DX推進の課題と解決策:コスト意識と役割の転換(三瓶 寛一氏へのインタビュー)

DX推進の課題と解決策:コスト意識と役割の転換(三瓶 寛一氏へのインタビュー)

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デジタルトランスフォーメーション(DX)についてさまざまな人に話を聞いてみると、結局は組織の問題であることが明らかになってきました。経営者がDXに対する理解が不十分だと、言葉だけの取り組みに終わったり、現場レベルでの浸透が見られなかったりすることがよくあります。また、抵抗勢力によって推進が阻まれるケースもあります。

今回は、このような背景を踏まえて、DXを成功させるための知見を三瓶氏に伺いました。

三瓶 寛一氏
ミアップ(meUP)株式会社代表取締役
プロフィール:25年以上にわたり、通信ネットワーク、統合コミュニケーション、セキュリティ、インターネット/クラウド関連業界での営業管理、ビジネス開発、シニアセールス&マーケティング職に従事。日本及びアジア市場でのビジネスやビジネス開発をメディア、サービスプロバイダー、企業、チャネルビジネスで行ってきました。組織の生産性向上を加速させるためのプロコーチとしても活躍。

ーーDX化を進めるには何が必要でしょうか?

三瓶 寛一氏(以下、敬称略):DXを進めるにあたって、最大の課題は、業務が現場任せになってしまい、実際に何が行われているかが不透明になることです。この業務を可視化することが極めて重要です。さらに、可視化を行いつつ、コストについても明確にする必要があります。また、可視化とコストの説明を社内で徹底的に行う必要がありますが、これには相当な労力が必要になります。

ここで言う「コスト」とは、主に人件費を指します。これは現場の課長や部長が最も避けたい話題の一つです。彼らが人件費の削減を提案することは、難しいといえます。しかし、人件費というコストを正しく可視化できなければならないため、これは厳しい話になるでしょうが、避けては通れない道です。

ーー可視化とコスト化がうまく行っている会社はありますか?

三瓶:大手の不動産会社などはコスト削減に非常に積極的です。手数料を主な収益源としているため、利益はある程度固定されており、売上も予測可能です。そのため、利益を増やすためにはコスト削減が重要で、この考えが深く根付いています。

紙一枚からすべてをコスト換算しており、社長クラスになると、さまざまなコストが即座に頭に浮かぶほどです。このような企業は、コスト削減に関する提案に非常に 受容的です。

その意識は現場にも浸透しており、現場のスタッフも積極的に上層部に提案を行うことを厭わない状況です。

ーーDX化のプロジェクトを推進する際、重要なことは何ですか?

三瓶:プロジェクトを推進し、また提案するには、通常、執行役員や部長クラスでなければ、難しいといえます。現場の課長から提案してプロジェクトが進むことは稀です。

また、特に政治的な手腕を持ち、上昇志向が強い課長がいた場合、または、外部から来た方で、社長から特別なミッションを託されているような課長であれば、提案がしやすい状況になります。誰に話すかが非常に重要です。この意味で、DXは人の問題だと捉えています。

DXの誤解:本質的デジタル変革への道

ーーデジタル化が中々進まない理由は何だとお考えですか?

三瓶:日本では、DXというとUI/UXの向上だけと考えていることが多く、この事は本質的なDXが進まない理由の1つといえるでしょう。「ウェブインターフェースを作って入力を楽にしましょう」と言いますが、実際のところ裏側のシステムは変わっていないのです。

結局、「ロボットを導入しました」と部分的にデジタル化を進めても、実質的には何も変わらず、むしろコストは増加する一方です。紙を使うよりも高くつくと思います。

ーー紙よりも高くつくこともありますね。

三瓶:また、人のコストを無視する傾向があります。給料は流動費や変動費には計上されないのでこのような状況になりがちですが、人には当然コストがかかります。

しかし「人にやらせればよい」という考え方が根強く、新しいシステムを導入しても、結局はコスト削減にはつながらないのです。これはメンタリティの問題であり、簡単には変わらないかもしれませんが、システム変更により人員削減が可能であるという点を明確にしなければ、本質的な解決にはならないのです。

新しいサービスを立ち上げる際、本来なら5人必要だと言われているところを「3人で対応します」というような効率化が図れる環境があれば理想的ですが、現実はそういった雰囲気ではないように思えます。特に、新しいプロジェクトにおいてDX化を積極的に言わない傾向があります。むしろ古いレガシーシステムを変える際にDX化の話が出ることが多いですが、そこで人件費について触れずにいると、「本当に改革を進める意欲がないのだな」と思うこともあります。

