スタートアップが海外にチャレンジする場合にやるべきこととは? 榊原清隆氏へのインタビュー

スタートアップが海外にチャレンジする場合にやるべきこととは?

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現代のビジネス環境は国境を越えて広がりを見せており、企業家やスタートアップの創業者たちは、新しい市場への進出を真剣に検討しています。しかし、海外進出は複雑なプロセスであり、多くの異なる要因を考慮する必要があります。そこで今回、海外展開のエキスパートとして知られる榊原氏にお話を伺いました。

榊原氏は、法的な側面から資本構造の設計に至るまで、多岐にわたる経験と知識を持つ、この分野の第一人者です。彼のアドバイスは、海外での成功を目指すビジネスパーソンにとって、非常に有益な指南となるでしょう。

本インタビューでは、榊原氏が海外ビジネス展開の際に重視すべきポイントやリスク回避策について、実際の事例を交えながら語ってくれます。それでは、貴重な洞察を得られるこのセッションをお楽しみください。

榊原 清隆(さかきばら きよたか)氏
株式会社Rasen Global Ventures 代表取締役 CEO / ゼネラルパートナー
プロフィール:上場企業の海外事業部に配属、同社東南アジア子会社の責任者として投資先事業のPMI及び現地事業マネジメントを経験後、シンガポールにてスタートアップを共同創業、ASEANにて300万インストールされたアプリビジネスを展開。その後日本にて仮想通貨取引所やD2Cプラットフォーム事業会社のCMOを歴任し、2021年スタートアップスタジオを創設。20社程度の起業支援を実行し約半数以上の企業のアップラウンドを成功。現在はベンチャーキャピタル「Rasen Global Ventures」を創業し、ファンドの組成に向けて活動中。

 

グローバル市場を分析する際重要なこと

ーー海外進出経験のない企業が進出を図る際、最初に取り組むべきは何でしょうか?

榊原 清隆氏(以下敬称略):初めに、グローバル市場を分析する際、日本の市場が非常に独特であると認識することが重要です。この点を念頭に置いて事業展開を行いましょう。

国内でのビジネス環境と海外での市場環境は、同じ事業セグメントであっても大きく異なることがあります。この違いを深く理解することが、最初のステップとなります。

また、マーケティング戦略を考える際にも、日本と海外で同様のサービスや領域でも、顧客が求める「ジョブ」が異なることがよくあります。この点に注意しながら進めることが推奨されます。

*参照:クレイトンMクレイテンセンの「ジョブ理論」

「ジョブ」の違いについて

ーー「ジョブ」の違いとは、具体的にどういう意味でしょうか?

榊原コスメ産業を例に説明しましょう。仮に日本のD2C(Direct to Consumer)市場で成功を収めたコスメ企業が、その同一商品を海外で展開したいと考えた場合を考えます。

たとえば、日本市場で「髪がさらさらになる」というニーズに焦点を当てた商品がヒットしたとしましょう。この商品をインドネシア市場に投入したいとするのですが、インドネシアでは、日本とは異なる「ジョブ」が求められる場合があります。

その理由は、多くの女性が宗教的な背景からヒジャブを着用し、髪の美しさが直接見えないことが多いからです。このため、「髪をまとめやすくする」効果があるシャンプーが、インドネシア市場における「ジョブ」に適合すると言えるでしょう。このように、「ジョブ」の違いは、マーケットごとの特性やニーズを深く理解することが重要となります

各国や地域の産業構造の違いを理解すること

さらに、各国や地域の産業構造の違いを深く理解することが不可欠です。私自身、広告業界でアフィリエイトサービスプロバイダーとして国際展開を経験したことがあります。これにより得られた洞察を基に、以下の点を説明させていただきます。

日本ではゲーム業界が非常に盛んであり、ゲーム関連のブログやアフィリエイトサービスが繁栄しています。ブロガー達は新しいゲームコンテンツを創造し、それに適したアフィリエイト広告を取り入れることで産業が機能し、収益を生成しています。

ところが、インドネシアの市場は異なる構造を持っています。ゲームプロバイダーは存在するものの、ブロガーはごく少数しかいません。それに対し、ニュースメディアは非常に成熟しています。このため、業界の構造が日本とは大きく異なります。

日本のゲーム産業の広告プラットフォームは、ゲーム、金融、ECの各セクターで大変な人気を博しています。これは、金融セクターに比較ウェブサイトや専門メディアが、またゲームやEC業界にはブロガーやインフルエンサーが豊富に存在し、リスティング広告を提供する企業も存在するためです。

しかし、海外の市場では、こうしたアクターが限定され、大半のインプレッションが大手ニュースメディアに集まっています。

私たちが広告を用いた集客活動を試みた際、アフィリエイトサービスプロバイダーとしては、メディアとの連携がうまくいかなかったのが現状です。事実、最も効果的だったのは「ネイティブ広告」の採用でした。

異なる国々で産業構造の違いが見受けられるのは珍しい事態ではありません。このような違いを深く理解することが、海外展開の第一歩として非常に重要と言えるでしょう。

ーー産業構造の違いを調査する最良の方法は何でしょうか?

榊原実際に現地に少なくとも一ヶ月滞在し、担当者が直接体感することが非常に重要です。この直接的な経験を通じて、産業の違いを迅速かつ深く理解できると考えます。

ーー海外進出時に、日本のスタイルをそのまま適用しようとすると成功しづらいということですね。

榊原正確に言えば、それが一般的な失敗の原因となります。目指すゴールは共通でも、戦略やアプローチは国ごとに変えるべきです。この点を明確に理解しておくことが非常に重要です。

海外進出する際特に注意すべきポイント

ーー海外進出支援の際、どのような具体的なサポートを行っていましたか?

