用して、人流データやPOSデータなどを基に、日本全国の消費や生産活動のリアルタイムな分析を行います。提供されるデータには、携帯電話の位置情報を基にした人流データ、国内6,000店舗から収集した小売店販売データ、家電量販店の売上予測や商品単価の情報などが含まれており、幅広い業種をカバーしています。
さらに、ウェブダッシュボードを通じて、日本の上場企業の約半数をカバーするビッグデータを活用し、クライアントが簡単にデータ分析を開始できる環境を提供しています。
bestat株式会社|3D画像処理技術に特化
bestatは、東京大学発の3D画像処理技術に特化したAIスタートアップ企業です。特に、3D画像処理技術をコアとすることで、製造業や建設業を含む多くの産業における3Dデータの活用を促進しています。bestatの提供する「3D.Core」は、誰もが動画をアップロードするだけで3Dデータを生成、管理、活用できるクラウドサービスで、3Dデータの民主化を目指しています。
これまで3Dデータは専用機材や高度な専門知識が必要であり、生成から管理、活用までには多くの障壁がありました。しかし、2020年以降の技術進化(5Gの普及、PCやスマホの処理能力向上、XRゴーグルや3Dセンサーの普及など)により、誰でも簡単に高精度な3Dデータを利用できる環境を提供できるようになりました。
bestatの3Dデータは、製造業や建設業における設計や改修プロセスだけでなく、デジタルツインや産業用メタバース、ロボット化、自動設計など幅広い用途で活用が期待されています。同社の「3D.ai」を使用することで、出力された3Dデータは業界標準のCADフォーマットに変換され、ARやVRといったXR用途にも対応しています。
また、3Dデータのワンストップクラウドサービス「3D.Core」により、データの生成から管理、共有、活用までを簡便に行うことが可能であり、業務効率を大幅に向上させます。bestatは、こうしたサービスを通じて「誰もが理想を語れる社会」を実現することを目指しています。
株式会社ELYZA|大規模言語モデルの開発と実装に特化
ELYZAは、Deep Learningを基軸とするAIカンパニーで、特に大規模言語モデル(LLM)の開発と実装に特化しています。2020年に独自のLLMの開発に成功して以来、主に大手企業に対してLLMの活用支援を行っており、これまで社会実装が難しいとされてきた分野に挑戦しています。
ELYZAの使命は、技術革新を通じて、未踏の領域にある課題を解決し、新しい働き方やサービスを社会に浸透させることです。LLMを活用したAIシステムの実装や企業・業界特化のLLMの研究開発を支援することで、クライアント企業が競争優位性を強化できるようにサポートしています。
同社は、研究開発、社会実装、事業開発をシームレスに結びつけることで、新たな技術を実際の価値に変換し、AIの普及を推進しています。また、ELYZAの提供するAI SaaSプロダクトは、生成AIを基盤として、これまでにない業務のあり方や働き方を提供し、社会に新しい価値をもたらすことを目指しています。
ELYZAのビジョンは「未踏の領域であたりまえを創る」ことであり、長期的な利益の最適化を重視する「Long Term Greedy」という価値観を中心に据えて、技術と社会実装の両面で持続可能な成長を追求しています。
株式会社Ollo|製造業向けの画像認識ソフトウェアを提供
株式会社Ollo(オロ)は、2019年2月に東京大学松尾研究室のメンバーを中心に設立されたAIスタートアップで、製造業向けの画像認識ソフトウェア「Ollo Factory」を提供しています。このソフトウェアは、カメラ1台で工場の作業を解析できる点が特徴で、作業現場の動画をアップロードするだけで、AIが繰り返し行われる作業を自動的に検出・計測し、24時間365日、作業のばらつきやミス、無駄を可視化します。これにより、現場の生産性向上に大きく寄与します。
Ollo Factoryの主な特徴には、独自の「One-Shot学習技術」による高精度な作業解析があり、大量の学習サンプルが不要なため、誰でも簡単に利用できることが挙げられます。導入は1分以内で完了し、特別なスキルも必要ありません。これにより、ヒューマンエラーの可視化や作業の標準化をサポートし、熟練者の作業をベンチマークにすることで、作業員全体のスキル向上と教育コストの削減が可能です。
同社は、高精度な分析を手頃なコストで提供し、広く製造現場で活用できるソリューションを目指しています。また、Olloは、作業効率を向上させるだけでなく、作業そのものをより価値のあるものへと引き上げることを使命としています。
Olloは、大学の学生メンバーから豊富な役員経験を持つメンバーまで、多様な人材が集まり、革新的なプロダクトを開発し続けることで、製造現場の働き方を大きく変革しようとしています。
株式会社Wanderlust|伝統的な産業向けに、AIやDXコンサルティング事業を展開
Wanderlustは、東京大学発のスタートアップで、ディープラーニングなど革新的なAI技術を駆使して、企業が抱える深層課題を解決するソリューションを提供しています。特に、物流、製造、建築といった大規模で伝統的な産業向けに、AIやDXに関するコンサルティング事業を展開しており、技術的に難易度の高い問題解決に強みを持っています。
Wanderlustの主な事業には、プロトタイプ開発や実証実験によるアイデアの具現化支援、企業の成長を阻む課題に対して最先端のAI技術を用いたコンサルティングがあります。また、同社はR&D(研究開発)にも力を入れており、特にコンピュータビジョンや大規模言語モデル(M-LLM)に注力。東京大学や慶應義塾大学の研究所と連携し、最先端技術の開発を行っています。
さらに、WanderlustはAIツールの実践的な体験や活用方法を学ぶワークショップも提供しており、企業の競争力を高めるための戦略を共に創り上げます。東京大学、慶應義塾大学、インド工科大学などの経験豊富なエンジニアチームが、さまざまな課題に幅広く対応しており、先進的な技術と知識を基に企業の成長をサポートしています。
未来への挑戦:松尾研発スタートアップ®︎のさらなる可能性
松尾研発スタートアップ®︎は、技術革新と事業の成長を両立しながら、日本のAI業界をリードする存在として、これからも大きな挑戦を続けていきます。松尾研が育んできたエコシステムの中で、これらの企業はAIの力で社会の課題を解決するという共通の目標を持っています。そして、次世代の人材育成にも積極的に関わりながら、新しいイノベーションを生み出し続けることでしょう。
日本がAI分野で存在感を高め続けるためには、松尾研とそのスタートアップたちの役割はますます重要になっていきます。彼らが描く未来は、私たちの生活やビジネスにどんな変化をもたらしてくれるのか。これからの挑戦と成長に、ぜひ注目していきましょう!