DX推進 成功のポイントと立て直し策とは?失敗の経験から

DX推進の失敗の経験から学んだ「成功のポイントと立て直し策」とは?

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大手メーカーのIT部門でDX推進を担当している筆者が、経験をもとにDX成功のポイントと立て直し策を語っています。

■筆者紹介

るりいろ
※大手メーカーの本社IT部門で、DX推進を担当。「DXプロジェクト立ち上げ〜プロジェクト失敗〜DX推進に向けた立て直し」を経験。DX導入の失敗の原因を分析し、成功への道筋をわかりやすく解説します。

デジタル変革が求められる昨今、DXを推進する企業が増えています。しかし「DXの成功は難しい」「成功する企業は一握り」とも言われています。

私の会社でもDXを推進するも、1年でDX推進のプロジェクトは中断。現在は立て直しの真っ最中です。

そこでこの記事では、失敗原因から見えてくる「成功のポイント」と、「立て直し策」を紹介します。DXが行き詰まっている企業の方には、参考になること間違いなしです。

こんな方に読んで欲しい

・DXに興味があって、他社事例を知りたい方

・DX推進が決まっているので、「成功させるポイント」を知りたい方

・DXを実践したが、行き詰まりを感じている方

DX推進の背景

私の会社では、各地域で個別のシステムが使用されており、システムのメンテナンスも個々の地域に任されている状況です。

経営数値(受注金額や在庫金額など)は、各拠点から収集したデータを中央集約システムの中で再集計しており、リアルタイムに確認できない課題がありました。

そこでシステムの一元化により、リアルタイムで経営数値が確認できることを目的にして、DXプロジェクト推進が始まりました。

DX導入の失敗の原因と成功のポイント

DX推進は一般的に下記の流れで進めていきます。

 ステップ1:経営戦略の策定 

       経営にどのような価値を生み出すのか

 ステップ2:DX推進の意識共有

       全社で一丸となってDXに取り組む雰囲気を作る

 ステップ3:DX推進の体制作り

       DX推進の専門部署を作る

 ステップ4:計画の立案

       DX目標に沿って計画に落とし込む

 ステップ5:DX実行と横展開

       DXをスタートさせて、横展開させる

 ステップ6:効果検証

       DXの効果検証(KPI評価)

 ステップ7:計画の見直しと再度立案

       DXの計画見直し・再度立案

DX失敗の原因

DX推進にあたり、私たちの会社でも上記の7つのステップで検討を進めていく予定でした。

「ステップ1:経営戦略の策定」の段階で、システム一元化による事業の成長戦略(ビジネスモデルの変革、事業上のコストや制約条件の大きな削減など)を「DX推進の価値」として、明確にしておくべきだったと今となっては思います。

しかし、経営数値のリアルタイム確認を目的にして進められたので、既存システムを運用する事業部(工場や営業などの実務を行う部門)には、システム一元化のデメリット要素だけが強く認知されました。

そのため「ステップ2:DX推進意識の共有」は、経営トップと私たち本社IT部門の限定的なものとなり、「ステップ3:DX推進の体制作り」でも事業部を巻き込んだ組織構造を築くことができず、「ステップ4:計画の立案」でプロジェクトは頓挫しました。

失敗から学んだDX成功のポイント

失敗から学んだDX成功のポイントは、以下の4つであることを学びました。成功のためにはこの4つを積み上げていくことが重要なので、順を追って説明します。

    1. DXに対する意識改革
    2. DXを推進できる組織構造の変革
    3. DX推進組織内でのナレッジの共有化(実業務とIT)
    4. DX推進のための人材育成

DX推進を成功させるには、まず「DX推進の価値」は、「ビジネスメリットを生み出すこと」と社員全員が理解すること。

そして、その「ビジネスメリットを生み出すこと」を上位目的にして、社員全員の「意識改革」が必要になります。

次に、DXによる成長戦略の策定には、現状のビジネス環境を深く知っている事業部と、ITの有用性とシステムの制約条件を知るIT部門が相互に連携する「組織構造の変革」を整備しなければなりません。

この理想の組織では、異なる領域のスペシャリスト(事業戦略/営業/工場/ITなど)が緊密に連携するため、お互いの「ナレッジの共有化」が組織運営の肝となります。

最後に、このような異なる領域のナレッジを適切な粒度で共有化する仕組みを作って運営を行い、ITシステムとの連結を図る「人材の育成」が重要だと、失敗の経験から学びました。

DX推進の立て直し策とは

ここまでは、自身の経験から成功のポイントを説明しました。

次に私の会社で進めているDX推進の立て直しの取り組みについて、ギャップ分析を用いて詳細を説明します。

ギャップ分析

DX立て直しの取り組みに用いた「ギャップ分析」とは、理想と現状の間にあるギャップを洗い出して、課題の解決策を設定する方法です。

この分析は、以下の4つのステップで進められます。

 ・現状:現状の洗い出しとその把握

   ↓

 ・理想の状態:理想の状態を明確にする(ゴールを設定する)

   ↓

 ・ギャップ:理想の状態と現在の状態との差異(ギャップ)が発生した課題分析

   ↓

 ・解決策:課題に対しての解決策の設定

DXの立て直し策とは

ここからはギャップ分析の流れに沿って、「DXの立て直し策」の詳細を説明します。

ポイント1:DXに対する意識改革を行う

・現状:

プロジェクトの推進当初は、「システムを一元化すること」が目的になっている状態でした。

・理想の状態:

システムの一元化により「どのようなビジネスメリットが生み出せるのか?」、それぞれの部門が自分ごととして分かっていることが理想の状態です。

・ギャップ:

DXがもたらす価値(ビジネスメリット)を明確にできていなかったので、IT部門だけで推進して、現状のビジネスを知っている事業部をDX推進に参画させることができませんでした。

・解決策:

DX推進の目的は、ビジネスメリットを生み出すこととする意識が大切です。

つまり、システム一元化はあくまでも「手段」であり、「目的はビジネスメリットを生み出すこと」という「意識改革」が大切なのです。

意識改革を行った上でさらにビジネスメリットを考案するためには、

・実務に精通した社員(現在と将来のビジネスモデルを熟知した社員)

・ITに精通した社員(新システムの仕様を熟知しており、ビジネスモデルを新システムで実現できるかを判断できる社員)

彼らが、互いの知識を出し合うことが必要です。

ポイント2:DXを推進できる組織構造の変革

意識改革と共に、「ポイント2:組織構造の変革」が必要となります。

・現状:

DXはIT部門が推進し、事業部は承認者の立場(サポート役)でした。

・理想の状態:

IT部門と事業部が一丸となってDX推進ができており、ITスキルを持ちつつ、将来のビジネスモデル・業務フローまで作成できるレベルに達している状態が理想です。

・ギャップ:

将来のビジネスモデル・業務フローの作成には、現状のビジネスモデルを熟知している人材(事業部の企画部門のリーダー)が必要です。

しかし、このようなリーダーは、現状のビジネスを維持させるためには必要不可欠な存在なため、DX推進の専任となると現状業務の質の低下が懸念されます。

また、このような人材は少数であり、しかも育成までには年数も必要なため、すぐに補充できない問題点もあります。

現状の業務の質を維持しつつ、「ビジネスモデルに熟知した人材」をどのようにDX推進に参画させるのかが問題となります。

・解決策:

IT部門が事業部の企画部門(以下、事業企画)の中に入り込み、DX推進の専任部隊が作られました。

この部署には事業企画のリーダーを取り込むことは叶いませんでした。

しかし、同じ部門の中にDX専任の部隊があることで事業企画のリーダーと距離が近くなり、現状よりはリーダーを巻き込みやすくなりました。

ポイント3:DX推進組織内でのナレッジの共有化(実業務とIT)

・現状:

事業部もIT部門もお互いのナレッジが共有できていない状態のため、「A s-Is(現状のビジネスモデルや業務フロー」と「To-Be(将来のビジネスモデルや業務フロー)」が不明なため、何を検討すべきか決めきれない状態でした。

・理想の状態:

事業部とIT部門とがナレッジを共有して、「As-Is(現在のシステムを使ってどのようなビジネスモデルや業務フローを行っているのか)」と「To-Be(新システムを使ってどのようなビジネスモデルや業務フローにしていくのか)」が明確になっている状態。

・ギャップ:

IT部門は、現状のビジネスモデルや業務フローのことはわかりません。

その一方で、事業部は導入予定の親システムの仕様のことはわかりません。

つまりお互いがそれぞれの業務を理解できていないことが課題です。

・解決策:

お互いのナレッジを理解しやすくするための「仕組み(型)作り」として、私の会社では「粒度」を揃えてからナレッジを共有しています。

例えば、

・業務頻度(日次業務・週次業務・月次業務・年次業務..etc)の粒度

・担当者(担当者・リーダー層・管理職等)の粒度

を揃えて、ナレッジを共有するイメージです。

粒度を合わせる事で、互いの業務イメージを理解しやすくできるようになりました。

ポイント4:DX推進のための人材育成

・現状:

IT部門では、ITナレッジ(新システムの仕様に関する知識etc)の深堀りをメインとする人材育成がされてきました。

そのためビジネスモデルや業務フローに関しては理解できておらず、IT部門だけでDX推進は失敗に終わりました。

・理想の状態:

事業部とITのナレッジの融合(ビジネスモデルのナレッジとITに関するナレッジとの融合)により、「A s-Is」と「To-Be」を作ることができる状態が理想です。

「To-Be」はビジネスモデルの変化点や、そのための実現手段が分かっている状態が理想です。

・ギャップ:

両方のナレッジ(ITとビジネスモデルのナレッジ)をもっている人材が現時点でいません。

そのため、どのように育成するかが課題となります。

・解決策:

IT部門から事業部に出向して、ビジネスモデル習得に励んでいます。またDX経験者の中途採用が積極的に行われています。

私の上司は他社でグローバルにDX推進を行ってきた経験者で、他社事例を展開させる役割を担っています。

まとめ

DX推進に失敗した実体験から学んだDX成功のポイントは、4つあります。

ポイント1:DXを推進する意識改革を行う

ポイント2:DXを推進しやすい組織体制を作る

ポイント3:業務とITのナレッジを共有する型を作る

ポイント4:業務とITを持つ人材を育成する

これらのポイントの基礎は、「DX推進はビジネスメリットを生み出すこと」と社員全員が理解して、その「ビジネスメリットを生み出すこと」を上位目的にすることが大切です。

私の会社では「DXを推進することが目的」になっていたため、失敗しました。限られた時間と予算のなかで、社員全員が「ビジネスメリットを生み出すこと」を上位目的にしてDX推進していくこと。これが「DXは難しい」と言われている所以なのだと、実体験を通して感じています。