超売り手市場でも新卒採用を成功させるためにー就活ラジオ・碓井代表に聞く

超売り手市場でも新卒採用を成功させるためにー就活ラジオ・碓井代表に聞く

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「超売り手市場」と言われるいま、多くの企業が新卒採用に苦戦しています。そんな中、富山県出身の碓井氏が立ち上げた株式会社就活ラジオと、その新卒採用支援サービス「AI Talentee」が注目を集めています。家業の土木系コンサルティング会社で社長を務めたのち、地元で独立を果たした異色の経歴を持つ碓井氏に、新卒採用成功のカギと“価値観マッチング”の可能性を伺いました。

〇碓井 一平
富山県出身。大学卒業後に家業である土木系コンサルタント会社に勤務し、数年後には社長を務める。その後、2019年に地元富山でLabore株式会社を立ち上げ、ゲストハウス寄処(よすが)の運営やアルバイトマッチングアプリの開発を手がける。
2022年に株式会社就活ラジオを立ち上げ、就活領域における学生の支援を開始。現在は学生と企業を価値観でマッチングする「AI Talentee」を運営。地方・中堅中小企業の採用課題を解決を目指す。

ーーまずは御社と碓井さんご自身について教えてください。

碓井氏(以下敬称略):株式会社就活ラジオは、2022年1月に創業したキャリア支援に特化した会社です。私はもともと、家業である土木系コンサルティング会社の3代目として、30歳まで経営に携わっていました。

転機となったのは、大学でキャリア教育の授業に参加したことです。そこで目の当たりにしたのが、学生たちが「社会に出ること」や「就職活動」に対して強い不安を抱えているという現実でした。 「この課題に対して、自分にできることはないか」と強く感じたことが、次の一歩を考えるきっかけになりました。

大学という教育機関には支援の限界がある一方で、民間という立場なら、もっと柔軟にアプローチできるのではないか。そう考え、家業を離れて独立しました。最初に立ち上げたのは、現在の就活ラジオとは別法人で、学生と社会をつなぐイベントやコミュニティスペースの運営を手がけていました。

しかし、活動を通じて直面したのは、いざ就職活動が始まると、それまで個性的で主体的だった学生たちが一様に「就活生」という枠に収まってしまうという現実でした。「なぜ日本の就活は、ここまで画一的なのか?」という疑問が強まりました。就活鬱や早期離職による苦しみをもつ若者の話も聞く中で、この構造を変えなければ明るい日本の未来はやってこないと確信しました。

その問題意識から、あらためて立ち上げたのが「株式会社就活ラジオ」です。独立してから5年になりますが、就活ラジオとしての事業はこの3年間で展開してきました。特に、地方の学生に対する支援に力を入れており、現在は富山を拠点に活動しています。

創業当初から、富山で見られる課題は全国の地方にも共通していると感じており、いずれは全国の就活生に使ってもらえるサービスを目指して事業展開しております。とはいえ、私自身が人材業界の経験はなかったため、まずはゼロから現場に入り込み、学びながら実践を重ねてきました。

社内にも当初は人材業界の経験者がいなかったため、まさに手探りでのスタートでした。そのなかで自社企画に取り組みながら、富山県の行政プロポーザル案件にも積極的に参画。地元企業、自治体、そして学生の間に立ち、それぞれの本質的な課題に向き合うことを大切にしながら、地に足のついた支援を続けてきた3年間でした。

ーーありがとうございます。企業・行政・学生の間に立ってご活動されているとのことですが、特に「企業」における現在の採用状況について、どのようにご覧になっていますか?

