企業が直面する課題の中で、人材を育成し組織力を向上させることは極めて重要です。特にマネージャーの育成は重要です。中小企業では、多忙を極めるマネージャーへの研修が後回しにされがちです。企業を発展させるためには、マネージャー層が経営者の目標を理解し、前向きなコミュニケーションを部下と取り組織力を向上させる必要があります。本記事では、中小企業がマネージャー育成を進めるべき理由と、マネージャー育成に成功した企業の事例を紹介し、マネージャー育成における成功の要点を解説します。
中小企業がマネージャーを育てなければならない理由とは?
中小企業がマネージャーを効果的に育成することは、企業の成長にとって非常に重要です。以下は、中小企業がマネージャーを育てるべき主な理由です。
1.効率と生産性の向上
マネージャーは日々の業務を監督し、チームのパフォーマンスを最大化する役割を担います。有能なマネージャーは、リソースの最適な配分、業務の優先順位付け、チームの問題解決能力を高めることによって、全体の生産性を向上させます。
2.適応能力と柔軟性
市場の変化に迅速に対応するためには、マネージャーが変化を認識し、適切に行動する能力が求められます。特に中小企業は、変化に対応するための柔軟性が大企業よりも必要とされることが多いです。マネージャーがこれをリードすることで、企業は持続的な競争力を保つことができます。
3.従業員の満足度と保持
優秀なマネージャーは従業員のモチベーションを高め、職場の満足度を向上させることができます。これにより、従業員の離職率が低下します。
4.組織文化とリーダーシップの強化
マネージャーは企業文化を形成し、良好な職場環境を維持する上で重要な役割を果たします。リーダーシップのあるマネージャーがいれば、チームは組織の目標に向かって一丸となって動くことが可能です。中小企業においては、これが組織全体の統合と向上を促進します。
5.戦略的意思決定のサポート
マネージャーは現場の情報を最前線から経営層に提供する重要な役割を担っています。この情報は経営戦略を策定する際の基盤となり、中小企業が効果的な意思決定を行うためには不可欠です。
6.長期的な成長と革新の推進
マネージャーの育成は、中小企業が長期的に成長し続けるための土台を築きます。新しいビジネスチャンスを見つけ出し、革新を推進する能力は、特に競争が激しい市場において中小企業にとって生き残りの鍵となります。
以上のように、中小企業がマネージャーを効果的に育成することは、即座に組織のパフォーマンスを向上させるだけでなく、将来的な成功に向けた基盤を築くためにも極めて重要です。
マネージャーを育てることに成功した会社とは?
マネージャー育成に力を入れることで組織力を向上させた企業についてご紹介します。これらの企業は、マネージャーのスキルとリーダーシップを強化するための包括的なプログラムを導入しました。
事例1:小田急電鉄株式会社~エグゼクティブコーチング研修~
小田急電鉄は、部長や課長を対象にしたエグゼクティブコーチング研修を導入しました。この研修は、管理職のリーダーシップとコミュニケーションスタイルを再考し、従業員が多様な意見を自由に表現できる「ワイガヤな空気」を作り出すことを目指しています。この新しいアプローチは、経営層と従業員の間のダイアログを促進し、部署間のコミュニケーションの質を向上させることが期待されています。
コーチング研修は部門のリーダーたちが上司と部下、同僚間での相互理解を深めるための有効な手段となっています。また、研修はオンライン化され、忙しい日程の中でも参加しやすくなっています。研修の成果として、新しいアイディアや提案が積極的に行われるようになり、階層を超えたコミュニケーションが増えていると報告されています。
最終的に、小田急電鉄は、より広範囲の従業員にコーチング研修を提供することを計画しており、会社全体のイノベーションと成長を加速させるために、これらの研修効果をさらに拡大させることを目指しています。これにより、将来的には新規事業が生まれ、鉄道事業の品質向上とともに、小田急グループ全体の連携によるイノベーションが進むことが期待されています。
エキスパートコース(専門職)出身のマネージャー向けに、以下の内容でコーチング研修プログラムが行われました。
1.集合研修
この研修は、1日間×2回の集合研修で構成されており、参加者はマネジメントスキルとリーダーシップを強化するための講義やワークショップに参加します。この集合研修の間には約2ヶ月のインターバルがあり、この期間を利用して、受講者は上司との1on1ミーティングを通じて職場での実践課題に取り組みます。
2.プロコーチとの1on1セッション
専門のコーチと受講者が直接向き合い、深いレベルでの問題提起や考察を行うセッションが組み込まれています。これにより、受講者は自己の行動の方向性を深く掘り下げ、コーチングに対する理解を深めます。
3.ピアコーチング
