「地方から日本を元気にする」
タイムカプセル社が神奈川県横須賀市を中心に展開している一連の取り組みは、「横須賀モデル」と呼ぶにふさわしい地域活性化の実践例です。
ソフトウェア開発を軸にしながら、若手エンジニアが集う開発拠点、地元の有志と立ち上げたコワーキングスペース、そして地産地消をテーマにした飲食店経営までを組み合わせ、ITと地域産業を有機的に結びつけています。
このモデルの特長は、地域に眠る資源や技術を再編集し、デジタルの力で再現性と持続性を持たせている点にあります。さらに、社員が主体的に動く組織文化や、地域との共創によって生まれる相乗効果が、新たな価値創出へとつながっています。横須賀モデルは、地域から全国へと広がる「地方発イノベーション」の新しい形として注目されています。
ソフトウェア開発を中心に事業を展開するタイムカプセル社は、「ITで地域から日本を元気に」という理念を掲げ、全国10カ所にオフィスを構えています。各地でエンジニアやデザイナーを採用し、地域に根ざした開発体制を整えることで、日本全体の活性化を目指しています。
近年では、IT事業にとどまらず、飲食業のリノベーションや事業承継、雇用創出を通じて地域づくりにも取り組んでいます。老舗店舗の事業継承や地域人材の育成など、単なる店舗運営にとどまらない、地域コミュニティ全体の活性化を目的とした活動が広がっています。
今回は、「横須賀モデル」をより深く理解するため、同社の横須賀オフィス、コワーキングスペース、そして飲食店2店舗を取材しました。
横須賀オフィス ― 若手が集い、挑戦する開発拠点
横須賀オフィスには、全国の各拠点から集まった若手エンジニアやクリエイターが在籍し、新しいサービスやプロダクトの開発に日々取り組んでいます。
同社では社宅補助制度を設け、地方から関東圏で挑戦したい若手人材を積極的に受け入れています。また、社員が将来的に地元の拠点へUターンできる制度も整備しており、キャリア形成とライフスタイルの両立を支援しています。
さらにユニークなのが、社員が年に一度、希望する拠点で働ける「旅するように働く制度」です。交通費や宿泊費はすべて会社が負担し、社員のモチベーション向上と拠点間の交流促進につながっています。
権限移譲と信頼で育つ組織づくり
取材を通じて感じたのは、タイムカプセル社が若手に大きな権限を委ねる文化を持っていることです。二十代後半のメンバーが中心となって会社を推進しており、社員一人一人が意思決定に関わる仕組みが整っています。
一方で、相澤社長は現場を支える立場に徹し、社員が働きやすい環境づくりと、質の高い案件の獲得に力を注いでいます。会社の数字はリーダー層にすべてオープンに共有され、率直でフラットなコミュニケーションが日常的に行われています。
また、社内イベントなどの場でも、社長は社員が主役になるような環境づくりに徹しており、組織全体に自律性と信頼が根付いている印象を受けました。
横須賀のスタートアップ拠点「16 Startups」
横須賀中央駅近くにあるコワーキングスペース「16 Startups」は、タイムカプセル社の関連会社として、地域を盛り上げるために地元の有志とともに立ち上げられた拠点です。
開設から9年で約40社が入居しており、入居企業はベンチャー企業だけでなく、地元企業、士業、大手企業まで幅広い顔ぶれです。月に1〜2回のイベントでは交流や新たなビジネスアイデアの創出が活発に行われています。
運営は基本的に無人化されており、利用者の信頼と自律性を前提とした効率的な運営体制が確立されています。この拠点の存在によって、タイムカプセル社の事業とも相乗効果が生まれ、地域経済を支える新たなビジネスエコシステムの形成につながっています。
観音崎の海辺に佇む、地産地消カフェ「レストア観音崎店」

観音崎の海を望む場所にある「レストア観音崎店」は、京浜急行グループと連携し運営されている地産地消カフェです。SNSでのPRと口コミを中心に集客し、開業からわずか3年で、ドラマの撮影地としても知られる人気店へと成長しました。
地元食材を活かしたメニューを中心に、スタッフ自らがコーヒー豆の買い付けや選定を行うなど、お客様に喜ばれる味づくりにこだわっています。観音崎の新たな名所としても定着しています。
レストランの隣には、70年以上の歴史を持つ観音崎自然博物館があり、相澤代表も理事として参画しています。磯遊びを取り入れた学校団体向けの集客戦略で成功しているとのことで、地域資源を活かした事業の在り方として非常に興味深い事例です。
炭火焼「庵(いおり)」 ― 名店を受け継ぎ、地域の灯をともす
炭火焼「庵(いおり)」は、事業承継によってタイムカプセル社が引き継いだ炭火焼の名店です。東京や神奈川で修行を積んだ店長が中心となり、比内地鶏を炭火で丁寧に焼き上げています。
名店の味を絶やさず、地域に活気を取り戻したいという想いのもと、地域の食文化を未来へとつなぐ存在として、確かな存在感を放っています。
今後の展開
タイムカプセル社は現在、カフェ2店舗、居酒屋1店舗、シェアオフィス2拠点を運営しており(うち一部はグループ会社が運営)、横須賀をはじめとする各地で得た成功モデルを、全国へ広げる構想を進めています。
ITや飲食事業など、地域の実情に合わせた多角的な取り組みを通じて、地方から日本全体を元気にする、その理念の実現に向けて、今後の展開がますます注目されます。