碓井:企業の新卒採用を取り巻く環境は、ここ数年で一層厳しさを増しています。特にこの1〜2年は、3年前と比べても、採用難易度が加速度的に高まっていると実感しています。

ただし、学生の数が急激に減ったわけではありません。少子化の流れ自体は以前から続いていますが、それだけでは説明しきれない構造的な変化が起きていると考えています。

一つの背景として、2010年頃から進められてきた高齢者の再雇用制度や女性の就業促進政策があります。これらの取り組みによって、企業はシニア人材や女性人材の活用に一定の成果を上げてきました。しかし、再雇用された方々が75歳を迎える年齢に達しつつあり、女性の就業率も飽和に近づいている今、新たに「若手人材」──特に新卒層の確保が急務となっています。

一方で、学生の母数は大きく変わらない中、若手人材を求める企業数は増加している。結果として、求人倍率が急上昇し、新卒市場はかつてないほどの“売り手市場”へとシフトしています。

つまり、労働市場全体で就業者数が減少している中で、企業の採用ニーズだけが一方向に膨らんでいる。そのギャップが、新卒採用の難易度をより一層高めている構図です。中途採用市場も競争が激化していますが、こと新卒採用に関しては、さらに厳しい状況が続いていると見ています。

ーー若手を求める企業の数が、倍増するような状況だということですね。

碓井:はい、まさにそのようなイメージです。たとえば、これまで新卒を10名採用できていた企業が、現在では5名の確保も難しくなっている。結果として、実際の学生数が減っていないにもかかわらず、企業側の感覚としては「母集団が半減した」と捉えざるを得ない状況が生まれています。

ーー企業側は、そうした採用市場の構造変化に十分気づいていない、もしくは実感しきれていないという面もあるのでしょうか?

碓井:おっしゃる通りです。その傾向は企業だけでなく、私たち人材業界、そして学生側にも共通して見られます。学生自身も「今は売り手市場である」といった実感を、あまり持っていないのが現状です。

ただ、私たちが現場で得ているインサイトとしては、市場構造の観点から見て“売り手市場”が確実に加速しているのは間違いありません。学生の意識や行動が従来と大きく変わっていない一方で、企業側の若手採用ニーズだけが急速に高まり、そのギャップが徐々に顕在化しているというのが、現在の採用市場の特徴です。

ーー一方で、学生側にはどのような変化が見られますか?

碓井:実は、学生側の行動や意識に関しては、これまでと比べて大きな変化はあまり見られない、というのが私たちの現場感です。

ただし、世の中では「就活の早期化」や「長期化」といった極端な事例が取り上げられる機会が増えており、そうした情報が学生にも少なからず影響を与えていると感じています。

少し踏み込んでお話しすると、企業も学生も、現在の就職活動において“情報の扱われ方”に振り回されている側面があります。特に、突出した成功例がメディアで過度に強調される傾向が強いですね。

たとえば「優秀な学生はすでにこの時期に内定を獲得している」「複数社から内定をもらっている」といった報道が目立ちます。確かに、そうした学生が一定数存在するのは事実です。しかし、あたかもそれが全体の平均的な傾向であるかのように広く伝えられてしまっている点には、私たちとしても強い違和感を持っています。

ーー確かに、そのような極端な事例ばかりが目立ちますね。

碓井:たとえば、11月頃になると「すでに多くの学生が内定を獲得している」といったアンケート結果が報道されることがあります。しかし、これらのデータには一定のバイアスが含まれている可能性があります。というのも、この種のアンケートに積極的に回答するのは、すでに内定を得て安心している学生が中心であり、未内定の学生は回答を控える傾向があるためです。

また、就職活動を早期に始めた学生は、その内定状況をそのままアンケートに反映させるため、結果として「早期内定者」の割合が統計上高く出やすくなります。こうしたアンケートは、あくまで回答者を母数として集計されるため、「約80%の学生が内定済み」といった数値が示されることになります。その結果、実態以上に「就活の早期化が進んでいる」といった印象が独り歩きする構図が生まれてしまうのです。

しかし実際には、すべての学生が早期に就職活動を開始しているわけではありません。むしろ、こうした報道や数字に触れたことで、必要以上に焦りを感じ、「自分も早く動かなければならない」とプレッシャーを受ける学生も少なくありません。