受講者同士がペアを組み、お互いの経験を共有し、相互に学び合う機会が提供されます。これにより、コーチングスキルだけでなく、フォロワーシップのスキルも身につけることができます。
4.上司からのメッセージ
集合研修の冒頭で、直属の上司から受講者への期待やメッセージが伝えられることで、受講者は自己更新の動機づけを受け、職務における自身の役割を再認識します。
5.同世代のマネージャーとのディスカッション
同じくマネージャー職の同僚とディスカッションを行うことで、彼らの役割の再確認や、さらなるスキル獲得につなげます。
これらの取り組みは、マネージャーが経営層と従業員の間の橋渡し役として効果的に機能するために設計されており、組織力の向上とエンゲージメントの促進を目的としています。この研修を受けたマネージャーが組織全体にポジティブな影響を与え、社員の成長と価値創出に寄与していることが期待されています。
事例2:ヤフー株式会社~1on1ミーティング~
ヤフー株式会社は、社員の成長に合わせた能力開発を促進する研修制度や育成制度を設け、社内全体で人材育成を支援しています。マネジメント育成にも力を入れており、役職者向けに次のような研修プログラムを用意しています。
1.新任役職者向け研修(1on1ミーティング)
このプログラムでは、「1on1ミーティング」を中心とした人財開発を進めています。新任管理職が効果的なマネジメントを行うために必要なスキルやマインドセットを学ぶ機会が提供されています。
2.役職者トランジションサポート
新任役職者が月次で集まり、リーダーシップに関連するさまざまなテーマについて学び合う研修プログラムです。このプログラムは主にグループワークを通じて実施され、参加者が互いに悩みを共有し合えるサポート体制が整っています。
3.役職者学習支援
組織の成果向上を目指す役職者向けに、リーダーシップやマネジメントスキルを高めるための研修プログラムが用意されています。
事例3:ソフトバンクグループ~スキルアップ支援~
ソフトバンクグループでは、役員育成およびマネジメント育成に対して多角的なアプローチを取り入れています。具体的なプログラムと施策は以下の通りです。
1.人材育成方針
社員が自らの成長に挑戦し続けられるよう支援し、成長する機会を創出します。特に学習意欲やチャレンジ精神を持つ社員に向けて、自己成長や自己実現の機会を提供しています。
2.社内環境整備方針
社員がチャレンジ精神を持ちながら最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整備しています。これには、柔軟な働き方、健康経営、ダイバーシティの推進、育児・介護支援施策などが含まれます。
3.キャリア開発・能力発揮
階層別プログラムやスキルアップ支援を通じて、社員のスキル向上と価値向上を図ります。これには、eラーニングやオンデマンド配信などのデジタル教育ツールを活用した研修があります。
4.人材育成プログラム
■ 新入社員育成: 新入社員が迅速に組織に適応し、力を発揮できるよう支援するプログラム。オンラインとオンサイトのハイブリッド形式で実施。
■ 階層別プログラム: 新任管理職や全社員を対象にした研修で、役割に必要な知識やスキルを習得する。
5.スキルアップ支援
ICTを利用した学習で、パソコン、スマートフォン、タブレットを通じたeラーニングやサテライト配信を行っています。ビジネススキル、ITトレンド、語学など多岐にわたるニーズに応じたスキルアップが可能です。
これらのプログラムと施策を通じて、ソフトバンクグループは社員の個々の強みを活かし、高い組織力を生み出すことを目指しています。また、これらの研修は受講後のアンケートで高い評価を受けており、特にDX関連の研修では高い修了率と満足度が示されています。
事例4:古河電気工業~フルカワセブン~
古河電気工業のマネジメント育成取り組みは、「チームで徹底的にやりきる」というグループ文化を醸成することを目的としています。この取り組みの中核をなすのが「古河電工流上司心得七則(フルカワセブン)」と呼ばれるリーダーシップ変革の枠組みです。これには、リーダーがチームの心理的安全性を確保し、持続可能な企業価値を生み出すための1つの心構えと6つの行動原則が含まれています。
「フルカワセブン」は、一つの重要なマインドセット「感謝し、信頼する」と、六つの行動原則「率先垂範する」、「伝わるように伝える」、「チャレンジを促す」、「適切なフィードバックをする」、「聴く・対話する」、「権限委譲し結果責任をとる」から成り立っています。これらを横軸に配置し、縦軸には上司の三つの役割「一人ひとりの成長を支援」、「よいチームを作る」、「チームで成果を上げる」を置きます。このようにして、合計21項目を「実践すべき基本的な心得」としています。
主な取り組み内容は以下の通りです。
1.リーダーシップ研修の実施
この研修を通じて、役員および課長以上の管理職はフルカワセブンを学び、その精神を日々の業務に取り入れています。
2.行動宣言と実践
