今回は注目のM&A仲介会社ということで、 ゴエンキャピタル(株)代表 前川拓哉氏へのインタビューしました。創業されたきっかけ、当社の強み、今後の方向性についてお伺いしました。
ーーまず初めに、M&A仲介会社を創業されたきっかけや背景について教えていただけますか?
前川 拓哉氏(以下、敬称略):多くのM&Aアドバイザーは銀行や証券会社出身者で、彼らが手掛けてきたM&A仲介業は、中堅・中小企業のM&Aを推進するものです。
2000年代後半には、企業の身売りや乗っ取りというイメージが強かったこの分野ですが、2011年以降のアベノミクスの影響で変わり、中小企業のM&Aの件数が増加しています。
この増加の要因は、M&A仲介会社が中小企業のM&Aを友好的に、事業承継の有効な手段の1つとして推進してきたからだと考えられます。
ただし、多くのM&A仲介会社が、売却や買収を完了すれば終わりというスタンスが一般的であり、M&Aをすることを目的とした提案をしてきました。
私は大学卒業後に新卒でM&A仲介会社に入社しましたが、この点に違和感を持っていました。飽くまでもM&Aは手段であり、目的とするべきではないと感じていました。
譲渡オーナーが50歳、60歳で事業承継を考える際、最終的に全ての関係者が幸せになることを望んで、株主や従業員の未来を考慮した上でM&Aの選択をしています。譲渡オーナーにとっての最良の選択を支援するためにゴエンキャピタルを創業しました。
私個人としては、譲渡オーナーが一定の大きな資金を手にする際、その資金の管理や使い道、また譲渡後の新しい生きがいをどう見つけるか、といった課題に対して総合的なコンサルティングを提供したいと感じています。
多くの経営者は会社のトップを退いた後、普通のシニアとしての生活を始めたとき、明日からの生きがいは何か、改めて考え直すことになります。そういった方々の資産運用や社会貢献に焦点を当て、サポートしていきたいと思っています。
私たちは、M&Aを起点とし、その後の譲渡オーナーのアフターサービスや、M&A後の買い手と売り手のシナジーを最大化するPMIコンサルティングに力を入れています。
ーーゴエンキャピタルの強みを教えてください。
前川 :当社の強みは、先述の通り、単なるM&Aに留まらない譲渡オーナー向けのサービスを提供していることです。譲渡オーナーが会社やご自身の株式の承継に関して悩んでいればM&Aを、事業承継後の資産増加に伴う管理や運用のお悩みであれば、資産運用コンサルティングを、オーナーのライフスタイルに寄り添ったサポートを行える点が強みだと考えています。多くのM&A仲介業者は、取引が終われば関係も終了してしまいますが、私たちは中長期の視点でオーナーとの関係を築いていきたいと思っています。また、PMIにも強みを持っています。
ーーありがとうございます。まずは、資産運用のコンサルティングについてお伺いしたいのですが、具体的にはどのように行われるのでしょうか?
前川 :現時点では、許認可の関係で私たちが法人として運用助言を提供することはできません。そこで、外部パートナーを活用し、譲渡オーナーの資産運用助言を行っています。
実際に事業を売却すると、証券会社の営業パーソンから一斉に電話がかかってくるようです。あるオーナーの話では、1日に5回も同じ証券営業パーソンから飛び込みで会社に訪問があったと聞いています。彼らが提案するのは、短期の株式取引など、手数料を短期間で稼ぐことを目的としたものです。
私たちはそのような短期的なアプローチではなく、中長期にわたる譲渡オーナーのライフスタイルや資産の状況を考慮します。例えば、不動産生命保険や、資産管理会社など、豊富な資産を保有している一方、65歳でテスラの株を購入して2倍のリターンを期待するというのは、彼らのニーズではないでしょう。
譲渡したオーナーの共通する資産に対する考え方は、現在の資産を守りながら、次世代へと承継することです。そのため、短期的な視野に立った取引提案は彼らに合っていないと考えています。
私たちの哲学は、資産のポートフォリオをどのように組み立てるかです。株式だけでなく、債券、保険、不動産を含めた資産管理の最適な構成を、パートナーを活用しながら提案しています。
ーーでは、次にPMIはどのような方法で行っていますか?
前川 :私たちのPMIのアプローチは、戦略コンサルティングのように洗練された中期経営計画を作成するのではなく、主に買い主と売り主の間のコミュニケーションのサポートとして位置づけています。両者の間の通訳としての役割を重視しています。
売り手側と買い手側の視点は異なるため、それぞれの差異を調整することが我々の役割です。買い主が実施したい具体的なアクション、例えば保険積立金の解約やM&A後の急なニーズの人材採用など、売り主または買い主にリソースが不足している場合、私たちはその手続きをサポートします。このような実践的なアプローチが私たちのコンサルティングの特徴です。
ーー基本的には、売り手と買い手の間に立つ方式で行われているのですか?
前川 :はい、私たちは両者の間に立つ形で行っています。しかし、大手の仲介会社が行うように売り手担当者と買い手担当者が別々になっていると、認識の齟齬や担当者の恣意性が出やすくなります。
私たちの場合、1人の専任担当者が売り手も買い手もケアする方式を採用しています。これにより、売り手担当者と買い手担当者の間の恣意性を排除し、真に最適なマッチングを追求しています。この専任担当制が私たちの特徴の1つです。
ーー業界における強みはありますか?