企業側も同様に、「就活は早期化している」という印象をメディア報道などから受けやすくなっています。しかし、私たちが大学現場でキャリアセンターの担当者と話をするなかでは、「学生の動き方自体は、これまでと大きくは変わっていない」という声が多く聞かれます。実際、就職活動の基本的な開始時期に大きな変化は見られず、従来通りのペースで動いている学生も多数存在しています。

一方で、メディアやSNS上では“極端な成功事例”が注目されやすく、それが全体像のように見えてしまう構造があります。こうした一部の早期内定者の動きが、就活全体の標準モデルとして受け止められてしまうことが、「就活の早期化」が進んでいるという誤解を助長している要因の一つと考えられます。

ーーつまり、企業も学生も、極端な情報に振り回されてしまっているということですね。

碓井:おっしゃる通りです。本来、学生にとって最も優先すべきは学業であり、その過程の中で徐々に社会との接点を持ち、将来の方向性を見出していくことが理想だと考えています。

しかし、現在の情報環境では、ごく一部の“目立つ学生像”──たとえばSNSやメディアで積極的に発信している学生や、早期に複数の内定を獲得した学生などが過度に取り上げられ、それがあたかも標準的な就職活動のあり方であるかのように広まっています。

ーー確かに、そういった“象徴的な存在”がメディアで頻繁に取り上げられていますね。

碓井:はい、そうした情報に触れることで、「自分も早く動かなければ」と感じる学生が増えているのは事実です。ただし、その多くは前向きな意思というよりも、周囲に取り残されまいとする“焦り”から行動を起こしているように見受けられます。

このような心理的プレッシャーが背景にある結果、就職活動が早期化しているように映る一方で、実際には活動期間が長期化している傾向も見られます。つまり、「早く始めたからすぐ終わる」という構図ではなく、開始時期が早まったにもかかわらず、活動の終了が後ろ倒しになることで、就活全体が“だらだらと続く”状態になっているわけです。

この長期化傾向は、企業の採用活動にも影響を及ぼしており、結果的に学生・企業双方にとって心理的・体力的な負担が増している構造があると考えています。

ーーそういった状況の中で、特に中小企業が採用において取り組むべきことは、どのような点だとお考えですか?

碓井:まず中小企業がやるべきことは、「自社にとって本当に必要な人材とは誰なのか」「なぜその人材が必要なのか」、さらには「それは本当に新卒でなければならないのか」といった点を明確にすることです。

今の時代、第2新卒や中途採用といった選択肢もあるわけですし、業界によっても新卒を採るべきかどうかは異なります。ですので、まずは「どんな人材を・どのタイミングで・どのくらい必要なのか」を経営計画や事業計画と照らし合わせながらしっかりと議論し、整理することが不可欠です。

たとえばスタートアップ企業であれば、「このフェーズで事業をここまで成長させるために、このポジションにこのスキルを持った人材が必要。そのためにこれだけの資金を調達する」というように、採用が経営戦略と密接に結びついていますよね。

中小企業も本来は同じであるべきだと思います。毎年なんとなく「1~2名採用する」といった漠然とした方針ではなく、「なぜその人数なのか」「どのポジションで必要なのか」「過去と同じ人材像で今後も事業を継続できるのか」といったところまで踏み込んで考えるべきだと感じています。

大企業であれば、多数の人材を一括で採用し、その後にジョブローテーションなどで適材適所を図ることができます。しかし、中小企業はそうした余裕がありません。だからこそ、採用の最初の段階で、どれだけ戦略的に考えられるかが極めて重要だと思います。

ーーそこまで踏み込んで採用戦略を考えている中小企業というのは、まだ少ないのでしょうか?