榊原私たちがベンチャースタジオで提供していた支援の一例としては、日本の炭錬成技術を利用する企業と協力し、フィリピンでの炭素材調達に関わるロジスティクスシステムの構築があります。また、海外の開発拠点設立プロジェクトでは、開発コミュニティを共同で構築する取り組みも行っていました。

越境EC企業への支援としては、フィリピンと日本間での商流の構築をコンサルティングを通じて支援した実績もございます。

ーー海外進出支援を手がけていらっしゃる中で、企業が海外進出を行う際に特に注意すべきポイントはありますか?

榊原業界によって違うため、一概に言うのは難しいですが、ポイントは3つあると考えています。

1.適切なパートナーの選定

海外でのビジネス展開には、偽情報の提示や詐欺、未払いといったリスクが増えるため、国内よりもより慎重かつ徹底的なパートナー調査が必要です。特に、相手方の信頼性や紹介者の背景を精査することが重要なチェックポイントとなります。

例として、私たちがサウジアラビアでお寿司店の展開支援を行った際には、政府系の子会社(王族系)とパートナーシップを築くことができました。この関係が成功の要因となり、ポップアップストアは大成功を収め、店舗の拡大もスムーズに行えています。

2.法律や規制の変更というリスクへの備え

さまざまなリーガルリスクがありますが、特にビザ関連の問題は避けたいものです。ビザなしでの勤務は、警察が介入するトラブルを引き起こし、罰金の支払いや強制送還などのリスクが高まります。これらは残念ながら珍しいケースではありません。

ビザの取得難易度は国ごとに異なるため、現地のコンサルタントと連携し、ビザに関わる問題を未然に防ぐための対策を練りましょう。

3.法人設立前に構造と規制を詳細に調査する

特定の産業分野では「外資100%の経営が許可されない」などの規制が存在することがあります。各国やビジネス領域ごとに異なるルールが適用されることが多く、これには十分注意が必要です。

例えば、インドネシアでは、外資系企業の最低資本金が増加しており、1億円以上の資金がないと法人設立が許可されません。

さらに、規制は時間と共に変わることがあり、例えば元々外資100%で許可されていた事業が、後に内資の導入が義務付けられるなど、条件がリアルタイムで変更されることもあります。

法人の構造調査は、適切なパートナー選びとも密接に関連しています。常に最新の情報を入手し、その都度適切な法人構造を築き上げることが重要です。

法人設立について

ーー海外進出を検討している起業家に対する特別なアドバイスはありますか?

榊原海外で事業を立ち上げる際にも、日本に法人を設立しておくことを強く推奨します。日本に法人を持つと、政府からの融資や助成金、補助金などの支援が受けやすくなります。これらの支援はスタートアップや新興産業に関わる企業にとって、非常に有益であり、活用しないわけにはいきません。

ーー海外法人と日本法人の間で最適な資本関係はどのような形になりますか?

榊原通常、初期段階では海外法人と日本法人を別々に保有するケースが多いです。しかし、スタートアップの成長とともに資金調達のラウンドが進むと、シリーズAやBのフェーズに移行するタイミングで、株式交換を行って子会社化を進めるのが一般的となります。

事業の発展に合わせて資本構造を適切に調整し、効果的な経営戦略を展開することが、特に海外法人がベンチャー企業である場合には、ベストプラクティスとされています。

ーー近年は「日本発」よりも「海外発」という印象が強まっているようですね。特にWeb3の分野ではどうでしょうか?

榊原その通りです。しかし、それでも日本に法人を設ける利点は多々あります。例えば、日本の法人を開発拠点として位置づけ、一方でシンガポールの会社をWeb3サービスの運営拠点とするなどの方法が考えられます。人材の採用は日本の法人で行い、権利関係や仮想通貨の資産はシンガポールに持たせることで、様々なリスクを最小化するアプローチも取られています。

ーー現在、シンガポールでの法人設立はコスト面や手続きの簡易さで優位性がありますか?

榊原シンガポールでの法人設立は、特に難しいとは言えません。ただし、銀行口座の開設は企業の業種によって異なり、いくつかの困難な点が存在するかもしれません。

特に仮想通貨関連の企業が最近1年半の間に多くシンガポールに進出しているため、銀行口座の開設が少し困難になってきているようです。そのため、現地で直接情報収集を行い、最新の情報を把握することが大切です。

海外進出を成功させるためには

ーー最後に、海外進出を成功させるためのアドバイスをお願いします。

榊原絶対に推奨したいのは、事前に専門家と相談し、計画的なストラクチャリングを行うことです。

ーー具体的にはどのような専門家に相談されているのですか?

榊原私たちのチーム内にはさまざまな専門知識を持ったメンバーがおり、活動を共にしているCFOはグローバルファイナンスの分野で非常に詳しいフィナンシャルアドバイザーです。彼らに積極的に相談します。

また、法務関連の問題については専門家を頼りにし、VCのネットワークを通じて周辺企業からの知見も得ています。さらに、設立コンサルタントといった専門家の意見も活用しています。

ーーこれにてインタビューを終了いたします。お忙しいところありがとうございました。

日本の枠を超え、新たな市場への扉を開く際には、信頼できるパートナーとの連携やリスク管理が不可欠となります。そして何より、最新の情報を基にしたしっかりとした準備が、成功の鍵となるのです。

榊原氏とのこの対談を通じて、海外進出を考える起業家やビジネスパーソンが新たな視点やヒントを得られたことを願っています。グローバルな市場での成功を目指すすべての人々に、このインタビューが一助となることを期待して、ここで一区切りとさせていただきます。お読みいただき、誠にありがとうございました。

榊原氏へのインタビュー前編をご覧になりたい方はこちらへ「スタートアップが作るべき良い数値計画とは?

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