これから事業を立ち上げ、ビジネスを拡大していきたいと考えている方が取り組まなければいけないのが、請求書の書き方です。個人であれ法人であれ、請求書作成は事業から収益を生む上で欠かせない手続きであり、法的にも作成が義務付けられています。
この記事では、まだ事業を立ち上げて間もない事業主の方に向けて、請求書の基本的な書き方や、請求書作成において覚えておきたいポイントについて、解説します。
請求書とは?作成の目的
そもそも請求書とは、顧客に対して商品やサービスを提供するにあたって、その対価としてどれくらいの金銭を受け取るのかを示すための書類です。どんな商品を顧客は購入して、その数量はいくつか、単価はいくらなのかなど、多くの情報を有しています。
請求書は、取引の実態を客観的に確認する上で重要なのはもちろんのこと、正しく請求金額を振り込んでもらうためにも重要です。金額が大きくなったり、購入商品数が増えたりするほど請求の内訳は分かりにくくなるため、それを把握する上で、請求書の正しい記載は欠かせません。
請求書の基本的な書き方
事業者と顧客の間で金銭の取引があった場合、その都度請求書を作成する必要があります。請求の頻度については取引の内容にもよりますが、基本的には一度の取引につき一枚です。ここでは、全ての請求書に共通する、基本的な請求書の書き方について解説します。
フォーマットを用意する
まずは、請求書のフォーマットを用意しましょう。請求書の形式は特に指定はなく、決められた記入要項さえ含まれていれば、どのような形でも構いません。近年はフリーのフォーマットがインターネット上で気軽にダウンロードできますし、請求書作成サービスを使って、簡単に請求書を用意することもできます。これらの作成手段については、後ほど詳しく解説します。
フォーマットに含まれる主な記入要項は、次の通りです。
- 文書タイトル
- 請求書発行日
- 請求先の社名・氏名
- 請求書発行者の氏名・住所
- 販売した商品やサービスの詳細
- 請求金額
- 税額
- 振込先
- 振り込み期限
これらが記載された請求書フォーマットは、一度用意してしまえば何度でも使えるので、保存しておくと良いでしょう。
基本の記載事項を埋める
まずは、基本的な記載事項を埋めていきます。特に請求者の氏名や住所といった情報は、いかなる請求書でも必ず同じ内容を書くこととなるため、この点も含めてテンプレート化しておくと、あとあと便利です。
請求書発行日や請求先の氏名などについては、取引ごとに記入するのがおすすめです。記入情報に間違いがあると、文書としての効力が失われる可能性があるため、内容に齟齬がないか、毎回確認しておきましょう。
単価や数量、税額を記入する
基本事項の記載が終わったら、単価や数量を記入します。商品一つあたりいくらなのかを示した上で、今回の取引で顧客は幾つ注文したのかという、数量を記入します。単価と数量をかけた額が、税抜での請求金額となります。
また、請求金額には別途、消費税が発生します。年間の売上が1,000万円に満たない個人事業主は、消費税を国に納める必要はありませんが、取引先からの請求にあたっては消費税を請求することは問題ありません。
個人・法人を問わず、商品の購入金額に対して消費税を10%かけた上で最終請求金額を提示しましょう。
源泉徴収税を計算する
個人事業主の場合、消費税をかけた請求金額から、源泉徴収税をさらに計算する場合もあります。源泉徴収とは、所得税率である10%に対して復興特別所得税の0.21%が加算された、10.21%の金額を消費税込みの請求金額から差し引く手続きを言います。
徴収された税金は、いわば所得税の前払いのようなものです。確定申告を行う際、毎年所得税を納める必要がありますが、源泉徴収された分はこの際の所得税と相殺されます。源泉所得が所得税額を上回った場合、税務署から払い戻しが行われます。
取引先が法人の場合、源泉徴収を購入先から行う義務が発生するため、基本的には必ず計算する必要があると覚えておきましょう。
振込先や備考を記入する
請求金額をどこの口座に振り込めば良いのかも、正しく記しておきます。その際の振り込み手数料については、一般的には顧客負担となるケースが多いです。ただ、余計なトラブルを招かないためにも、請求書の備考欄に「手数料は振込者負担でお願いします」という旨を伝えておきましょう。
請求書を保存・保管する
作成した請求書は、一定期間大切に保管しておきます。請求書の保存方法についての指定はなく、PCのストレージやクラウドサービス上に保存する企業も増えています。紙媒体での保管は必須ではないので、いちいち印刷する手間はかかりません。
請求書の保管期限は、法人税法により7年と規定されています。7年を超えた請求書については処分しても構わないので、定期的に保管している請求書の作成日を振り返ると良いでしょう。
請求書の送り方
請求書が完成したら、取引先に請求書を送付します。請求書の送り方には、主に以下の方法があります。
郵送