碓井:私たちの実感としても、実際にそこまで考えている企業はまだまだ少ないと感じています。ただ、採用がうまくいっている企業は、やはりそのあたりをしっかり考えたうえで取り組んでいるケースが多いですね。

つまり、「どんな人材が必要か」を明確にした上で、その人材を採用するためにイベントへ参加したり、採用ページや会社のホームページをきちんと整備したりしている。そうした一貫した戦略が成果につながっているのだと思います。

逆に、「とりあえずSNSのアカウントを作ってみました」とか、「何百万円かけておしゃれな採用ページを作りました」といった施策は、見た目には力を入れていても、肝心の中身──つまり採用の目的や対象人材像が明確でないと、なかなか実績には結びつきません。

もちろん、採用ページのデザインが洗練されているに越したことはないですし、古いよりは新しい方がいい。ただ、その前にやるべきことがあるはずだと、私たちは考えています。

ーー採用支援をされる中で、特に重視しているポイントや、他社と異なるアプローチがあれば教えてください。

碓井:私たちが提供している就活支援サービス「AI Talentee」(タレンティー)」では、何よりもまず“最初の求人票づくり”に最も時間をかけています。実は、このフェーズにしっかり取り組んでいる企業は、実際にはそれほど多くはありません。

大手企業においては、すべてのポジションごとに個別で丁寧な求人票を作成するのは現実的に難しく、また中小企業でも、採用予算や人員が限られていることから、既存のフォーマットに必要事項を入力するだけの運用になっているケースが多く見受けられます。

私たちは、そうした状況に対し、サービス設計の初期段階から「どのような人材を求めているのか」「その人物像(ペルソナ)はどのような特性を持っているのか」といった点を明確にすることを最も重要なプロセスと位置づけています。これはAI Talenteeの導入有無に関わらず、すべての企業にとって必要不可欠なアクションだと考えています。

そのため、サービス導入前の段階でもご相談をいただいた際には、「まずは採用すべき人材像を一緒に言語化することから始めましょう」とお伝えしています。求人票は単なる募集要項ではなく、企業の採用戦略を体現する“鏡”として機能するべきだというのが、私たちの基本的なスタンスです。

ーーその“ペルソナ設計”についてですが、どの程度の精度や粒度で定義するイメージでしょうか?

碓井:最初から100%の完成度を目指す必要はないと考えています。現実的には、部署単位やチーム単位での設計でも十分に機能します。たとえば、営業部や企画部といった部門ごと、あるいは営業部の中でも複数のチームがある場合には、それぞれのチームにおいて「この組織で活躍できるのはどのような人物か」を具体的に考えることが有効なアプローチです。

現在は、ペルソナ設計を支援するツールやフレームワークも多数存在していますので、そうした外部ツールを活用するのも一つの手段です。重要なのは、「自社がどのような人材を求めているのか」という認識を社内でしっかりと共有し、それが組織として明確に意思決定されているかどうかです。

一度言語化され、共通認識として社内に浸透すれば、その後の採用活動を通じて仮説を検証し、必要に応じて修正を加えていくことが可能になります。つまり、最初から高い精度を追求するというよりも、「定義する」「共有する」という初期段階にこそ大きな価値があると捉えています。

このプロセスがないままでは、仮に採用したあとにミスマッチが起きた場合でも、その要因分析や改善策の検討が難しくなり、PDCAサイクルが機能しなくなってしまいます。ですので、まずは完璧を目指すよりも、最初の一歩として“まずはつくってみる”という姿勢が重要だと考えています。

ーーそうしたペルソナの設計プロセスを、社内でコミュニケーションを取りながら作り上げていくこと自体に意味があるのですね。

碓井:はい、その通りです。ただし、それは短期間で完了するものではなく、時間をかけて丁寧に取り組む必要があります。社内での議論を重ね、分析を深めながら、少しずつ精度を高めていくことが大切だと考えています。

だからこそ、私は「採用戦略は事業計画と切り離せないもの」であるべきだと考えています。採用戦略は単年度で完結するものではなく、毎年アップデートを重ねていくべきものです。加えて、社会全体の構造や人材市場の変化にも柔軟に対応していく必要があります。

ただし、外部環境に変化があったからといって、すぐに極端な方向に方針を転換するのではなく、常にファクトベースで状況を冷静に見極める姿勢が欠かせません。客観的なデータと実態を踏まえたうえで、地に足のついた対応をとっていくことが、これからの採用戦略において求められるアプローチだと考えています。

ーーありがとうございます。少し掘り下げて伺いたいのですが、実際のところ、中小企業では人事部が存在しないケースも多いかと思います。その場合、採用業務はやはり経営者が担うことが多いのでしょうか?

