2023年10月から、日本では「インボイス制度」という、消費税の新たなルールがスタートする予定です。すでにこの言葉を耳にしたことがある人は多いかもしれませんが、具体的にどのような制度なのか、うまく説明できないという人も多いでしょう。インボイス制度とは、一体どのような制度なのでしょうか?今回の記事ではインボイス制度の概要について簡単にご紹介した後、中小企業向けの対応と活用できる補助金についてご紹介していきます。
インボイス制度の概要
インボイスとは「適格請求書」のことを指しています。そしてインボイス制度とは「適格請求書等保存方式」という意味です。
インボイス制度は、消費税の複数税率に対応するための制度で、課税事業者が発行する適格請求書に記載された税額を控除することができる方式です。
2019年度から施行されている「区分記載請求書等保存方式」に代わって、導入される予定です。
インボイスがなければ仕入税額控除の対象とならない
インボイス制度が開始されると、インボイスに対応していない領収書や請求書での経費は、消費税の「仕入税額控除」ができなくなります。
ただ、2029年9月30日までは、インボイスが発行できない免税事業者が発行する領収書や請求書であっても、段階的に仕入税額控除ができる経過措置が設けられています。
インボイスを発行できるのは適格請求書発行事業者に限られる
インボイスは、誰でも自由に発行できるわけではなく、適格請求書発行事業者だけがインボイスを発行できるようになります。
つまり、インボイス同様の形式で請求書や領収書を発行しても、適格請求書発行事業者でなければ、その書類はインボイスと認められないのです。
適格請求書発行事業者になるには、申請書を提出し審査を受け、適格請求書発行事業者として登録されなければなりません。
適格請求書発行事業者は消費税の課税事業者でなければならない
適格請求書発行事業者は、消費税課税事業者でなければ登録できません。
すでに課税事業者である企業は、問題なく適格請求書発行事業者に登録できますが、問題は取引先に免税事業者が存在する場合です。
免税事業者でも適格請求書発行事業者になれますが、その際には、課税事業者に転換しなければなりません。インボイス制度開始までに、取引先が適格請求書発行事業者となるのか調査する必要があります。
インボイス制度導入の経緯
インボイス制度の導入には、大きく2つの理由があると考えられています。
一つは、消費税が8%と10%の複数税率となっていることです。仕入れと販売で、かかる税率に差が生じるケースが発生し、正確な納付税額の計算ができなくなってしまうため、適格請求書を導入することで複数税率に起因する計算ミスや不正を防ぎ、透明度を高めることを制度の導入によって目指しています。
今後も、消費増税やそれに伴う品目ごとの税率の複雑化を政府は見越しており、そのためにインボイス制度の導入をすすめていると考えられるでしょう。
二つ目が、いわゆる「益税」をなくすことです。益税とは消費者が支払った消費税が、国や自治体に納められず、事業者の手元に合法的に残ることを「益税」と呼びます。
これまで基準期間の売り上げが1000万円以下などの一定の要件を満たす事業者は、消費税の課税事業者とはならず、消費税分が事業者の利益となる益税が起きることがありました。
また、資本金が1000万円未満の事業者は起業から2年間、消費税の課税事業者にならなくてもよいという措置が取られており、益税になっていました。インボイス制度を導入すれば益税をなくすことができ、政府の税収が上がると考えられています。
中小企業が対応すべきこと
開始までにインボイス制度対策を行わないと、消費税の仕入税額控除ができなくなり支払う消費税が高額になってしまいます。
中小企業がインボイス開始までに、準備すべきことを確認していきましょう。
1.インボイスに対応したレジや請求書発行システムの準備
インボイスに対応した請求書が発行できるシステムを準備しましょう。
現行のシステムが、インボイスに対応予定かをメーカーに問い合わせた上で、バージョンアップあるいは、全面的な入れ替えを実施しましょう。
なお、不特定多数の者に対して販売等を行うスーパーマーケットなどの小売業等の取引については、一定の記載事項が省略された簡易インボイスが許可されています。
2.適格請求書発行事業者の登録申請
適格請求書発行事業者になる手続きを行いましょう。
登録が認められれば、郵送または電子データで登録通知書が交付されます。
また、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」に登記登録情報が掲載されるので、取引先から確認があったら、登録番号と合わせて登記登録情報を知らせましょう。
3.取引先の適格請求書発行事業者の有無を確認
