バリューチェーン分析とは?事業戦略の見直しとDX

バリューチェーン分析とは?事業戦略の見直しとDX

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大手メーカーのIT部門でDX推進を担当している筆者が、経験をもとにバリューチェーン分析とは?事業戦略の見直しとDXについて語っています。

■筆者紹介:るりいろ
※大手メーカーの本社IT部門で、DX推進を担当。前回記事はこちら『DX推進の失敗の経験から学んだ「成功のポイントと立て直し策」とは?』をご覧ください。

デジタル変革が求められる昨今、DXを推進する企業が増えています。しかし「DXの成功は難しい」「成功する企業は一握り」とも言われています。

私の会社でもDXを推進するも、1年でDX推進のプロジェクトは中断。現在は立て直しの真っ最中です。

そこでこの記事では、失敗原因から見えてくる「成功のポイント」と、「立て直し策」を紹介します。DXが行き詰まっている企業の方には、参考になること間違いなしです。
chatGPTに代表される生成AIの台頭や、IT化に伴う産業構造の変化、米中対立や近年のウクライナ危機などの地政学リスクの変化などにより、どの企業でも事業戦略の見直しが必要になってきています。

事業戦略を見直しする際に有効なフレームワークの一つに「バリューチェーン」という考え方があるのをご存じでしょうか?

バリューチェーンは自社の経営活動を俯瞰して、競争戦略上の強みを見出すことのできる強力なフレームワークです。一方で、自社の市場での強みを読み間違えた戦略を立案していると、経営悪化に繋がるリスクがあります。

DX(デジタルトランスフォーメーション)で、自社の経営活動についてデータ(ファクト)を収集する事で、読み間違えのリスクを減らすことができます。

この記事では、バリューチェーンを分析して、事業戦略を包括的に見直しする意義とその具体的な手順とDXとの関係を自社事例と交えて、解説していきます。

■こんな方に読んで欲しい

「バリューチェーン」について、詳しく知りたい方

DX導入にも興味があって、「バリューチェーン」との関連を知りたい方

DX導入を導入したが、行き詰まりを感じている方

■筆者紹介

大手メーカーの本社IT部門で、DX導入を担当。

「DX導入のプロジェクト立ち上げ〜プロジェクト失敗〜DX推進に向けた立て直し」までを経験した筆者が、経験をもとにDX導入を成功させるポイントを解説しています。

バリューチェーンとは?

バリューチェーン(Value Chain)とは、研究開発、部品調達、製造、販売、流通などの顧客に商品やサービスが提供されるまでの一連の事業活動を「価値(Value)」の「連鎖(Chain)」として捉えるフレームワークのことで、「価値連鎖」と呼ぶこともあります。

例えば、バリューチェーン分析では、事業活動別に、以下のようなことに問題がないかを明確にしていくことになります。

・自社のサービスや製品はどのような事業活動を通して顧客へ提供されているのか

・顧客へサービスや製品が提供されるまで、どの程度のコストがかかっているのか

・各事業活動は顧客にどのような価値を提供できているのか

・各事業活動へどの程度のリソースをかけて価値提供を最大化できるのか

・自社の強みを以下の観点から分析し、これらの要素は市場の中で強いか

  V(Value=価値)

  R(Rareness=希少性)

  I(Imitability=模倣可能性)

  O(Organization=組織)

事業活動を機能別に分類し、機能別に自社と競合他社の分析を行うことで、「自社の強み」や「顧客から選ばれるポイント」を明らかにできます。

強みを明確にできる反面、自社の弱みや課題が明確になることもあるでしょう。強みと弱みを明確にすることで、企業戦略の立案が可能になります。

バリューチェーン分析はなぜ必要か?

AI・IT化に伴う産業構造の変化など、ビジネスを取り巻く環境は大きく変わってきています。

これまで業界の中で、強みであった自社の機能(組織能力)が環境変化に伴い、陳腐化するスピードも圧倒的に速くなっており、従来のビジネスモデルのままではどの企業でも生き残っていくことが難しくなってきていると言えるでしょう。

このような環境下で企業が成長しながら生き残っていくためには、環境変化に合わせて、「素早く」自社の事業戦略を見直すことが求められています。一方で、自社の強み(業界の中の存在価値)を見直しする際に、事業戦略の方向性を間違ってしまうと経営に大きな影響を及ぼします。

大きなリスクを伴うため、リスク緩和の策を考えておくことが大切です。例えば、ファクトデータ(事実に基づく1次情報となるデータ)を用いた分析は、リスク緩和に有効とされています。

ファクトデータに基づく意識決定は、経験や勘に基づく人依存ではないため、客観的で論理的な決定ができるからです。バリューチェーン分析には、デジタル化(DX化)で得るファクトデータの収集が必須です。