碓井:はい、そのとおりです。中小企業と一口に言っても規模はさまざまですが、仮に人事部があったとしても、採用を担当している方が他の業務と兼務しているケースが非常に多いのが実情です。そしてそれ以上に多いのが、経営者ご自身が採用業務に直接関与しているケースです。

特に社員数が100名以下の企業であれば、どのような体制であっても、社長や経営トップが採用に関わるべきだと考えています。むしろ、可能であれば初期段階の戦略設計から積極的に関与いただくのが望ましいと思っています。

一方で、社員数が100名を超えるような企業になると、専任の採用担当者やマネジメントチームを設置しているケースも多くなります。そういった場合には、経営層と現場がしっかり連携しながら進める体制を構築することが現実的かつ効果的だと思います。

ーー採用活動においてツールを活用する際、成果につなげるために企業が意識すべきポイントは何でしょうか?

碓井:本質的に重要なのは、ツールそのものではなく、「どのような考え方でツールを活用し、設定を進めるか」という点にあります。つまり、ツールを導入すれば自動的に採用がうまくいくわけではありません。「自社にとって本当に必要な人材とはどのような人物か」「どのような価値観や特性を持つ人が自社の文化にフィットするのか」といった点について、社内で丁寧に議論し、認識を揃えることが不可欠です。

ーーでは、その採用戦略を設計する際には、何か特定のフレームワークや手法を活用されているのでしょうか?

碓井:はい。私たちのプロダクト「AI Talentee」をご利用いただく場合には、一定のフレームや設計支援ツールをご提供していますので、作業そのものに大きな時間はかかりません。

ーーフレームやツールが整っているとはいえ、効果的に活用するためには、企業側にも何か準備が必要なのでしょうか?

碓井:ツールはあくまで手段にすぎません。それを最大限に活かせるかどうかは、企業側がどれだけ真摯に「求める人材像」について考え、言語化しようとするかにかかっています。採用の精度を高めるうえでは、まず社内で共通認識を醸成することが、何より重要なステップだと考えています。

ーー改めて御社のサービス「AI Talentee」について詳しく教えていただけますか?

碓井:はい、AI Talenteeは、2024年3月に正式リリースした、企業と学生をつなぐマッチングプラットフォームです。従来型の就職支援サービスのように、「企業の知名度」や「給与・待遇」といったスペック情報に重きを置くのではなく、企業と学生の“価値観の一致”を軸にしたマッチングを最大の特徴としています。

具体的には、企業側が求める人物像──いわゆるペルソナを事前に明確化し、それをもとにした価値観データを登録します。一方、学生も自身の価値観や働き方に対する希望、職場環境に対する志向性などを入力します。

その上で、AI TalenteeではAIが両者のデータを分析し、価値観の親和性が高い組み合わせを抽出・提案する仕組みとなっています。条件ベースではなく“価値観ベース”で相互理解を促すマッチングを自動化することで、より本質的な出会いを支援しています。

イメージとしては、マッチングアプリの「学生と企業版」に近いかもしれません。ただし、AI Talenteeは単なる出会いの場を提供するのではなく、お互いの本音や相性に着目し、入社後の定着・活躍までを見据えた設計を行っている点に特徴があります。そのため、あえて条件検索をなくし、企業名を伏せた状態でマッチングを促進します。

ーーそこが、従来型の就職情報サイトとの大きな違いであり、AI Talenteeならではの差別化ポイントなのですね。

碓井:はい、AI Talenteeの最も大きな特徴の一つは、従来の就職支援サービスが基本的に「待ちのスタイル」であったのに対し、私たちはその枠組みにとらわれていないという点です。

