中小企業庁が提供しているものづくり補助金は、新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの中小企業において利用されるようになっていきました。
元々は製造業を中心とした、企業の更なる成長を後押しする施策として開始した同補助金ですが、消費の冷え込みや原材料価格の高騰により、ものづくりに携わる企業の生命線としての役割も大きくなっています。
今回は、ものづくり補助金がどのように活用されているのかについて、事例も交えてご紹介しながら、2022年度はどのような拡充が行われるのかにも触れていきます。
ものづくり補助金について
ものづくり補助金は、中小企業庁が実施している中小企業生産性革命推進事業の一環として行われている補助金事業の一種で、小規模事業者持続的発展支援事業(持続化補助金)やサービス等生産性向上IT導入支援事業(IT導入補助金)などと合わせて、国内の中小企業支援策として大きな柱の役割を果たしています。
更なる事業の成長を支えるべく、生産性向上に取り組む中小企業の設備投資や雇用の拡大、販路の拡大などの施策を金銭的にサポートする役割を果たしています。
近年は新型コロナウイルスの拡大により、補助事業者の対象は拡充傾向にあるだけでなく、補助金額についても増額の傾向にあるため、対象事業者に当てはまる場合は積極的に活用したい補助金制度です。
ものづくり補助金の活用事例
ものづくり補助金を活用している事業者の数は増えており、その事例も全国に拡大しています。具体的にどのような会社で補助金が活用されているのか、実際の事例を見ていきましょう。
有限会社 横山鉄工
大手菓子メーカーの業務用製造機械のメンテナンスを手がけてきた横山鉄工が、かねてより問題視していたのが、取り扱う製造機械の多くが中規模〜大規模ロットに対応している大型のモデルばかりであるという点です。小ロット生産の需要拡大の可能性を見据え、同社がものづくり補助金を使って実行に移したのが、小ロット生産向け製造機械を生産するための設備導入です。
新たな製造機械の販路拡大にあたり、同社では国内だけでなく、海外市場も視野に入れた販路拡大施策もスタートさせました。ものづくり補助金を活用した設備投資だけでなく、ジェトロのサポートを受けながら海外の展覧会への参加や、販路開拓のノウハウ提供を受けることで、売上高は補助金申請前の約4,000 万円から約7,000 万円へと増加し、確かな成果を実現しています。
海外との取引経験がない中小企業でも、ものづくり補助金を活用した積極的な設備投資や、ジェトロなどの公的機関のサポートを受けることで、自社の技術やアイデアを広く、世界へ拡散できる機会が得られることを証明しています。
参考:https://www.monodukuri-hojo.jp/common/pdf/goodpractice_R2-A4.pdf
株式会社 サンラヴィアン
洋菓子や和菓子などの製造・販売を行う菓子メーカーのサンラヴィアンは、業務効率化・省人化に向けた新型設備導入にものづくり補助金を適用し、生産性向上と原価管理におけるPDCAサイクルの改善に成功しています。
同社で課題とされてきたのが、ベルギーワッフルの製造ラインにおける生産性の問題です。繊細な工程が発生する同製造ラインにおいては完全な自動化が難しく、手作業も発生するなど、工場の自動化を妨げる要因となっていました。
そこで導入を決定したのが、ワッフルを傷つけることなく移動させられる最新機械です。手作業で行っていたワッフルの移動作業を自動化できたことで、業務の自動化と生産量の安定化を実現しています。
ものづくり補助金の採択によって実現した同取り組みによって、機械導入前と比べ、 移載工程に投じていた人員を削減することに成功しています。また5%の歩留まりの解消によって、生産能力は20%も向上するなど、収益性の改善にも大きく貢献しています。
導入に際しては補助金に合わせ、小企業基盤整備機構が提供するハンズオン支援も受けることで、作業工程の見直しや記録、数値管理の取り組みもスタートしました。曖昧だった目標数値の設定、及び結果に伴う改善施策のあり方など、効率的なPDCAサイクルの実現にも役立てています。
参考:https://www.monodukuri-hojo.jp/common/pdf/goodpractice_R2-A4.pdf
株式会社 かぐらの里
業務用柚子の生産・加工事業に携わるかぐらの里は、ものづくり補助金を活用することで、人里離れた山間部という立地にありながら、通年雇用の創出を実現しています。
同社では元々柚子の収穫期に業務が集中しており、通年雇用が難しい環境に置かれていたため、繁忙期のみに人手を集めるという、人材獲得コストが懸念されてきました。一方で同社では柚子のピール(皮)を活用した新商品の開発及び加工、販売の展開にも着手しており、販路拡大に向けた取り組みも進めていました。