前川 :私自身が以前日本M&Aセンターで建設業種特化のチームリーダーを務めていた経験から、建設業には特に強みを持っています。
過去のM&A仲介会社は、業種の特徴や差異について深く理解せず、様々な業界に対応してきました。その結果、各業種ごとの論点や事業評価の方法が本来は異なるにもかかわらず、一律の基準に基づいてM&Aが進められ、特異な点が見落とされることもあったと思います。
私たちは、業種ごとの専門性を重視し、特に建設、製造、IT、食品、運送などの業種に焦点を当てています。現在は特に建設と運送の部門を強化しており、それぞれの業種に特化した知識とスキルを持つ担当者が、事業評価やM&Aの進行に関する問題点を深く理解して取り組むことができていると考えています。
ーー現在は担当ごとに分かれているのでしょうか?
前川 :会社全体としては建設業に特化して進めている段階です。現在、スタッフは総勢7、8人と少ないので、全員が建設業の業務を担当しています。
ーーありがとうございます。今後の方向性について具体的に目指していることはありますか?
前川 :ファンドの設立を検討しています。具体的には、ゴエンファンドのように、事業承継や成長戦略に悩む企業をM&Aで取得する方針を積極的に考えています。
この点は、先ほどの譲渡オーナー向けのアセットマネジメントとも関連しています。私たちを通じてM&Aで売却されたオーナーが、全体のポートフォリオの運用をアセットマネジメントで行いつつ、売却で得た利益の一部をゴエンファンドを通じて、事業承継やM&Aを希望する他のオーナーへの投資に使うという計画も検討しています。これには社会貢献の意味合いも含まれています。ゴエンファンドの資金源には、私たちの仲介手数料だけでなく、譲渡オーナーからの資金も一部含まれています。その資金は、中小企業のエグジットや譲渡オーナーの支援を目的としたファンド構築に利用されます。
この取り組みには2つの意味があります。1つ目は、譲渡したオーナーが新たな生きがいを見つけるためです。例えば、電気工事の業界で活躍していた元経営者がノウハウを持っている場合、私たちがゴエンファンドでその電気会社をM&Aする際、その経営者を社外取締役として招くことを考えています。また、彼らに定期的に投資先の状況を報告することで、その資金が有意義に使われることを確認させたいと考えています。
2つ目の意味は、ゴエンファンドが譲渡企業の受け皿になることです。今後、日本では売り手企業がさらに増加する中で、受け皿となりうる買い手企業は比例して増加しないことが予想されます。この需要と供給のギャップにより、売却を希望するものの売れない企業が増加し、ファンドが重要な役割を果たすと考えています。
良質な会社は多いのですが、それらの会社を引き受ける買い手が不足しています。私たちがこの状況を評価し、M&Aの買い手として積極的に関与することで、売り手企業、そして日本経済にも寄与したいと考えています。
ーー新しい形を築いていくのですね。
前川 :「ゴエン」という座組、エコシステムを作りたいと考えています。ゴエンキャピタルでM&Aを実行し、ゴエンアセットマネジメントで資産を次世代に残す、この哲学のもとに運用することを想定しています。その中の一部を、ゴエンファンドを通じて社会に還元するつもりです。そのポートフォリオはリスク資産となりますが、私たちはプライベートエクイティの商品を自ら作成します。さらに、M&Aでエグジットしたオーナーが継続的に参加するというエコシステムや中長期的な構造を、「ご縁」という機会を通じて築いていきたいと考えています。
ーー今まで支援された事例を教えていただけますか?
前川 :今まで支援した事例を一部ですがご紹介します。
例として、年商約10億円の建設業の会社があります。社長さんは40代後半で3代目というケースでした。ある地方で展開していたこの会社は3期連続の増益増収を達成していました。しかし、今後の成長のためには県外への展開と新しい人材の採用が不可欠で、地域内での成長の限界を感じていました。
そこで、全国展開している大手企業である買い手とのマッチングを実現し、買い手企業の資産や人材を活用した全国展開をサポートさせていただきました。
オーナー様には、資産管理会社の設立サポートも行いました。また、現在は資産運用コンサルティングを提供しており、パートナーを活用してのコンサルティングサービスも行っています。資産運用の例においては、私たちが中長期の視点でお客様のことを考えて対応する姿勢が評価され、満足していただいているケースとなります。
また、現在手がけているケースには、特定のファンドと設備工事会社が関わっており、オーナーは60代前半で事業承継の形でM&Aを進めています。
ファンドと60代の創業オーナーとの間には、コミュニケーションのギャップが存在しています。具体的には、ファンド側は高度なビジネスレベルで考え、一方のオーナーはより感覚的なアプローチを取っているようです。この感情とロジックのギャップを埋めるため、私たちが通訳の役割を果たし、双方の意見が食い違わないようサポートしています。
ーー今後、事業を売却を考えている方に伝えたいことがありましたらお願いします。
前川 :私たちのチームは、アフターサービスの提供や業種に特化した知識を持つプロフェッショナルです。担当者一人ひとりが豊富な知識と経験を活かして、オーナー様へのサポートを真摯に行います。
事業売却は、人生で一度きりの大きな決断です。それは、外科手術のように非常に重要な選択だと思います。心臓の手術をどの病院で受けるかを選ぶ際、料金を気にするよりも最も質の高い医療サービスを提供する病院を選びますよね。その考えと同じで、私たちの専門家が各業種のニーズに特化して対応し質の高いサービスを提供しています。
さらに、事業の譲渡はあくまで手段であり、その後の幸せな人生を追求することが真の目的です。この考えが、私たちのサービスが他の仲介会社と異なる点です。このメッセージをしっかりと伝えたいと思います。
ーーインタビューはこれで終了いたします。本日はありがとうございました。