これまでの一般的な就職サイトは、企業が情報を掲載し、学生からのエントリーを待つという形式が主流でした。近年ではそれとは逆に、企業側から学生に直接アプローチをかける“スカウト型”のサービスも急増しています。現在の市場では、「待つ型」と「攻める型」の2パターンが主流となっている状況です。

AI Talenteeは、そのどちらとも異なります。私たちのサービスでは、AIが企業と学生それぞれの価値観やニーズを分析し、相性の高い組み合わせを導き出す“価値観マッチング型”の仕組みを採用しています。言い換えるなら、「片思い型」ではなく、「両想いの可能性が高い相手との出会いを支援する」モデルです。

ーーまさに、“両想いになれる”相手を見つけるような設計になっているわけですね。

碓井:はい、そのとおりです。お互いに「この人(この企業)と合いそうだ」と思える関係性を、あらかじめAIがサポートしてくれる。それがAI Talenteeの大きな特徴です。

「自動的なマッチング」と聞くと、効率化や処理のスピードだけに注目されがちですが、私たちが本当に重視しているのは、お互いが“バイアスのない、本音に近い情報”をもとに出会える環境をつくることです。

企業も学生も、どうしても自分をよく見せようとして、理想的に見せようとする傾向があります。ただ、そうした情報だけを基にマッチングしてしまうと、入社後に「思っていたのと違った」というギャップが生まれやすくなります。

AI Talenteeでは、企業・学生それぞれの“素の価値観”や“ありのままの志向”を引き出し、それを定量・定性的なデータとして可視化することを重視しています。真のマッチングは、こうした本音レベルでの理解と共感があってこそ成立すると私たちは考えています。

AIやテクノロジーはあくまで手段に過ぎません。大切なのは、企業と学生の双方が自分自身を正直に捉え、そのうえで相性の良い相手と出会える環境を整えること。AI Talenteeは、その実現に本気で取り組んでいるサービスです。

ーー企業側については、ペルソナの設計を丁寧に行うことの重要性がよく分かりました。一方で、学生側については、どのように“本音”を引き出していくのか、その仕組みについても教えていただけますか?

碓井:私たちがAI Talenteeを設計するにあたって最も重視してきたのが、「学生がどのような場面で本音を話しづらくなってしまうのか」という点の分析です。

たとえば、通常のキャリア相談の場では、学生は比較的率直に自身の気持ちや不安を話してくれます。一方で、いざ面接やエントリーシートといった“評価の場”になると、途端に緊張して、自分をよく見せようとする傾向が強まります。これは当然で、学生は評価される立場であり、無意識に“よそ行き”の言葉を選んでしまう構造にあるからです。

私たちは、そうした構造的なバイアスをいかに排除できるかに注目し、「学生が自然体で、自分自身を表現できる環境とはどのようなものか」を徹底的に検討しました。具体的な仕組みについては一部、現在特許を申請している関係で詳細は控えますが、AI Talenteeではその設計思想をプロダクト全体に組み込んでいます。

つまり、「学生ができる限りプレッシャーを感じずに、自分の価値観や志向性を言語化できるタイミングや方法は何か?」という観点から、仕組みをゼロベースで構築しているのが特徴です。

多くの企業でも、たとえば「私服OKの面接」や「カフェ形式の雑談会」「OB・OG訪問のようなカジュアルな場づくり」など、本音を引き出すための工夫をされています。これらはいずれも、“学生に肩の力を抜いてもらいたい”という願いから生まれた取り組みだと思います。

私たちは、そうした発想を単なる演出にとどめるのではなく、構造的に再現性のある仕組みとして設計することを目指しました。AI Talenteeには、そうした“自然体で本音を引き出すプロセス”が組み込まれており、企業と学生がより正確な相互理解を築けるようになっています。

ーー従来の就職情報サイトとはまったく異なるアプローチですね。面接の“型”にとらわれず、より本質的なマッチングを目指している点が非常に印象的です。実際にAI Talenteeを導入された企業で、どのような変化や効果が見られたか、可能な範囲で教えていただけますか?