適格請求書発行事業者でない取引先への経費は、原則的に仕入税額控除の対象外となります。取引先が適格請求書発行事業者かどうか・適格請求書発行事業者になる予定かどうかを確認し、その後の対応を検討しましょう。
なお、適格請求書発行事業者と適格請求書発行事業者でない仕入先が混在すると、消費税額計算時に業務が煩雑化することが予想されます。
免税事業者等と取引を継続する場合は、仕入税額控除が受けられる書類と、そうでない書類を別管理するなどの対策も必要です。
なお、仕入税額控除が適用されない分を補うために消費税額分の支払いを拒否したり、仕入額の値下げを要求する行為は、独占禁止法や下請法に抵触する恐れがあるのでやめましょう。
4.経理処理の見直し
インボイス制度が開始されると、仕入税額控除の仕組みが変わります。そのため、仕入税額控除の対象か否かによって領収書の区分が必要です。
もし販売管理システムと会計システムが連携していない場合は、取引1件ごとに仕入税額控除対象かどうかを手入力する作業が発生する可能性もあります。ご利用中の経理システムを見直すと同時に、経理業務のフローについても改変しなければならないでしょう。
ここでご注意いただきたいのは、適格請求書発行事業者でない事業者との取引についてです。
インボイス制度開始後に、適格請求書発行事業者でない事業者と取引を行なった場合でも、すぐに全額が仕入税額控除対象外となるわけではありません。2023年10月から3年間は80%、その後の3年間は50%の仕入税額控除算入が認められる予定です。
また、インボイス制度が開始される2023年10月以降に、遅れて適格請求書発行事業者となる仕入先も出てくるでしょう。受発注担当者や営業担当者と経理担当者が密接なコミュニケーションを取り、仕入先に関する情報共有を行うことが望まれます。
インボイス制度にまつわる補助金
インボイス制度導入にあたって、発生するシステムの入れ替えや新設が必要そうですが、実は、そんな時に活用できる補助金が用意されています。いくつかご紹介していきます。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続的発展支援事業とは、小規模事業者が持続的な経営に向けておこなう取り組みを支援する制度です。販路拡大や生産性向上のためにかかる経費の一部に対して、補助金を支給しています。
令和3年度補正予算よりインボイス枠が新設されており、免税事業者から適格請求書発行事業者に転換する小規模事業者に対して、補助上限額が50万円から100万円に引き上げられました。
他にも、後継ぎ候補者が実施する取り組みへの「後継者支援枠」や特定創業支援など、創業した小規模事業者に対する「創業枠」も設けられています。
参考:https://r3.jizokukahojokin.info/doc/r3i_gaidobook.pdf
IT導入補助金
IT導入補助金とは、中小企業や小規模事業者が自社の課題やニーズに合った、ITツールを導入することを支援する補助金です。
インボイス制度に対応するためには、新たなシステムやPC・タブレットといったハードが必要となります。そこで2022年度のIT導入補助金制度では、インボイス制度への対応を見据えて「デジタル化基盤導入類型」が新設されました。
デジタル化基盤導入類型では、これまで対象外だったPCやスキャナーなどの購入も対象となり、最大350万円の支援が受けられます。
参考:https://www.it-hojo.jp/r03/doc/pdf/r3_application_guidelines_digitalwaku.pdf
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金とは、小企業・小規模事業者などが直面する働き方改革や、インボイス制度に対応するための設備投資を支援する制度です。
通常枠・回復型賃上げ・雇用拡大枠・デジタル枠・グリーン枠がある中で、デジタル枠はインボイス制度対応に向けたシステム導入に利用できる場合があります。最大で1,250万円の支援金が予定されています。
もし、インボイス制度によって売上が減少した場合には、回復型賃上げ・雇用拡大枠が利用できる可能性もあります。条件をよく確認しておきましょう。
参考:https://portal.monodukuri-hojo.jp/about.html
まとめ
今回の記事では、中小企業がインボイス制度に向けて対応すべきことや活用できる補助金を具体的に紹介しました。
申請やレジ周りでの変更など、実はインボイス制度開始までに準備しておくべき事柄は数多くあります。初期投資が大きな負担になる場合は、補助金の活用も視野に入れながら、対応をはじめてみてはいかがでしょうか。
参考:監査からアドバイザリーまで総合支援|