アメリカの場合は、大規模なシステムの更新時には、しばしば大幅な人員削減が行われます。それが普通のことです。

現在人件費は高騰しており、さらに上昇傾向にあります。人件費が高くなる一方で、システム投資はある程度固定費として管理できます。そうすると、スケールメリットが明らかに現れ始めます。しかし、これはただの仕組みではありません。トランザクションについて言えば、システムコストは増大するかもしれませんが、それはトランザクション数の増加によるものです。特にAmazonやAWSなどのサービスを利用する場合、トランザクションやハードウェアのコストよりも使用料ベースでコストがかかります。結局、トランザクションが増えればコストも上がるわけですから、そういうものだと思います

システム利用が増えればシステム費用も上がるというのが一般的な考え方です。最初の見積もりでは、サーバー利用料、ソフトウェア利用料、ライセンス料などが考慮されます。スケールアップした場合、次年度には更なる予算が必要になるでしょう。しかし、スケールが変わらなければ、コストは大きく変わらないはずです。

しかし、人件費が上昇することを考えれば、コスト削減を目指し、人数を減らしつつ、残るスタッフの給与を上げる方向で考える必要があります。もしシステムを導入しても人員が同じ数のままなら、間違いなく赤字になります。

給与を上げる必要があるという点で、10人いたチームを5人に減らし、その5人の給与を約10%上げるような対策をしなければ、優秀な人材を留めることは難しいでしょう。問題は、このような提案が実現可能かどうかです。

ーーDXを推進するためには、やはり経営者と話す必要がありますね。

三瓶:DXを現場だけで進めても、それが本当のDXにはならないでしょう。

ーー本質的にはその通りですね。

三瓶:特に、コストに関して話を進めたいと考えているなら、具体的なコストまで話を落とし込む必要があります。比較できる他のコストがあればいいのですが。ただ紙のプロセスを変えるだけでは、人件費がタダだとみなされがちなため、その点では比較が難しいのです。

外部への支払いがある場合にはわかりやすいですよね。たとえば、社内スタッフではなく、外注であれば人件費について明確になりますが、そうではない。

ーー実際キャッシュアウトしてないから、感覚としてあまり実感が湧かないですよね。

三瓶:そこがリアルな話ですね。特に中小企業にとっては、その点が大きな問題です。

ーーとても本質的なことですね。コスト削減や人件費の削減に真剣に取り組むことができる経営者であるかどうかが、デジタル変革、つまりDXへの取り組みが可能かどうかを左右するということですね。

三瓶:その通りです。そのため、プロジェクトを担当する人は、コスト削減に真剣に取り組む必要があります。これには犠牲が伴う場合もあります。一方、日本では仕事への取り組みや就業契約に関する考え方に、かなりウェットな側面が強いですね。

ーー確かにそうですね。長年そのように育ってきたので、自然とそうなってしまうと思います。

発想の転換:役職から役割へ

三瓶:特に地方へ行けば行くほど、その傾向が強まりますね。しかし、雇用関係というのは、実際はそういうものではないのです。契約によるものですから、「人生の面倒を見てほしい」という話ではないんです。むしろ、より良い条件を求めて自分からチャレンジしていくべきです。チャレンジを通じて成長があり、その繰り返しの中で個々のスタッフが成長し、新しい良い条件を得ていくことは、ポジティブに捉えるべきです。そう考えれば、人員削減が必ずしも悪い話ではないのです。

ーー実際に経験した感覚から言うと、例えば100年以上続いている企業に、外資系コンサルティング会社出身の人が3代目の社長として就任すると、かなり大胆な改革を行うケースが見られます。たとえば、古くからの社員が業務に携われないようにシステム化を進めるなどの措置を取ることがあります。それはかなりの痛みを伴い、理想的だとは言えない状況だと思いますが、いかがでしょうか。

三瓶:問題は役職で話をしてしまうことにあるんです。役職に基づくのではなく、役割に焦点を当てて話し合うべきなんです。年齢が高い人が問題だと言っているわけではありません。役職を基準に話を進めるからこそ、先ほど述べたような人事におけるウェットな要素が生じてしまうんです。役割に基づいて話を進めれば、100年続いてきた企業の核となるような、その歴史を熟知している人を適切な役割に就かせることができます。それに対し、単に勤続年数が長いだけで特定の役割を持っていない人には、残念ながら退職をお願いすることになるでしょう。