碓井:AI Talenteeはリリースからまだ日が浅いため、現時点で定量的な成果が出揃っている段階ではありませんが、すでに導入いただいた企業様からは非常に前向きなフィードバックをいただいています。

特に多く寄せられているのが、「社内で求める人材像が明確になり、共通認識が生まれた」という声です。これまでは、現場、経営層、採用担当者の間で「理想とする人物像」がそれぞれ異なり、採用担当者がその調整役として苦慮するケースも少なくありませんでした。

AI Talenteeの導入をきっかけに、「自社が本当に採用すべき人材とはどのような人物か」という点について、組織内でしっかり言語化・データ化するプロセスを踏んだことで、社内の目線が揃い、採用方針に一貫性が生まれたという実感を持っていただいています。

また、「実際の面談も始まり、事前に定義したペルソナと照らし合わせながら、『この学生とは相性が良さそうだ』『もう少し違う方向性かもしれない』といった、より本質的で建設的な議論が社内で行われるようになってきました」という声もいただいています。

さらに、「ペルソナに合致する学生と出会えたものの、自社の魅力を十分に伝えきれず、選ばれなかった」といった振り返りの声も挙がってきています。これは、企業側が「どうすれば自社が選ばれる存在になれるのか」と真剣に向き合い始めている証でもあり、私たちにとって非常に意義のある変化だと感じています。

このように、AI Talenteeの導入を通じて、採用を単なる“人を選ぶ活動”ではなく、“お互いの相性を確かめ合う活動”として再認識し始める企業が増えていること。それ自体が、採用活動における大きな前進だと捉えています。

ーー単なるツールの導入にとどまらず、企業内に“共通言語”が生まれていくような仕組みになっているのですね。

碓井:まさに、その通りです。私たちはAI Talenteeを、単なるマッチングツールとして提供しているわけではありません。

一般的な就職サービスの多くは、企業が採用戦略を立て、その内容を媒体上で発信するというスタイルが基本です。しかし、AI Talenteeはそれとは根本的にアプローチが異なります。

AI Talenteeを活用することで、企業は「どのような人材を採用すべきか」という点について、社内での議論を深めながら認識を明確にし、戦略として定着させていくことができます。使い続けるほどに、採用戦略そのものが磨かれ、精度が上がっていく設計です。

戦略の精度が上がれば、当然マッチングの質も向上します。結果として、自社に本当にフィットする人材と出会える確率が高まり、採用後の定着率や活躍度にも良い影響が生まれてきます。

私たちがAI Talenteeを通じて目指しているのは、単に“人を採用すること”ではなく、“採用した人が組織の中でしっかり活躍し、事業を推進していける状態”をつくることです。

極論を言えば、マッチングはゴールではありません。最も大切なのは、その人が入社後に価値を発揮し、企業の成長に貢献できる環境が整っていること。その実現を支えるプロダクトとして、AI Talenteeを位置づけています。

ですから私たちは、「採用を単なる入口で終わらせない」という視点を何より重視しています。それこそがAI Talenteeが提供する最大の価値だと考えています。

ーーありがとうございます。現時点で、AI Talenteeはまだベータ版のようなフェーズなのでしょうか?

碓井:いえ、AI Talenteeは現在、ほぼ完成形に近い状態でご提供しています。マッチング機能もすでに安定して稼働しており、複数の企業様に実際にご導入いただいています。

ただ、私たちはこのプロダクトを“完成品”と捉えていません。なぜなら、社会や採用のあり方は常に変化し続けており、それに伴って求められる機能や支援のかたちも進化し続けるべきだと考えているからです。

現在は特に、「入社後にその人材がどのように活躍できるか」という視点を重視し、採用の“その先”を支える機能の強化に取り組んでいます。単なる採用支援にとどまらず、定着・活躍のフェーズまで見据えたプロダクトアップデートを継続的に進めているところです。

ーー現在の展開エリアとしては、北陸や中部が中心なのでしょうか?

