既存の化石燃料に頼ったエネルギー事情は、持続性に懸念があることや、その使用が地球環境に与える影響の大きさから、すでにピークに達しつつあります。原子力を使ったエネルギー運用も、放射性廃棄物の問題や事故のリスクを抱えており、安易な運用はできません。
そこで注目を集めているのが、太陽光発電や風力発電といった自然エネルギーの有効活用、そして水素やアンモニア、核融合といった次世代エネルギーの発見と活用です。
この記事では、そんな次世代エネルギーが持つ大きなポテンシャルについて解説しながら、それぞれのエネルギーがどのような利点を有しているのか、活用におけるメリットを紹介します。
次世代エネルギーとは
次世代エネルギーとは、その名の通り現行のエネルギーに変わる新しい形のエネルギーです。次世代エネルギーに共通しているのが、運用における健康リスクや事故のリスクが小さく、二酸化炭素を排出しないという点です。
詳しくは後述しますが、次世代エネルギーに求められるのが既存の化石燃料や原子力が有する問題をクリアしていることです。これらは安定したエネルギー源として、現代でも主要な資源ですが、二酸化炭素排出を促進したり、資源の掘削そのものが地球環境を汚染したりするリスクを抱えています。また、原子力発電は放射性廃棄物を生み出し、同時に原子力発電事故が発生した時には、事実上不可逆な事故に発展し得ることから、積極的な運用は推奨されていません。
一方の次世代エネルギーは、原材料の調達が容易であったり、エネルギー放出時に汚染物質が生み出されなかったりすることから、次なるエネルギーとして注目を集めています。
なぜ次世代エネルギーが重視されているのか
次世代エネルギーが現在注目されている背景には、さまざまな要因が挙げられます。
一つは、上でもあげたように既存エネルギーの枯渇リスクや安全リスクが懸念されていることです。石油やガスといった資源は有限であり、いつ無くなるかは誰にもわからず、次の日にはゼロになっている、という可能性も排除できません。また、原子力の安全性には多くの懸念が寄せられており、放射性廃棄物の問題も根本的な解決が望めないことから、運用には限界があります。
最近では、地政学リスクの高まりが次世代エネルギーの研究開発や実践運用を強く後押ししています。世界有数のエネルギー産出国である中国やロシアが西側諸国との関係が悪化していることで、安定したエネルギー供給が見込めず、価格の暴落や高騰の引き金となっているからです。一方次世代エネルギーは化石燃料ではないため、特定の国にエネルギー資源が依存するリスクも小さいと考えられています。
また、環境保護の観点からも、次世代エネルギーへの移行は喫緊の課題とされています。既存のエネルギーではあまりに多くの温室効果ガスを排出するため、環境負荷が大きく、環境被害を深刻化させてしまう可能性があるからです。
現在注目を集めている次世代エネルギーの本命は?
2023年現在、世界各国で注目を集めている代表的な次世代エネルギーは、水素とアンモニア、そして核融合の3つです。それぞれの概要を解説します。
水素
水素エネルギーは、主に水などのありふれた資源から生成可能な次世代エネルギーです。水素と酸素が結びつく際にエネルギーが発生し、発電を行うことができます。
最大の特徴は、エネルギーを発生させる際にはH2O、つまり水を排出するだけで済むため、地球環境への影響がゼロに近いという点です。大規模な発電から家庭用の自家発電まで幅広く使える点も高く評価されており、今後さらなる運用が期待されます。
経済産業省による「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では2040年ごろには安価で安定的かつ環境負荷の低い製造方法で、水素供給システムが構築されるだろうとのことです。
アンモニア
アンモニアは窒素と水素から構成される、刺激臭を持った無色透明の気体です。アンモニアの主な用途は肥料や合成繊維などでしたが、最近ではエネルギー源としても注目を集めています。
アンモニアを使った発電には、混焼と専焼と呼ばれる2つのアプローチがあります。前者はガスや石炭と混ぜて燃焼させ、発電を行う方法で、後者はアンモニアだけを燃焼させて発電する方法です。
特に後者の専焼については近年研究が進み、発電エネルギーの増大に向けた実験が繰り返されています。また、アンモニアを使った燃料電池の開発も進んでおり、水素とは異なる強みを発揮し、次世代エネルギーとして私たちの生活を支えることになるかもしれません。
核融合
3つ目は核融合です。核融合は「核」という名前がついているため、原子力発電を想起する方も少なくありませんが、その原理は原子力発電とは大きく異なります。