役職から役割への転換を実現できれば、100年続いた企業がさらに大胆な改革を行っても、次の200年も続く可能性が高まります。そのため、人員の削減についても積極的に考える必要があります。これは、若手や外部から来た人々が目標や夢を持ち、働ける環境を作ることにつながります。そして、本質的に重要な役割を持つ人がコミットし、長期に勤務するための環境が整備されることにもなります。これは決して悪いことではありません。

DXは、単なる手段です。目的を明確にし、手段としてDXを推進していくことが重要です。そうしないと、議論が本来の文脈から逸脱してしまう恐れがあります。

ーーDXを成功させるためには、経営者や権限を持つ人がトップダウンで進めるしかないですよね。

人的コストを最適化して若い人に夢を

三瓶:経営者はデジタル技術自体、例えばAIが何を変えるかのような話題については、不得意と感じることが多いです。しかし、先ほど触れた人事の話、つまり役職から役割への変更や人的コストの最適化、削減、さらには若い人や外部から来る人に夢を持たせられるような職場環境や労働条件の提案などに関しては、経営者も理解しやすく、話についていける領域です。

経営者がデジタル技術に詳しくなくても問題ありません。目的を定め、マイルストーンを設定し、その達成のために必要なDX化を進めるべきです。DXを目的として導入することには、私は賛成しません。

ーー全くですね。結局のところ、これは人事の問題であり、若い人や外部からの人にとって良い労働条件を作ること、つまり経営の本質の話です。

三瓶:そして、若返りを図らなければ、デジタル技術にもついていけません。ですから、世代交代は避けて通れない課題です。しかし、前述のようにウェットな要素が強い環境が存在するため、そのウェットな部分をどう乗り越えて、合理的な判断へと導くかが重要です。

VUCA時代を乗り越えるためには

ーー不確実な時代において、経営者が変革を進めるためのアドバイスはありますか?

三瓶:「不確実な時代」とよく言われますが、その不確実さは、実際には「可視化されていない未知のものである」という感覚だと思います。理解できないからこそ、可視化する必要があります。

「不確実」や「未知」が何を意味するのかというと、基本的には恐怖です。未知なものに対して恐れ、畏怖を感じるわけです。この感情は、「知ること」によって解決され得る問題です。

VUCAの時代、つまり変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が高い時代と捉えられがちですが、結論から言うと、勉強して、知ることで乗り越えられます。病になった時にその病について何も知らなければ不安になります。しかし、勉強して知ることでその恐怖を克服できるのと似ています。

多くの人が勉強を面倒だと感じ、そのような言葉で事態を簡単に片付けてしまっています。VUCAの時代といって恐れて何もしないのは、わからないことに蓋をしているだけで、もっと勉強すべきです。

デジタルの細かいところまで理解する必要はない。

ーーデジタル技術について知らないから手を付けないということでは、DXは進みませんね。

三瓶:経営者がDXを現場に任せきりにしているところがあることは確かです。そこは素直に反省するべきだと思います。しかし、経営者がデジタル技術の細かい部分まで完全に理解する必要はありません。自分が恐れているだけであるということをまずは理解することが重要だと思います。

変えることが面倒だと感じてそのままにしてしまい、それに対して強い恐怖を感じるだけでは何も進みません。

自分自身の中でストーリーを描けるかが重要

ーーその上で、どのように変革を進めればよいでしょうか?

三瓶:変革を進めるには、自分自身の中でストーリーを描けるかが重要です。そのためには、若い人々の意見を取り入れること、彼らが元気に働ける環境をどのように作るか、また、組織の入れ替えをどのように進めるべきか、100年続いてきた企業において多くの部長や課長が存在する中で、どのような対策を講じるべきかが議論されます。

DXを進めることは、Excelの操作を自動化するだけで良いというわけではありません。そうした小手先の変更では、実質的には何も変わらない、ということになります。コストがかかったにもかかわらず何も変わらないと感じるのは、本質的な変革が行われていないからでしょう。

ーーありがとうございます。さまざまな企業にとって現状が見えてくると思います。まずは話された内容をしっかり認識した上で、実際にそれを実行できるかどうかが問われるところですね。これでインタビューを終了いたします。お忙しい中、お時間をいただき、ありがとうございました。

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