碓井:はい、現在はまず富山から事業をスタートし、2024年4月からは北陸エリアを中心に本格的な展開を始めました。その後は中部・関西・東北エリアへと順次展開を広げている状況です。

ーー関東エリアについては、今後の状況を見ながら展開していくご予定ですか?

碓井:実は、現時点では関東エリアはあえて優先していません。というのも、一般的なスタートアップであれば首都圏中心の戦略をとりがちですが、私たちは“新卒採用”というテーマにおいて、むしろ地方にこそ深い課題があると考えているからです。

現在、東京は全国でも数少ない「人口流入超過」の地域です。一方、地方では多くの自治体が人口減少に直面しており、人材確保そのものが大きな課題になっています。私たちも過去に1年間、東京に拠点を構えた経験があるのですが、その際に改めて感じたのが、「私たちが本当に価値を発揮すべきはどこか?」という問いでした。

結論として、“人が減っていく地域で、いかに人を採用し、活躍につなげるか”という、地方特有の構造的な課題にこそ私たちのプロダクトが貢献できると考えるようになりました。関東圏にはすでに優れた採用支援サービスが多数存在していますし、私たちAI Talenteeが担うべきテーマは、必ずしもそこにはないと捉えています。

ーーそれはまさに、戦略的に明確な差別化を図っているということですね。

碓井:はい、その通りです。私たちが提供する価値は、まさに「地方に根ざした課題解決」にあると考えています。

採用支援においては、どのエリアで、どのタイミングで取り組むかが非常に重要です。だからこそ、今のフェーズでは、“人口減少が進行している地域”に焦点を当て、そこで顕在化している採用課題を的確に捉えるという戦略を採っています。

人が集まりやすい都市部と比べて、地方ではそもそも出会いの機会そのものが不足していますし、企業側が「どう見せるか」「どう届けるか」といった発信力に課題を抱えているケースも少なくありません。

私たちは、そうした地域にこそ本質的な支援が必要であり、AI Talenteeの提供価値を最も発揮できる場所だと考えています。

ーー最後に、碓井さんご自身として「ここは特に伝えたい」というメッセージがあれば、ぜひお願いします。

碓井:現在、私たちが最も注力しているのは、中堅・中小企業が抱える採用課題の解決です。ただし、これは企業規模に限った話ではありません。たとえば、大企業であってもBtoB領域の企業などは知名度の面で学生に届きづらく、十分な認知が得られていないケースが多く見られます。

実際、社内環境が良く、着実に努力を重ねている企業はたくさんあります。しかしながら、そういった企業の多くが求人媒体上では埋もれてしまっており、掲載されているのはごく一部にすぎません。

一方で学生も、「目立つ企業=自分に合っている企業」と思い込みがちです。しかし、まだ出会っていないだけで、実は自分にフィットする企業が他にも存在する──そうした可能性を私たちは信じています。

だからこそ、AI Talenteeでは、「これまで出会えなかった企業と学生が、価値観を軸にして出会える場」を提供したいと考えています。その出会いが、お互いにとって前向きで、理想的なものであれば、企業・学生だけでなく、地域や社会全体にも良い循環を生み出せるはずです。

私たちが目指しているのは、いわゆる「三方よし」──企業・学生・地域にとって良い関係を築くこと。さらに言えば、「八方よし」と呼べるような、より広範な社会的価値の創出です。

ですので、いま採用活動に悩まれている企業の方や、「自分に合う会社が見つからない」と感じている学生の皆さんには、ぜひ一度AI Talenteeを試してみていただきたいと思っています。その一歩に、私たちのサービスが寄り添えることを心から願っています。

ーー本当にそうですね。従来の就職メディアが画一的になりがちななかで、“本音ベース”でつながれるAI Talenteeのようなサービスは、非常に魅力的に感じます。

Talentee公式サイトはこちら