役員および課長以上の管理職が公に行動宣言を行い、フルカワセブンの原則に従って日常業務を実施します。
3.360度フィードバックによる振り返り
継続的な改善と行動変容を促すために、全方位からのフィードバックを取り入れています。
4.組織全体の参加
実践者以外の社員もリーダーの取り組みを理解し、これを支援する立場として関与します。これにより、組織全体が一丸となって取り組みを進めています。
5.フルカワEサーベイ(従業員エンゲージメントスコア調査)
このサーベイを通じて、チーム内の関係性やチーム力の強化の効果を評価しています。取り組み開始から3年が経過し、チームメンバー間の関係が改善されていることが確認されています。
今後は、チーム活動と成果の結びつきをさらに強化し、チーム力を更に向上させるための取り組みを加速する計画です。このように古河電気工業は、変化に対応しながらチームで成果を上げるためのリーダーシップを育成し、組織全体の実行力を高めることに注力しています。
事例5:サントリー株式会社~マネジメント育成プログラム~
サントリーグループでは、人材育成と特にマネジメント育成に大きな重点を置いており、2015年に開設された「サントリー大学」を中心に様々なプログラムを展開しています。この施策は、従業員の創業精神の共有と実践、自己成長の促進、リーダーシップ開発、未来に向けた能力開発を目的としています。具体的なマネジメント育成プログラムには以下のものがあります。
1.Suntory Harvard Program
ハーバード・ビジネス・スクールと提携して開発されたこのプログラムは、経営トップとのディスカッションを通じて、世界的なビジネストレンドやイノベーションについて学びます。参加者はグローバルなマインドセットとリーダーシップスキルを磨き、グループ経営層としての国際的なネットワークを構築します。
2.Beyond Borders
ウォートン・ビジネススクールと共同開発されたプログラムで、約8ヶ月間を通じて参加者のリーダーシップを強化し、革新的かつ戦略的な思考を深めます。このプログラムはサントリーグループのグローバルリーダーを育成し、国境や事業の枠を超えたグローバルシナジーを生み出すことを目指しています。
3.Global Leadership Development Program
ケンブリッジ大学とのパートナーシップにより設計されたこのプログラムは、将来のグローバル経営人材を育成することを目的としています。プログラムは集合セッションやコーチング、アクションラーニングを含み、参加者は経営層に直接プレゼンテーションを行う機会を得ます。
4.次世代経営者研修
部長層と課長層を対象に、サントリーグループの未来を牽引する変革型の経営層を育成します。プログラムは社内外のトップリーダーによる講演やアクションラーニングを含み、2030年ビジョン実現に向けた具体的な経営構想を提言する場となっています。
これらのプログラムを通じて、サントリーグループは従業員がグローバルな視野を持ち、自らのキャリアを主体的に管理し、組織全体の成長に貢献できるような環境を整備しています。また、これらの取り組みは国内外で高く評価されており、「2022 Learning Elite」でブロンズを受賞するなど、その効果が認められています。
考察~マネージャー育成プログラムの特徴~
成功事例から読み取れるマネージャー育成プログラムには、共通して以下のような特徴があります。
1.リーダーシップトレーニング
■マネージャー向けのリーダーシップ研修を定期的に実施し、リーダーシップの基本から応用までを学びます。
■外部の専門家を招いたワークショップやセミナーを通じて、最新のリーダーシップ理論や実践例を学びます。
2.メンターシップ制度
■経験豊富な上級マネージャーが若手マネージャーを指導するメンターシップ制度を導入しています。
■定期的な面談やフィードバックセッションを通じて、個々の成長をサポートします。
実践的なプロジェクト
■マネージャー候補者には、実際のプロジェクトを任せることで、実務経験を積ませています。
■ チームの目標達成に向けた戦略策定や問題解決のプロセスを学びます。
3.フィードバック文化の醸成
■オープンで建設的なフィードバック文化を促進し、マネージャーが自己改善に取り組む環境を整えています。
■定期的なパフォーマンスレビューや360度フィードバックを実施しています。
4.継続的な学習と成長
■社内に学習と成長の文化を根付かせるため、継続的な教育プログラムやオンライン学習プラットフォームを提供しています。
■マネージャーは自己啓発のためのリソースにアクセスでき、最新のビジネススキルを習得します。
これらの取り組みによって、これらの会社ではマネージャーの能力を高めるだけでなく、組織全体のパフォーマンスを向上させることに成功しています。マネージャー育成の重要性を認識し、戦略的に取り組むことで、強力なリーダーシップと高い組織力を実現しています。
マネージャーを育てるために必要なこととは?
