企業成長を語る際に、経理部門がフォーカスされることは多くありません。しかし、経理は事業拡大に伴い業務逼迫しやすい部門であり、会社経営にとって重要な仕事です。
本記事では経理業務にフォーカスし、どのような要因で業務負担が増えてしまうのか、業務負担軽減のための解決策について紹介します。
企業の成長に伴い増える経理業務とは?
経理業務は、企業の決算にかかわる仕事で、社内のお金の流れを正確に把握し、管理する役割を担います。最終的には、経営者や企業の利害関係者に、財政面から社内状況を報告することを目的としていて、会社経営において、欠かすことのできない大切な業務です。
そして、この経理業務ですが、企業が成長し事業規模が大きくなると、対応業務は変わらなくても処理件数が増えるため、必然と仕事量は増えてしまいます。どのようにして業務が増えてしまうのでしょうか?
従業員が増えることによる経費精算業務の増加
まず一つ目に、従業員が増えることによる経理業務の増加についてです。企業が成長していくと、事業拡大のために人の採用が必要になってきます。入社する社員やアルバイトの数が増え、組織全体の従業員数も増加します。
このような会社の急成長に伴い生じるのが、経費精算業務の急増です。業務量が増えれば増えるほど経理担当者はパンク寸前となってしまいます。
また、経理担当者が突然退職することもあるため、担当者が欠員することで、業務はさらに逼迫します。
さらに、退職者の穴埋めのために新たな採用を図ろうとすると、オンボーディングに時間がかかります。
特に経理業務は、担当者のみが業務内容を把握しているケースも多く、属人化してしまうリスクも高いため「その人がいなければ業務が回らない」という状況を生み出しかねません。
また、せっかく採用して教育・育成にコストをかけても、採用した人が定着してくれるとは限らないため、リスクが大きいと言えます。
他にも従業員が増えると労務管理業務が増えるなど、単に処理量が増えるのみならず、対応すべき業務が増加してしまいます。
取引先が増える/取引が増える
二つ目に、取引先や取引そのものが増えることによる経理業務の増加についてです。
取引先や取引が増えると、経理業務ではまず売掛・買掛管理が増えます。
この管理は、期日までに買掛金の支払いや売掛金の入金が行われたかどうかの確認が主な業務内容であり、多くの企業が月次で処理をします。
特に、BtoB業態の企業は、掛取引が大量にあることが多く、売掛金と買掛金の管理が取引件数が増えるほど煩雑になりがちです。
同様に与信管理業務も増加します。
経営状況の悪い会社と取引をしてしまい、万一その会社が倒産してしまったら、せっかくの売上も自社の損失となってしまいます。
そのため、取引先の経営状況には、常にアンテナを張っておくという目的で、与信管理は非常に重要です。
与信管理を行う部門は、経理部門、管理部門、営業部門など会社の組織編成によって異なりますが、取引先が増えるほど与信管理業務は煩雑になります。
ただし与信管理は会社のリスク管理に関わる業務であり、責任も大きくあるため、その点においても一筋縄ではいかない業務だと言えるでしょう。
また他には、伝票作成や仕訳入力、請求書処理作業などが対応事項として増えていきます。
商品数、商品量が増える
三つ目に商品数、商品量が増えることによる経理業務の増加についてです。
まずは、倉庫で管理する商品をチェックする棚卸業務が増えます。
棚卸業務では、商品の入荷から出荷までを正しく追跡できているか、そして在庫に過不足はないかなどを確認します。
在庫を管理するという単純な作業であっても、事業規模が拡大し、商品数や種類が増えると一気に業務が煩雑化します。
そのため多くの企業では、より棚卸業務を効率化するために、ICタグを活用し、遠隔操作を可能にしたり、外部の専門業者にアウトソースしたりしています。
他にも管理工数が増えるなど、経理業務は商品数が増えることでも多忙となっていきます。
既に経理部門が逼迫している企業は、ぜひ業務フローの見直しと効率化のためのシステム導入を検討できると良いでしょう。
部門が増える/支社が増える
四つ目に、部門や支社が増えることによる経理業務の増加についてです。
経理担当者は、各種税金の納付も業務として行いますが、企業が支店を設置した場合、支店がない場合に比べて税金の計算が複雑になることがあります。
また、部門が増えるとより部門間の連携が必要となるため、業務自体が増えないとしても対応すべきことは多くなります。
ありとあらゆる業務を担っているので逼迫して重要な業務ができなくなる
最後に、業務の逼迫がどのような問題を引き起こすかについてです。
経理部門にとって最も重要な業務は、従業員の給与を支払うことと、毎月の決算を締めることです。
この2点さえ対応できれば、会社は上手く循環していきます。
しかし、経理担当者は会計全般のあらゆる管理業務をになっているため、逼迫すると先述のようなコア業務が回らなくなってしまいます。
現在では、ITによるシステム化や外部組織によるアウトソーシング化など、解決法が様々ありますが、このような方法は「社内の管理状況に関して誰もわからない」という状況を生みかねません。
そのため、長期的な組織強化を考えてどのような経営部門における課題解決が妥当か、社内で検討する必要があります。
発生する問題点とは?