原子力発電の場合、エネルギーを生み出すきっかけとなるのが核分裂と呼ばれる現象です。ウランと呼ばれる資源に中性子をぶつけることで、放射性物質と共に強力なエネルギーを放出します。
一方の核融合が実践するのは、海水を原料とする重水素と三重水素を用いた仕組みです。前者を後者にぶつけ、その時に発生するエネルギーを発電などに使います。核融合発電の歴史は半世紀近いものがありますが、ようやく実用化に向けた成果が表れ始めており、日本が最も注目する次世代エネルギーでもあります。
次世代エネルギーとして水素が持つメリット
次世代エネルギーには複数の種類がありますが、それぞれのエネルギーがどのようなメリットを期待されているのか、順に確認しましょう。
まずは水素が持つメリットですが、最大のメリットはやはり資源調達の容易さです。ガスや水といった、ありふれた資源から調達が可能なので、巨大な掘削機械などを必要としません。もちろん水素を生成するための機器や、エネルギーに変換するための施設や仕組みは必要ですが、掘削機が地球を汚染する心配はないのが特徴です。
また、水素はそのまま燃やしてエネルギーとして活用できるのはもちろん、水素から電気を取り出し、発電するという方法を選べるのも魅力です。エネルギーとしての活用方法が幅広く、現在も研究が進んでいます。
また、水素は生成が容易なだけでなく、輸送や貯蔵も簡単というメリットを持っています。風力や太陽光発電は、天候によって発電量が大きく変わってしまうリスクを抱えていますが、水素であればガスや石油と同様、貯蔵して運用ができるため、安定性に優れます。
アンモニアが有する次世代エネルギーとしてのメリット
続いて、アンモニアが次世代エネルギーとしてどのように評価されているのか、確認していきましょう。アンモニアの利用メリットは、カーボンフリーのエネルギーである点です。アンモニア単体であれば燃焼時に二酸化炭素を排出するリスクがなく、温室効果ガスの発生を抑えることができます。
現在最も実用化に近づいている、他のエネルギー資源との併用という混焼の場合も、大きな二酸化炭素削減効果が期待できます。専焼の実用化にはまだ時間がかかりそうですが、それまでのつなぎとしても、アンモニアを使った混焼が、温室効果ガスの削減や資源の節約において、大いに役立つでしょう。
また、アンモニアは肥料や合成繊維の原料として広く流通してきた歴史があるため、その輸送コストが安価であったり、流通・貯蔵ルートが確立されているという強みもあります。あまりに新しい次世代エネルギーは、ゼロから運用体制を整備する必要があるため、初期投資が膨大です。一方のアンモニアは、既存のサプライチェーンを使って流通網を構築し、安定共有が期待できるため、実用化と普及をスピーディに進められるでしょう。
有力な次世代エネルギーである核融合のポテンシャル
3つ目の核融合は、現在最も注目が集まる次世代エネルギーでもありますが、その最大の魅力は莫大な発電エネルギーを期待できる点です。発電がうまくいけば、1gの燃料で石油8トン分に相当する膨大なエネルギーを得られるとも言われており、実用化によって地球上のエネルギー問題を一気に解決できる「地上の太陽」となりえます。
近年は参入スタートアップ企業の数も指数関数的に増えており、発電の実用化がこれまでは2050年以降と言われていたのが、今では2040年、もしかすると2030年になるかもしれないとも言われています。
水素やアンモニアの運用に比べ、まだまだ実用化が遠いとされる技術ですが、対照的にそのリターンは前2つの比ではなく、実用化が私たちの社会に与える影響は計り知れません。
次世代エネルギーが有するビジネスチャンス
次世代エネルギー産業は、現在多くの企業が注目している領域です。今回紹介した次世代エネルギーは、まだ本格的な運用には至っていませんが、これは安定したエネルギー生産ができなかったり、そもそも発電量が小さいなどの技術課題が残っているためです。
ただ、これらの課題は今後数年から数十年の間に解消されると期待されており、すでに実験的な運用も進んでいます。エネルギー産業は中長期的な投資を検討する必要がありますが、確実な成長が期待できるでしょう。
実用化に向けた周辺ビジネスもまだまだ発展途上のため、さまざまなアプローチで参入が可能です。
まとめ
この記事では、現在注目を集める次世代エネルギーの概要を解説しました。水素やアンモニア、そして核融合の技術は、いずれも本格的な実用化までにはまだ時間を要するものの、将来有望なテクノロジーであると考えられています。特に核融合技術については多くのスタートアップが参入しており、迅速な実用化や多くのビジネスチャンスの到来が期待されるところです。