マネージャーを効果的に育成するためには、以下の戦略が重要です。これらは組織内での実務経験と理論的学習を組み合わせ、マネージャーに必要な多様なスキルセットの習得を支援します。
1. 経験に基づく学習(実務経験)
■OJT (On-the-Job Training)
日常業務の中で学び、実際の問題に対処します。ベテランマネージャーが新任マネージャーに直接指導を行うことで、実務の中で直面する具体的な課題への対応方法を学びます。
■ロールモデルとしての学習
経験豊富なマネージャーを観察し、模倣することで学びを深めます。この過程で、指導力や対人関係スキル、意思決定プロセスを理解し、自己のスキルに統合します。
■プロジェクトアサインメント
マネージャー候補に異なるプロジェクトや挑戦的なタスクを任せることで、実践的なスキルと判断力を磨きます。
2. 理論教育(座学)
■フォーマルトレーニングとセミナー
マネジメント理論、リーダーシップ、人材管理、財務管理など、マネージャーとして知っておくべき基本的な知識を教育します。
■ケーススタディ
実際のビジネスシナリオを用いて問題解決の技術を学びます。これにより、理論的知識を実践的な状況に応用する能力を養うことができます。
■フィードバックとコーチング
定期的なフィードバックを通じて、マネージャー候補の成長を促進し、必要に応じて個別のコーチングを提供します。
3. 人間関係の構築
■チームビルディング
チーム内でのコミュニケーションと協調を強化する活動を通じて、チームリーダーとしての役割を学びます。
■ネットワーキングスキル
組織内外の人々と有効な関係を築く方法を学ぶことで、幅広い視野を持ち、多様な意見を統合する能力を身に付けます。
4. 連続的な学習と開発
■自己主導学習
個人のキャリア目標に基づいて自発的に学ぶ意欲を促進します。
■継続的な教育
業界の最新のトレンドや技術進化に対応するための定期的な研修やセミナーへの参加を奨励します。
これらのアプローチを組み合わせることで、マネージャーとして必要な技術的スキル、人間関係スキル、戦略的思考能力をバランスよく育成し、組織全体の成功に貢献するリーダーを育てることができます。
まとめ:マネージャーは変化を推進するキーエージェント
企業が直面する多くの課題の中で、マネージャー育成の重要性は特に注目されるべき点です。本記事では、中小企業がマネージャー育成に積極的に取り組むべき理由と、実際に成功を収めた企業の事例を紹介しました。
ここで強調したいのは、マネージャー育成が単なるトレーニングプログラムを超え、企業文化と統合されるべきであるということです。マネージャーは組織内でリーダーシップを発揮し、変化を推進するキーエージェントとなります。したがって、彼らが自信を持って職務を遂行し、部下との前向きな関係を築けるよう、組織全体で支援する体制が必要です。
中小企業では、資源の制約があるため、マネージャー育成には特に創意工夫が求められます。しかし、本記事で紹介したように、効果的な研修やサポートシステムを整えることで、マネージャーはその潜在能力を最大限に発揮し、企業の成長と発展に大きく貢献することができます。
最後に、中小企業がマネージャーを育成する際には、継続的な評価とフィードバックが不可欠です。これにより、研修の効果を最大化し、マネージャー自身の成長を促進するとともに、組織全体のモチベーションと生産性を向上させることが可能です。未来志向のリーダーシップを育成し、企業の長期的な成功を確実なものにするために、今こそ、マネージャー育成に力を入れる時です。
※参考文献
コーチング・管理職研修事例(小田急電鉄株式会社)
https://humangrowth-navi.co.jp/casestudy/case8/
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