昨今SDGsやESGと並んで、GXという言葉を耳にする機会が増えています。2022年の7月には現・岸田総理を議長とする「GX実行会議」において、12月にGX実現に向けた基本方針案もまとめられました。
今回の記事では、GXの定義、それが重要視されるに至った背景と中小企業が留意すべき点を中心にご紹介していきます。
GXとは何を指すのか?
GXは、なんとなくSDGsやESGなどと共に並んでいる言葉というイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。これらの目標と関連した言葉ですが、あらためてその定義と重要視されるに至った背景をみていきましょう。
GXの定義
GXとはグリーントランスフォーメーションの略称です。二酸化炭素を多く排出し、大気汚染を引き起こす化石燃料をできるだけ使わずに、グリーンエネルギーなどクリーンなエネルギーを活用していくための活動全般を指しています。
クリーンなエネルギーとは、太陽光や水素、風力などをはじめとする自然環境に負荷の少ない再生可能エネルギーです。
GXは、一般市民の生活目標というよりは、特に莫大なエネルギーを消費する企業を焦点化した活動目標としての側面が強いのが特徴とされています。
GXが重視されるようになった背景
GXにおいて問題視されている石油や石炭は、イギリスの産業革命以来、実に150年以上に渡って主要なエネルギー源として世界中で使われてきました。
日本をはじめとする欧米以外の諸外国もそうした動きにどんどん追従することで、世界各地で莫大な量の石油や石炭が消費される状況が長年続いています。
しかし、すでによく知られているように化石燃料と呼ばれる石油や石炭は、エネルギーを生成し、利用する過程において多くの二酸化炭素を排出します。
二酸化炭素が大気中に過剰に放出されることで大気汚染のみならず、地球温暖化の進行も早めています。
このような問題は、消費社会が円熟した1980年頃から指摘されてきていましたが、状況があまり改善されることなく、残念ながら現在の異常気象や自然災害といった気候変動に至っています。
ようやく2030年度の温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラル実現という目標に多くの国々が賛同し、より差し迫った問題として具体的な行動が行われるようになってきました。
また、2022年にロシアによるウクライナ侵略が始まったことで、ロシアからの石油供給が不安定になったことも、GXの必要性を各国がより強く認識する機会にもなりました。
GXをめぐる企業の動向
GXの必要性が認識されるようになってきた背景をみてきました。では、このような目標に対して、現在日本企業はどのような認識を持ち、課題化し、行動しているのでしょうか。次に、日本の企業動向を見ていきたいと思います。
70%以上の企業の経営層はカーボンニュートラルの実現に前向き
2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」方針が提示されて以来、日本においても脱炭素に向けた事業環境の整備は重要な課題の一つと認識され、進められてきました。
こうした動きもあってか、現在は約70%以上の企業の経営陣がカーボンニュートラルに向けてコミットしていくことは重要だと認識しており、企業としてのステートメントも出しています。
日本企業も足並みを揃えて達成に向かっていくべき目標だという認識は、広く浸透していると考えて差し支えはないでしょう。
具体的なロードマップ策定には至っていない
とはいえ、きっかけが2020年とかなり最近だったということもあり、具体的な企業の行動計画を示す戦略的ロードマップが策定できていると答えたのは、2022年1月の段階で、なんとまだ16%にとどまっています。
さらに、自社が取引するサプライチェーンにまでこの指標適用を広げられているかというと、10%程度とかなり低いです。
つまり日本においては、GXは重要課題だと認識されている段階で、具体的にそれに貢献するアクションを取ったり、アクションにまつわる情報を開示するまでには至っていないのです。
日本企業のGXをめぐる課題
多くの企業が挙げている課題が、取引先に対するコスト負担の依頼が難しいという点です。ロードマップを作成するというところまでは出来ていても、それを実行に移すにあたって、取引している企業と連携できていない企業や、場合によってはコストが上がってしまうことを了承してもらえないのではないかと足踏みをしていると答えた企業が43%にも登りました。
また、現在企業が見える化しているエネルギーコストのデータは、法的対応に必要なものに限られており、実際に将来的なエネルギー価格の予測をするために必要な契約単価、再エネ賦課金、燃料・減量調整費等のデータすら取得できていない企業が85%を占めています。
中小企業もGXを留意すべき理由
さまざまな調査結果によると大企業のほとんどは、GXを今後具体化していくべき経営目標と認識していることがわかりました。大企業はエネルギー消費量が大きいことから、GXへのアクションが必須だとされていますが、では中小企業はどうでしょうか?