典型的な方法は、請求書の郵送です。印刷した請求書を封筒に入れ、取引先の住所に直接送るこの方法は、今でも広く用いられています。紙で請求書が送られてくるので、取引先が請求書の存在に気づかないという心配が小さく、確実に請求書を届けられるでしょう。
ただ、請求書の郵送は印刷代や郵便コストがかかるだけでなく、請求書が取引先に届くまでに日数を要します。また、請求書とは別途送り状を作成し、同封するのが通例となっており、その作成コストもかかるのが不便なところです。請求書を送られた側も保管コストやスキャンの手間がかかったりするので、最近はあまり用いられていません。
メールやチャットツール
今日の請求書送付において最も普及しているのが、メールやチャットツールを使った電子での対応です。請求書は電子媒体であっても公式の書類と法的に認められており、紙媒体にこだわる必要はありません。取引先のメールアドレスにファイルを添付してメールを送ったり、普段のやり取りで使用しているチャットツール経由で請求書を送ったりすることもあります。
請求書作成の主な方法
請求書の作成に際しても、サービスの拡充により、最近では多様な方法が用いられています。自社にあった最適な方法を選び、請求業務を効率よく遂行しましょう。
Excel
請求書作成のスタンダードとも言えるのが、Excelを使った方法です。表計算ができるExcelは、商品の計算や税額を自動で計算できる関数を組んでフォーマットを作成できるため、非常に便利です。
ネット上で無料ダウンロードが可能な請求書フォーマットも、その多くが関数を採用したExcel対応のテンプレートです。日頃からExcelを使用している場合、請求書作成もExcelで行うと良いでしょう。
請求書作成サービス
近年、Excelよりも便利で使いやすいと評判なのが、会計ソフトや専門の請求書作成サービスです。取引先や事業者の情報を記録しておけば、簡単に請求書を作成できる機能が実装されており、Excelよりもはるかに簡単です。
各サービスの請求書フォーマットも非常に見やすく、データベース機能も優れているため、何度も同じ取引が発生する事業主ほど、サービス利用の恩恵が大きいでしょう。
無料で利用できるものや有償のサービス、あるいは会計業務全般に向けたサービスもあるので、自社の都合に合わせたものを選んでみましょう。
税理士への依頼
請求書作成は、税理士に丸ごとアウトソースして対応しているという事業者もいます。特に取引金額が大きかったり、事業規模が大きく、事業主がコア業務に集中しなければならないような場合は、税理士への依頼ケースも増えてきます。
税理士に依頼する人の中には、確定申告などの税務処理も丸ごと任せていることが多く、それに伴い請求書の作成も任せているという人もいます。自分で作成するよりもコストはかかるものの、利便性には非常に優れます。
請求書作成で引っかかりやすいポイント
請求書作成では、何かと対応に困ってしまうようなシチュエーションも少なからず存在します。ここでは3つの主なポイントを解説するので、困った時の目安にしてください。
「様」と「御中」の使い分け
請求書作成では、慣例的に取引先に敬称をつけることとなっています。この時に使用するのが「様」と「御中」ですが、これらには使い分けの基準が存在します。
まず「様」を使う時ですが、これは個人名を取引先としている場合に使用します。「田中太郎 様」のように、人名が入る場合には必ず様を使いましょう。
一方の御中ですが、これは会社や部署を示す時に用いられます。「株式会社⚪️⚪︎ 御中」「株式会社⚪️⚪︎情報システム部門 御中」など、組織を指す場合にはこちらを使いましょう。
「締め日」の確認
複数回の取引が発生する場合、特定期間内に発生した取引を、一枚の請求書でまとめて請求する場合があります。その際、いつまでの期間分、請求すれば良いのかを判断する目安として、締め日があります。請求書は締め日当日か、締め日から数日後に作成し、送付するのが一般的です。
大抵の企業は締め日を月末に設定していますが、そうでない可能性もあるため、あらかじめいつを締め日とすれば良いのか、確認しておきましょう。
インボイス対応の必要性
2023年10月より、適格請求書(インボイス)の発行が義務付けられる、インボイス制度が施行されます。これは端的に言えば、適格請求書発行事業者としての登録を行なっていない個人事業者と法人が取引を行う場合、法人側は仕入税額控除が受けられなくなるという制度です。
そのため、個人事業主はあらかじめ適格請求書発行事業者の登録を済ませておく必要がありますが、登録を行うとこれまで所得として受け取ることができていた消費税を、税金として収めなければならなくなります。
ただ、インボイス制度が開始して以降、企業は税額控除が受けられないことを渋り、インボイスの登録をしていない事業者との取引を拒む可能性もあります。個人事業主の方は、早い段階で事業者登録の手続きを済ませておくことをおすすめします。
まとめ
この記事では、請求書の基本的な書き方や、発行に伴う注意点について解説しました。請求書作成はインボイス制度の施行などもあり、記述形式が今後複雑になっていく可能性もあります。正しい作成方法への理解を深め、円滑な取引を実現しましょう。