バリューチェーン分析による事業戦略見直しの3ステップ

バリューチェーン分析による事業戦略の見直しは以下の流れで進めていきます。

1)業界の環境変化に対する新しい戦略仮説と重要なKPIを設定

2)バリューチェーン全体を俯瞰するデータ収集の機能強化 

3)データに基づく事業戦略の見直し

業界の環境変化に対する新しい戦略仮説と重要なKPIを設定

バリューチェーンとは企業活動全体を指すため、その全てにフォーカスして見直すには、多大な労力と時間がかかり、分析が終わった時には変化を逃してしまう可能性があります。

そのため、業界の環境変化を見定めて、チームで新しい戦略の仮説を立てて、戦略実現に最も影響するKPIを設定しましょう。この仮説を素早く策定し、後述するデータ分析を含めた検証を行うことが成功のポイントとなります。

例えば、ターゲット顧客層をシフトする新戦略(40代女性→30代女性など)とした場合のKPIは、ターゲット顧客の店舗(ネット通販サイトなど)への来店数、再来店率、購入単価、購入数量などの指標を用います。

バリューチェーン全体を俯瞰するデータ収集の機能強化 

新しい戦略と、重要なKPIを設定したら、そのKPIに関わる自社の事業活動を全て洗い出しましょう。

それぞれの事業活動で、誰がどの程度コスト(人・モノ・金・時間)をかけているのか、また、それによって生み出された価値はどの程度あるのかをファクトデータを収集していきます。

これには、データ収集機能を強化することが重要になってきます。データは、バリューチェーン全体を俯瞰したものである必要があり、そのためにはデジタル化(DX化)が求められます。

データに基づく事業戦略の見直し

ファクトデータをもとに「顧客へ価値提供ができているのか?」「利益につながる活動になっているのか?」という観点で分析し、自社の強みや課題を明確にしていきます。

その上で、自社の事業戦略の見直し(ビジネスモデルの変革)を行いましょう。

次の章では、バリューチェーン分析で最も重要な、企業活動を俯瞰するデータ収集(DX)について説明します。

バリューチェーン全体を俯瞰するデータ収集に必要なポイント

会社内のシステムが統一化されていること

同じ企業(バリューチェーン全体)の中でも、一つ一つの機能部門(研究開発、部品調達、製造、販売、流通など)において求められる業務が異なるため、それぞれの機能に合わせた個別最適なシステムが導入されていることが多くあります。

それぞれの部門で個別のシステムがあると、経営層がバリューチェーン全体のデータ分析を行いたい時に、システム間でデータを連結することができません。そのためその処理を人力で行うことは、コストと時間がかかるという課題があります。

そこで、会社内のシステムが統一化されていることが重要になります。

自社ビジネスにとって重要なデータを定め、そのデータ取得に集中投資すること

自社のビジネスが成立している要件や、業界における競合と比較した強みをバリューチェーン分析で明らかにし、それぞれの機能部門でどのようなデータが必要かを明確にしておくことが大切です。

また、各部門においてデータ収集・分析を自動的に行うための投資(デジタル化の投資)について、経営層ともコミットしておくことも重要となります。

次に、自社でバリューチェーン分析で事業戦略を見直した事例をご紹介したいと思います。

バリューチェーン分析の自社事例

私の会社では、国内工場のデジタル化は5年ほどかけて全社で進めたものの、海外拠点や営業などは個別に複数のシステムで運用されており、全社のバリューチェーンが俯瞰できない状態でした。

この状態では、次のことができないため、大きな課題になっていました。

・グローバルでの最適生産(中国と欧州の各地域の需要に応じて、同じ商品を最適量生産すること)ができない。

・需要の変化を予測することができず、半導体不足など部材の急激な供給不足に対して、対応できない。

バリューチェーン分析のためには、経営層と事業サイド双方で、全社一貫でシステムを統一させて、データで「見える化」することの必要性があることを認識し、デジタル化(DX化)を進めることとなりました。

バリューチェーン分析の具体的な事例として、顧客へのデリバリーで差別化をする新戦略がありました。この戦略では、顧客への供給リードタイム(注文が入ってから顧客に届けるまでのリードタイム)を50%削減とするKPIを設定し、そのKPIに影響する事業活動として、営業在庫数量・生産リードタイム・原材料在庫数量・原材料供給リードタイムの4点を抽出して最適化分析を行いました。

上記のような最適化を維持するために、バリューチェーン全体で収集したデータの互換性を高めるため、システムを統一化すべくDX化のプロジェクトが再始動したのです。

まとめ

バリューチェーン分析による事業戦略の見直しが求められる背景は、ビジネスを取り巻く環境変化により、自社が顧客に提供するサービスの「ビジネスモデルの変革」が必要だからです。

私の会社では、グローバルでの最適化生産や部品の安定調達が戦略には必要でした。そのためにファクトデータは有効であり、バリュー全体を俯瞰するデータ収集のためにデジタル化(DX化)が再始動しました。

バリューチェーン分析による戦略の見直しには、ファクトデータ取得に向けた集中投資が必要であり、DX化推進が必須といえるでしょう。

また、併せて以下の記事をご覧いただくこともお勧めします。

『DX推進の失敗の経験から学んだ「成功のポイントと立て直し策」とは?』