実は、日本全体の温室効果ガス排出量のうち1〜2割は中小企業が占めているので、このトピックに決して無関係とは言えません。
次に、中小企業にとってもGXは留意すべき目標だということについてみていきます。
取引先がGXの数値目標設定を要求してくる可能性が高い
アメリカを中心に、諸外国ではすでにESGという非財務情報を、財務情報と同様に価値ある企業情報として検討するという動きが活発化しています。
つまり、SDGsのような世界共通の目標に対して、どの程度具体的に貢献しているのかを公表し、それに沿って取引企業を決定しているのです。
ESG指標にもGXが関わってくることから、取引先がGX数値目標の設定を要求してくることもおおいに考えられます。
温室効果ガス-10%や、SBT(パリ協定が求める基準と整合した温室効果ガス排出削減目標)など、取引予定の企業が参照している具体的な指標を事前にリサーチした上で、自社の数値目標を暫定的に設定しておくのもよいかもしれません。
金融機関が融資の際にGXの目標値を条件とする可能性がある
中小企業を立ち上げたり、存続させる上で金融機関とのやりとりが必要となってくる場面は多々あるでしょう。
金融機関の融資の際に、これまでは財務状況や経営者の信用情報が審査基準となっていましたが、最近ではこれに加えて、温室効果ガス削減目標を策定し達成した企業に優遇金利を適用する「サスティナビリティ・リンク・ローン」や「トランジション・ファイナンス」などが導入されています。
つまり、非財務情報として分類されるESGやGXの取り組みに努めることが、事業を進めていく上で優遇される場面が増えているのです。
大手金融機関に限らず、地方銀行においてもこうしたローンは導入され始めています。
また、ロシアのウクライナ侵攻によって、GXはさらに喫緊の課題として浮上していることも踏まえると、こうした動向は今後も加速していく可能性は極めて高いと考えられます。
ユーザーの消費行動が変化する
近年では、消費者も生活の中でGXやサステナビリティを意識する動きが増えています。ゴミを減らすよう努めたり、顔が見える生産者の商品を購入したりという日常での小さな取り組みは、環境問題が顕在化し始めた80年代後半から徐々に一般的になりました。
最近では、さらに一歩踏み込んだ消費行動が増えています。
環境破壊につながるようなロビー活動を行っている企業のプロダクトをキャンセルしたり、クリーンエネルギーを選択したり、取引銀行を再検討したりと、個々人の思想が消費に与える影響はより多様になっています。
生活のあらゆる選択において、SDGsやGXという要素を加味する消費者が増えているのです。
こうした消費者心理の変化を踏まえると、どのような規模の事業を行うにしてもGXを考慮に入れ、表明しながらアクションを取ることは、製品や企業の競争力向上につながるとも言えます。
まとめ
今回は、GXが制定された背景や企業動向を見ていきました。日本の多くの大企業は、GXという目標は認識しているが、具体的なアクションが取れていない段階にあります。
しかし、世界の動向を見ると企業取引で、ESGやGXの実現度を加味するようになってきています。今後は規模の大小を問わず、どの企業もGXという目標を意識してロードマップを作成しておくのが重要かもしれません。一度事業の振り返りや、指標の具体化を検討してみてはいかがでしょうか。