そこで同社が取り組んだのは、 商品開発に必要な専用機械の調達などに充てるためのものづくり補助金の活用です。コスト増に対応すべく、業務用だけでなく小売用の商品開発も実現し、収益性の高い商品の確保に成功しています。
柚子ピール製造過程をライン化したことによって、製造原価の圧縮と量産化を図ることが実現するとともに、通年雇用の機会を獲得することにも繋がっています。
製造ラインの設置によって、生産・加工・営業部門の業務領域を拡大し、毎年2〜 3 名の正社員を採用できる環境が整いました。通年雇用者は事業開始前の10名から、3倍ちかい人数である29名にまで増加し、地方における雇用創出のきっかけづくりにつながっています。
参考:https://www.monodukuri-hojo.jp/common/pdf/goodpractice_R2-A4.pdf
コロナ禍をチャンスに変える補助金活用のポイント
上記のように、多くの企業ではかねてより抱えてきた問題の解決のため、ものづくり補助金が活用されています。それではコロナ禍を経て、新たに補助金導入の必要性が出てきている企業は、どのような課題の解決に向けて補助金を活用すべきなのでしょうか。
部品や原材料調達への対処
まず目を向けるべきなのは、商品の製造・加工に必要な部品、及び原材料の調達です。新型コロナウイルスの影響により、海外からの流通コストが大幅に増加し、国内に流通する原材料価格が高騰しつつあります。
また、安定した供給が得られないことから、値上げではなく販売の休止に追われている企業も出てきています。こういった問題を解消するためには、流通コストの抑制や、安定供給に向けた設備投資が必要です。
部品を内製化するための設備、あるいは新たな契約農園の開拓など、安定した流通ラインを維持できている国内で実現していく必要があるでしょう。
非対面接客の実現
コロナ禍によって失われた対面接客の機会を補填すべく、ECサイトの開設など、非対面接客の場づくりにも力を入れる必要があるでしょう。
インターネットを介したサービスが拡充したことで、今やIT活用に慣れていない人でも、簡単にオンラインショップを展開できるようになっています。非対面接客を実現可能なツール導入や環境整備を実現し、販路の確保に努めましょう。
テレワーク環境の整備
感染リスクがあらゆる場所に潜んでいる以上、もはや感染の可能性をゼロに抑えることは不可能に近くなりました。製造現場は密な環境が生まれやすく、できる限り対面接触の機会を減らすことが、安定して工場を稼働させるための必要条件となりつつあります。
業務を自動化できる設備の導入や、バックオフィス業務をテレワークで実施できる環境の構築など、ものづくり補助金を使ってこれらの取り組みを推進する必要があります。
DXに向けて拡充が進むものづくり補助金
2022年度にはものづくり補助金の補助対象や補助額が拡充し、コロナ禍を乗り切るためのサポートが強化されています。主な拡充要項を確認し、積極的に活用しましょう。
参考:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/yosan/2021/hosei/mono.pdf
補助金対象者の拡充
ものづくり補助金は、補助対象事業者に、資本金10億円未満の「特定事業者」を追加することが決定しています。補助額については企業再生に取り組む事業者を対象に、補助率を通常の1/2から2/3に引き上げられており、手厚い支援が受けられます。
雇用拡大への手厚い支援
コロナ禍を通じて冷え込んでいる雇用についても、拡大に向けた支援が予定されています。業況が厳しい事業者に対しては賃上げ・雇用拡大に取り組むため、通常の1/2から補助率は2/3に引上げられる見込みです。
DX推進に向けたデジタル枠の新設
今年度より新たに設けられたのが、DX推進を想定したデジタル枠です。DXに値する革新的サービスの開発、及びデジタル技術を活用した生産プロセスの改善等を行う事業者には、通常の1/2から補助率を2/3へ引き上げています。
SDGs達成に向けたグリーン枠の新設
デジタル枠の新設に合わせ、SDGs達成に向けたグリーン枠の新設も実現しました。温室効果ガスの排出削減に貢献する製品・サービス開発や、生産プロセスの実現に貢献する企業は、補助上限額が最大2,000万円で、補助率は2/3の申請類型が誕生しています。
おわりに
ものづくり補助金を効果的に活用している中小企業は次々と登場しており、また補助金制度を活用するためのノウハウ提供も、ジェトロや銀行などの公的機関から自由に受けることができます。
新たに拡充されるデジタル枠などの制度を上手に活用し、会社の立て直しや更なる成長を加速させていきましょう。