今まで企業の成長やそれに伴う事業拡大によって、経理部門へどのような業務負担がかかるのかについてご紹介しました。次に、具体的に会社へどのような問題が発生するのかについてご紹介します。
経理担当者の業務量負担が増加する
まずは、経理担当者の業務量負担が増加するということです。
先述の通り、業務内容に変化がなくても処理量が増えるため、必然と経理担当者の業務は増えてしまいます。
特に、経理担当者が行う仕事はミスの許されない、数値の検算や確認に時間がかかる作業が多いと言えます。
そのため、質は担保しながら、業務負担を減らすための取り組みを講じていかなければなりません。
月次決算が遅くなる
次に、月次決算が遅くなるという問題が発生する可能性があります。
経理担当者は、業務をそれぞれ月次、年次と頻度を分けて担当していて、その中でも月次業務には社員の給与に関わる給与計算が挙げられます。
給与の支払いと決算締めは会社経営の要であり、これらが少しでも遅延すると会社の信用に関わってきます。
また、経理部門にとっても、月次決算は重要な業務の一つであるため、他の業務の影響で決算が遅延することは会社にとって大きな問題となります。
試算表の精度が悪くなり経営に活用できなくなる
最後に、試算表の精度が悪くなり、経営に活用できなくなるということです。
試算表とは月次・年次決算時に、取引別になっている仕訳表から総勘定元帳への転記が正確にされているかどうか確認するための集計表です。
試算表を正しく作成することは、月次・年次決算を決める上で、非常に重要な仕事であり、経理担当者は、責任を持って神経を使いながら業務を行います。
しかし、業務全体が逼迫していくと、人間による確認作業のためミスも目立ってくるようになります。
すると試算表の精度も悪化していき、それが経営に活用できなくなってしまいます。
解決方法は?
最後に、先述したような問題を解決するための方法について、いくつかご紹介します。
ルール作りをする
まず一つ目に、ルール作りをするということです。
例えば、業務が逼迫している時こそ、業務の優先順位を決めることが大切です。
それぞれの業務の頻度にもよりますが、経理部門が担当する従業員の給与計算と決算締めは今後の会社経営に関わってくる重要な業務です。
どんなに多忙な時でも、必ず上記2点は締め切りまでに完了させるようにします。
特に、成長期にある企業は、営業事務など売上を得るための業務を優先して行うケースが多くあります。
経理部門において専任の事務スタッフが常駐しない企業は、ルール作りを徹底して行い社内へ共有し、業務負担がある中でも、コア業務から行えるようにしましょう。
人を増やす、教育をする(オンボーディングを充実させる)
二つ目に、人材を増やし教育をするということです。
日本企業は海外企業よりも、歴史的に社員教育に力を入れる土壌が育っています。
確かに、採用人数を増やしオンボーディングを充実させることは、多くのコストや時間がかかり、これも経理部門の逼迫に直結する取り組みです。
しかし、長期的な視点で考えると、10年後20年後に優秀な人材が集まる組織を形成するためには、現在からオンボーディングの充実を図り、組織力を上げていくことが重要です。
そのため、オンボーディングを充実させることも問題解決策の一つと言えるでしょう。
経理アウトソーシングを活用する
三つ目に、経理アウトソーシングを活用するということです。
アウトソーシングの活用は、社内にノウハウが蓄積されない、イレギュラー対応が難しいなどのデメリットもありますが、やはり業務負担が一気に解消されるという大きなメリットがあります。
また、経営担当者の人数の増減などを気にせずに業務を行うことができ、人員管理の必要もなくなります。
現在は様々な企業が経理アウトソーシングをサービス化しているため、ぜひ比較検討してみてください。
経理DX化を進める。
経理DXを進めることで解決する方法もあります。詳しくは「【プロに聞く】経理におけるDXとは?三浦崇生氏インタビュー」をご覧ください。
おわりに
今回の記事では、企業成長に伴う経理業務の負担増加についてご紹介しました。
経理部門は地味なイメージを持たれる方も多いですが、実際は企業経営にとってかなり重要な部門であり、また様々な業務を担当している部門でもあります。
事業拡大とともに、ぜひ従業員の働き方にも目を向け、業務負担を減らせるように課題解決していきましょう。